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第7回「Rise Up Festa」受賞者インタビュー

情報・ネットサービス部門

独自開発のAIで契約書を自動レビュー。LegalForceが見据える「全ての契約リスクを制御可能にする」世界
2021年1月29日
2020年に開催された三菱UFJ銀行主催のビジネスコンテスト「第7回Rise Up Festa」。その「情報・ネットサービス部門」で最優秀企業に選ばれたのは、株式会社LegalForce(リーガルフォース)です。同社は、2019年4月に正式版サービスを提供開始したAI契約書レビュー支援ソフトウェア「LegalForce」、2021年1月よりクラウド契約書管理システム「Marshall」など企業法務の課題を解決するソフトウェアを開発・提供しています。これらのSaaSモデルのソフトウェアが企業法務および法曹界にどのような革新をもたらすのでしょうか。同社代表取締役CEO・弁護士の角田望(つのだ・のぞむ)氏にお話を伺いました。

企業の契約業務におけるクオリティの課題・生産性の課題を解消したい

― まずは「LegalForce」の概要について教えてください。

「LegalForce」はクラウド型(SaaSモデル)の「AI契約書レビュー支援ソフトウェア」です。

ビジネスにおいて、企業間あるいは企業・消費者間でさまざまな“契約”が取り交わされます。締結される契約に対しては、法律事務所や企業の法務部門が契約書を作成し、その後に専門的知見を交えながらそれらの契約書を審査します。これを業界では“契約書レビュー”と呼んでいます。契約書レビューは多くの法律事務所や企業の法務部門に存在するとても普遍的な業務です。

しかしここで問題なのは、法曹界では他の業態と比較しても、テクノロジーの活用があまり浸透していないこと。契約書の数がどんどん増大すれば、人的な“見落とし”などが発生しがちですし、結果としてそれが企業経営に直撃してしまいます。

― そうした課題を「LegalForce」が解消する?

はい。我々が開発した「LegalForce」は「自動レビュー」「条文検索」「契約書ひな形・書式集」という、主に3つの機能を有します。
このうち特に「自動レビュー」においては、LegalForceが開発した独自AIによって契約書レビューの業務を自動化。契約書に潜むリスク、抜け落ち、不利な条文などを瞬時に洗い出し、かつ、修正時の参考となる条文例や解説も提示します。「条文検索」機能はキーワードを入力するだけで、「LegalForce」上でレビューした過去の契約書データや、法律事務所ZeLoの弁護士が作成した最新ひな形から、欲しい条文を瞬時に検索できます。このほかにも機能は日々アップデートされています。

― 「LegalForce」の主なユーザーは企業の法務部門とのことですが、企業の法務部門の方は具体的にどのような課題に直面しがちなのでしょうか。

多くの契約書業務の課題は、主に2つに大別されると思います。まずは「クオリティの課題」です。契約書と言ってもあくまで人間が作る“文書”ですから、どうしても何かしらのミスが生じがち。作成者の知識・経験によってクオリティの異なる契約書ができたりもします。LegalForceの導入によりクオリティを向上させ、常に一定水準以上の契約書が作成できるようになります。

もう1つは「生産性の課題」です。調べ物が発生した際に六法全書・法律専門書・過去の契約書などを丹念にリサーチするのは時間がかかります。法務担当者は契約書の作成・レビュー以外にも多くの業務を抱えていますので、「LegalForce」がそうした皆様の業務効率化に少しでも貢献できれば、と考えています。

― 現在までの導入実績は?

2021年1月時点で650社の企業・事務所に導入いただいています。大企業から中堅中小企業の様々な規模の企業の法務部門や法律事務所様にご利用いただいています。

これまでの導入企業様へのご提案・ヒアリングを通して見えてきたのは、企業法務における「属人化」という問題でした。法務に限りませんが“その担当者でないとわからない”という属人化された業務があると、それが放置されてしまいがちという側面があると思います。しかしそこにテクノロジーを活用すれば、部門のメンバーが高い水準の成果を安定的にあげられるようになります。

「LegalForce」の開発は「自分ゴト」から始まった

― そもそもどのような経緯から「LegalForce」を開発されたのでしょうか。

私は大学の法学部卒業後、法科大学院に入学し、在籍中に旧司法試験に合格・弁護士登録を経て、2013年に森・濱田松本法律事務所に入所しました。同事務所では大型のものから小規模のものまで数多くの案件を担当させていただいていました。ちょうどその頃、「AI」が社会的な関心事になりつつある時期でした。「自分の日頃の業務にもAIを活用できないものか…」——そう考えたことが、株式会社LegalForceの設立のきっかけとなりました。

― 角田さんの「自分ゴト」から始まった?

はい。先ほどのお話からもお感じになったと思うのですが、契約書レビューのうちドキュメントの確認が比較的大きな比率を占めています。決して事務的ではありませんが、それらの作業が重なっていくと「AIでなんとかならないのだろうか」と感じるのは、必然の流れだったと思います。

今でこそ「法律(リーガル)」と「技術(テクノロジー)」を掛け合わせた「リーガルテック」という言葉がありますが、当時は国内外とも参入企業がほとんどなく、業界もそれほど盛り上がっていませんでした。海外には法曹界でのAI活用のユースケースがいくつかありましたが、「LegalForce」のように契約書業務に特化したAI活用はほぼゼロと言っても過言ではありませんでした。

2017年にLegalForceを創業し、創業メンバーとともにゼロイチの開発に取り組んだのですが、私自身がサービス提供者とサービス利用者の両面から運営できたことは、大きな強みになったと思います。

― 現在の開発組織はどのように編成されているのでしょうか。

LegalForceは「Design & Development」「Research & Development」「Practice Development」という3つの開発組織を持っています。それぞれが「製品開発」「研究開発」「法務開発」のプロフェッショナルとして機能し、サービスの品質向上に努めています。

Rise Up Festaは「事業計画の部分を含めたコメント、アドバイスが充実していた」

― さて、ビジネスサポート・プログラム「第7回Rise Up Festa」の情報・ネットサービス部門において最優秀企業を受賞しました。参加の動機について教えてください。

LegalForceの事業計画を含めて専門家の皆様からアドバイスを受けられることに大きな魅力を感じました。また三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)との関係性を強化するきっかけにもなると考えました。

実際に2次審査・最終審査のプレゼンテーションをしていくなかで、審査員の方々には数多くの貴重なコメントやアドバイスをいただけたと思います。もちろん、これまでにもベンチャーピッチ等でのプレゼン経験がありましたが、Rise Up Festaの場合はサポートの手厚さを感じました。

― Rise Up Festa参加後の反応は?

第7回は最終審査に進んだ企業9社によるプレゼンテーションの様子がインターネットで動画配信をされたのですが、それをご覧になった大手企業様から当社サービスに興味を持っていただき実際の商談に進みました。とても有り難かったですね。

― 2021年1月にはクラウド契約書管理システム「Marshall」(マーシャル)正式版の提供も新たに開始されました。

「LegalForce」が契約締結前の“審査”を支援しているのに対し、Marshallは契約締結後の“管理”を支援しています。具体的には、これまでの「LegalForce」の開発で培った自然言語処理技術・機械学習技術を活用し、契約書管理の入力作業を完全自動化することができるようになりました。締結した契約書を「Marshall」にアップロードすると、文字起こし、契約書情報(「タイトル」「契約締結日」「契約当事者名」、「契約開始日、終了日」等)の抽出を自動で行い、検索可能なデータベースに組み上げられ、これまでに締結されてきた契約書を必要なタイミングで必要な情報を瞬時にご確認いただけるようになります。

― LegalForceは今年4月に創業5期目を迎えます。今後の展望を教えてください。

今後、リーガルテック領域には多くのサービスが登場することが予想されます。そのなかLegalForceは、最高のクオリティでお客様にサービスを届けていきたい。このような姿勢をご評価いただき、おかげさまで導入実績も堅調に伸びており、今年は事業拡大のため東京・豊洲への本社オフィス移転(2021年5月予定)も控えています。

我々の掲げるミッションは「全ての契約リスクを制御可能にする」。世の中にはたくさんの契約書が流通していますが、「LegalForce」や「Marshall」が広がれば、最新のテクノロジーと法務の知見によって契約リスクが可視化され、コントロールも可能な状態へと導けると考えています。

現在は「LegalForce」や「Marshall」の2軸で事業展開していますが、本当に「全ての契約リスクを制御可能にする」世界を実現するには、まだまだ道半ばです。新たなビジネス開発に加え、既存のビジネス自体の機能もアップデートしていかなければいけません。ゆくゆくは“法”という経済活動に不可欠なインフラを支えることで、社会に貢献したいと考えています。

― 本日はありがとうございました。

この記事の執筆者:安田博勇(やすだ・ひろたけ)
フリーライター。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。

ソーシャルビジネス部門

学生発プロジェクトから事業化。科学技術の力であらゆる環境問題を克服したい
2021年1月29日
2020年に開催された三菱UFJ銀行主催のビジネスコンテスト「第7回Rise Up Festa」。「ソーシャルビジネス部門」で最優秀企業に選ばれたのは、陸域から海洋へと流出するプラスチックごみを定量的に計測・分析し、問題の根本解決につなげる手法としてマイクロプラスチック調査システム「アルバトロス」を開発した株式会社ピリカです。同社代表取締役の小嶌不二夫(こじま・ふじお)氏に、学生発プロジェクトとして始まったごみ拾いSNS開発からアルバトロスに至るまでの経緯を伺いました。

ごみ拾いSNSを開発。SNS運用から見えた「“ものさし”が存在しない」課題

― ピリカは2011年に創業しています。創業の経緯を教えてください。

子どもの頃に読んだ本がきっかけで「環境問題に携わる仕事をしたい」とずっと思っていたのですが、大きな転機は京都大学大学院に在学中の23歳のとき、3カ月弱の間、世界一周の旅に出たことでした。

さまざまな環境問題に直面する新興国を中心に旅を重ねたなか、私が最も関心を惹かれたのが「ごみの問題」でした。インドの川にはごみが流出し、ブラジルのジャングル奥地にも人間が捨てたチョコレートの包み紙があったりします。人間が暮らし、人間が足を踏み入れた場所には必ずこの問題がつきまとっていました。

環境問題の解決に研究者としてアプローチしていくことにはすでに限界を感じ、在学中インターンとして働いても「自分は会社に入ったら上司と揉めがちな人間だな」と気づいたことから(笑)、起業の道を模索。帰国後の2010年、学生発のプロジェクトとしてごみ拾いSNS「ピリカ」の開発に着手し、翌11年株式会社ピリカを創業しました。

― 同社で最初に手掛けた事業・ごみ拾いSNS「ピリカ」とは?

人間社会から発生した大量のごみの大部分は収集・処理されますが、一部は自然界へ流出し、環境破壊を引き起こしています。帰国後にビジネスとしてごみ問題を考えたとき、収集・処理の分野にはすでに多くの競合がいました。しかしごみの流出問題はまだ競合が少なく、もし誰も見つけていない効率的な解決策を開発できれば、世界中でそのサービスが使われるだろうと考えました。

そこで在学中に編み出したのが「ごみの流出を含む様々な環境問題をインターネット上の地図に載せて可視化し、解決を促す」というアイデアです。友人にプログラミングも教えてもらいながら独学で学び、事業化を進めました。

その後同サービスは発展し、現在はごみ拾いSNS「ピリカ」としてリリースしています。ボランティアで行ったごみ拾いの様子をテキスト・写真・位置情報等とともに投稿できるSNSで、現在は日本国内のみならずアプリの登録ユーザーが世界108カ国超。多くの民間企業・自治体・支援団体様の協賛に支えられ、個人向けアプリの他「企業・団体版」「自治体・地域版」もリリースしています。

― まちに流出したごみを専門的な回収・処理業者などが介入するのではなく、民間レベルで解決する。それを可視化するのがピリカSNSでした。しかし同SNSを運用するなかで、新たな課題が見えたそうですね。

きっかけは「(ピリカSNSが)本当の問題解決につながるのか」という議論でした。我々はあくまで“科学者として”この領域で携わっていきたいと考えているため、開発したサービスが確実に解決の道へつながっているエビデンスが大切だと思っています。

ピリカSNSの場合、ポイ捨てごみの変化量・改善率がわかる“ものさし”が存在しなければ、本当の解決策になっているのか測りようがありません。サービス自体は堅調で登録ユーザーも伸びていましたが、SNS運用だけではだめだと気づき、先述の“ものさし”を作るため着手したのがポイ捨て調査システム「タカノメ」の開発でした。

新たに始めた「マイクロプラスチック」流出問題へのチャレンジ

― ポイ捨て調査システム「タカノメ」のビジネスとは?

調査用スマホアプリを使って、ポイ捨てごみや歩きたばこの分布・深刻さを調査するサービスです。具体的な手順としては、まずお客様(自治体等)と打ち合わせのうえ、ご予算に応じた回数・範囲・手法で計画を立て、当社スタッフあるいはお客様自身でスマホによる路上撮影を行います。Googleストリートビューの歩道版をイメージするとわかりやすいかもしれません。
その後撮影した動画をプログラムで解析。人力での目視チェックも重ねながら、そのまちに落ちているごみの種類・量を読み取り、調査結果をヒートマップやレポートとしてご納品しています。自治体様はそれらのレポートを1つの根拠にしながら、清掃人員の配置や喫煙所の配置の結果の検証などにお役立ていただいています。

― そうした流れのなか、さらに新たな施策として、同じく調査システムである「アルバトロス」の開発に着手されます。

タカノメが「陸地」が調査対象となるのに対し、アルバトロスは「河川・湖・港湾」が主な調査対象です。当初は特定のごみに限定せず、比較的大きなごみを調査対象としていましたが、そこでは「マイクロプラスチック」が問題になっていると知りました。

私たちの身の回りはプラスチック製品で溢れかえっています。それらは紫外線などの影響で直径5mm以下の細かい破片——マイクロプラスチックとして河川・海洋に流出していきます。まちなかにある屋外の人工芝なんかも長年使っていると経年劣化し、雨などが降るとその破片が下水処理されます。下水場でも処理できないほどの細かさだと、生態系の生物はもちろん人体にも取り込まれ、人体に有害な化学物質を吸着する性質を持つことを懸念する研究報告もあります。

― 分析はどのような仕組みで行われるのですか。

対象エリアの河川の水中・水底で専用に開発した機器でサンプルを採取し、サンプルからプラスチック片を抽出。続いてプラスチック片の成分・大きさ・形状・色などを読み取り、もとの製品の推定・流出経路の絞り込みなどにも踏み込んでいます。
こちらも主には自治体様にお使いいただいているサービスですが、最近は企業様にも関心を持っていただいています。調査回数を増やすことでアルバトロスのデータ量が蓄積され、それがビッグデータ化していけば、社会が気づいていない“不都合な真実”にも辿り着けるはずです。それらの“不都合な真実”は、自治体・企業様、そして我々自身の行動変容につなげていけることができると考えています。

Rise Up Festaは「事業計画の部分を含めたコメント、アドバイスが充実していた」

― ビジネスサポート・プログラム「第7回Rise Up Festa」のソーシャルビジネス部門で最優秀企業を受賞しました。参加の動機について教えてください。

Rise Up Festaには過去にも何度か応募させていただいたことがありました。動機としては「(最優秀企業の特典である)賞金がほしかった」——というのは半分冗談としても(笑)、自由に使える開発資金が手に入ることは魅力の1つでしたね。過去の受賞者の方々のお顔を拝見し、自分のビジネスに身近な方々が参加されていたことも、要因としては大きかったです。

― Rise Up Festa参加後の感想は?

率直な感想を申し上げると、こうしたスタートアップの大会としては、とても厳粛な審査プロセスで進んでいった印象があります。決して負担が大きくなったという意味ではなく、素直にその雰囲気を楽しめました。

また、別のスタートアッププログラムにもたびたび参加していますが、Rise Up Festaはサポートがとても手厚いと思いました。現在は三菱UFJ銀行の担当者の方が当社専属として就いていただき、ピリカの事業に近い企業様とのビジネスマッチングの話も持ってきてくださいます。当社の場合、事業として比較的ニッチな領域なのでビジネスマッチングもしにくいと思うのですが、いつも的確なご提案で、視野の広さはさすがだなと思っております。

― 最後に、今後の展望を教えてください。

科学技術の力であらゆる環境問題を克服することを目指す会社でありたい、と考えています。そのためにも、本日紹介させていただいた「ピリカSNS」「タカノメ」「アルバトロス」といった主力サービスを提供しつつ、意図せずに起こってしまう環境問題——すなわち人類にとっての“不都合な真実”を見つけ、それら解決の糸口としながら、さまざまな領域の方を巻き込み事業を発展していければ、と考えています。
最近は人材採用にも力を入れており、プロダクトマネージャー、ウェブエンジニア、セールス、プロジェクトマネージャー、カスタマーサクセス、マーケティング、PR、バックオフィス、インターンシップなどのメンバーも募集中です。当社組織に人材を集め、環境問題の分野での世界最強のチームを作りたいと思っています。

― 本日はありがとうございました。

この記事の執筆者:安田博勇(やすだ・ひろたけ)
フリーライター。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。