“キラーT細胞を用いた新しい免疫細胞療法の確立を目指す”
根治の難しいがん・感染症患者を救う
三菱UFJ銀行が主催するビジネスサポート・プログラム、第11回「Rise Up Festa」の「『いのちを救う』~あらゆる人が健康に生きるための新たな事業」分野において最優秀企業に選ばれたのは、リバーセル株式会社です。キラーT細胞を用いてがんや感染症に有効な新しい免疫細胞療法の開発を進める同社の事業の強みや展望などについて、代表取締役社長の梶川 益紀さんにお話を伺いました。
iPS細胞やES細胞から再生したキラーT細胞を用いて、がんや感染症など免疫に関わる病気の根治をめざす免疫細胞療法を開発しています。キラーT細胞とはがん細胞やウイルスに感染した細胞を殺すことができる免疫反応の司令塔。当社はそんな“キラーT細胞を創る会社”です。具体的には「iPS細胞やES細胞のような体のあらゆる細胞に変わることができる多能性幹細胞を材料にキラーT細胞を創る。それを冷凍保存して、適宜患者さんへ点滴で投与する」という新しい免疫細胞療法の確立を目指しています。
2013年にリバーセルの創業者 河本 宏教授が世界で初めてiPS細胞からキラーT細胞の再生に成功した。
2025年3月現在、がんを特異的に見つけ出す因子導入技術に関するものを含む、3つの特許を取得。
「病気になったらキラーT細胞製剤を点滴して治す」という時代を開拓していきたいと考えています。それにより、現状では根治が難しいとされるがんや感染症に苦しむより多くの患者を助けられる可能性があります。たとえば、現行の“患者自身から採取した細胞を用いる”治療アプローチはすでに血液がんへの奏効率90%および完解率30~40%が証明された非常に有効なものである一方、点滴投与までに数週間から数ヵ月もの時間がかかってしまいます。その点、当社の“多能性幹細胞からつくったキラーT細胞製剤を用いる”治療アプローチは、キラーT細胞をつくり始めてから数時間後には点滴投与が可能です。現行の方法では難しいジャストインタイム治療が可能であるため、治療までの待機時間に病気が進行してしまうあるいは最悪の場合死亡してしまう患者さんを減らし、より多くの患者を助けられると考えています。
リバーセルの治療法は新型コロナウイルス含む感染症の治療にも効果が期待される
今回は2022年の第9回「Rise Up Festa」に続き、2回目の参加でした。前回は残念ながら書類選考で落ちてしまいましたが、再度応募することにしました。今回の応募にあたっては主に「VC(ベンチャーキャピタル)との接点強化」および「製薬会社やバイオテックなどのパートナー探し」の2点を期待して、応募をしました。
「VCとの接点強化」について、残念ながらRise Up Festa中に出資決定には結びつきませんでしたが、VCと有効なネットワークを築くためのプレゼンテーションのブラッシュアップに取り組めました。とくに構成について「専門家ではないVCへいきなり技術をアピールしても刺さりづらい。『現状の課題→課題解決によるマーケットの広がり→自社技術』という構成のほうが有効です」という目から鱗なアドバイスが印象的でした。また、海外展開戦略を示すスライド資料についても「現状のビジネスや事業戦略、スケジュール感を具体的に示す必要があります」と助言をいただき、ちょっとした表現に至るまで細やかなフィードバックをいただきました。これらの助言を踏まえて、よりVCに刺さるプレゼンテーション資料をつくることができたと思います。
Rise Up Festaでブラッシュアップした海外展開戦略スライド。現在も活用中。
「製薬会社やバイオテックなどのパートナー探し」についても、5社との面談が実現しました。将来的な出資あるいは戦略的提携の可能性などを視野に入れた新たなコネクションを構築できています。
総じて、当社が応募当初に期待していたことだけでなく、それ以外の領域に関するサポートもしていただけた点が印象的でした。
Rise Up Festaを通じて活用できるMUFGグループのリソースは多岐に渡ります。そのため、「三菱UFJ銀行ならこの分野のサポートなら受けられるだろう」という期待の枠を自社で勝手に作って、その枠内の考えに基づいて応募するかどうかを決めるのはもったいないと考えます。実際にRise Up Festaに参加すれば、応募当初に期待した領域以上のサポートを受けられるはずです。更なる成長を遂げたいスタートアップは躊躇せずにぜひ応募をしてみてはいかがでしょうか。
直近の目標としては、2027年のなるべく早い時期に急性骨髄性白血病を対象とした臨床試験を、また2028年中に難治性コロナウイルスを対象とした臨床試験、2029年中に固形がんを対象とした臨床試験を実施する方針です。こうした臨床試験でしっかり有効性を示し、将来的にはあらゆるがんや感染症に有効なiPS細胞・ES細胞を用いた免疫細胞療法を社会実装していきたいと考えています。