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年末調整とは?適用できる控除・対象者・必要な手続きを解説

年末調整とは?適用できる控除・対象者・必要な手続きを解説
公開日:2022年10月5日
毎年、11月から12月にかけてよく耳にする「年末調整」ですが、具体的な手続きの流れや年末調整が必要な理由をよく知らない方も多いかもしれません。
年末調整は、所得税の過不足を精算するための手続きです。年末調整を行うのは雇用主側の義務であり、雇用主は従業員ごとに適用される控除を正しく把握しなければなりません。
スムーズに年末調整の手続きを行うためにも、従業員は年末調整の仕組みを知り、雇用主から指定された期日までに正しく申告する必要があります。
この記事では、年末調整が行われる理由や年末調整でできること、必要書類や具体的な手続きの流れを解説しますので、年末調整の時期が来て手続きに戸惑うことがないように押さえておきましょう。

年末調整とは?確定申告との違いは?

年末調整とは?確定申告との違いは?
まずは、年末調整とはなにか、確定申告との違いも併せて見ていきましょう。

所得税の精算に必要な手続き

年末調整とは、源泉徴収されている所得税の年間合計額と本来納めるべき税額を一致させ、精算する手続きです。
会社等に勤めている場合、毎月の給料やボーナスから所得税が引かれます。これを源泉徴収制度と呼びますが、毎月の所得税額はあくまでも概算の金額です。
実際の所得税額は1年間の所得が決まり、適用される所得控除を差し引くことで算出できます。年末調整は、1年間の所得が決まった段階で、適用される税額控除を把握して所得税の過不足を計算し、正しい所得税額を導く仕組みです。
年末調整は雇用主側が従業員の代わりに行いますが、従業員側も雇用主に必要書類を提出し、適用される控除を正しく申告しなければなりません。

確定申告との違い

確定申告も、年末調整と同じく所得税に関する手続きです。ただし、年末調整と確定申告は、対象者や手続方法が異なります。
源泉徴収は雇用主が行うものですが、確定申告は個人が行う手続きです。会社員は源泉徴収、つまり雇用主を通じて正しく所得税を納めているため、原則確定申告が不要になります。
一方、フリーランスや個人事業主等、年末調整の対象ではない方は、確定申告して所得税額を計算しなければなりません。
ちなみに、会社員でも副業や兼業でほかに所得がある方、年末調整で対応できない控除を受ける方は、勤務先で年末調整したうえで確定申告が必要となるケースもあります。

年末調整でできる所得控除一覧

年末調整でできる所得控除一覧
年末調整では、ただ所得税の過不足を精算するだけではなく、所得控除の一部が適用可能です。
所得控除では、所得税を計算する際に所得から一定の金額を差し引くことができ、具体的には下記のような控除があります。
生命保険料控除 新(旧)生命保険料や介護医療保険料、新(旧)個人年金保険料の支払いがある
地震保険料控除 地震保険料や旧長期損害保険料の支払いがある
社会保険料控除 健康保険料や国民健康保険料(税)、後期高齢者医療保険料、介護保険料、国民年金保険料等の支払いがある
小規模企業共済等掛金控除 小規模企業共済法の共済契約にかかわる掛金、確定拠出年金法の企業型年金加入者掛金および個人型年金加入者掛金、心身障害者扶養共済制度にかかわる掛金の支払いがある
医療費控除 一定額以上の医療費等の支払いがある
セルフメディケーション税制 医療費控除の特例。健康の維持増進や疾病予防のため、対象となる医薬品等を購入し、一定額以上の支払いがある
雑損控除 災害や盗難、横領により住宅や家財等に損害を受けた
寄附金控除 国に対する寄附金やふるさと納税(都道府県・市区町村に対する寄附金)、特定の政治献金がある
寡婦・寡夫控除 納税者が寡婦または寡夫である
勤労学生控除 納税者が勤労学生である
障害者控除 納税者や控除対象配偶者、扶養親族が障害者である
配偶者控除 控除対象配偶者がいる
配偶者特別控除 控除対象配偶者の所得金額に応じて受けられる
扶養控除 控除対象扶養親族がいる
基礎控除 納税者の合計所得金額が2,500万円以下の場合、金額に応じて受けられる
出典:「所得から差し引かれる金額(所得控除)」(国税庁)(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki2017/a/01/1_04.htm)を加工して作成
それぞれの所得控除には適用条件があります。また、医療費控除や寄付金控除等は、年末調整では適用できないため確定申告が必要です。

【パターン別】年末調整の対象者

【パターン別】年末調整の対象者
年末調整は誰もが必要なわけではなく、対象となる方が決まっています。ここでは、年末調整の対象となる方をパターン別に見てみましょう。
年末調整は一般的に12月前後に行われますが、場合によっては年の途中で手続きが必要な方もいます。また、年末調整の対象者ではなく一定以上の収入がある方は、原則として確定申告が必要な点に注意しましょう。

12月前後に年末調整が必要な方

12月前後に行われる年末調整は、以下の方が対象です。
  • 会社等に年間を通じて勤務している方
  • 年の途中で就職して年末まで勤務している方
正社員に限らずアルバイトやパートの方も、年末調整の対象です。ただし、次のいずれかに当てはまる方は年末調整の対象外です。
  • 1年間の給与総額が2,000万円を超える方
  • 災害減免法の規定によって、所得税や復興特別所得税の徴収猶予や還付を受けた方
ちなみに、複数の勤務先から給与を受け取っている方は、おもな勤め先となる1社でのみ年末調整ができます。ほかの勤務先からの収入については、年末調整できませんので確定申告が必要です。

年の途中で年末調整が必要な方

年の途中でも、年末調整が必要となるケースがあります。対象となるのは、次の5つのどれかに当てはまる方です。
  • 年の途中で海外勤務等によって非居住者となった方
  • 死亡により退職した方
  • 著しい心身障害により退職し、本年中に再就職しないと見込まれる方
  • 12月中の給与を受け取ったあとに退職した方
  • パート従業員等で退職し、その年の給与総額が103万円以下の方
いずれかに当てはまる場合は12月前後の年末調整の時期を待たず、退職時や死亡時に適宜年末調整を行う必要があります。

年末調整に必要な書類

年末調整に必要な書類
ここでは、実際に年末調整の手続きに必要な4つの書類を見ていきましょう。
手続方法としては、税務署から指定された書類に従業員が記入して雇用主に提出するのが一般的です。しかし、近年政府は年末調整手続きの電子化を推進中で、勤務先によってはシステム上で入力するケースもあり、今後も増えていくと予想されます。
必ずしもここで紹介している様式が用いられるとは限りませんが、申告内容としては同じです。入力方法や申告方法は勤務先からの指示に従いましょう。

給与所得者の扶養控除等(異動)申告書

控除の対象となる扶養者の有無や変更を確認するための書類です。扶養控除に関わる申告書ではありますが、控除対象となる扶養親族がいない方でも提出しなければなりません。
勤労学生控除や日本国外に住む親族の扶養控除、障害者控除等を受ける際には、併せて添付書類が必要となります。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/r3bun_01.pdf)

給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書

給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/r4bun_06.pdf)
基礎控除、配偶者控除または配偶者特別控除、所得金額調整控除を受けるための書類です。
2020年分の年末調整から新設された申告書で、提出漏れがあると基礎控除が受けられないため注意しましょう。

給与所得者の保険料控除申告書

給与所得者の保険料控除申告書
出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/r4bun_04_input.pdf)
生命保険料や地震保険料、小規模企業共済等掛金に関わる控除を受ける際に提出します。
社会保険会社から届く「保険料控除証明書」の内容を記入し、添付して提出しましょう。

給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書兼(特定増改築等)住宅借入金等特別控除計算明細書

給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書兼(特定増改築等)住宅借入金等特別控除計算明細書
出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/users/gensen/nencho/index/kyuyosyotokusya.htm#a006)
住宅の購入や増改築により、住宅ローン控除を受ける方が提出します。
年末調整で住宅ローン控除が受けられるのは、適用が2年目以降の方のみです。住宅ローン控除の適用が1年目の方は、自分で確定申告をするようにしましょう。

年末調整のスケジュール

年末調整のスケジュール
スムーズに手続きを進めるためにも、年末調整の一般的なスケジュールも確認しましょう。年末調整の手続きを進めるのはおもに雇用主ですが、従業員も期限までに必要な書類を用意し、正しく申告しなければなりません。
勤務先によっては、スケジュールが多少前後することがあります。

11月頃:従業員の申告

年末調整は、雇用主が従業員から年末調整に必要な情報を集めるところから始まります。
雇用主は先ほど紹介した4つの必要書類の提出を従業員に依頼し、従業員は指定された期日までに必要書類を添付し提出しましょう。記入漏れや計算ミスがあると、再提出が必要となるケースもあります。

12月:年末調整の計算

雇用主は従業員の1年間の給与やボーナス等の総額を計算し、申告内容に基づき所得控除を差し引きます。計算された所得税額とこれまでの源泉徴収税額を比較し、所得税の過不足がわかる仕組みです。
従業員は、この計算によって源泉徴収された金額のほうが上回っていたら還付され、下回っていれば徴収されます。還付や徴収は、12月分や1月分の給与から調整されるのが一般的でしょう。

1月:源泉徴収票の作成

雇用主は確定した所得税額を法定調書にまとめ、翌1月31日までに管轄の税務署や市区町村に提出します。
法定調書とは、所得税法や相続税法により税務署に提出が義務づけられた書類のことです。年末調整をした際、雇用主は法定調書として源泉徴収票や支払調書を作成しければなりません。
源泉徴収票は従業員にも交付されます。源泉徴収票ではその年の所得はもちろん、社会保険料の金額や適用された控除等がわかるため、内容を確認のうえ手元に保管しましょう。確定申告の際や、住宅や車のローンの申し込み時に必要となるケースがあります。
  雇用主 従業員
11月頃
  • 従業員への申告依頼・回収
  • 申告書や添付書類を企業へ提出
12月頃
  • 所得税の精算
  • 所得税の還付や徴収の手続き
  • 計算に応じて所得税の還付または徴収
1月
  • 税務署や市区町村へ法定調書を提出

年末調整をするうえで知っておきたい4つのポイント

年末調整をするうえで知っておきたい4つのポイント
年末調整を行う際には、次の4つのポイントに注意しましょう。

雇用主には年末調整を行う義務がある

年末調整は雇用主側の義務であり、年末調整をしない企業は所得税を正しく納付していないとみなされて罰金や懲役が科されることもあります。もし、年末調整の対象であるにも関わらず雇用主が手続きを行わない場合は、管轄の税務署に相談しましょう。
ただし、従業員が書類を提出しない、正しい申告をしない場合は雇用主の過失とはならず、従業員が自分自身で確定申告しなければなりません。
雇用主から年末調整を依頼された従業員は、指定された期日までに申告を行いましょう。

申告漏れには注意

申告漏れにより控除が適用されなかった場合、払いすぎた税金は戻ってきません。
申告漏れでよくあるケースとして、生命保険料や地震保険料の支払いを記入し忘れた、扶養控除や配偶者特別控除に漏れがあった等が挙げられます。
年末調整は提出期限である1月末日まではやり直しが可能なため、申告漏れに気づいたらすぐに勤務先に相談しましょう。間に合わなければ、従業員が個人で確定申告や還付申告を行うことで払いすぎた所得税が返ってくる場合があります。
年末調整のやり直しや確定申告が必要になると、雇用主や従業員に手間がかかります。雇用主が従業員ごとに適用される控除をすべて把握するのは難しいため、従業員が自分で適用される控除を理解し、勤務先への申告時に漏れがないよう注意することが肝心です。

年末調整では適用できない所得控除もある

年末調整ではすべての所得控除が適用されるわけではありません。年末調整で適用できない所得控除として、次の3つがあります。
  • 医療費控除
  • 寄付金控除
  • 雑損控除
また、所得控除ではありませんが、住宅ローン控除と呼ばれる(特定増改築等)住宅借入金等特別控除も、1年目の方は年末調整では適用されないため、翌年3月15日までに確定申告が必要です。

税制改正により手続きが変更する可能性がある

年末調整の手続きは、税制改正の影響を受けて毎年のように変わっています。
例えば、2021年の年末調整ではこれまで必要だった書類への押印が廃止され、様式が変更されました。年末調整の手続きを始める際には、前年の情報ではなく必ず最新の情報を確認しましょう。
雇用主側は、システム導入し年末調整を電子化することで改正点への対応がスムーズに進みます。従業員側も、控除内容や適用条件が変更される可能性があると理解することで、申告の間違いや漏れを減らせるでしょう。

まとめ

年末調整は所得税の過不足を精算するための重要な手続きです。雇用主の義務ではありますが、従業員からの正しい申告が必要不可欠であるため、年末調整の依頼がきたら速やかに申告を行いましょう。
万が一、申告内容に漏れや間違いがあると、正しい還付が受けられない、所得税の未払いが発生する等の可能性もあります。トラブルを防ぐためにも、ご自身がどのような控除を受けられる可能性があるのか事前に把握することがおすすめです。
記事提供:トランス・コスモス株式会社
執筆者保有資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士
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