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第8回「Rise Up Festa」受賞者インタビュー

デジタルトランスフォーメーション(DX)促進

“文書作成・レビュー時間をAIにより半減”オンラインエディタで効率的な文書作成・レビューを実現
2022年1月14日
三菱UFJ銀行が主催するビジネスコンテスト「第8回Rise Up Festa」の「デジタルトランスフォーメーション(DX)促進」分野において最優秀企業に選ばれたのは、FRAIM株式会社です。「【文書作成・レビュー時間をAIにより半減】効率的な文書作成・レビューを実現する、データベース機能を有したAI搭載オンラインエディタの開発・提供」について、同社代表取締役社長・堀口圭氏にお話を伺いました。

週23.4時間が文書関連業務!? ——採用するなら、追加人員よりLAWGUE

― ビジネスにおける文書関連業務にはどんな課題があるのでしょうか。

IDCのレポートによれば、企業内で発生する「個人による文書作成・管理」は週11.2時間、「共同による文書のレビュー・承認」は週12.2時間だそうです。一般的な動労時間「8時間労働×週5日=40時間」の枠組みで考えれば、ホワイトカラーによる労働時間の半分以上にあたる実に「週23.4時間」が文書関連業務に割かれているという計算です。

― なかなか深刻な問題です。なぜそうなるのでしょうか。

その背景を紐解いてみると、多くの文書関連業務には「膨大なリサーチ時間(目的の文書を探すこと自体に時間がかかる)」「文書編集の非効率性(体裁の補正等、編集自体で時間が浪費されている)」「ナレッジの属人化・散逸(過去のやり取りがバラバラに保存され、見つからない)」といった課題が潜在化しています。

それらの多くはツール面に起因しており、文書の作成者とレビュワーの間を行き来する一般的ワークフローを考えてみても、作成者とレビュワーの各人がフォルダで管理・共有を行いながら、文書作成ソフト・メール・チャットツール等々バラバラのアプリをそのたび立ち上げる……など、どう見ても非効率な作業です。

― そうしたなかで御社が提供する「LAWGUE(ローグ)」の特徴とは?

LAWGUEはクラウド型のオンラインエディタです。自社ナレッジのデータベース化を基盤に、各人がドラフティング(ひな形・過去文書の活用)・レビュー(過去ナレッジの参照)・文書編集(過去文書の引用)を同一プラットフォーム内でシームレスに行える機能を備えており「参考文例を2秒で発見」「体裁を直すスピードは人の10倍」「過去の議論も一言一句すべて記憶」という特徴を有します。

具体的には、1.「見つからない」から「見つけてくれる」に(AIが自動的に類似文書や条項等をサジェスト)、2.「非効率な作業」の徹底排除(クラウド上での編集による自動的体裁補正)、3.「見える化」されたノウハウ・ナレッジ(これまでのやりとりを文書・条項単位ですぐに確認)——という3つの時短効果をもたらし、それら3つの時短効果が「膨大なリサーチ時間」「文書編集の非効率性」「ナレッジの属人化・散逸」をそれぞれ解決します。

― LAWGUEの製品キャッチフレーズは「採用するなら、追加人員よりLAWGUE」。そこに込めた思いとは?

さまざまな社会構造の変化から優秀な人材を獲得しにくい昨今、企業における労働生産性向上は至上命題です。「システムに頼れるところは頼り、人1人を採用する分だけの労働生産性を確保していただきたい」——そのような思いから「採用するなら、追加人員よりLAWGUE」というサービスコンセプトを掲げました。

多様な業種の「次なる文書体験」を開発したい

― そもそもどういう経緯からサービス開発をされたのでしょうか。

きっかけは自分自身の実体験からでした。私は大学在学中に司法試験に合格し外資系の法律事務所の東京拠点に入所したのですが、グローバルな事務所であっても契約書やレポートなどの文書作成・レビュー周りの作業フローはなお非常に煩雑で、その経験から課題感が芽生えました。同様の文書関連業務の課題は業種を問わず普遍的に存在するものであると気づき、LAWGUE開発を発起しました。

― 2018年4月に株式会社日本法務システム研究所を設立、2021年10月1日にFRAIM(フレイム)株式会社に社名変更されています。

当社の提供サービスで「業務の枠組みを作りたい」——。そこで新社名は「枠組み」を意味する“Frame”に、LAWGUEのコアテクノロジーとなる“AI”を組み合わせました。なお社名変更に伴う新スローガンは「文書作成を、再発明する。」です。長らくビジネス領域のレガシーとして常態化してきた、特定の文書作成ソフト中心のドキュメント作成・編集を国産オンラインエディタへと置き換え「次なる文書体験を開発したい」と考えています。

― 設立当初は「法務」にフォーカスされていましたが、現在LAWGUEは幅広い業種で活用されているようですね。

はい。LAWGUEはもともと契約書・規程・開示文書など法務領域の文書関連業務にフォーカスした、いわゆる“リーガルテック”の1つとして認知されていましたが、昨今は法務関連の契約書だけではなく、人事・総務、財務・経理、経営管理、事業部門等々で使われる文書類型に対応できるようバージョンアップしています。実際に多様な規模・属性の企業様・自治体様に導入いただいている点が我々の強みです。

多様なバックグラウンドを持つメンターが「心強かった」

― Rise Up Festaへの応募の経緯を教えてください。

私自身が東京大学出身ということもあり前のオフィスは本郷三丁目にあったのですが、会社設立当初から東大発ベンチャーを含め広く見られている本郷支店の方に当社のビジネスに興味を持っていただきました。そのため三菱UFJ銀行とは比較的早い段階からビジネス紹介、資金的な部分などの面でお付き合いしており、そのお付き合いのなかで“MUFG各社からの厚いサポート”も受けられるプログラムとしてRise Up Festaを紹介いただきました。

― Rise Up Festaはどんな点が特徴的でしたか。

募集要項にある通り「情報発信、ビジネスパートナー獲得の機会」「ビジネスプランの高度化(ブラッシュアップ)の機会」だけではなく「継続的なMUFG事業成長支援サポートメニュー」が充実していました。実はこうしたビジネスコンテストやアクセラレータープログラムに参加した経験がほとんどなく、正直不安な面もあったのですが、単に「ビジネスプランを発表して終わり」ではない、継続的な発展が期待できるプログラムだと思います。

― メガバンクの経験・知見を持ったメンターが伴走しながら、共にビジネスプランを練り上げていくことも大きな特徴です。

同じ金融機関でも、例えばベンチャーキャピタルの方だったり、あるいはIPOに詳しい方だったり、実に多様なバックグラウンドをお持ちで心強かったです。プレゼンの仕方1つとってもこれまで十分意識的に取り組んできたつもりでしたが「より広範なお客様・ステークホルダーに自社ビジネスの魅力を伝えるためにはどうしたらよいのか」など、メンターの皆さんからのアドバイスは非常に勉強になりました。

― 最後に今後のビジネスの展望を教えてください。

日本企業の文書作成・管理ツールはかなり大部分のところが特定企業のソフトウェアに依存していたかと思いますが「文書作成を、再発明する。」のスローガンのもと展開するLAWGUEにはビジネスエディタとしての優位性があると自負しています。文書作成ソフト、表計算ソフト、メールなどで使い分けてきた文書作成・管理の商習慣を変えるため、今後も少数精鋭で自社開発の独自技術をアップデートさせながら、各分野でのパートナーシップも視野に入れつつ活動していきたいです。

この記事の執筆者:安田博勇(やすだ・ひろたけ)
フリーライター。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。

ポストコロナ・人生100年時代における健康社会・well-beingの実現

“転んだときだけ柔らかくなる新素材「ころやわ」”転倒骨折の苦痛から高齢者・家族を解放し、医療費・介護費削減にも貢献
2022年1月14日
三菱UFJ銀行が主催するビジネスコンテスト「第8回Rise Up Festa」の「ポストコロナ・人生100年時代における健康社会・well-beingの実現」分野において最優秀企業に選ばれたのは、株式会社Magic Shieldsです。社会課題となっている高齢者の転倒による骨折を防ぐため、新素材「ころやわ」の床とマットの開発販売を行う同社について、代表取締役・下村明司氏にお話を伺いました。

高齢者の転倒骨折を防ぐ「転んだときだけ柔らかくなる床」

― 御社が開発した新素材「ころやわ」について教えてください。

転んだときだけ柔らかくなる床・ころやわは、転倒による高齢者の骨折を減らす新素材です。置き床やマットとして、主に高齢者が多い病院・介護施設へ提供しています。例えば紙コップは「やさしく力を入れる分には潰れないのに強く押すと潰れる」という特徴がありますが、それと似た“大きな力が加わったときに内部構造が変化し柔らかくなる”という特性を持つメカニカル・メタマテリアルを応用しています。
写真提供:エクセレント宝塚ガーデンヒルズ

― なぜ高齢者の転倒骨折に着目されたのでしょうか。

私は新卒入社したヤマハ発動機でレース用バイクの研究開発に従事していました。レースの事故をきっかけに「人を守る」をコンセプトにプライベートで発明活動を行ってきましたが、発明品を社会に届けるには材料代も必要で、人を守るにはビジネス化の必要性を痛感しました。そこで2017年からグロービス経営大学院に通いMBAを取得。そこで出会ったのが理学療法士・杉浦太紀でした。現在はMagic Shieldsでユーザー体験責任者を務めてもらっていますが、彼から高齢者の転倒骨折にまつわる課題を聞かされました。

― どのような課題なのでしょうか。

日本だけでも毎年100万人の高齢者が転倒により骨折しています。転倒骨折した人のうち4人に1人が大腿骨の骨折で、大腿骨骨折を経験した5人に2人は歩けなくなります。そうしたことから、大腿骨骨折にかかる社会負担は医療費・介護費で1人あたり400万円。日本の社会保険制度から考えても大きな社会課題だと考えました。実際私の祖母も転倒骨折から寝たきりになり、亡くなりました。

「転ぶことが課題」ではなく「骨折することが課題」

― 高齢者の転倒事故の頻発に対し病院・介護施設でさまざまな防止策がとられています。

100万人うち40万人が病院・施設での転倒事故、60万人が一般家庭での転倒事故です。病院・施設スタッフはトイレへ行く高齢者の歩行介助をしたり、ぎりぎり歩ける状態でも安全のため車イスに乗せてあげたりするなど、日常業務のかなりの時間を“高齢者を転ばせないため”の業務に充てています。施設側でも転倒防止のソリューションとして人感センサーなどで高齢者の動きを検知し介助に向かうなどの措置がとられていますが、それらの多くは「転ばせないため」の措置です。

スポンジマットを用いる場合もありますが、バランス能力の低い高齢者がその上を歩くのは危険ですし、スタッフが車イスを使うことも出来ません。その点、ころやわは高齢者でも普段は十分に歩くことができ、転んだときだけ衝撃を吸収するクッション材に変わります。

― 「転ばせない」のではなく「転んでもよい」ところが画期的だった?

はい。従来は「転ぶことが課題」とされるのが業界全般の価値観でした。すなわち「転ぶと骨折するから、歩かせない」という発想です。しかし先述の通りスタッフ業務に負荷がかかりますし未然に防げるとも限らない。高齢者のお身体のことを考えても、歩かせないことで心神衰弱し、認知症も進み、さらに転びやすくなる悪循環を生みます。

しかし本来の課題は「骨折すること」にあります。「たとえ転んでも骨折しにくいようにする」という発想に立てば、高齢者を積極的に歩かせることができるうえ、心身ともに回復させ、ますます転びにくくなる好循環を生みます。

― そうした商品はこれまでなかった?

転倒骨折の課題に対し「転んでもよい」というアプローチでソリューションを開発した企業は世界的に見ても存在していませんでした。そのため「普段歩くときにどのくらいの堅さが必要か」「転倒したときにどのくらいの柔らかさが必要か」というデータを集めるのが大変でしたが、現場へのヒアリングや試作・実証を繰り返すなか、そうした「転倒対策の再定義」に行き着き、その頃からは徐々に手応えを感じるようになりました。

MUFGのネットワークを活用したビジネスマッチングで販路拡大を目指す

― Rise Up Festa応募の経緯を教えてください。

ホームページかSNSで第8回の募集を知り、Rise Up Festaに参加しました。これまでにもビジネスコンテストやピッチイベントにはたびたび参加してきましたが、Rise Up Festaに最も期待したのは、メガバンクのネットワークを活用できる点です。特に今後当社商品の販路を拡大していくうえで、MUFGのネットワークが必要だと感じました。

実際に参加しても当初の期待通り、販路拡大につながるマッチングにおいて成果があり、高齢者施設を運営されている会社など新たな取引先とのマッチングが実現しています。

― 受賞分野は「ポストコロナ・人生100年時代における健康社会・well-beingの実現」。多くの審査員にも共感するところがあったのでしょうか。

そうですね。私の場合もグロービスで杉浦から転倒骨折の課題を聞かされたとき、思い返せば私の祖母もそうだったし、母もそろそろ介護のことも考えなければ……と感じました。「自分の身近な人を怪我させたくない」のは、万人に共通する思いなのだと思います。

Rise Up Festaにはすでにビジネスとして確立したアイデアを出したので、担当者・審査員のアドバイスでビジネスの方向性を大きく変えることはほとんどありませんでしたが「世の中に役に立つものだから、ぜひビジネスとして成功させてほしい」との激励を受けたことは印象に残っています。

― 最後に、今後の目標は?

現在は国内の病院・介護施設などを中心にころやわを普及させていますが、一般家庭への販売も視野に入れており生産量を増やすことが今後の目標の1つです。また同じ課題を抱えている世界の病院や施設、ご家庭にもころやわを展開させていきたいと考えています。

他方、さらに次のステップとしてはころやわとセンシング技術を組み合わせたソリューションも開発しています。例えばころやわマットに圧力センサーなどを内蔵させ、歩行の衝撃と転倒の衝撃を区別しながらセンシングできれば、転倒したときだけスタッフに通知が届き、介助に向かわせられるようになります。カメラを使うわけでもないので高齢者のプライバシーも保護されます。医療スタッフの人出削減にも寄与できるはずです。さらに別の観点では、ころやわの素材自体を衝撃吸収・消音・防振などに応用することも考えています。
写真提供:エクセレント宝塚ガーデンヒルズ

― 高齢者の転倒骨折はもとより、日本の医療・介護全般の問題を解決してくれそうです。

我々のミッションである「転んだ時だけ柔らかい床『ころやわ』の開発、販売を通じて高齢者の転倒による骨折という社会課題を解決すること」、そして「大腿骨骨折にかかる医療費・介護費2兆円の負担を削減すること」を目標に活動していきます。また転倒骨折は世界の社会課題なので、並行してグローバル展開も進めて行きます。

この記事の執筆者:安田博勇(やすだ・ひろたけ)
フリーライター。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。

都市・地域社会のアップデート・スマートシティの実現

“MaaSを用いたデータ駆動型都市開発事業”潜在ニーズに基づいた観光コンテンツと地域拠点を造成
2022年1月14日
三菱UFJ銀行が主催するビジネスコンテスト「第8回Rise Up Festa」の「都市・地域社会のアップデート・スマートシティの実現」分野において最優秀企業に選ばれたのは、scheme verge株式会社です。「【MaaSを用いたデータ駆動型都市開発事業】交通や不動産に関わるデータを分析して潜在ニーズに基づく観光コンテンツや地域拠点の造成とDXの推進」について、同社代表取締役CEO・嶂南(やまなみ)達貴氏にお話を伺いました。

地域の統合プラットフォーム、目指すは「都市の再発明」

― scheme verge(スキームヴァージ)が展開している事業内容について教えてください。

scheme vergeは「都市を再発明する」という目標のもと、多様であったり、潜在的なニーズに合わせた都市開発をデータドリブンに推進する企業です。顧客のニーズに基づく都市開発を目指すべく、地域ビジネスのための顧客データの収集・連携・活用に関わる統合プラットフォームを開発しています。関連プロダクトとして、対象エリア内の特色あるローカルサービスを集約して旅程・公共交通をレコメンドする余暇・観光体験プラットフォーム「Horai」と、地域のサービス業向け運営プラットフォーム「Horai for Biz」、2つのアプリを開発・提供しています。

― 具体的には、どのようなビジネスが展開されているのでしょうか。

Horaiのモバイルアプリにより、当社プラットフォーム上には消費者の位置情報・顧客情報・決済情報等々が集まります。さらには各地のエンタープライズ企業(建設会社・不動産会社・鉄道会社等)、ローカル企業・施設(宿泊・飲食・物販・観光業等)、都市・地域運営団体(自治体・DMO等)といったパートナーのご参画により、ビーコン、スマートロック、交通ICカード、ETCなどからもIoTデータが集約されます。それらデータを統合・分析すればDXによる地域課題解決の推進、ひいては市民サービスの向上に寄与できる、というのが当社ビジネスの全容です。

さらには地域内を周遊する消費者行動のリアルデータからペルソナをクラスタリング化し、特定の顧客層だけをターゲットにした周遊パスをプロデュースしたりエリアマネジメントを支援したりするなど、アプリ開発者・データ提供者としてだけでなく地域コンサルティングの面からも各地をサポートしています。実際に、文京区本郷においては、Horai for Bizを使ってスタートアップ向けコワーキングスペース「The Seat Halki」の運営構築に取り組み、会員の利用実態やニーズを管理するとともに、効果的に町内会などとの地域連携を推進しています。

― ビジネスモデルはどのような構造になっているのでしょうか。

某地で行われている観光型MaaS事業を例に挙げると、そこでは現状、収益不動産の運営社・主幹事であるエンタープライズ企業からソフトウェア使用料・その他サービス利用料をいただいています。今後さらに観光型MaaS事業が拡大・発展した場合はテナント・連携先企業(参画企業)を含む双方から収益を得ることになります。

ビジネス開発の源泉は「自動運転」だった

― 背景にはどのような地域課題があるのでしょうか。

地域という文脈では「1.限られたエリア情報(一部の人気エリア・スポットに注力しあやかる戦略をとるため新規・リピートの需要発掘ができない)」「2.脆弱な移動インフラ(多様な価値観に応えうる魅力的なロケーションはあるもののユーザーにとって安定したアクセス方法がない)」「3.ナラティブな意思決定(用地営業のリレーションや限定的なステークホルダー同士でナラティブに進み、顧客や現場の課題が見えてこない)」「4.供給体制(SCM)の分断(地域サービスや資産が継続的に複合化されて価値になる仕組みがなくそれぞれが小粒のまま競い合っている)」といった課題が挙げられると思います。私たちは以上4つの課題解決を通じ、多様なニーズや顕在化していないニーズを踏まえた「都市のデータドリブン」にチャレンジしています。

― どのような経緯から起業されたのでしょうか。

発端は2016年に開催された内閣府戦略的イノベーション創造プログラム「SIP-adus」です。このときは自動運転実用化研究やライドシェア事業立ち上げに参画したのですが、ここで集まった東京大学の学生が中心となり、2018年7月scheme vergeが設立されました。

― もともとの源泉は「自動運転」だった?

私は大学院でも自動運転など先端技術を活用した都市計画を研究していたのですが、自動運転を社会実装していくためのインフラアップデートには莫大な予算が必要です。しかし既存の予算の枠組みでは、年間何兆円ものお金が道路補修などに使われているのが実状でした。すなわち、自動運転の社会実装を考えるときには、本当に地域のためになるインフラへの投資配分が必要であり、そのためには地域のあらゆるデータを統合・分析した「都市再発明」が先決だと考えました。

― 「SIP-adus」参画後はどのようにビジネスを拡大されたのでしょうか。

2019年、3年に一度開催される「瀬戸内国際芸術祭2019」でHoraiアプリをローンチし、13の島と200個のアートを巡る観光型MaaS事業として3,800名の方にご利用いただきました。以降は瀬戸内のMaaS事業で培ったモバイル技術と、東大発の最先端のデータ分析技術を活用しビジネスをアップデートさせました。

Rise Up Festaで販路拡大の「強力な味方」ができた

― Rise Up Festa応募の経緯を教えてください。

三菱UFJキャピタルの方が私の学科の先輩だったこともあり定期的にコミュニケーションをとっていたのですが、その方との会話のなかでRise Up Festaについて知らされました。正直、最初に聞いたときはただのビジネスコンテストだと思っていたんですよ。これまでの当社は先々の協業などが見えていない限り「ビジコンには出ない」というのが基本スタンスだったのですが、これまでお世話になった先輩からの誘いということもあり参加を決めました(笑)。

― Rise Up Festaはどんな点が特徴的でしたか。

いざ参加してみると、MUFGグループ全体としてのリソースをうまく動かしている印象を受けました。ちょうど会社として「どのように銀行を活用すればスタートアップが成長できるのか」を考えていた時期だったので、そのことがよくわかるプログラムだったと思います。

― 「スタートアップによる銀行の活用」とは具体的にはどんなことですか。

同じ金融業、もしくはMUFGグループの括りでも、銀行本体・キャピタル・シンクタンクなどの各社と我々スタートアップがどのような話ができるのか、外部から見ているだけではわからないことがあります。Rise Up FestaではMUFGグループ各社の方に伴走いただけたので、それを肌で感じられました。実際、銀行本体からは我々が注力する拠点の1つである大阪の支店をご紹介いただき、さらにそこから当地の不動産会社やビルオーナーの方ともマッチングしてもらいました。そこはさすが日本全国でビジネスを展開するメガバンク。本当にローカルなエリアにまでコネクションを持ち「これは自社だけでは無理」だと思いました。

― 今後、MUFGに期待することはありますか。

Rise Up Festaのなかで担当者からMUFG関連の人材系企業についても教えていただく機会がありました。まだ具体的には動いておらず、あくまでアイデアレベルではありますが、例えば当社の地域ビジネスとMUFGのネットワークをマッチングできれば、よりビジネスの可能性は広がります。

もちろん銀行の本来的なお付き合いとして、出資や資金調達の面でも頼りにしていますが、何より全国に拡がるMUFGグループのネットワークに期待しています。Rise Up Festaへの参加で、今後当社がスタートアップとして販路を拡大していくのに「強力な味方」ができたと思います。

この記事の執筆者:安田博勇(やすだ・ひろたけ)
フリーライター。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。

次世代を支える基幹産業・技術の創出

“次世代畑をベランダから宇宙基地まで”土壌をデザインする高機能ソイルで実現する次世代作物栽培
2022年1月14日
三菱UFJ銀行が主催するビジネスコンテスト「第8回Rise Up Festa」の「次世代を支える基幹産業・技術の創出」分野において最優秀企業に選ばれたのは、株式会社TOWINGです。「【次世代畑をベランダから宇宙基地まで】土壌をデザインする“高機能ソイル(土)技術”を活用した、高効率かつ持続可能な次世代畑による作物栽培事業」について、同社代表取締役CEO・西田宏平氏にお話を伺いました。

高機能ソイルで高効率かつ持続可能な農業を実現

― 株式会社TOWING(トーイング)は2020年2月27日設立。愛知県名古屋市を拠点に活動されています。まずは御社の事業内容について教えてください。

TOWINGは循環型栽培システム「宙農(そらのう)」サービス、循環型栽培コンサルティングサービスを展開する会社です。農業の川上から川下まで——具体的には農家・企業への栽培支援、自社農園、自社流通管理をビジネスの主軸としています。このたびのRise Up Festaでは当社事業の強みでもある「土壌をデザインする“高機能ソイル(土)技術”を活用した、高効率かつ持続可能な次世代畑による作物栽培事業」で最優秀賞をいただきました。

― 「土壌をデザイン」ということですが、その背景には農業においてどのような課題があるのでしょうか。また御社が展開する「宙農」とはどんなサービスでしょうか。

日本では99.9%以上、ビニールハウスに限っても95%以上の農家さんが“土”で作物を栽培されています。しかし農場立ち上げ時で3〜5年以上、作替え時では1ヵ月〜数年間の歳月を要するなど、その多くの部分で苦戦を強いられているのが「土壌づくり」です。当社開発の宙農園は「有機物の高効率安定分解が可能」「微生物制御による耐病性向上」という2つの特徴を持ったシステムで、従来の慣行栽培(化学肥料利用)や有機栽培ではなし得なかった「持続可能かつ生産安定」な農業を実現します。

― 宙農園でキーテクノロジーとなっているのが「高性能ソイル」です。どのような技術なのでしょうか。

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構が開発した超良質土壌を“創る”世界初のバイオテクノロジーで、弊社が栽培システムとして実用化しています。具体的には「1.多孔体・2.土壌由来生物・3.有機肥料」という3つの構成要素があり、これら1〜3の要件にかなうものを調整・選定、そして組み合わせれば、地球環境においても宇宙環境においても「超良質な土壌環境」を「1ヵ月で培養、再現」することが可能です。そのことから当社は「高効率かつ持続可能な畑をベランダから宇宙基地まで」というミッションを掲げています。

― 地球上の農業の課題解決はもちろんですが、「宇宙農園」は非常に夢のあるお話ですね。日本でも期待が高まっているのではないでしょうか。

そうですね。当社はJAXAの共創型研究開発プログラム「SPACE FOODSPHERE」に参画しており、このなかのコンソーシアムですでにいろいろな企業と連携しながら宇宙の食糧システム開発に乗り出しています。同プログラムでは、月面基地内で利用できる畑を開発中で、重力条件を踏まえた実証実験なども計画しているところです。

起業のきっかけは「トマトの味」と「宇宙兄弟」!?

― TOWINGを起業された経緯を教えてください。

当地には東海エリアの大学に在籍する学生・卒業生を対象とした起業家・イノベーションリーダー育成プログラム「Tongaliスクール」があるのですが、2017年、2期生として同プログラムに参加した私は、そこで出会った仲間2人と「EDAMAME LAB」というチームを結成、今のビジネスの原点ともいえる人工土壌に関するビジネスを設計しました。翌年ビジネスプランコンテストにも挑んでいます。

さまざまな事情が重なり、このときの仲間2人とは別れ、2018年4月、私は大手自動車部品メーカーに就職することになるのですが、就職後も社内外で新たな有志を集めていました。そんな折の2019年、宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト「S-Booster2019」へそのときの仲間と参加する機会に恵まれ、スカパーJSAT賞を獲得。翌2020年、会社に勤めながら副業として立ち上げたのがTOWINGでした(同年11月独立)。

― 時期はそれぞれ異なりますが「宇宙」と「農業」に着目されたのはなぜだったのでしょうか。

私の滋賀県甲賀市の信楽町というところの出身で、大学時代に名古屋に引っ越しています。都市圏に引っ越して一番驚いたのは、スーパーなどで買って食べたトマトの味。というのも、祖父の家が農家で、高校生までは畑から新鮮なトマトをもいで食べるのが当たり前で、その味に慣れていた私はスーパーのトマトをあまり美味しくないと感じました。そうしたこともあり、農業に興味を持つようになりました。

もう1つの宇宙に着目したきっかけは『宇宙兄弟』という漫画です。影響を受けて天文学者になりたいと思った時期もありましたし、名古屋大学では理学部地球惑星科学科に在籍しました。実はTOWING設立時、同じ名古屋大学大学院で土壌技術研究に従事していた弟・亮也もCOO&CTOとして参加しており、我々も「宇宙兄弟」(笑)。他にも漫画『ONE PIECE』が大好きで、作中で描かれる世界観と同じく仲間をつくって何か大きな夢をかなえることにもずっと憧れをもっていました。

名古屋発ベンチャー。最優秀賞で「全国的な知名度を得た」

― Rise Up Festa応募の経緯を教えてください。

以前から三菱UFJ銀行は名古屋大学発ベンチャーを支援されていて、私たちも会社設立当初からお付き合いがありました。そうしたなか「参加してみたら?」と教えていただいたのがRise Up Festaでした。それまでに開催された7回では名古屋からあまり最優秀賞が出ていない、と聞かされていたので「我々が頑張らなければ!」と一念発起しました。

― ビジネスコンテストやアクセラレータープログラムに参加された豊富なご経験があると思います。Rise Up Festaはどんな点が特徴的でしたか。

伴走型アクセラレータープログラムは他にもいろいろあると思いますが、Rise Up Festaは特にメンタリングプログラムが充実していたと思います。メンタリング担当者は、メガバンクとして広い顔と見識を持ち、かつ、ベンチャーキャピタルの方など誰もが経験豊富な方ばかり。エントリーから最終審査までの数ヶ月間というのはちょうど当社が資金調達に尽力していた時期と重なったのですが、単に最終審査に向けたプレゼンのブラッシュアップということだけではなく、調達のための事業計画からピッチ資料の作り方まで、当社ビジネスを熟知したうえで「より皆が健全に儲かる仕組みを作るにはどうしたらよいのか」という観点でさまざまなアドバイスをいただけました。

また、かなり大きなピッチイベントなので知名度は格段に大きくなったと思います。当社のビジネスに興味を持った方々が全国からお問い合わせいただいていますし「Rise Up Festaで最優秀賞を獲得した」ことがビジネス商談などでの強みになっています。

― 最後にRise Up Festaの総括として、参加を検討されている方へのメッセージをお願いします。

当社は大手企業と農業事業を立ち上げていくことを視野に入れていますが、全国のどの企業が当社パートナーになっていただけるか調査するのは難しいものです。その点からも三菱UFJ銀行によるビジネスマッチングには今後も大きな期待を持っていますし、中長期的には融資のご相談もしやすくなったと思います。

我々スタートアップの起業家は「銀行」と聞くと“お堅い”とか“冷たい”というイメージを持ってしまいがちですが、まったくそんなことがありません。スタートアップビジネスのブラッシュアップをすることにおいては、本当に力を持つ方ばかりです。その接点としてRise Up Festaは絶好の機会だと思います。

この記事の執筆者:安田博勇(やすだ・ひろたけ)
フリーライター。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。