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第2回「Rise Up Festa」受賞者インタビュー

ソーシャルビジネス部門(優秀賞)

日本のものづくりは変えられる!欲しい技術が見つかるサービス「Linkers(リンカーズ)」成長の秘訣。前田社長インタビュー
2015年9月28日
日本のものづくりは変えられる!欲しい技術が見つかるサービス「Linkers(リンカーズ)」成長の秘訣。前田社長インタビュー
ものづくりにおいて「技術を必要としている大企業」と「技術をもつ中小企業」をマッチングするサービスを運営するリンカーズ。創業から3年で、月に数十ものオーダーを受注するサービスにまで成長させてきました。

ビッグデータを始めとしたテクノロジーを駆使しながらも、マッチングの核となっているのは1200名のコーディネーターのもつ情報とネットワーク。テクノロジーと人力の良い所をかけ合わせ、互いの弱点を補完し合う見事なマッチングシステムはいかにして生まれたのでしょうか? これまでの軌跡を伺ってきました。

「コーディネーター介在型」のマッチングとは?

― 具体的な事業内容を教えてください

ものづくりの領域において、技術を必要としている大企業と、技術をもつ中小企業をマッチングするサービス『Linkers(リンカーズ)』を運営しています。
具体的には、

  1. (サイト上で)マッチングに必要な条件を登録する
  2. リンカーズと提携している1200名のコーディネーターが該当する企業をリストアップ
  3. 一次・二次選考を経て面談し、最適な1社を絞り込む

というフローでマッチングしています。

― コーディネーターを介在させる方式はどのような経緯で生まれたのですか?

Linkersを始める前のことですが、『eEXPO』というオンライン展示会サービスを展開していました。「中小企業に自社の情報を登録してもらい、技術を求める企業にその情報を検索してもらう」システムです。

このサービスには需要があると考えていたのですが、ネットで場を提供するだけではなかなかマッチングが進みませんでした。情報を登録する側の中小企業としては、秘密保持契約の存在や技術を盗まれるリスクなどがあり、情報公開が難しい状況だったからです。ものづくり業界において、こうした技術に関する情報は10%くらいしか公開されていない印象があります。

そこで、コーディネーターによるマッチングの仕組みを考えました。
eEXPOをはじめる際、登録企業を500社集めたのですが、それらを紹介してくれたのがコーディネーターの方々でした。彼らは、 Web上には公開されていない情報をもっていましたし、ひとりで数十社、数百社のネットワークをもっていました。そこで、彼らを軸にした方がマッチングが進むと考えたんです。 

― マッチングの精度とスピードを上げるためにしていることは?

精度とスピードを上げるための施策は3つあります。

まず、1つ目が「ビッグデータの活用」です。
Linkersでは、多忙なコーディネーターのサポートツールとしてビッグデータを活用しています。まず、コーディネーターが担当している企業のホームページの情報を収集・分析し、マッチングの可能性が高い企業をピックアップします。このデータを担当コーディネーターに通知し、マッチングに役立ててもらうという仕組みです。

2つ目は「落選レポートの作成」です。
落選した企業に対し、落選の理由を記したレポートを作成してお渡ししています。これは、基本的には発注側の企業が入力した情報をベースにして自動生成しています。自社の特性や弱みを俯瞰的に知っていただき、技術の向上に繋げていければと考えています。

最後は「コーディネーターとのコミュニケーション」です。
物事をうまく回していくにはやはり直接人と会うことが大事です。弊社では営業担当が頻繁にコーディネーターの方々に会いに行っています。今後は、人工知能によってマッチングの精度を向上できる仕組みをつくりたいと考えています。

― 実際にサービスをはじめてみて、どのような手応えを感じていますか

発注後2~3週間で、ベストマッチな会社が確実に3社ほど見つかります。技術が見つからずに頓挫してしまうプロジェクトって実はとても多いのですが、1年以上スタックしていた案件が、(Linkersで)発注した2週間後にマッチングに成功することもあります。

例えば、大手デバイスメーカーが「異物を検出する機械」をつくれる企業を見つけられずに悩んでいたのですが、リンカーズのマッチングを介して解決できる技術をもった会社が見つかったいうものがあります。

Linkersは「99%はできているのに最後の1%の技術が見つからなくて製品化できない」案件を動かすサービスだと感じています。

3つの転機によってサービスが大きくスケールした

― サービスを始めてから現在までに転機となった出来事は?

これも3つあります。

まだLinkersが始まったばかりのころに1つ目の転機が訪れました。
当時は東北経済連合会と業務提携して大手企業を紹介していただいていたのですが、まだ実績がなかったため、契約を取るのもコーディネーターと守秘義務契約を結ぶのも非常に大変でした。
しかし、訪問するたびにお礼状を送るなど、企業理念にもしている「感謝」を形にしようとしているうちに徐々に契約が取れるようになっていきました。

2つ目が一番大きな転機でしたが、これはコーディネーター数が200名を超えたころに起こりました。もとから付き合いのあった日本能率協会コンサルティングから大手企業の案件を紹介してもらえるようになり、その案件が大成功を収めたんです。大きな実績ができたことで、そこから一気に発注が増えていきました。

3つ目の転機は、その大成功を世間に知らせるために記者会見を開こうと思ったときに訪れました。PRのやり方をビズリーチの南さんに相談したのですが、「そんなことより早く資金を入れた方がいい」とベンチャーキャピタルのジャフコを紹介してくれたんです。それからすぐに2億円の出資が決まり、事業のスピードが一気に加速しました。ジャフコの支援は、資金面のみならず、案件の紹介もしてくださるのでとても助かっています。

常に感謝を忘れず、感謝を行動で示す

― 経営にあたり大事にしている考え方は?

私は新卒から京セラに6年いたので京セラフィロソフィーの影響を受けているのですが、弊社の企業理念の中で特に大事にしているものとして「常に感謝を忘れず、感謝を行動で示す」という理念があります。前述のお礼状もその1つです。

事業には、

G(goal :目標を定める)
I(issue:課題を洗い出す)
S(solution:解決方法を見つける)
O(operation:実行する)
V(value:価値を生み出す)

という5つのフェーズがありますが、GとIとSまではひとりでできるものの、Oをクリアするにはたくさんのステークホルダーを巻き込んでいく必要があります。そのときに必要になってくるのが前述の理念です。
Linkersというサービスは、事業に関わってくれる全員がWin-Winになれるように設計していますし、皆が気持ち良く仕事ができる環境づくりにもこだわっていますね。

また、トライアンドエラーを早く回すことを心がけています。うまく行かないと判断した場合に素早く事業内容を切り替えて来たことで現在のLinkersがあります。

― なぜRise Up Festaに応募を?

Rise Up Festaのソーシャルビジネス部門において優秀賞を受賞
三菱東京UFJ銀行は全国の大企業・中小企業とのリレーションをもっているので、自社のネットワークを広げるきっかけになればと思ったのが第一の理由です。

2つ目の理由は、ファイナンスの連携です。
マッチングが成立しても、資金面のネックで案件が進まないケースがあります。しかし自社ではファイナンス機能をもつことができないので、その部分をデットとエクイティの両方をカバーできるMUFGと連携できたらと考えました。

Rise Up Festaで受賞したのち、メガバンクに太鼓判を押してもらったことで信用が増し、良いPRにもなったと実感しています。これまではあまりビジネスコンテストに積極的ではありませんでしたが、今後はもっと出ていこうと考えていますね。

― 今後の取り組みは?

日本の製造業が、大企業から中小企業まで、もっと元気になる仕組みを実現させるために「日本ものづくり株式会社」をつくりたいと考えています。

現在、欧米の大手企業が海外の技術を利用しようと考えたときに、パートナーとして日本ではなく中国や東南アジアの企業を選択する「ジャパンパッシング」(日本を素通り)が起きています。その主な要因は、「英語対応している企業が少ないから」というもの。そのうえ、中国の企業は設計から量産までを一気に請け負ってくれます。

日本がこれに対抗するには、国内の工場同士のネットワークをつくりつつ、海外へのPRを上手にやっていく必要があります。
この2つの両方を支援するのが「日本ものづくり株式会社」です。
まず、国内において設計から量産までのすべてを受けられる仕組みづくりを行います。そして英語対応もできるプロジェクトマネージャーをたくさん雇い、ものづくりの領域で日本と海外をつなげる役割を担っていきたいと考えています。

日本のものづくりをもっともっと盛り上げていきたいですね。

この記事の執筆者:坂口直
Webを中心とした取材記事を執筆。Nexco東日本交通情報サイト内「未知の細道」にて、日本の伝統・文化にフォーカスした紀行文を連載中。節分のない村や江戸時代の儀式を今も続ける地域などを取材する一方、東京・恵比寿を拠点に「恵比寿新聞」記者として女性向けコンテンツ(ネイルサロン・ヨガ教室・ワイン教室など)の体験レポートを発信している。ライター業の傍ら、イベントディレクターとして企業のミートアップイベントやワークショップなどの企画運営を手がける。

ネットサービス・情報・ロボット技術部門

そのマニュアル、本当に使ってますか?企業のマニュアルのあり方を変える少数精鋭「スタディスト」鈴木社長インタビュー
2015年9月7日
そのマニュアル、本当に使ってますか?企業のマニュアルのあり方を変える少数精鋭「スタディスト」鈴木社長インタビュー
三菱東京UFJ銀行のビジネスコンテスト「Rise Up Festa」のネットサービス・情報・ロボット技術部門で優秀賞を受賞したのは、企業向けマニュアル作成ツール「Teachme Biz」を提供するITベンチャー「スタディスト」。

「Teachme Biz」は、シンプルな操作で「画像を軸としたマニュアル」をクラウド上に作成し、さまざまなデバイスで閲覧することができるサービスです。現在およそ500社が導入しているという「Teachme Biz」を生み出し成長させたのは、たった8人の社員。しかもその全員が開発経験ゼロからのスタートでした。

その驚くべき事業発展の秘訣は、マニュアルを活用した徹底的な技術の共有とコストカットによるものでした。

最小人数で最大の効果を出すための戦略は「アウトソーシング」

― Rise Up Festaの受賞、おめでとうございます

ありがとうございます。

― 受賞後、変わったことなどはありましたか

社会的な信用が増したのを感じています。導入がスムーズにいく後押しになっています。

― 現在、何社ぐらいが「Teachme Biz」のサービスを利用しているのですか

現在およそ500社に導入していただいていて、その中心は飲食業と税理士事務所の2業種となっています。
飲食業におけるサービスの広がりはある程度狙った結果ですが、税理士事務所は正直意外でした。「Teachme Biz」は、画像をメインとしたマニュアル作成ツールなので、飲食店のような現場での手順記録が必要になる業種には特に適しているんです。一方、税理士事務所でサービスが広がったのは、決算書のように作成ルールがきっちりと決まっている書類とマニュアルの相性が抜群だったからです。

― それらの企業へは、売り込み営業をきっかけに導入しているんでしょうか

いえ、今は口コミや紹介、取材していただいた記事からの引き合いなどでじわじわと広がっています。税理士さんに使ってもらえると、その顧問先への波及効果があることも大きいですね。
社員は8人だけなので、現時点では売り込み営業に積極的になれない理由の1つです。

― 8人ですか! 事業の規模に対してかなり少ない人数ですね

そうですね。広報、マーケティング、サポートなど、サービスの根幹に関わる業務以外は全部外に出すことで人員を抑えています。
スタッフを雇うとなると固定費が上がりますし、固定費があがれば利益率が下がり、単価が安くできなくなって買える人が少なくなります。すると収益が下がり、歯車が狂ってしまう。そのため、いかに固定費をかけずにやっていくかには特にこだわっています。

― アウトソーシングは、何から手をつけはじめるとうまくいくでしょうか

まず、請求書や見積もりなどの会計まわりをクラウド化するのは必須です。それから、パターン化した業務を見つけたら都度マニュアル化して、どんどん外に出していく。気をつけたいのは、その業務についてしっかりと理解した上で移管するということです。また、一気に移管すると破綻するので、1つできたらまた次、というように少しずつ渡していくといいでしょう。

開発未経験のコンサルタントが生んだITサービス

― 起業のきっかけについて教えてください

大きなきっかけは、前の会社が民事再生になったことですね。「じゃあなにかやってみるか」という感じでスタートしました。事業の内容をマニュアル作成に定めたのは、前職のコンサルティングの経験が活きるだろうと考えたからです。これまでに蓄積してきた、業務の洗い出しや整理などのノウハウが、このサービスの参入障壁になるだろうと。こうして前職の仲間と一緒に開業しました。

― 全員コンサル出身ということは、開発は外注ですか?

いえ、独学でやりました。本を読みながら、ひたすらソースコードをコピーして。自転車と一緒で、ひたすらやっていたら補助輪が取れたような感じで、1年半~2年ほど経ったころには、本を見なくてもつくりたいものがつくれるようになりました。ただ開発中は収益を得られないので、もっぱらコンサルティングのほうで稼いでいましたね。

― どうしてそんな面倒なことをやろうとしたのでしょうか?

前職で、開発部門に新しいシステムのイメージをもっていってもなかなか承諾してもらえなかった経験があったからです。しかも、できあがったものが自分のイメージしていたものと同じとは限らない。それだったらもう自分達でやってしまおうと思ったんです。

未経験者ばかりでつくったサービスだったので、失敗を避けるために段階を踏みました。はじめに「Markee」という「Teachme Biz」の画像編集機能だけを切り出したアプリを発表して意見を集めました。それから個人向けの「Teachme」というサービスを提供し、そこで集まった意見をもとに閲覧・編集権限などの管理機能を整え、2013年に「Teachme Biz」をリリースしました(「Teachme」は今年2月にサービスを終了しています)。

日本全体の効率化のため「使ってもらうこと」を最優先に

― 月々5,000円からという価格は安すぎるように感じるのですが、上げようとは思わなかったのですか?

あまり価格を上げてしまうと利用できない企業のほうが増えてしまいますよね。最も利用の多いPremium20(管理者20人以下、閲覧無制限のプラン)は月額15,000円なんですが、これ以上高くしてしまうと小~中規模の飲食店にはキツくなる。でも、最も数が多いのはこの層なんです。日本全体の効率化を図るには、ここに勝負をかけるしかないと考えています。

― 開発の際、重視したことはなんですか?

当たり前のようでなかなか実現するのが難しいことですが、「使われるマニュアル」をつくることです。そのため、シンプルであること、画像を軸にして手順を伝えることにはこだわりました。マニュアルをつくる際は必ず画像をつけなくてはいけない仕様になっています。
「画像がなくてもマニュアルをつくれるようにしてほしい」という要望をいただくこともあるんですが、それってつくる側は楽だけど見る側はうんざりするじゃないですか。文字だらけで。だからやらない。

つくる側に視点を移動すると、あまり機能が増えると使いこなせず嫌になってしまうので、「機能を増やしてほしい」という要望にはお応えしていません。
「どうしたら使い続けてもらえるか」という点に主軸を置いて、やるべきこと、やらなくていいことは、きちんと線引きするようにしています。

一方、全部拒否するのではなく、明確な目的・価値があれば応えるようにはしています。最近では、「清掃の手順」を説明するのに15秒の動画ではどうしても足りないことが分かったので、最長20分まで延ばせるオプションを追加しました。

攻めに転じるスタディスト。海外展開も視野に

― Rise Up Festaに応募した動機について教えてください

最初は知人である山口豪志さんの紹介でした。「こんなのがあるんだけど出てみないか」ってお話をいただいて。

これまではビジネスコンテストに出るよりもユーザーを見ることを優先にやってきたのですが、「そう言えば銀行系のコンテストってなかったな」と思ったんです。
MUFGの役員・経営層を前にプレゼンして、その反応を直接見られる機会というのはなかなかないと思いました。応募を決めたのは、そこに大きな価値を感じたからですね。

実際に、受賞したことが自信につながりましたし、営業活動を行うにあたってのメリットが大きい。新規のお客さまとのやりとりがスムーズにいく後押しにもなっていると感じます。
『Rise Up Festaのネットサービス・情報・ロボット技術部門において優秀賞を受賞』

― 今後の課題について教えてください

キャッシュフローはプラスに転じたので、これからは攻め時だと考えています。
「Teachme Biz」を拡大することはもちろん、このサービスは「自分のやったことを人に伝える」というものなので、たくさんの派生ビジネスの可能性をもっています。しかし、それをやるには今の社員8人では足りません。なので、まず人員を増やしていくことが1つ。

それから、マニュアルは日本に限定されないので、今後は海外を含めた展開も考えています。特に、日本のサービス業がマレーシア、ベトナム、カンボジア等の東南アジアにどんどん進出していますので、現地スタッフの育成等でお役に立つべく、進出したいと考えています。言語が違うからこそ、画像ベースのTeachme Bizの強みが活かせると思います。

この記事の執筆者:坂口直
Webを中心とした取材記事を執筆。Nexco東日本交通情報サイト内「未知の細道」にて、日本の伝統・文化にフォーカスした紀行文を連載中。節分のない村や江戸時代の儀式を今も続ける地域などを取材する一方、東京・恵比寿を拠点に「恵比寿新聞」記者として女性向けコンテンツ(ネイルサロン・ヨガ教室・ワイン教室など)の体験レポートを発信している。ライター業の傍ら、イベントディレクターとして企業のミートアップイベントやワークショップなどの企画運営を手がける。

ソーシャルビジネス部門(最優秀賞)

100回失敗しても前進し続けるAsMama甲田社長の強い意志
2015年8月24日
100回失敗しても前進し続けるAsMama甲田社長の強い意志

三菱東京UFJ銀行の主催するビジネスコンテスト第2回『Rise Up Festa』のソーシャルビジネス部門にて最優秀賞を受賞した『AsMama(アズママ)』。子育てシェアを通じて「地域の"頼り合い"文化」を生み出すAsMamaの事業はいまや全国にまで広がり、小さなお子さんを持つお母さんたちの生活を大きく変えようとしています。

そんなサービスを生み出したのは、自らも子育てをしながらバリバリのキャリアウーマンとして働く甲田恵子社長。AsMamaが2万7千人ものユーザーを獲得し(2015.6.30時点)現在の形になるまでには、甲田社長の徹底的にニーズを追求する努力、そしてたくさんの失敗と苦労がありました。

誰もやってくれないなら、自分がやるしかない

― まず、事業内容について教えていただけますか?

はい。AsMamaでは支援したい人と支援してほしい人達が出会えるような「地域共助」事業を全国で展開しています。具体的には、1時間500円で子供の送迎託児ができる仕組みを、知人間共助のインフラとして提供しています。知人がいなくても、「ママサポーター」というAsMamaが認定する託児研修・訓練受講済みのメンバーと顔見知りなることで預けられる環境を創ることができます。

― 起業のきっかけは?

2009年1月に前職を退職し、このときに通った職業訓練校で、有能な女性達が出産を機に仕事を手放し、社会復帰に悩んでいる現実を目の当たりにしたのがきっかけです。

国は女性の社会進出を奨励しているのに、実際にそれをサポートする環境はない。この現状を見て、私は憤りに近いものさえ感じました。これをなんとかしようと、行政や企業の新規事業サービスに相談したものの、「収益化が難しい」という理由でなかなか相手にしてもらえませんでした。でも私は、前職の広報・IRの経験から、「これだけ世の中の人の需要があるなら必ず反響があるはず」という確信のようなものがあったんです。

誰もやってくれないなら、自分がやるしかない、それがAsMamaを立ち上げたきっかけでした。

失敗の連続からの逆転劇

― なぜ家事支援などではなく、子育て支援にしたのですか?

子育てのために仕事を手放さなければいけない女性達がいる一方で、社会と関わりたくても関われない専業主婦の方達がいることに気づいたんです。
彼女達は家事育児に情熱を注いでいるにもかかわらず、社会から評価がもらえずに不安をもっていました。本当は社会の役にも立ちたいし、家計の足しになるお金を稼ぎたいと思っているのに、子供を手放したくないためにパートにもいけない。そんな彼女達が無理せず手伝うことができて、働く女性達にも嬉しいシステムを考えた結果、子育て支援のインフラ創りにたどり着きました。

また、子育て支援は参入障壁が高いんです。人の命を預かるわけなのでリスクがとても大きいですし、顔も知らない人や場所に子どもを預けざるを得ない環境ではなく、親子共に安心できる「顔見知り」という環境にこだわることこそが重要と考えていたので、今の社会では希薄になってしまった「頼りあう文化」をつくる、ということから始めなければならない。でも、だからやる価値があるとも思いました。

― 文化をつくるところから始まったんですね。

はい。なので、ここにくるまでは試行錯誤の連続でした。
最初は、助けたい人と助けてほしい人が「出会う場」さえつくれば繋がっていくだろうと思って、3ヶ月で100回以上のイベントを開催してみました。でもなかなか繋がっていかない。
このイベントは有料で開催していましたが、考えてみればそんなお金を払える人はそもそも助けが必要ないんじゃないか、と思って。じゃあ参加者が無料で参加できるように、イベントに企業協賛をつけようとしたんですけど、そのためには大勢の参加人数がいるんですよね。でも、数百、数千という人数がいるとその中で知り合いをつくろうとする動きはますます起こらない。

結局、1年が過ぎてもなかなか頼り合いが起きなくて、「場なんてつくっても頼り合いなんて起きないんじゃないか」と思うようになりました。「どうしたらいいかわからない」とメンバーに話すと、みんなカンカンに怒って、13人中11人が退職してしまいました。

― そんな最悪の状況からどうやって巻き返したんですか?

どうしようかなぁと思っているところ、2010年10月、NPO法人ETIC.主催の社会起業塾に入ることができたんです。そこで、自身の事業について1000枚の街頭アンケートを配るという課題が出て。

すごく嫌だったので、1日200枚配って5日で終わらせちゃおうと思ったんです。でも、朝の7時から駅前に立って呼びかけても、全然配ることができない。1日目は2枚、2日目にいたってはゼロでした。3日目は大雨だったんですけど、途中、湿気でよれよれになった998枚のアンケート用紙を見て、心が折れました。思わずメンター(塾での相談役)に「もうアンケートやめたい」と電話をかけたら「甲田さんて意外と根性ないんですね」と言われたんですね。それで私、カッチーンときたんです。

そこから意識が180度変わって(笑)。まずは怪しまれないことが大事だと思って、たすきと拡声器を買ってきて、駅前で「みなさんおはようございます、地域の頼り合い子育て事業に取り組んでいるAsMamaの甲田と言います」と呼びかけたんです。それを見て、地域の子育て支援拠点をやっている人、保育園の先生などが最初は怪しげな顔をしつつも次第に声をかけてくれるようになりました。でも、警察官の職質には合うわ、同じ保育園のママ達の間で変な噂が立つわで、このときは本当に辛かったです。

でも、配布が400枚を超えたあたりから、徐々に状況が変わってきました。
まず、効果的な配布場所が分かるようになってきました。タイムセールが始まる夜8時のスーパーとか、ディスカウントストアには、子育てに奮闘する人たちが集まる狙い目です。
また、助けを必要としている人や地域の役に立ちたいと思っている人も、なんとなく見てわかるようになっていました。

「子育てで困ってることはないですか」と声をかけると、最初は、「大きなお世話です」って言われるんですけど、自分も同じ境遇であること、この現状を変えたいと思っていることをしつこく説明すると、ある時心を開いてくれる瞬間があって、中には「シングルだからダメだと思われたくなくてひとりでがんばっているけれど、本当は不安でいっぱいなんです」と泣き出すお母さんもいました。そんな日々を繰り返すうちに、「誰かが何とかしなければいけないほどに困っている人は、やっぱりいる」と確信しました。

幼稚園教諭や保育士資格をもつお母さんたちも動きを見て分かるようになりました。子供たちに対する話し方、手の差し伸べ方が全然違うんです。彼女たちに話を聞くと、ほんとに子供が好きなんだなぁ、ってことが分かる。「まさに社会の宝がここにあるのに、この人は自分がその宝だということに気づいてないんだな」と思うようになりました。

当初5日で終わらせる予定だったアンケートの配布を終えたのは、5ヶ月後の2011年2月。この頃には、もう、なにがなんでもやらなければ、という思いが確信に変わっていました。

― 1000人アンケートが終わってから、どんな風に変わっていったんですか?

アンケートの結果、イベントをやっていても繋がらないのは、お互いが遠慮していたからだということがわかりました。助けてほしい人は「自分の子供でさえ大変なのに、他の家の子供まで面倒見たい人なんていないんじゃないか」と思っているし、助けたい人は「かわいい盛りの子供を預かりたいと言うなんて、厚かましいと思われるんじゃないか」と思っているんです。

こうしたすれ違いを解消するために、AsMamaでは2011年4月に「ママサポーター制度」を開始しました。「助けたい人」は、オレンジTシャツを着て「ママサポーター」と名乗る。こうすることで「私はママ業をサポートしたい人です」ということを可視化するようにしました。

また、ママコミュニティでは仲間内で交換する情報を強く信用する傾向がある点に気づいたので、これを、商品を広めたい企業の広報の場に活用してはどうかと考えました。
ママサポーターは、暮らしの役に立つ企業のサービスや商品の情報をもって回れば頼り甲斐もアップするし、活動費用を企業に負担してもらえれば、ママサポーター自身の周知活動にも奨励金を出すことができる。
頼りたい人にとっては役立つ情報を得られて嬉しいし、企業は潜在的な顧客を掘り起こしたり、ニーズを見つけるのに役立つ。こうして三方良しの地域交流事業ビジネスモデルができました。

2012年8月に、念願だった保険会社さんとの提携が叶い、それとほぼ同時期に顧問契約でWebの開発をしてくれる会社を見つけることができたことで、 2013年4月に、顔見知り同士が繋がって子供の送迎託児を頼り合う仕組み「子育てシェア」をスタートすることができました。

AsMamaの現在、そして未来

― AsMamaの事業としての現状と、これからどう変化していくかについて教えてください。

現在の子育てシェアのマッチングの内訳は、これまでママサポーターが90%だったところ今では50%ほどになっています。今後も、どんどんその割合を減らしていきたいと思っています。
また、これまでイベントを通じた企業の広報支援を主な収入源としていたものを、2014年1月より、様々なコミュニティに入って地域共助を形成する実践型コンサルティングを行うことで収入を増やしています。現在、不動産・学童・習い事など40社ほどが導入してくださっていますが、今後はもっと導入先を増やしていきたいと考えています。

― そんなAsMamaの未来にRise Up Festaはどんな意味をもつのでしょうか?

『Rise Up Festaのソーシャルビジネス部門では最優秀賞を受賞』
なにか新しいことを始めるときに重要になるのは「信用力」だと思っています。まだ実績が何もない企業にとっては、大きな会社とタイアップしていたり、メディアに取材してもらったり、ビジネスコンテストで受賞したりして、「この会社は大丈夫」というイメージを思ってもらうことが事業を加速する手助けになるんです。

その点でRise Up Festaは、審査員の方々の専門知識の高さ、主催の三菱東京UFJ銀行さんのネームバリューなど、説得力が格段に違います。弊社でもさっそく、地域共助のコンサルティング事業の企画書や提案書に、「Rise Up Festa最優秀賞受賞」と掲載させていただいています(笑)。それだけでも「これはなんですか?」という会話のネタになるんですよね。

― ありがとうございます。最後に、AsMamaがこれからどうなっていきたいか、未来のビジョンを教えてください。

AsMamaのミッション・ビジョンには「子育て支援」とは書いていないんです。「支援したい人」と「支援してほしい人」が安心して会えて、頼りあえる仕組みをつくるのが私たちのミッション。最終的にはこれを社会のインフラにまで高めていきたいと考えています。

この記事の執筆者:坂口直
Webを中心とした取材記事を執筆。Nexco東日本交通情報サイト内「未知の細道」にて、日本の伝統・文化にフォーカスした紀行文を連載中。節分のない村や江戸時代の儀式を今も続ける地域などを取材する一方、東京・恵比寿を拠点に「恵比寿新聞」記者として女性向けコンテンツ(ネイルサロン・ヨガ教室・ワイン教室など)の体験レポートを発信している。ライター業の傍ら、イベントディレクターとして企業のミートアップイベントやワークショップなどの企画運営を手がける。