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入院費用で医療費控除になるものは?確定申告のとき気をつけるべきポイント

入院費用で医療費控除になるものは?確定申告のとき気をつけるべきポイント
2021.9.8
入院費用を含めて、年間一定額以上の医療費を使った場合、確定申告によって医療費控除を受けることができることは広く知られているところです。その際の控除の対象となるもの、ならないものについて正しく理解できているでしょうか?

入院することになった!医療費控除とは何か?

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(画像提供:ipopba/stock.adobe.com)
もし突然入院することになったら、医療費の負担はばかになりません。そのときに知っておきたい制度が医療費控除です。
その年の1月1日から12月31日までの間に自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合において、その支払った医療費が一定額を超えるときは、その医療費の額をもとに計算される金額の所得控除を受けることができます。これを医療費控除といいます。
医療費控除の対象となる医療費については、以下の要件に当てはまるものとされています。
  1. 納税者が、自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費であること。
  2. その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費であること。

控除額については、以下の計算式を用いて計算します。

「(実際に支払った医療費の額-保険金などで補填される額)-10万円」(最高200万円)

ただし、その年の総所得金額が200万円以下の人については、総所得金額等の5%の金額が控除額となります。また、保険金などで補填される額には、生命保険会社から支払われる入院給付金以外にも健康保険などで支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金などが含まれます。

医療費控除の特例

医療費控除には特例として「セルフメディケーション税制」というものがあります。この特例は、医療費控除と併用して利用することはできず、医療費控除もしくはセルフメディケーション税制のどちらかを選択することになります。セルフメディケーション税制の詳細については以下のとおりです。
適用が受けられるのは、健康の維持増進および疾病の予防への取り組みとして特定健康診査、予防接種、定期健康診断、健康診査、がん検診などの取り組みを行っている人です。こうした人が2017年1月1日から2021年12月31日までの間に、自己または自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る一定のスイッチOTC医薬品を購入した場合に、その年中に支払った額の合計額が1万2,000円を超えるときは、その超える部分の金額(その金額が8万8,000円を超える場合には、8万8,000円)について、その年分の総所得金額等から控除することができます。
ちなみにこのセルフメディケーション税制については見直しが進められており、適用期間が2022年1月1日から2026年12月31日まで5年間延長され、医療費適正化の観点から対象となる医薬品についても見直されることとなっています。

医療費控除の対象の判断

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(画像提供:Tomohiro/stock.adobe.com)
では、医療費控除の対象となる医療費、ならない医療費とはどのようなものなのでしょうか。

対象になるもの

医療費控除の対象となる医療費は、治療を目的とした医療行為に対して支払った診療代や医薬品代をはじめとして、おもに下記のような費用が該当します。ただし、病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えないこととされていることに注意が必要です。
  1. 医師または歯科医師による支払う診療代
  2. 治療または療養に必要な医薬品代
  3. 通院に必要な交通費(公共交通機関が利用できない場合のタクシー代も含む)
  4. 治療に必要な義足や松葉杖など、医療器具の購入費用
  5. 不妊治療に伴う費用
  6. 出産費用
  7. 治療に必要なリハビリ代
  8. 入院中の食事代(病院の食事に限る)など

対象にならないもの

基本的に治療を目的としないもの(予防のための診察など)については医療費控除の対象となりません。
  1. 健康診断や人間ドックなどの費用(ただし、それによって異常が見つかり治療の対象となった際には診断や人間ドックの費用も医療費控除の対象となります。)
  2. 予防接種代
  3. 病気の予防のために服用するサプリメントや漢方薬の費用
  4. 入院の際の差額ベッド代(ただし、個室しか空いていないなど病院の都合による差額ベッド代については医療費控除の対象となります。)
  5. 自家用車で通院した際のガソリン代や駐車場代、など

入院中の費用がすべて控除できるわけではない

入院の際にはその準備も含めてさまざまな費用が発生します。それらの費用すべてが医療費控除の対象となるわけではなく、入院中の費用のうち、以下のようなものは医療費控除の対象外とされています。
  1. 入院の際のパジャマや衛生用具など身の回りの費用
  2. 入院中のテレビや冷蔵庫の使用料
  3. 入院の際に病院の食事以外で購入した食品代
  4. 付添人のベッド代や食事代
  5. お見舞いに来た人の交通費および駐車場代
  6. 入退院時に自家用車を使用した際の交通費およびガソリン代
  7. 個室を希望した際などの差額ベッド代、など

医療費控除の確定申告

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(画像提供:Caito/stock.adobe.com)
医療費控除の適用を受けるためには、「医療費控除の明細書」に必要事項を記入し、確定申告書に添付して所轄の税務署に提出する必要があります。医療費控除は確定申告を行うことで最終的に所得から控除され、還付されます。年末調整で医療費控除を行うことはできませんので注意してください。

申告に必要なもの

確定申告の際には、給与所得がある人については「源泉徴収票」および「マイナンバーカードなどの写し」と合わせて、医療費の領収書をもとに作成した、「医療費控除の明細書」が必要となります。2017年以前では、医療費の領収書をすべて提出する必要がありましたが、2017年からは「医療費控除の明細書」を提出することで、領収書については確定申告の際の提出は不要となりました。ただ、提出は不要とはいえ、税務署から提示や提出を求められる場合に備え、5年間は保管しておくようにしましょう。
ちなみに「医療費控除の明細書」については、国税庁の公式サイトに掲載されている入力フォームを利用することで簡単に作成することが可能です。

申告の際に気をつけたいこと

医療費控除は所得控除の1つです。そして、世帯主が行わなければならないという決まりはありません。したがって、共働き世帯であれば、収入の多い人で確定申告するほうが申告によって還付される額が高くなります。
また、対象となる医療費はその年の1月1日から12月31日に支払った額です。例えば12月31日に発熱したなどで時間外診療を受けた際に、その費用の支払いを年明けの1月に入ってから行った場合については、翌年の医療費控除の対象となることに気をつけましょう。

申告の流れ

申告の際には、まず申告される人の「給与所得や公的年金等の源泉徴収票」と「医療費の領収書」を準備し、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」を利用して、画面案内に沿って入力すれば、税額などが自動計算されるので簡単です。もちろん手書きで「確定申告書」および「医療費控除の明細書」を作成してもかまいませんが、手間や計算ミスを避けるためにも「確定申告書等作成コーナー」を利用するとよいでしょう。
入力にあたっては、還付金を受け取る口座の情報を入力する必要もありますので、合わせてキャッシュカードや通帳などを用意しておきます。
入力が完了し、確定申告書の作成が終了したら、「確定申告書」、「医療費控除の明細書」、「マイナンバーカードなどの写し」を揃え、確定申告書に押印のうえ、管轄の税務署に提出します。提出については、持参する方法や郵送で提出する方法以外に、e-Taxで行うこともできます。
通常、確定申告の期間は毎年2月16日から3月15日までとなっており、2020年分の確定申告については、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で2021年4月15日まで延長されています。ただし、医療費控除などの還付申請のみの場合であれば、1月1日から提出することができます。
還付金については、確定申告書を提出した後、1ヵ月程度で確定申告書に記載した口座に振り込まれます。

医療費の負担軽減には「高額療養費」という制度もある

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(画像提供:beeboys/stock.adobe.com)
1年間に支払った医療費の一部が還付されるとはいえ、日々の生活の中で一時的であっても高額の医療費を支払うのは負担になるものです。そのような際には健康保険の「高額療養費制度」を活用しましょう。

高額療養費制度とは?

高額療養費とは、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分があとから払い戻される制度です。もしも入院などで医療費が高額になることが事前にわかっている場合には、加入している健康保険組合もしくは自治体の窓口に事前に申請し、「限度額適用認定証」を発行してもらうことで、窓口で支払う額は自己負担限度額までとなり、支出の負担を少なくすることもできます。

自己負担限度額について

自己負担限度額は、健康保険被保険者の所得や年齢に応じて異なります。参考までに、69歳以下の人の自己負担限度額は以下のとおりです。

被保険者の所得区分

自己負担限度額

年収約1,160万円~
健保:標報83万円以上
国保:旧ただし書き所得901万円超

252,600円+(医療費-842,000円)×1%[多数該当:140,100円]

年収約770~約1,160万円
健保:標報53万~79万円
国保:旧ただし書き所得600万~901万円

167,400円+(医療費-558,000円)×1%
[多数該当:93,000円]

年収約370~約770万円
健保:標報28万~50万円
国保:旧ただし書き所得210万~600万円

80,100円+(医療費-267,000円)×1%
[多数該当:44,400円]

~年収約370万円
健保:標報26万円以下
国保:旧ただし書き所得210万円以下

57,600円
[多数該当:44,400円]

住民税非課税者

35,400円
[多数該当:24,600円]

ここでいう「旧ただし書き所得」とは、総所得金額等から住民税基礎控除額(43万円)を引いたものです。そして、「多数該当」とは、高額療養費として払い戻しを受けた月数が1年間(直近12ヵ月間)で3ヵ月以上あったときは4ヵ月目から自己負担限度額がさらに引き下げられるという制度です。

高額療養費制度を利用する際の注意点

高額医療制度の自己負担額は、あくまでもその月の1日から月末までにかかった医療費で計算します。したがって、月をまたぐ入院(たとえば、3月下旬から4月上旬など)の場合では、かかった医療費の合計で計算すると自己負担限度額を超えている場合であっても、月ごとで計算すると高額療養費の自己負担限度額以下になる可能性があることに注意が必要です。

健康保険組合から届く「医療費のお知らせ」を利用する際の注意点

確定申告の際、病院や薬局の領収書ではなく、健康保険組合や国民健康保険の加入者に届く「医療費のお知らせ」を利用して「医療費控除の明細書」を作成することも可能です。ただし、届くのが医療機関を利用した月から数ヵ月後になることから、確定申告の時期に、まだ1年分が揃っていないことがあります。
また、記載されている負担額と実際に負担した額が異なるケースもあることから、「医療費のお知らせ」を利用して確定申告を行う場合は、「確定申告書等作成コーナー」の「よくある質問」内にある「医療費通知(医療費のお知らせ)を利用した入力」を参考にして作成するようにしてください。

医療費控除の内容についてしっかりと理解を深めておこう

少子高齢化が進み、75歳以上の後期高齢者における医療費の自己負担割合が2割に引き上げられるなど、医療費の自己負担については今後も増える可能性があります。また、介護にかかる費用についても医療費控除の対象となるケースもありますので、医療費控除の内容についてしっかりと理解を深めておきましょう。

執筆者:新井智美

トータルマネーコンサルタント CFP®、一級FP技能士(資産運用)、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員 

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