なぜ老後に2,000万円必要なの?実際のところどうなの?
- 2021年2月22日
- 2024年12月1日
高齢者の人口構成比が高くなり、2023年10月のデータでは75歳以上の構成比は16.1% になっています。そこへ出てきた老後に2,000万円必要との情報は、多くの人たちにショックを与えたようです。この問題の経緯を調べて、老後に本当に2,000万円必要なのか、なぜ必要なのか、どうしたらよいのかを考えてみましょう。
目次
老後に2,000万円足りなくなる!?の始まりは
2019年に「老後に2000万円の資金が必要である」との資料が、金融庁のワーキンググループからメディアに流れ、財務大臣が受け取りを拒否するという政治マターがありました。
元データは厚生労働省によるもので、夫65歳以上、妻60歳以上の無職夫婦の収支は、収入月20万9,000円に対して、支出26万4,000円なので、毎月約5万5,000円の赤字となります。夫が95歳になる30年間で約2,000万円の不足になるとのことでした。
年金モデルの崩壊が断定されることを恐れた政府は、2,000万円不足を公式に認めることなく収拾をしましたが、老後の資金について考える場合は、至極当然のことと受け止める向きが多かったのも事実だと思われます。
しかし、数値はあくまでも平均値であり、1ヵ月26万円の支出は居住地域や所得層によって大きく変わるとも言えます。ここでは、老後資金として絶対に2,000万円が必要ではありませんが、生活スタイルによっては、その程度あったほうが良いとの前提で書き進めていくことにしましょう。
モデル年金のモデル夫婦とは
今回の65歳以上と60歳以上の夫婦は、厚労省の年金の受給額を算出する際の、モデル年金が想定されています。モデル年金は、夫は平均的な給与収入で40年間厚生年金に加入し、妻は40年間専業主婦となっています。また、2019年に厚労省が年金財政の検証をした際のモデル世帯も同様となっています。
働く女性がふえたことで専業主婦世帯が減少し、1990年代半ば以降は共働き世帯が多くなっています。2018年の働き方改革から配偶者控除の103万円見直しがあり、現在では150万円が(特別)扶養控除の減額される境(壁)となっています。
夫婦で厚生年金を受給することになれば、今後は65歳以上で年金収入がふえる人が多くなるでしょう。それによって、老後資金不足は解消されるかというとそうではありません。年金財政を維持するためのマクロ経済スライド制の適用によって、将来的に年金給付水準は現役時所得の61%から50%程度まで引き下げることになっているからです。
したがって、モデル世帯像が変わっても、老後資金が不足することは変わらないと想定されるのではないでしょうか。
人生100年時代になってしまった
イギリスの組織論学者であるリンダ・グラットンがアンドリュー・スコットと共著で『ライフシフト』を出版し、人生100年時代を唱えたのは2016年でした。それ以降、人生100年時代はすっかり定着しています。
現在70歳代の高齢者は、40~50歳の頃は自分の寿命は80歳程度と思ってライフプランを立ててきた人が多いと思われます。
例えると、自動車で500キロメートルを走るためガソリンを満タンにしてゴールに着いたら、あと50キロメートル走りなさいという感じではないでしょうか。400キロメートルまではフルスピードで走らせたが、最後は省エネでガソリンを節約してギリギリでゴールインということもありそうです。
実際の人生でそんなことが起きないように備えなければなりません。
自分の年金額はいくらなのか
会社員などとして働いてきた人の老後資金の出発点は、受給できる年金の額から始まります。
- 夫(妻):厚生年金、妻(夫):専業主婦(主夫)
- 夫婦:ダブル厚生年金
- 一人年金(独身)
以上の3つのパターンが考えられます。
厚生労働省の資料によると老齢厚生年金(厚生年金と基礎年金の合計)を受給している人の平均月額は2022年度で14万5,000円となっています。
したがって、ダブル年金の場合はこの2倍が夫婦での年金受給額、どちらかが基礎年金だけの場合は14万4,000円プラス老齢基礎年金6万4,000円の合計になります。単身者の場合はこの金額そのままになります。
自分の年金受給予定額を知りたい場合は、毎年誕生月に「ねんきん定期便」のハガキが届き、節目の年(35歳、45歳、59歳)には個人毎の年金情報が知らされています。また50歳以上には年金見込み額が通知されますので、確認することができます。
年金受給見込み額と老後の生活費の差額と生涯必要額を計算すると
このようにして、65歳時点の自分および世帯の年金受給額が分かると、家計費として支出している金額との引き算になります。子育てや教育資金、住宅資金のメドが付くのは50歳ごろが一般的です。膨らんだ家計費からそれらを差し引きした額が、基本的に夫婦の生活費となります。
金融庁の先述の資料では1ヵ月の生活費が約26万円になっていますが、少し余裕のある夫婦2人の生活費は30万円~37万円程度と言われています。1ヵ月の生活費をどの程度と見込むかは、それぞれの世帯の考え方と経済的な事情によるでしょう。
受け取り見込み年金額(月額)-1ヵ月の生活費=1ヵ月の要補充額(不足額)です。仮に現在の(1)モデル世帯(夫給与・妻専業主婦)と(2)ダブル年金夫婦の場合を例にとりましょう。
(1) 夫給与・妻専業主婦 |
(2) ダブル年金夫婦 |
(3) 夫給与・妻専業主婦で支出を抑えた場合 |
|
収入(月額) |
21.1万円 |
29.2万円 |
21.1万円 (14.6万円+6.5万円) |
支出(月額) |
26万円 |
37万円 |
24万円 |
不足額(月額) |
4.9万円 |
7.8万円 |
2.9万円 |
年間の不足額 |
58.8万円 |
93.6万円 |
34.8万円 |
30年の不足額 |
1,764万円 |
2,808万円 |
1,044万円 |
この不足額を埋めるのが退職金と老後資金での積み立てになります。
積立投資を活用して老後に備える
お金をふやすには、株式や債券などを購入して、元本の値上がりと運用リターンを再投資してふやす方法もありますが、給与収入などを元に資金をふやすには、比較的安定した運用ができる積立投資が良いのではないでしょうか。積み立てをする場合は、毎月定期的に同じ購入額(1万円など)で買い付けをしますが、この方法は定額購入法またはドル・コスト平均法と言われています。
ドル・コスト平均法は、価格の変動する株式や投資信託を定期的に一定額買い付けるので、株価が安いときには多く、高いときには少ない株数を買うことになり、1株当たりの購入単価は平均化されます。
元本割れの可能性もあり、必ず利益が出ると断言できませんが、過去の経験則で長期に定期購入することによって、高値つかみのリスクを避けて安定的な運用ができると言われています。
それでは、積立投資をするための具体的な金融商品を見ていくことにしましょう。
iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)とは
iDeCoは、企業が自社の従業員のための退職金・企業年金制度を確定給付型年金制度(DB)から、確定拠出型年金(DC)に切り替える動きのなかで生まれてきた制度です。また、老後資金の不足をカバーする制度として税制面で際立った優遇があります。
iDeCoは、企業年金制度のない会社や個人事業主はもちろん、DBやDCで企業年金を運営している企業の従業員にも加入の可能性を開いた制度です。
最大の特徴は、掛け金全額が所得控除として認められることです。年収400万円の会社員の方が月1万円をiDeCoで積み立てた場合、年間18,100円の所得税と住民税が軽減されます。もちろん元本の値上がり益や分配金は非課税です。
iDeCoへの拠出限度額は、勤務先の制度によって、毎月2万円、2万3,000円がありますが、専業主婦(最大2万3,000円)や個人事業者(最大6万8,000円)も加入可能です。
運用商品は口座を設定する金融機関が扱う、預金、投資信託、保険商品の中から選ぶことができます。投資信託の場合は、国内外の株・REIT・債券を組み込んだファンドを選ぶことができるようになっています。また、年金ですから途中解約はできず、60歳から75歳までに一括受け取りまたは年金給付となります。
NISA(少額投資非課税制度)とは
NISA(少額投資非課税制度)とは、NISA口座内で購入した金融商品から得られる利益が非課税になる制度です。通常、株式や投資信託の売買で得た利益や受け取った配当金・分配金には約20%の税金がかかります。しかし、NISA口座から発生した利益には税金がかからず、全額を受け取れます。
NISAにはつみたて投資枠と成長投資枠があり、併用が可能です。以下の表は、成長投資枠とつみたて投資枠の主な特徴を比較したものです。
NISAにはつみたて投資枠と成長投資枠があり、併用が可能です。以下の表は、成長投資枠とつみたて投資枠の主な特徴を比較したものです。
つみたて投資枠 | 成長投資枠 | |
---|---|---|
年間の投資上限額 | 120万円 | 240万円 |
非課税期間 | 無期限 | |
非課税保有限度額 | 1,800万円(内、成長投資枠の上限額は1,200万円) ※ 売却して空いた非課税枠の翌年以降の再利用が可能 |
|
投資対象商品 | つみたて投資枠対象ファンド(株式投資信託) | 上場株式・投資信託等(*) (制限あり) |
購入方法 | つみたて投資 | 一括投資またはつみたて投資 |
- 次のすべての条件を満たすもの「①信託期間が20年以上または無期限であること②デリバティブ取引を用いていないこと③毎月分配型でないこと」。
NISAでは、つみたて投資枠と成長投資枠で年間合計360万円まで非課税投資が可能です。また、NISAは資産の引き出し(売却)が自由にでき、引き出して(売却して)空いた非課税枠を翌年以降に再利用できます。
NISAとiDeCoと違う点は、途中の引き出し(売却)が自由な点です。iDeCoは60歳になるまで原則引き出しできませんが、NISAは好きなタイミングで一括購入や引き出しができる自由性があります。一方でiDeCoのような掛け金の所得控除はありません。
しっかり事実を知れば老後2,000万円におびえる必要はない
老後2,000万円不足問題が起きた経緯から、自分がもらえる予定年金額、老後にいくら不足するのか見てきました。3つの家計費の支出から不足額の例も挙げてみましたが、必ず2,000万円不足するわけではないとは言えるでしょう。
退職金がある程度見込める人、そうでない人によって不足額やそれをカバーする積立額はさまざまです。
積み立てをする際の有利な2制度(iDeCoとNISA)のどちらを選ぶかは、個人の状況や考え方次第です。また何歳まで仕事をするか、配偶者が仕事に就いているかどうかでも、収入・年金が大きく変わってきます。
自身の必要額を把握し、準備をしていれば、2,000万円の不足に対し必要以上におびえる必要はありません。70歳以降の人生を充実させるために仕事やボランティアといった生きがいを探すことも必要ではないでしょうか。
執筆者:植田英三郎
ウエダFPオフィス代表 CFP®、福祉住環境コーディネーター
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