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定年退職で失業保険はもらえる?申請手順を解説!

定年退職で失業保険はもらえる?申請手順を解説!
  • 2021年7月7日
  • 2023年6月2日
政府は2013年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」を改定し、基本的に65歳までの雇用拡大を努力義務としました。定年を延長もしくは再雇用される人がいる一方で、再就職や年金生活を考える人もいるでしょう。さまざまな選択肢がある中で、この記事では再就職を検討する人に向けて失業保険の加入と手続きについて解説いたします。

定年退職したらどうする?

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(画像提供:KonstantinYuganov/stock.adobe.com)
定年後の生活にはいろいろな選択肢があります。再雇用される人もいれば、しばらくはのんびりする、年金を繰り上げて年金生活をする、他の職場に再就職する、新しく事業を立ち上げるなど、ライフプランや生活スタイルによってそれぞれの道を歩んでいくことになります。

このうち、再就職を検討する場合には、失業保険を受給することが可能です。

※失業保険は、正式には雇用保険の失業等給付のうち、基本手当といいます。この記事では、失業保険、失業手当、基本手当として解説しますが、いずれも同じ意味です

失業手当を受けるための条件は次の通りです。

1. 失業保険の被保険者期間が離職日以前の2年間の合計で12ヵ月以上ある

2. ハローワークに来所し求職の申し込みを行う

3. 就職しようとする積極的な意思がある

4. いつでも就職できる能力がある 

5. 仕事を探しているにもかかわらず、現在職業に就いていない

この条件に該当していれば、年齢や被保険者であった期間に応じて、下記の日数の期間失業手当を受けることができます。

失業保険の給付は最長1年間延長できる?

失業手当は、離職日の翌日から原則として1年以内(受給期間)の失業している日に支給されます。離職後手続きが遅れると、その分受給できる金額が少なくなる可能性があります。

一方で、定年退職後、しばらく何もせずゆっくり過ごしたいと考える人もいるでしょう。そんな人のために、失業手当には最大1年間の受給期間延長制度があります。

「60歳以上で定年退職した人」あるいは「60歳以上の定年後の勤務延長等が終了して退職する人」で、一定期間求職の申し込みをしない人は、退職日の翌日から起算して2ヵ月以内に、住所を管轄するハローワークで申請すれば受給期間が延長されます。

本来の受給期間1年間に求職の申し込みをしない期間(1年間)を加え、合計2年間の受給期間延長ができることになります。なお、申請には次の書類が必要です。

(1)離職票1、離職票2(離職票は勤務していた会社に依頼)

(2)印鑑

(3)受給期間延長申請書

失業手当はいくらぐらい支給されるの?

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(画像提供:takasu/stock.adobe.com)
それでは、この失業手当はどれくらい支給されるのでしょうか?詳しい計算を見ていきましょう。

基本手当日額とは?

雇用保険で受給できる1日当たりの金額を「基本手当日額」といいます。計算方法は次の通りです。
  1. 離職直前の6ヵ月間に支払われた賃金の総額(ボーナスは含まない)を180で割って「賃金日額」を算出します。
  2. 「賃金日額」に、「一定率」を掛けて算出したのが「基本手当日額」です。一定率は、年齢や賃金日額によってそれぞれ定められており、賃金の低いほど高い率となっています。たとえば、60歳以上65歳未満で賃金日額が1万5,970円だった場合、一定率は45%で基本手当日額は7,186円となります。

失業保険の給付日数は何日?

本人が継続雇用を希望せず、定年退職離職した場合は一般の離職者になり、次の通り支給されます。

(参考)厚生労働省職業安定局「ハローワークインターネットサービス」基本手当の所定給付日数

被保険者期間
60歳を過ぎていても退職理由等により、特定受給資格者や、特定理由資格者として認定されれば、受給期間が延びる場合があります。これは就業規則や労使協定など、事実を確認してハローワークが決定します。
被保険者期間
障害者手帳を交付されている場合等は、就職困難者として次の通り支給されます。
被保険者期間

特別支給の老齢厚生年金とは同時受給できないので注意

一方で、失業保険は、特別支給の老齢厚生年金(※1)と同時に受けられません。

※1 男性の場合1961年4月1日まで、女性の場合1966年4月1日までに生まれた人が、1年以上厚生年金保険に加入している(かつ老齢基礎年金の受給資格が10年以上)場合に、60歳~64歳のあいだ受給できる年金のこと

年金が支給停止される期間(これを「調整対象期間」といいます)に、失業手当を受けた日が1日でもある月は、年金の全額が支給停止になるので注意が必要です。
老齢厚生年金の額や失業手当の額は、年齢によって条件が変わってきます。また、失業手当の受給期間が経過した時などに調整が行われ、その結果さかのぼって年金が支払われることがあります。

なお、高年齢雇用継続給付※2も失業手当に影響しますが、繰り上げ請求をしている場合の老齢基礎年金※3は影響されず、給付されます。

※2 60~65歳になるまでの雇用保険加入者に対し、賃金額が60歳到達時の75%未満になった人を対象に、賃金額の最高15%までの額が支払われる制度。失業手当を受給中に再就職した場合にも給付されますが、条件によっては失業手当を受け取っていた方が多くお金を貰えることがありますので、ハローワークなどに確認しましょう。

※3 国民年金、厚生年金保険の加入者が老後受け取れる年金。日本の公的年金の1階部分。詳しくは厚生労働省のページなどをお調べください。

失業保険と年金受給のシミュレーション

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(画像提供:pomupomu/stock.adobe.com)
ここで気になるのが、失業保険と特別支給の老齢厚生年金のどちらを受け取るのがいいのかということです。再就職を検討していることが前提ではありますが、次のケースで考えてみましょう。

<Aさん(女性・1960年4月1日生まれ)の場合>

60歳で38年勤めた会社を定年退職後、継続雇用されており、61歳から特別支給の老齢厚生年金を受けられる予定です(男性がその生年月日の場合は64歳から受給できます)。

Aさんは厚生年金を受けられるようになることを機に、セカンドキャリアを考えて一度仕事を辞めようと考えています。Aさんの平均給与は月額25万円で、賞与はありません。また、特別支給の老齢厚生年金は120万円とします。
この場合、失業保険と特別支給の老齢厚生年金のどちらを選んだ方がよいでしょうか。

失業保険の計算

1. まずは、退職前6ヵ月の給与総額(ボーナスなど含まない)を180日で割って【賃金日額】を計算します。

【25万円×6ヵ月÷180日=8,333円(1円未満は切捨)】

2. 次に、規定(2021年3月1日~)の計算式により【基本手当日額】を計算します。60歳から64歳までの賃金日額が5,030円以上1万1,140円以下の場合、次の計算式のいずれか低いほうの額を採用します(W=賃金日額)

(イ)0.8w-0.35{(w-5,030)/(1万1,140-5,030)}w

(ロ)0.05w+(1万1,140×0.4)

ここでは、(イ)が採用されるため

【8,333円×0.05+(1万1,140×0.4)=4,872(1円未満は切捨)】

3. 給付日数は被保険者期間によって異なり、今回の場合は(20年以上の定年退職者なので)150日です

【4,872円×150日=73万800円】

以上から、失業保険は(150日=5ヵ月と考え)1ヵ月あたり14万6,160円になります。

特別支給の老齢厚生年金の計算

特別支給の老齢厚生年金は、定額部分と報酬比例部分にわけて考えますが、定額部分の支給率と報酬比例部分の乗率の計算は、やや複雑です。該当の人は「ねんきん定期便」などで確認してみるとよいでしょう。
ここでの特別支給の老齢厚生年金は120万円としていますので、厚生年金は(120万円÷12ヵ月と考え)1ヵ月あたり10万円になります。
Aさんが、前出の条件で退職する場合を比較してみると

失業保険=14万6,160円

特別支給の老齢厚生年金=10万円

以上となり、失業保険を選択したほうがよいと言えそうです。

もしも継続雇用されていた場合はどうなる?

もし、Aさんがそのまま継続雇用されていた場合に、特別支給の老齢厚生年金の支給額と給与についてどうなるでしょう?
これは、60歳以上65歳未満の「在職老齢年金」の仕組みをもとに計算します。働きながら年金を受ける場合には、年金額の一部または全部が支給停止されるケースがあります。
詳しい解説は割愛いたしますが、Aさんの場合は「基本月額が28万円以下で総報酬月額相当額が47万円以下」に該当するため、計算式は次の通りです。
支給停止額=(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)×1/2
つまり(25万円+10万円-28万円)÷2=3万5,000円となり、特別支給の老齢厚生年金の額10万円から3万5,000円が支給停止となるため、支給額は6万5,000円となります。
収入としては、25万円(給与)+6万5,000円(年金)の31万5,000円となります。

定年退職後に失業保険を申請する手順は?

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(画像提供:HyejinKang/stock.adobe.com)
実際に、失業保険をもらうにはどのように手続きすればいいのでしょうか。手順を簡単に紹介します。

1. 提出書類の準備

失業手当をもらうための書類は以下の通りです。
  • 離職票―1
  • 離職票―2
  • マイナンバーカードなどの本人確認書類
  • 写真2枚(最近の写真、正面上半身、タテ3.0cm×ヨコ2.5cm)
  • 印鑑(認印可、スタンプ印不可)
  • 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード

2.ハローワークで求職申込みを行う

書類が全て整ったら、管轄のハローワークで申請を行いましょう。ハローワークでは求職申込みを行い、離職票等必要書類の提出を行います。
求職申込みは、再就職の意思を示すものです。離職票を提出する際には、ハローワークの担当者から記載されている離職理由が自分の認識と相違ないかを確認されます。確認等が済むと受給資格が決定し、雇用保険説明会の日時を案内されます。

3. 説明会を受け、待期期間を過ごす

指定された日時に再度ハローワークへ行き、雇用保険説明会を受けます。そこで「失業認定日」が決定しますので、失業認定日までに求職活動をしましょう。
なお、手順2で受給手続きをした日から、失業の状態が通算して7日間経過するまでを「待期期間」と言い、満了するまでは失業手当は受け取れません。雇用保険説明会は待期期間と前後して行われます。

4. 失業認定日に状況報告をする

認定日になったら再びハローワークへ行きます。「失業認定報告書」に求職活動の状況等を記入し、「雇用保険受給資格者証」とともに提出すれば、失業手当が振り込まれます。(金融機関により異なりますが、失業の認定を行った日から通常5営業日で、指定した金融機関の口座に振り込まれます)

失業保険を申請するときのポイント

それぞれの給付日数期間内に、再就職したり、事業等を開始した場合には、再就職手当等が受給できる場合があります。又、雇用保険を受給せず、1年以内に次の就職先に就職し、雇用保険に加入した場合は、前の会社で加入していた雇用保険の被保険者であった期間も通算されます。
失業手当受給中も、受給終了後も、ハローワークでの職業相談は利用できますので、積極的に活用しましょう。

失業手当や年金は期限を守って申請を

人生100年時代に向かって、定年制度等の変更や年金制度の変更などさまざまな変更が続いています。失業保険も年金も基本的に請求しなければ支給されません。それぞれに期限があり、その期限内に手続きをしないと支給されないこともあります。
大部分の制度は知らなかったという言い訳は通用しません。もうすぐ定年を迎える方は、定年までの何年か前から準備をしておくとよいでしょう。

執筆者:岡崎成吾

岡﨑社会保険法律事務所

社会保険労務士としては、「障害年金」を中心として活動中。

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