知らないと損する「育休中の税金・社会保険料」FPがわかりやすく解説
- 2021年8月20日
- 2024年10月23日
出産後も子どもを育てながら働き続けることを希望する方が増えています。そして、そのための制度については「育児・介護休業法」によって会社が講じるべき措置とされていますが、制度を利用するにあたって、その間の給与の受け取りや社会保険料の支払いはどうなるのかなどについては、利用する自分自身がしっかりと理解しておく必要があります。
目次
産休・育休中にもらえる手当
出産育児一時金
健康保険の被保険者およびその被扶養者が出産した際に受け取れる一時金で、1子につき50万円が支給されます。ただし、産科医療補償制度に加入されていない医療機関等で出産された場合は48.8万円となっています。
支給を受ける要件としては、健康保険の被保険者または被扶養者が妊娠4か月(85日)以上で出産をしたこととなっており、早産、死産、流産、人工妊娠中絶(経済的理由によるものも含む)も支給対象となります。
出産育児一時金の支給を受けるためには、加入している健康保険組合への申請が必要です。
出産手当金
出産日(出産が予定日より後になった場合は、出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの範囲内で会社を休み、給与の支払いがなかった期間を対象として、一日当たり給与の3分の2相当額が支給されます。具体的な支給額計算方法は以下のとおりです。
1日当たりの金額
【支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額】(※)÷30日×(2/3)
※支給開始日の以前の期間が12ヵ月に満たない場合は、次のいずれか低い額を使用して計算されます。
- 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
- 30万円
ここでいう「支給開始日」とは、最初に出産手当金が支給された日のことです。また、会社から給与が出ている場合には、出産手当金から給料を引いた差額分が実際に受け取れる出産手当金となります。
育児休業給付金
雇用保険の被保険者の方が、1歳(パパママ育休プラス制度を利用して育児休業を取得する場合は1歳2ヵ月。保育所における保育の実施が行われない等の場合は1歳6ヵ月または2歳)に満たない子を養育するための育児休業を取得し、育児休業期間中の賃金が休業開始時の賃金と比べて 80%未満に低下したなど、一定の要件を満たした場合に、ハローワークへ申請することにより支給されるものです。
受給するためには、雇用保険に一定期間加入していることが必要で、派遣社員やパートタイマーの方でも雇用保険に加入していれば受給することができます。また、女性だけでなく、男性も受給可能となっています。具体的な受給資格は以下のとおりです。
受給資格
- 1歳未満の子を養育するために、育児休業を取得した被保険者であること
- 休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上の)完全月が12ヵ月以上あること
- 一支給単位期間中の就業日数が10日以下または就業した時間数が80時間以下であること
そして、1ヵ月当たりの支給額については、以下の計算式によって求められた金額となります。
1ヵ月当たりの支給額
- 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
- 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 50%
この「休業開始時賃金日額」は、育休開始前の6ヵ月の給料を180で割った金額です。また、支給額には上限および下限があることにも注意が必要です。この上限額および下限額については毎年8月1日に改訂され、2024年8月1日現在の上限額および下限額については以下のとおりとなっています。
上限額:470,700円
下限額:86,070円
企業によっては休業中の給与が出るところも
産前産後休暇は労働基準法で、育児休暇は育児・介護休業法にて認められた制度です。そして産前産後休暇及び育児休暇中の給与について、休業した期間分は日割りで算定対象期間から控除することなど、休業期間は働かなかったものとして取り扱うことは、不利益な取扱いに該当しないとされています。
したがって、休暇取得中の給与についてどのように扱うかは会社側の判断に委ねられており、その内容については就業規則に盛り込むこととなっています。一般的には休業中の給与については無給としている企業が多いですが、最近では休業中の給与を100%保障する企業も出始めています。
給付金には所得税がかからない
出産育児一時金および出産手当金については、健康保険法に基づき支給されるもので、その規程により非課税となっています。そして、育児休業給付金については、雇用保険法に基づいて支給されるものであり、失業等給付に該当することから課税されないこととなっています。
要注意!産休・育休中でも住民税は支払う必要がある
住民税は前年の所得などによって計算されることから、産休および育休中であっても前年に所得があれば住民税の支払い義務が発生します。
通常、住民税は前年の所得に基づいて計算され、6月から翌年5月までの12回に分けて支払います。従業員は特別な手続きをする必要はなく、給与から天引きされる「特別徴収」という方法で納付しています。
一方、産休中の従業員は給与が支給されないため、産休に入るタイミングによっては個人で自ら納付する「普通徴収」という方法に変わります。
一方、産休中の従業員は給与が支給されないため、産休に入るタイミングによっては個人で自ら納付する「普通徴収」という方法に変わります。
6月1日から12月31日に産休に入る場合
産休に入るのが6~12月の場合は、その間の給与の支払いが発生しないことから、特別徴収ができません。そのため、普通徴収に切り替え、自分で納めることになります。
自治体から6月、8月、10月、翌年の1月の4回に分かれた納付書が届きますので、コンビニや金融機関の窓口などで支払いを行ってください。
翌年1月1日から5月31日までに産休に入る場合
産休に入る期間が1~5月の間であれば、その間の住民税の徴収方法は特別徴収となります。したがって、産休に入る前の最後の給与から、5月までの住民税額が一括徴収されます。
支払いが厳しいときには自治体に相談を
前年に比して収入が激減したことにより、生活が著しく困難となった場合であれば、減免措置を利用できることがあります。さらに住民税を納付することにより、生活の維持を困難にするおそれがあるなどの一定の要件に該当するときは徴収猶予の制度を受けることもできます。
減免措置や徴収猶予の要件や申請方法については、自治体によって異なることから、まずはお住いの自治体の窓口に相談してみましょう。
産休・育休中の社会保険について
産休および育休中の社会保険の取り扱いはどのようになるのでしょうか。
産休・育休中でも社会保険には加入したまま
産休および育休中であっても社会保険への加入は継続します。休業中であるからといって加入資格を失うわけではありません。
健康保険料・厚生年金は支払い免除できる
産休・育休期間については、健康保険・厚生年金保険料の免除を受けることができます。申出は、会社が申出書を日本年金機構(事務センターまたは年金事務所)へ提出することにより行います。なお、この免除期間は、将来、被保険者の年金額を計算する際は、保険料を納めた期間として扱われます。
雇用保険料は給与がなければ支払う必要なし
雇用保険とは、給与に対してかけられている保険です。したがって給与が支払われていない間の雇用保険料は支払う必要がありません。
育休が来年ならふるさと納税も効果的
育児休暇に入る時期が来年であれば、今年中にふるさと納税を行うことで、来年6月以降(育休中)の住民税を軽減することができます。
ふるさと納税とは、自分の選んだ自治体に寄附(ふるさと納税)を行った場合に、寄附額のうち2,000円を越える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度です。出産・育児に必要なものを返礼品にしている自治体もありますので、興味があるのであれば是非活用してみましょう。
共働きでも夫の扶養に入って税金を少なくすることができる?
産休および育休中に受給できる一時金や給付金が非課税扱いとなることは、上で述べたとおりです。したがって、共働きであっても、受け取る一時金や給付金を除いた所得が一定額以下であれば、夫の扶養に入ることが可能です。そして、所得に応じて配偶者控除もしくは配偶者特別控除の対象となるという節税メリットがあります。
割増給付が最長1年「パパママ育休プラス」とは
パパママ育休プラスとは、パパとママの二人の育休期間を足して、子供が1歳2ヵ月になるまで育休期間を延長できる制度です。利用の際には要件を満たす必要があり、その要件とは以下のとおりです。
パパママ育休プラス利用要件
- 配偶者が、子が1歳に達するまでに育児休業を取得していること
- 本人の育児休業開始予定日が、子の1歳の誕生日以前であること
- 本人の育児休業開始予定日は、配偶者がしている育児休業の初日以降であること
安心して育休できるよう万全な準備を
産休および育休取得の際には、会社への届け出が必須です。それにともない、産休に入る前には育休も合わせて取得するかどうかも含めて、事前に上司に伝えておきましょう。そのうえで自分が産休や育休を取得している期間の業務内容や人員確保の調整が必要であれば、早めに対応してもらうようにお願いしておくことも大切です。
また、給付金の申請や税金の免除、納付方法の変更手続きなどは会社が行ってくれる部分と自分で行う部分がありますので、その区別をきちんと理解しておき、自分で申請が必要な場面については忘れないように期日を守って申請するようにしましょう。
復帰後についてもきちんと考えておく
復帰後に「短時間勤務制度」を利用するのか、そして業務内容についてはどのようになるのかについて、復帰する半年前くらいから会社と話し合っておくことが大切です。原則として、会社は休業する前と同じ業務を担当させなければならないとされていますが、組織の見直し等社内の変化によっては希望にそぐわないケースも考えられます。
とはいえ、会社側は復帰において不利益な取扱いをしてはならないとされていることから、あまりにも納得がいかない場合はしっかりと話し合うようにしてください。合わせて、子育てと仕事の両立のためには家族の理解が必要不可欠です。家事分担や、緊急時の対応などについてしっかりと夫婦で話し合い、決めておくことも忘れてはいけません。
自分に負担がかかりすぎないように、ある程度の融通が利くようなバランスを保ちながら仕事を続け、自身のキャリアアップを目指していきましょう。
執筆者: 新井智美
トータルマネーコンサルタント CFP®、一級FP技能士(資産運用)、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
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