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利上げとはどのような政策?為替・株価・物価に与える影響とは?

利上げとはどのような政策?為替・株価・物価に与える影響とは?
公開日:2022年9月22日
日本銀行や米国の連邦準備理事会等の中央銀行が行う金融政策としての利上げは、加熱した市場を抑制し、インフレが起こるのを防ぐために実行されます。
利上げの影響は幅広い経済活動におよぶため、その決定は慎重に検討されなければなりません。また、利上げの影響を受ける国民も、利上げの意義や影響を知り、金融施策の動向を知っておいたほうがよいでしょう。
今回は、利上げの概要、利上げが経済へ与える影響、日本経済との関わりが深い米国の利上げ等について、ファイナンシャルプランナーが解説します。
利上げについて知識を蓄えておくと、投資の判断等にも役立つためぜひ参考にしてください。

利上げとは「中央銀行による政策金利の引き上げ」のこと

利上げとは「中央銀行による政策金利の引き上げ」のこと
各国中央銀行が行う政策金利引き上げのことを「利上げ」と呼びます。
利上げは景気上昇による市場の過熱を抑制するために実行され、その効果はさまざまな経済指標に影響を与えるため、利上げは重要な金融施策だといえるでしょう。
一般的に、利上げは景気の回復・拡大期に実行されますが、市場抑制のために行きすぎた利上げを行うと景気の低迷につながりかねません。一方で、利上げに踏み切れず市場の過熱が続けば、インフレの懸念が高まり景気動向が不安定になってしまいます。
政策金利の動きと景気の関係性イメージ図
このように、利上げは経済に大きな影響を与えるため、中央銀行は国内や世界の経済状況から、利上げのタイミングや利上げ幅を慎重に検討しなければなりません。その影響の大きさから利上げは、経済界や投資家も動向に注目している重要な施策なのです。

利上げで為替・株価・物価はどう変わる?

利上げで為替・株価・物価はどう変わる?
利上げは為替・株価・物価にどのような影響を与えるのでしょうか。利上げが与える影響を、一つずつ見ていきましょう。
ただし、ここで示すのは一般的に発生しやすいとされる影響であり、経済状況によっては異なる影響が出る場合もあります。また、為替等は利上げを含めたさまざまな要因によって変動するため、経済状況を総合的に見て影響を判断しなければなりません。

利上げと為替

投資家はより金利の高い国の国債を購入したり、金利の高い国へ預金したりする傾向があります。
そのため、利上げによって二国間の金利差が広がると、金利が高い国の資金需要が高まり、結果として、利上げした国の通貨高になるのです。
つまり、日本で利上げが行われて、日本の金利が諸外国より高くなると、日本の資金需要が高まって円高になります。
なお、円高になると、外国の製品やサ―ビスを安く購入できるようになる一方、外貨建て資産の価値が下がるといった影響が発生するでしょう。

利上げと株価

続いて、利上げと株価の関係を見ていきましょう。
利上げすると、借入の支払利息が増えて企業の減収につながるとともに、企業は新規借入を控えるようになります。その結果、企業の業績に悪影響が出て、株価は下落するのです。
ただし、利上げはあくまで景気の回復・拡大期に、経済の安定を図るために実施されるため、適切に利上げが実行されれば、株価への影響が少なく済む場合もあります。

利上げと物価

物価はモノの需要と供給に左右され、需要が供給を上回ると物価が上がり、逆に需要が供給を下回ると物価は下がります。
利上げすると、物価にはどのような影響が出るのでしょうか。
利上げによってお金を借りるときの金利が高くなると、企業や個人が資金を借りづらくなります。すると、企業や個人は借入を控えるようになり、資金の流動性が落ち、資金需要も減ります。人々の購買意欲も低くなり、最終的に物価は下落するのです。

直近の日本の政策金利はどうなっている?

直近の日本の政策金利はどうなっている?
直近の日本の政策金利は、どのように推移しているのでしょうか。2010年から時系列に沿って、政策金利の変化を見ていきましょう。

2010年 包括的な金融緩和施策

国内景気の回復が鈍化していることから、金融緩和を一段と強力に推進するため、日銀は包括的な金融緩和施策を実施しました。
施策の内容は、実質ゼロ金利政策と資産買い入れ基金(国債・社債・ETFを買い取るための基金)の創設です。これにともない、政策金利は0.1%から実質ゼロ金利(0~0.1%)へ引き下げられたほか、基金創設によって資金が大量に市場へ供給されました。
包括的な金融緩和施策は、景気の下支えを目的にその後3年間続き、短期だけでなく長期の金利低下を促すことで、資金調達コストの抑制につながります。

2013年 量的・質的金融緩和

日銀は金融政策の操作対象を、政策金利からマネタリーベース(資金供給量)へシフトさせました。市場への資金供給量を調整し、市場の資金量を増やすことにより、2013年以降の2年程度を目途に2%の物価上昇を目指したのです。
また、日銀はマネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を2年で2倍に拡大し、長期国債の平均残存期間を2倍に延長しました。
2013年の量的・質的金融緩和では、政策金利は実質ゼロ金利のまま据え置かれています。

2016年1月 マイナス金利付き量的・質的金融緩和

物価安定目標を早期に達成するため、日銀の当座預金のうち超過準備預金に-0.1%の金利が導入されます。
マイナス金利が導入されたため、金融機関は日銀に資金を預けると金利を支払わなければならなくなりました。金融機関が日銀に資金を預けるのを控え、企業への貸し出しや投資に資金が回るよう促し、市場の資金量を増やしたのです。

2016年9月 長短金利操作つき量的・質的金融緩和

マイナス金利つき量的・質的緩和政策を強化し、政策金利である短期金利だけでなく長期金利の操作を図るため、長短金利つき量的・質的金融緩和施策が実施されました。
これにより、日銀の当座預金のうち、政策金利残高にも-0.1%の金利が適用されています。また、長期金利については、10年物国債の金利がおおむね現状程度(ゼロ%程度)で推移することを目標として、長期国債の買い入れが実行されました。

2020年4月 金融緩和の強化

新型コロナウイルス感染症がもたらした経済への影響をふまえ、日銀はこれまでの金融緩和施策をさらに強化します。
政策金利の変更はありませんでしたが、流動性が低下した債券市場を安定化させるため、長期国債・短期国債の積極的な借入を行う等の施策がとられました。

日本への影響が大きい米国の利上げ

日本への影響が大きい米国の利上げ
自国の利上げはもちろん、諸外国の利上げも国内経済に大きな影響を与えます。今後の経済の動きを知るためには、諸外国の金融政策の動向も知っておかなければなりません。
日本の場合、特に注視すべきは、経済的な結びつきの強い米国の利上げです。
米国の利上げが注目される理由と、過去に米国が行った利上げにより、日本経済がどのような影響を受けているのか見ていきましょう。

米国利上げが注目される理由

米国の利上げが注目される理由としては、世界経済における米国の存在、および米国通貨の価値の大きさが挙げられます。
米国のGDPは約21兆米ドル(2020年)で、世界第一位です。また、米ドルは決済の基軸通貨にもなっています。そのため、米ドル相場の変化は世界各国の経済に大きく影響を与えており、日本経済も例外ではありません。
なお、米国の利上げは、FRBが開く会合(FOMC)で決定されています。
FRBとは、米国の中央銀行制度の最高意思決定機関で、日本の日銀にあたる組織です。7名の理事から構成されており、「連邦準備理事会」とも呼ばれています。
またFOMCとは、FRBの理事・地区の連邦準備銀行総裁等で構成される連邦公開市場委員会で、FOMCの役割は金融施策の方針や利上げを決定することです。
FRBやFOMCの動向を知ることは、経済の先行きを知ることにつながると言えるでしょう。

米国利上げが日本に影響を与える事例

2022年に入って行われた米国の利上げは、日本経済に大きな影響を与えていると言えるでしょう。2022年3月以降の米国利上げによる円相場の変化を、時系列に沿って見ていきます。

2022年3月

2022年3月当初、円相場は1ドル115円台で推移していましたが、FRBによる利上げが見込まれたことから、円を売ってドルを買う動きが増え、円安が進みました。
3月17日(日本時間)、FRBは政策金利を0.25%引き上げ、ゼロ金利政策を解除することを決定します。同日、一時1ドル119円台まで円安が進行しました。
その後、FRBがさらなる利上げを示唆したこと、日銀が金融引き締めを行わないとしたこと等から、さらに円安が進行し、一時1ドル125円台まで円安が加速します。

2022年4月

4月になってからも、FRBの政策金利が今後さらに引き上げられると予測され、日銀が金融緩和を続けると発表したことから、引き続き円安水準が続きました。円相場は4月末にかけて131円台に乗ります。

2022年5月

5月にはFOMCが0.5%の利上げを決定し、6月、7月でも同様の利上げが示唆されましたが、市場予想を下回る経済指標が出たことから、経済減速への懸念が広まり、円安にややブレーキがかかります。

2022年6月

6月、米国の非農業部門雇用者数や、失業率等の経済指標が軒並み強めに出たことから、円相場は130円台まで回復します。10日に米消費者物価指数が発表され、インフレの加速が示唆されると、135円台に突入しました。
その後、6月半ばにはFOMCが0.75%の利上げを決定し、日銀が金融政策の据え置きを決定したことから、日米の金利差がさらに拡大し、円安が進行します。

2022年7月

7月には1ドル139円台まで値下がりし、1998年以来の円安水準となりました。
上記のように2022年前期は、米国の利上げと日本の金利維持により日米の金利差が拡大した結果、円を売ってドルを買う動きが強まっています。
2022年3月から7月の間で、円相場は1ドル115円台から139円台まで急速な値下がりの動きを見せました。円安によって輸入コストが増え、原材料価格が高騰したことで、家庭にも大きな影響を与えている状況だと言えるでしょう。
以上のことからもわかるとおり、米国の利上げは日本経済に大きく影響を与えていると言えるでしょう。

まとめ

政策金利を引き上げる「利上げ」は、過熱した市場の抑制を目的に、各国中央銀行が実施する金融政策です。利上げによって、為替は利上げした国の通貨高になり、株価や物価は下落する傾向にあります。
しかし、金利と為替・株価・物価の関係性は非常に複雑で、利上げによる影響はその時々の経済状況によって異なります。いずれにしても、利上げは幅広い経済活動に影響を与えるため、関連する経済指標の動きにも注視しましょう。
また、日本国内の利上げだけでなく諸外国の利上げも、日本経済に影響を与えます。特に米国の利上げは影響力が大きく、その動向に注目することは日本経済だけではなく、世界経済の先行きを知ることにもつながるのです。
執筆者:高橋 光世
執筆者保有資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士
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