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「エンゲル係数の上昇は貧困化の進行」のウソ・ホント

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「エンゲル係数の上昇は貧困化の進行」のウソ・ホント
2020.9.15
新型コロナウイルス対策が日本経済に大きく影響する中で、今注目されているのが「エンゲル係数」です。“貧困指標”ともいわれ、2015年に続き2020年2月に大きく上昇したことが話題となりました。社会科の授業で習ったはずのエンゲル係数ですが、どんなものか覚えていますか?この記事ではエンゲル係数のおさらいと、とらえ方について社会人の視点で見ていきましょう。

私たちの生活のエンゲル係数はいくつ?

エンゲル係数は、1世帯の消費支出の中に占める食費の割合のことです。総務省の「家計調査」をもとに、2019年の単身世帯(学生を除く)のエンゲル係数を計算すると、下記のような結果となります。

1年間の食費53万1,153円÷1年間の消費支出196万5,371円=27.0%

*食費には、食料品費、お惣菜代、外食費、飲み物代、お菓子代等を含む

この27.0%がエンゲル係数となります。ちなみに、34歳までの若年層の単身世帯(学生を除く)にしぼった男女別のエンゲル係数は、下記の通りです。

【男性:34歳までの単身世帯の平均】

1年間の食費60万1,952円÷1年間の消費支出201万2,524円=29.9%

【女性:34歳までの単身世帯の平均】

1年間の食費50万5,646円÷1年間の消費支出214万7,500円=23.5%

1ヵ月間の金額で比べると、男性は消費支出16万7,710円に対し食費の合計は5万163円、女性は消費支出17万8,958円に対し食費の合計は4万2,137円です。

自分のエンゲル係数を計算してみよう

この食費には、自炊の「食料品費」はもちろん、外食の「ランチ代」や、休憩時間の「コーヒー代」なども含まれます。自分のエンゲル係数が上記の平均と比べてどれくらいか、消費支出と食費にあてはめて調べてみましょう。
例えば、消費支出が15万円前後で、そのうち6万円を食費にかけているのであればエンゲル係数は40%となり、全体的な値よりも高いといえるでしょう。

そもそもエンゲル係数とは?貧困指標といわれるワケ

「エンゲル係数」は、ドイツの統計学者エルンスト・エンゲルが提唱したものです。
また、食費は生命維持にかかわるため簡単に削ることができないとされ、収入が上がる(下がる)ほど消費支出に占める食費の割合は低くなる(高くなる)というのが「エンゲルの法則」です。
日本でも年収が高くなるにつれてエンゲル係数が低くなる傾向があります。総務省の「明日への統計(2019)」によると、エンゲル係数は、年収265万円未満の世帯では31.5%、年収449万円から523万円の世帯では26.5%、年収1,056万円以上の世帯は22.2%です。
日本全体がまだ貧しかった戦後すぐのころは60%台だったエンゲル係数は、経済成長によって生活が豊かになるとともに低下してきました。2005年には22.9%という最低値を記録しています。こうしたことから、エンゲル係数は「貧困指標」として生活水準を示す資料として用いられてきました。

エンゲル係数が上昇する要因とは?

日本では戦後ほぼ一貫して低下してきたエンゲル係数ですが、2005年を境に上昇に転じています。とりわけ2014年以降の上昇は急速で、2016年には25.8%を記録しました。これは1987年の26.1%以来の高い水準です。
では、このようにエンゲル係数が上昇に転じることを貧困化と判断してもよいのでしょうか。近年、エンゲル係数が高まっている要因について見てみましょう。

共働き世帯の増加

内閣府の「男女共同参画白書(平成30年版)」によると、共働き世帯は年々上昇傾向にあります。
共働き世帯の場合、家事に多くの時間をかけられず調理食品やお惣菜の購入、外食が多くなるもの。それに伴って食費の占める割合が高くなり、エンゲル係数は上昇すると考えられるでしょう。

食生活の変化

近年は食品の価格帯も幅広く、食生活にも変化が生じています。同じ肉や魚、野菜などの食材でも、高級品を買い求めればより多くの食費がかかるでしょう。同様にちょっと贅沢な外食やお酒などの嗜好品を楽しめば、やはり食費の支出は高まります。
エンゲルの法則にならえば高収入の世帯ほどエンゲル係数は低くなるはずですが、収入が多い分、贅沢な食生活を楽しめばエンゲル係数は高くなるでしょう。このように食生活の高級志向もエンゲル係数が上昇する要因と考えられます。

日本社会の高齢化

一般的に、若い世代に比べ高齢世帯のエンゲル係数は高いといわれています。リタイア後の収入は年金、貯蓄の取り崩しなどがメインとなるため、収入が減少し消費支出も減少しますが、食費は生活の基本であるため大きく減らないことから、エンゲル係数が高くなるというわけです。
日本社会は全体的に高齢化が進んでいるため、エンゲル係数の高い世帯が増えることで、全体のエンゲル係数を押し上げていると考えられます。

エンゲル係数はさまざまな要因を反映する指標

エンゲル係数が上昇する要因としては、このほかにも食料品の値上がりなどが挙げられています。その一方で所得が伸び悩んでいることが、エンゲル係数の上昇に結びついているともいわれています。
2020年2月にエンゲル係数が上昇したことが話題となりましたが、これは巣ごもり生活で食費の支出が増えていることが背景にあるようです。さらに、コロナ禍によって収入面でも減少が懸念される中、エンゲル係数の推移が気になるところです。
ここまで見てきたように、エンゲル係数は単純に貧困化を反映する指標ではないようです。さまざまな社会的、経済的な要因が相互に関連し合った結果がエンゲル係数に反映されています。エンゲル係数の推移を多様な視点からとらえてみることが、知識を深め、現状を正しく理解することにつながるでしょう。

執筆者:株式会社ZUU

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