独自開発のAIで契約書を自動レビュー。LegalForceが見据える「全ての契約リスクを制御可能にする」世界
2020年に開催された三菱UFJ銀行主催のビジネスコンテスト「第7回Rise Up Festa」。その「情報・ネットサービス部門」で最優秀企業に選ばれたのは、株式会社LegalForce(リーガルフォース)です。同社は、2019年4月に正式版サービスを提供開始したAI契約書レビュー支援ソフトウェア「LegalForce」、2021年1月よりクラウド契約書管理システム「Marshall」など企業法務の課題を解決するソフトウェアを開発・提供しています。これらのSaaSモデルのソフトウェアが企業法務および法曹界にどのような革新をもたらすのでしょうか。同社代表取締役CEO・弁護士の角田望(つのだ・のぞむ)氏にお話を伺いました。
「LegalForce」はクラウド型(SaaSモデル)の「AI契約書レビュー支援ソフトウェア」です。
ビジネスにおいて、企業間あるいは企業・消費者間でさまざまな“契約”が取り交わされます。締結される契約に対しては、法律事務所や企業の法務部門が契約書を作成し、その後に専門的知見を交えながらそれらの契約書を審査します。これを業界では“契約書レビュー”と呼んでいます。契約書レビューは多くの法律事務所や企業の法務部門に存在するとても普遍的な業務です。
しかしここで問題なのは、法曹界では他の業態と比較しても、テクノロジーの活用があまり浸透していないこと。契約書の数がどんどん増大すれば、人的な“見落とし”などが発生しがちですし、結果としてそれが企業経営に直撃してしまいます。
はい。我々が開発した「LegalForce」は「自動レビュー」「条文検索」「契約書ひな形・書式集」という、主に3つの機能を有します。
このうち特に「自動レビュー」においては、LegalForceが開発した独自AIによって契約書レビューの業務を自動化。契約書に潜むリスク、抜け落ち、不利な条文などを瞬時に洗い出し、かつ、修正時の参考となる条文例や解説も提示します。「条文検索」機能はキーワードを入力するだけで、「LegalForce」上でレビューした過去の契約書データや、法律事務所ZeLoの弁護士が作成した最新ひな形から、欲しい条文を瞬時に検索できます。このほかにも機能は日々アップデートされています。
多くの契約書業務の課題は、主に2つに大別されると思います。まずは「クオリティの課題」です。契約書と言ってもあくまで人間が作る“文書”ですから、どうしても何かしらのミスが生じがち。作成者の知識・経験によってクオリティの異なる契約書ができたりもします。LegalForceの導入によりクオリティを向上させ、常に一定水準以上の契約書が作成できるようになります。
もう1つは「生産性の課題」です。調べ物が発生した際に六法全書・法律専門書・過去の契約書などを丹念にリサーチするのは時間がかかります。法務担当者は契約書の作成・レビュー以外にも多くの業務を抱えていますので、「LegalForce」がそうした皆様の業務効率化に少しでも貢献できれば、と考えています。
2021年1月時点で650社の企業・事務所に導入いただいています。大企業から中堅中小企業の様々な規模の企業の法務部門や法律事務所様にご利用いただいています。
これまでの導入企業様へのご提案・ヒアリングを通して見えてきたのは、企業法務における「属人化」という問題でした。法務に限りませんが“その担当者でないとわからない”という属人化された業務があると、それが放置されてしまいがちという側面があると思います。しかしそこにテクノロジーを活用すれば、部門のメンバーが高い水準の成果を安定的にあげられるようになります。
私は大学の法学部卒業後、法科大学院に入学し、在籍中に旧司法試験に合格・弁護士登録を経て、2013年に森・濱田松本法律事務所に入所しました。同事務所では大型のものから小規模のものまで数多くの案件を担当させていただいていました。ちょうどその頃、「AI」が社会的な関心事になりつつある時期でした。「自分の日頃の業務にもAIを活用できないものか…」——そう考えたことが、株式会社LegalForceの設立のきっかけとなりました。
はい。先ほどのお話からもお感じになったと思うのですが、契約書レビューのうちドキュメントの確認が比較的大きな比率を占めています。決して事務的ではありませんが、それらの作業が重なっていくと「AIでなんとかならないのだろうか」と感じるのは、必然の流れだったと思います。
今でこそ「法律(リーガル)」と「技術(テクノロジー)」を掛け合わせた「リーガルテック」という言葉がありますが、当時は国内外とも参入企業がほとんどなく、業界もそれほど盛り上がっていませんでした。海外には法曹界でのAI活用のユースケースがいくつかありましたが、「LegalForce」のように契約書業務に特化したAI活用はほぼゼロと言っても過言ではありませんでした。
2017年にLegalForceを創業し、創業メンバーとともにゼロイチの開発に取り組んだのですが、私自身がサービス提供者とサービス利用者の両面から運営できたことは、大きな強みになったと思います。
LegalForceは「Design & Development」「Research & Development」「Practice Development」という3つの開発組織を持っています。それぞれが「製品開発」「研究開発」「法務開発」のプロフェッショナルとして機能し、サービスの品質向上に努めています。
LegalForceの事業計画を含めて専門家の皆様からアドバイスを受けられることに大きな魅力を感じました。また三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)との関係性を強化するきっかけにもなると考えました。
実際に2次審査・最終審査のプレゼンテーションをしていくなかで、審査員の方々には数多くの貴重なコメントやアドバイスをいただけたと思います。もちろん、これまでにもベンチャーピッチ等でのプレゼン経験がありましたが、Rise Up Festaの場合はサポートの手厚さを感じました。
第7回は最終審査に進んだ企業9社によるプレゼンテーションの様子がインターネットで動画配信をされたのですが、それをご覧になった大手企業様から当社サービスに興味を持っていただき実際の商談に進みました。とても有り難かったですね。
「LegalForce」が契約締結前の“審査”を支援しているのに対し、Marshallは契約締結後の“管理”を支援しています。具体的には、これまでの「LegalForce」の開発で培った自然言語処理技術・機械学習技術を活用し、契約書管理の入力作業を完全自動化することができるようになりました。締結した契約書を「Marshall」にアップロードすると、文字起こし、契約書情報(「タイトル」「契約締結日」「契約当事者名」、「契約開始日、終了日」等)の抽出を自動で行い、検索可能なデータベースに組み上げられ、これまでに締結されてきた契約書を必要なタイミングで必要な情報を瞬時にご確認いただけるようになります。
今後、リーガルテック領域には多くのサービスが登場することが予想されます。そのなかLegalForceは、最高のクオリティでお客様にサービスを届けていきたい。このような姿勢をご評価いただき、おかげさまで導入実績も堅調に伸びており、今年は事業拡大のため東京・豊洲への本社オフィス移転(2021年5月予定)も控えています。
我々の掲げるミッションは「全ての契約リスクを制御可能にする」。世の中にはたくさんの契約書が流通していますが、「LegalForce」や「Marshall」が広がれば、最新のテクノロジーと法務の知見によって契約リスクが可視化され、コントロールも可能な状態へと導けると考えています。
現在は「LegalForce」や「Marshall」の2軸で事業展開していますが、本当に「全ての契約リスクを制御可能にする」世界を実現するには、まだまだ道半ばです。新たなビジネス開発に加え、既存のビジネス自体の機能もアップデートしていかなければいけません。ゆくゆくは“法”という経済活動に不可欠なインフラを支えることで、社会に貢献したいと考えています。