金融教育とは?意義や高校で必修化された背景を解説
公開日:2022年7月21日
成年年齢の引き下げや、高校での資産形成授業の開始等にともない、近年金融教育への注目が高まっています。しかし、金融教育がどのようなものかよくわからないという方もいるのではないでしょうか。
金融教育は、お金や金融商品のみならず、社会で生きていくために必要な金融に関する知識を身につけることを目的としたものです。
この記事では、金融教育の意義や内容、社会全体で金融教育が求められる背景等について、ファイナンシャルプランナーが解説します。
金融教育とは?
まず、金融教育とは何か、定義や目的について解説します。
金融教育の定義
金融教育とは、一般的にお金についての教育のことを指しますが、単にお金や金融商品を対象としているわけではありません。中立・公正な立場から金融に関する広報活動を行う金融広報中央委員会では、金融教育を次のように定義しています。
「お金や金融のさまざまな働きを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育」
つまり、お金を通じて社会や経済、将来の働き方等、社会で生活するために必要な知識や判断力を身につけるための教育が金融教育です。金融教育の目的は、社会で自立する力や、社会と関わる力の育成を支援することにあります。
- 金融広報中央委員会「知るぽると」(1)金融教育とは? ─ 1.金融教育のねらいと基本的性格 ─ 金融教育プログラム
金融教育はなぜ重要なのか
金融教育が重要な理由は、生きていくスキルとして、お金に対する正しい知識や判断力(金融リテラシー)が必要だからです。
現代社会では、お金と関わらずに生活することはできません。お金の管理についての知識がなければ、安定した生活を送ることは困難でしょう。
必要なときに必要なお金を用意できないことで、人生の選択肢が狭められてしまうかもしれません。また、適切な判断ができないまま、リスクの高い投資に手を出してしまう可能性もあります。
金融教育ではリテラシーの部分のみならず、お金と社会や経済との関係についても扱います。金融教育は、経済の仕組みや社会の課題を教えることで、子どもが職業選択や自己実現について主体的に考え、よりよい生き方を見つけられる手助けをする役割も担っているのです。
金融教育を始めるタイミング
金融教育を始めるタイミングは、早ければ早いほどよいとされています。
金融広報中央委員会は、最低限身につけるべきお金の知識や判断力について、年齢層別にまとめた「金融リテラシーマップ」を作成しています。
このマップでは小学校低学年から年齢別の習得内容を例示していますが、できれば「お金」の概念が理解できるもっと小さな頃から、少しずつ教えていくことが望ましいでしょう。
なお、子どもに限らず、大人にも年齢に応じた金融教育が必要です。
社会人になれば、所得税・住民税等の税金や、結婚・育児等のライフステージごとに必要な資金についても知っておかなければなりません。さらに、老後のお金を考えるうえで、年金制度や長期的な資産形成方法についても学ぶ必要があります。
高校での必修化に見る金融教育の必要性
金融教育が学校で推進されるようになったのは、「金融教育元年」と呼ばれる2005年からです。以降、金融教育の内容が各教科の学習指導要領に盛り込まれてきましたが、2022年4月からは、高校において資産形成に関する授業が必修化されました。
なぜこのように、学校での金融教育の必要性が高まったのか、その背景について解説します。
社会経済環境の変化
かつては、資産形成といえば預貯金が主流でした。しかし、近年は低金利が続いており、預貯金ではほとんど資産を成長させることができません。
雇用形態も多様化し、就職して定年まで勤め上げれば退職金で老後を過ごせる、という時代ではなくなりました。
退職金の額も減少傾向で、決まった額がもらえる確定給付企業年金から、決まった額を運用したものを受け取る確定拠出年金への移行も進んでいます。資産形成を考えるには、資産運用が欠かせない手段となりつつあるでしょう。
このような背景から、近年では金融リテラシー(金融や経済に関する知識や判断力)が求められる場面が増えているのです。
金融トラブルの多発・低年齢化
金融商品の多様化や、インターネット等の普及にともなう生活環境の変化による、金融トラブルの多発や低年齢化も問題視されています。
また、民法が改正され、2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられました。この改正により、クレジットカードやローン等の契約が18歳から可能になったため、従来よりも早い段階で金融リテラシーが求められるようになったといえるでしょう。
諸外国と比較した教育の遅れ
日本は、アメリカやイギリス等の欧米諸国と比較すると、金融教育が進んでいません。
金融広報中央委員会が18歳~79歳の人を対象に実施した「金融リテラシー調査 2019年」によると、日本ではこれまで学校で金融教育を受ける機会がなかった人は75.0%、家庭での機会がなかった人は62.3%にのぼります。
教育の遅れは、金融知識に関する問題の正答率の低さにも現れています。米国FINRA(金融業界監督機構)や OECD/INFE等の海外機関が国民に行なった共通問題の正答率は、イギリス(63%)・ドイツ(67%)・フランス「72%」に対し、日本は60%でした。
とりわけ「インフレの定義」の問題については、他3ヵ国の正答率が80%以上であるのに対し、日本はわずか62%です。
このような状況から、諸外国と比較すると、日本の金融教育は遅れをとっているといえるでしょう。
- 金融広報中央委員会「金融リテラシー調査 2019年」
学校の金融教育で学ぶおもな内容
ここからは、金融広報中央委員会が作成した「金融教育プログラム」から、金融教育で学ぶおもな内容について解説します。
学校での金融教育は、社会科や生活科、道徳等複数の教科を横断する形で、小学校から始まりました。ここからは、金融教育で学ぶ、より具体的な内容について見ていきましょう。
生活設計・家計管理
資金管理や運用、生活設計や万が一の際に備える手段に関する内容です。
「資産管理と意思決定」「貯蓄の意義と資産運用」「生活設計」「事故・災害・病気等への備え」の4つの観点から、家庭における経済設計を学びます。
【生活設計・家計管理のおもな内容】
資産管理と意思決定 | 財やサービス、資源の有限性の理解、収支管理、資金管理における意思決定等 |
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貯蓄の意義と資産運用 | 資産形成の重要性、基本的な金融商品に関する理解、金利の計算方法等 |
生活設計 | ローンの仕組みや年金、社会保障制度に関する理解 |
事故・災害・病気等への備え | 想定される身の回りのリスクやリスク管理としての保険の役割 |
多様化するライフプランに応じた資産形成を行えるようにするため、ライフプランニングや金融商品の概要等も教育の対象です。具体的なシミュレーションも実施しながら学びます。
金融や経済の仕組み
物価や金利、株価の関係や経済の流れ、経済政策等を学び、経済と社会の関係を理解する内容です。「お金や金融の動き」「経済把握」「経済変動と経済政策」「経済社会の諸課題」の4つの観点から金融や経済を学びます。
金融・経済の仕組みを知ることは、金融商品の仕組みの理解にも役立ち、資産運用におけるリスク管理にも有効です。
【金融や経済の仕組みのおもな内容】
お金や金融の動き | 金利の働きや仕組み、金融機関や中央銀行の役割、身近となったキャッシュレス社会への理解等 |
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経済把握 | お金や人・モノの流れや市場経済の意義、海外経済との関係性等 |
経済変動と経済政策 | 景気・物価・金利・株価等の関係や、中央銀行の役割、政府の経済政策の理解 |
経済社会の諸課題 | 経済社会が抱える問題や課題解決について |
経済主体である企業における金融や資金調達に関する学習、貨幣の役割から中央銀行の役割や金融政策についての理解を進める等の教育が行われています。
消費生活・金融トラブル防止
「自立した消費者」「金融トラブル・多重債務」の2つの観点から、消費者の権利や契約に関する法制度、金融トラブルへの対処方法を学びます。
先述のとおり、民法改正により2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられました。その結果懸念されているのが、十分な社会経験を積んでいない段階で、金融トラブルに巻き込まれるリスクです。
契約や債務等に関する教育を行うことで、金融トラブルの防止に役立ちます。
【消費生活・金融トラブル防止のおもな内容】
自立した消費者 | 契約の意味や重要性、消費者保護への理解や、消費に関する情報収集方法の習得 |
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金融トラブル・多重債務 | 金融トラブルの事例や対処・相談方法、多重債務問題等への理解 |
消費生活・金融トラブル防止の分野での教育実践例には、多重債務をしてしまう心理過程や、契約・信用管理の重要性を学ぶこと等が挙げられます。
キャリア教育
金融教育におけるキャリア教育とは、勤労と金融・経済・社会との関係を学ぶことです。キャリア形成に必要な意欲・能力を育成することを目的とし、「働く意義と職業選択」「生きる意欲と活力」「社会への感謝と貢献」の3つの観点から教育を行います。
【キャリア教育のおもな内容】
働く意義と職業選択 | 経済的自立のための職業選択や労働条件、働き方の多様性への理解 |
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生きる意欲と活力 | 経済発展と付加価値の関係や、将来の夢の実現方法、企業の経営努力の必要性等に関する理解 |
社会への感謝と貢献 | 社会でのルール遵守や協力の意義、持続可能な社会の実践に向けてできることや、社会的貢献の方法等 |
キャリア教育の実践例として、福祉関連の商品企画や、起業を通じて経営や経済活動についての学び等が挙げられます。
金融教育の課題と今後の動き
資産形成手段が貯蓄から投資へとシフトしつつあるなか、これからの時代を生き抜くには、金融商品に対する知識は必須です。
高校で資産形成に関する教育が必修化されたことをきっかけに、金融教育の重要性が注目されるようになりましたが、現状では課題も少なくありません。関連機関の動きと併せて、金融教育の課題について見ていきましょう。
教育現場によって内容に差が生じる懸念
現在高校での金融教育で懸念されているのが、現場による内容の格差です。
高校での家庭科で学ぶ資産形成の授業は、「家庭基礎」(2単位)か、「家庭総合」(4単位)の科目の一部とされていますが、教育方法は標準化されていません。
そのため実際の金融教育は、教員側の知識レベルや、金融教育に対する熱意に依存する可能性があることが大きな課題です。また、外部講師を招く場合でも、講師によって内容に偏りが出ることが指摘されています。
大人に対する金融教育も急務
子どもに金融教育を行うには、学校だけではなく家庭でも経済や資産形成等について教える必要があります。しかし、そもそも大人に十分な知識がなければ、家庭で教えることは難しいでしょう。
学校での金融教育が本格的に開始される今、大人も金融知識を身につけておく必要性が改めて高まっているといえそうです。
近年では、大人に対しての金融教育として、研修や福利厚生を通じた教育機会を設ける企業も増えました。銀行でも、セミナーやコラムを通じて、金融商品や金融知識に関する情報提供を行っています。
金融教育をめぐる新しい動きも
金融教育への機運の高まりから、従来の官民や団体の枠組みを超えた金融教育への取り組みも進んでいます。
2021年11月には、民間のオンライン学習サイトにおいて、金融経済教育推進会議による無料のe-ラーニング講座が開講されました。
おもに大学生や若手社会人が対象で、金融知識やライフプラン設計等、金融リテラシーに関する基本的な内容を取り扱っています。金融経済知識の向上を目指して、初めて関連団体や有識者と連携して制作した動画教材です。
また同年12月には、日本証券業協会と全国銀行協会による、金融教育の推進や貧困対策について初めての覚書が締結されました。今後、講師の共同利用やセミナーの共催等、さまざまな連携による人・モノ・知識の資源活用が期待されています。
まとめ
自分で資産を管理・形成していくには、正しい金融知識を持ち、お金に関するあらゆる場面で、適切に判断できる能力が必要です。金融教育により金融と社会の仕組みを理解することは、子どもだけではなく大人にも大切なことだといえるでしょう。
なお、金融教育で扱う内容は、金融広報中央委員会のウェブサイト「知るぽると」や、金融機関のホームページ等でも学ぶことができます。三菱UFJ銀行のオウンドメディアサイト「アップユー」でもお金に関するコラムを読むことができます。
大人の方も、ぜひこの機会に知識の見直しをしてみてはいかがでしょうか。
記事提供:トランス・コスモス株式会社
執筆者保有資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士
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