年末調整の扶養控除とは?扶養親族の要件や制度概要を解説
公開日:2022年10月5日
年末調整の時期になると、「扶養控除」という言葉を耳にする機会が増えるかもしれません。子どもが成長して児童手当の対象から外れた方や、両親が年金生活になり経済的に援助している方等、年末調整の扶養控除を初めて受けようとする方もいるでしょう。
扶養控除とは、いくつかの要件を満たす親族を養っている場合、所得金額から一定の所得控除を受けられる制度です。所得税の扶養控除額には38万円・48万円・58万円・63万円の4つの区分があり、適切な手続きを行えば、親族を養うことによる経済的な負担を軽減できます。
この記事では、年末調整の扶養控除の概要や、扶養控除の対象となる親族の要件、扶養控除額等についてファイナンシャルプランナーが解説するので、参考にしてください。
年末調整における「扶養控除」とは?
扶養控除とは、配偶者以外の子どもや親等、要件を満たす親族を養っている場合、所得金額から一定の所得控除を受けられる制度です。
一般的に、養わなければならない親族がいる場合は、そうでない人よりも経済的な負担が大きくなるでしょう。そのような事情を考慮し、所得控除により税負担を軽減するのが扶養控除の目的です。
年末調整で扶養控除を受けるには、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下、「扶養控除申告書」)を、会社の担当者へ提出しなければなりません。扶養控除申告書には、所得者本人の氏名・マイナンバー・住所や、扶養控除の対象となる親族の氏名・マイナンバー・続柄・生年月日等の情報を記入します。
なお、扶養控除額は、扶養控除の対象となる親族の年齢や同居の有無等によって、38万円・48万円・58万円・63万円のいずれかです。詳しくは、「扶養控除額は扶養親族の区分によって異なる」の章で紹介するので、併せて参考にしてください。
扶養控除の対象となる親族の5つの要件
養っている親族が全員扶養控除の対象となるわけではありません。ここでは、扶養控除の対象となる親族の5つの要件について見ていきましょう。
配偶者以外の親族であること
扶養控除の対象となる親族は、配偶者を除く、「6親等内の血族」および「3親等内の姻族」です。血族は所得者の親族、姻族は所得者の配偶者の親族を指します。子どもや両親は1親等、兄弟姉妹・祖父母・孫は2親等に該当するため、幅広い親族が扶養控除の対象となり得るでしょう。
また、都道府県知事または市町村長から養育を委託されている児童や老人は、6親等内の血族や3親等内の姻族に該当しなくても、扶養控除の対象です。
配偶者は扶養控除を受けられませんが、所得者の1年間の合計所得金額が1,000万円以下の場合、その配偶者は「配偶者控除」に該当する可能性があります。
16歳以上であること
扶養控除の対象となる親族の年齢は、扶養控除を受ける年の12月31日現在で、16歳以上です。例えば、大学に通う子どもや、退職した親等が該当するでしょう。
一方、15歳以下の子どもは、扶養控除ではなく「児童手当」の対象です。子どもが生まれたり、他の市区町村から転入したりしたときに、現住所の市区町村から認定を受けることで、原則として毎年6月・10月・2月の計3回児童手当を受けられます。
同一生計であること
扶養控除を受ける際、対象となる親族と必ずしも同居している必要はありません。通学のため一人暮らしをしている子どもや、病気の治療のため入院している親がいる場合等でも、生計を一にしていれば扶養親族に該当します。
また、社会人になった子どもが失業し、一時的に生計を一にしている場合も、扶養控除の対象となり得るでしょう。
「生計を一にする」の判断基準の例は、次のとおりです。
- 当該親族と同居しており、生活をともにしている
- 当該親族と別居しているが、定期的に生活費や学資金等を送金している
- 当該親族と別居しているが、余暇には生活をともにしている
合計所得金額が48万円以下であること
扶養控除の対象となる親族の1年間の合計所得金額は、48万円以下です。パートやアルバイト等の給与収入のみの場合は、合計所得金額が103万円以下でなければなりません。
例えば、国内の大学に通っている子どもがアルバイトをしており、年間103万円を超える給与収入を得ている場合は、扶養控除の対象外です。ただし、給与収入が年間103万円超え130万円以下なら、子ども本人が「勤労学生控除」を受けられることがあります。
青色申告者の事業専従者として給与収入を得ていないこと
個人事業主のうち青色申告者の事業を手伝う「事業専従者」として、その個人事業主から給与収入を得ている親族は、扶養控除の対象外です。
事業専従者への給与の一部は、個人事業主の必要経費とみなし、所得金額から差し引けます。これを「専従者控除」といい、専従者控除と扶養控除は併用できません。
なお、個人事業主のうち白色申告者の事業を手伝う親族は、給与収入の有無に関係なく扶養控除の対象から外れます。
扶養控除額は扶養親族の区分によって異なる
扶養控除額は、扶養控除の対象となる親族の年齢や同居の有無等によって異なります。区分ごとの扶養控除額と用語の定義は、次のとおりです。
<扶養親族の区分と扶養控除額>
扶養親族の区分 | 扶養控除額 |
---|---|
一般の控除対象扶養親族 | 38万円 |
特定扶養親族 | 63万円 |
老人扶養親族(同居老親等) | 58万円 |
老人扶養親族(同居老親等以外) | 48万円 |
<用語の定義>
- 一般の控除対象扶養親族:扶養控除を受ける年の12月31日現在の年齢が、16歳以上19歳未満または23歳以上70歳未満の者
- 特定扶養親族:扶養控除を受ける年の12月31日現在の年齢が、19歳以上23歳未満の者
- 老人扶養親族:扶養控除を受ける年の12月31日現在の年齢が、70歳以上の者
- 同居老親等:老人扶養親族のうち、所得者やその配偶者の直系尊属(父母・祖父母等)で、同居している者
19歳以上23歳未満の「特定扶養親族」は、大学生等に該当する年齢で、教育費等の負担が大きいと想定されるでしょう。そのため、扶養控除額が最も高い63万円に設定されています。
また、70歳以上の「老人扶養親族」は、同居か否かで、扶養控除額に10万円の差がある点に注意しましょう。ここでの「同居」について、国税庁は以下の見解を示しています。
- 扶養親族が病気の治療のため入院したことで別居状態になっている場合、その期間が1年以上といった長期でも「同居」に該当する
- 扶養親族が老人ホーム等へ入所している場合、そこが居所となるため「同居」に該当しない
扶養控除に関するよくある質問
最後に、扶養控除に関するよくある質問と回答を紹介します。
所得者が2人以上いる場合は?
所得税や住民税は、所得金額が大きいほど税率も大きくなるため、複数の所得者のうち最も高い所得を得ている人が扶養控除を受けると、税負担を軽減できるでしょう。
国外に住む親族の取り扱いは?
海外に1年以上住んでいる親族は、「国外居住親族」として扱われます。国外居住親族が扶養控除を受けるには、所得者との関係を証明する「親族関係書類」や、所得者からの生活費等の送金実態を証明する「送金関係書類」の提出が必要です。
また、令和5(2023)年から、国外居住親族の扶養控除の要件が変わる点も押さえておきましょう。
前述した「合計所得金額が48万円以下」という扶養親族の要件は、現行制度では、日本国内の所得に基づき判断されます。加えて、送金関係書類を提出するものの、送金額についての条件は明示されていません。
そのため、海外で多額の所得を得ている親族や、実質的に扶養していない親族でも、扶養控除の対象となることが課題とされていました。
- 留学のため海外に住んでいる
- 障がいがある
- 生活費または教育費に充てるため、所得者からその年に38万円以上の仕送りを受けている
年末調整の対象とならない人は?
1年間の給与収入が2,000万円を超える人、年末調整の対象とならない人等が扶養控除を受けるには、確定申告時に手続きが必要です。
具体的には、確定申告書「第二表・配偶者や親族に関する事項」欄に、扶養親族の氏名・マイナンバー・続柄・生年月日等を記入します。さらに、確定申告書「第一表・所得から差し引かれる金額(扶養控除)」欄に、扶養控除額を記入しましょう。
扶養控除額を記入する際は、前章「扶養控除額は扶養親族の区分によって異なる」の内容を参考にしてください。
まとめ
年末調整の扶養控除は、要件を満たす親族を養っている場合に所得控除を受けられる制度で、扶養控除額は38万円から63万円まで幅があります。
扶養控除の対象となる親族の要件は、次の5つです。
- 配偶者を除く、6親等内の血族および3親等内の姻族であること
- 扶養控除を受ける年の12月31日現在で、16歳以上であること
- 生活費の仕送りを受けている等、同一生計であること
- 合計所得金額が48万円以下(給与収入のみの場合は103万円以下)であること
- 青色申告者の事業専従者として給与収入を得ていないこと
また、令和5(2023)年から、30歳以上70歳未満の国外居住親族は、条件を満たさない場合原則扶養控除の対象外となります。
子どもや親等を養っている方は、扶養控除の対象か確認したうえで、漏れなく手続きをしましょう。
執筆者:赤上 直紀
執筆者保有資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士
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