“製造業×AI 目視検査の自動化を実現”
16年に渡って研究開発を行った産総研発の特許技術を用いた、従来よりも効率的な異常検知を可能とするソフトウェアを提供
三菱UFJ銀行が主催するビジネスサポート・プラグラム「第9回Rise Up Festa」の「先端技術によるビジネスプロセス改革」分野において最優秀企業に選ばれたのは、株式会社アダコテックです。「製造業 × AI の組み合わせで、検品工程で従来よりも効率的な異常検知を可能とするソフトウェア」について、株式会社アダコテック代表取締役・河邑亮太氏にお話を伺いました。
製造業における検品作業の95%はいまだ人の目視で行われ、工場の5人に1人は検品作業従事者です。しかし深刻な労働力不足から検品現場は限界を迎えています。私も工場に1週間泊まり込みで検品作業を体験して実感したのですが、1日数千個という部品に対し数十ミクロンという細かい傷を探し続ける作業は、精神的なプレッシャーが大きく、単調に見えながら熟練技術を必要とします。
アダコテックはこうした課題を背景に、産業技術総合研究所(以下、産総研)の特許技術「HLAC」を活用した検品AIソフトウェアを提供。画像の特徴をいち早く正確に抽出する技術を使い、検品作業の自動化を実現しました。
検品AIの解析モデルで検証に必要なデータ数は、一般的なディープラーニングAIと比較しても非常に少ない「良品データ100枚」のみ。学習はたった1分で完了します。汎用パソコンから処理できるため、ハイスペックなパソコンやシステムを導入する必要がありません。またAIソリューションは判断根拠がブラックボックス化されがちですが、当社検品AIはブラックボックス化されず説明可能なロジックを用いて構築します。
以上のサービスをSaaSソフトウェアとして提供。検査人員の大幅削減や良品率の向上に寄与しており、すでに大手自動車会社のエンジン部品に採用されたケースでは、1工場あたり2億3,000万円の導入効果が見込まれています。
会社の歴史自体は長く、前身の設立は16年前の2006年10月です。産総研と関係のあった現・アダコテック取締役CTO伊藤桂一らが産総研認定ベンチャーを立ち上げ、2012年3月、認定ベンチャー事業を承継する形でアダコテックが法人設立されました。
私がアダコテックに入社したのはそれよりずっと後のことです。2019年6月アダコテックは東京大学エッジキャピタル(UTEC)とDNX VenturesからシリーズAの資金調達(4億円)を実施しているのですが、そのタイミングでDNX Venturesからの紹介を受けて、同年7月、4人目の社員としてジョインしました。
私にはかねてより「高度経済成長期のような、元気な日本を取り戻したい」という思いがあります。アダコテックはそのときすでに日本発の独自技術を持ち、製造業の課題を解決できる力を持っていました。しかし当時は仕事も受託開発が中心で、ビジネスが確立されていませんでした。
私はそれまでの三井物産やDMMのキャリアで事業経営、事業管理、M&A実務、新規事業提案などに従事しており、入社以降は検品AI事業化を自らのミッションに据え、製造業にまつわるお客様課題の抽出、プロダクト化、チームづくり等に注力してきました。
以前よりお世話になっていた三菱UFJ銀行の担当行員の方からご紹介いただいたのがきっかけです。そのとき当社は自動車業界以外の販路を模索していた時期だったので「三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のリソースを使いながら、各領域のプロフェッショナルがサポートする」という話に興味がわきました。
また、こうしたピッチイベントで何か受賞するなどしてメディア等への露出が増えれば、ビジネスや採用の面で有利に働きます。コストを抑えた広報活動にもなるだろう、と考えました。
これまでRise Up Festa以外のビジネスコンテストあるいはピッチイベントに何度も参加してきました。そのほとんどはRise Up Festaと同様、本当に素晴らしいイベントです。しかし大企業主催のアクセラレータープログラムでは時として「事業シナジー」や「ビジネスマッチング」を謳いながら、主催側の本気度が低かったり温度感がなかったりするケースに遭遇します。もちろん我々ベンチャー側は、そのイベントで何のメリットも得られません。
それに対しRise Up Festaでは、メンターの方たちから常に「参加するベンチャー・起業家が何をしたいのか」を問いかけられ、「必要なものがあれば何でも持ってくるから!」というスタンスで、かなり前のめりなサポートを受けました。例えば当社から「こんなことがやりたい!」と目的を明確に打ち明ければ、メンターが業界のエキスパートを即座に紹介してくれたこともあります。おかげでその業界の解像度が上がりました。
他と比較するわけではありませんが、メガバンクが取り組む当ビジネスサポート・プログラムの本気度とネットワークを目の当たりにできたと思います。
変わりましたね。製造業と一口にいっても工場の生産品は多種多様ですし、1つの生産のなかでも部品ごとにたくさんの工程があります。そのため「どこに注力すべきか」というターゲット選定は、我々にとってとても難しいテーマでした。今回紹介していたいだいたお客様へのヒアリング、あるいは製造業への出向経験のある行員の方とのブレストを通じ、ターゲット選定や市場選定がかなりブラッシュアップされたと思います。
最近は起業家向けイベントもたくさん開催されていますが、どんなイベントであれ、技術評価より大事になのはビジネスとしての確度、そして産業へのインパクトです。当社もたとえそれがDeepTech系のイベントだったとしても、技術の部分はできるだけわかりやすく説明しています。ディープテックだからこそ小難しくならないよう「誰のどんな課題が解決され、どのようなインパクトを与えるのか」が大事なのです。
Rise Up Festaも同様で、私の場合は「これならば銀行の方が銀行の取引先に紹介したくなるかな?」といったことをイメージしましたね。書類審査やプレゼンではそうしたことを意識されるとよいのではないでしょうか。
検品作業の市場規模は世界30兆円とも言われていますが、日本の製造業はとかく前例主義に陥りがちです。そのため最優先すべきは「大手企業への実装」であり、自動車、電子部品・半導体・その他の領域をターゲットに最大手企業での導入を進めています。日本メーカーは海外生産比率が非常に高いため海外展開も念頭に置いています。
他方、本当に検品作業にご苦労されている方々の中心は、中小・零細企業の皆様です。業界に対してより汎用的かつ安価なサービス提供をしていくためには、当社検品AIアルゴリズムを既存の「検査装置」へ組み込む必要があると思います。当社ではそのための新規事業開発を行い、2023年中に2社・2製品で実装する予定です。
すなわち現時点で目指しているのは「ラップトップパソコンのCPUにインテルが入っているのが当然」というのと同じ状態。検品ソフトウェアの技術的デファクトを確立していきたいと考えています。
さらにその先の話で申し上げれば「なぜ不良品が出るのか」「どういう製造条件であれば不良品が出ないのか」といったことも「データ×AI」で解明されていきます。まだ構想段階ですが、ゆくゆくは製造業のそうした課題も解決するプラットフォームを構築し、不良品が出ない世界を創っていきたいと考えています。