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MUFGのスタートアップ支援スペシャル対談

起業のきっかけ

宮田:
本日はお忙しい中、お時間をいただき、ありがとうございます。急成長する新興企業として注目を集める御社を、我々は起業間もない頃からサポートさせていただいておりまして、そのことを大変誇りに思っており、また、今後も御社のご発展をお支えしていけたらと考えております。そこで本日は、我々MUFGのスタートアップ支援サービスについて、忌憚なきご意見をいただけたらと思います。ぜひ、よろしくお願い致します。
稲田:
お声がけいただき、光栄です。こちらこそ、よろしくお願い致します。
宮田:
まずは、「ANDPAD(アンドパッド)」というビジネスを起業しようと思ったきっかけから、お伺いできればと思います。
稲田:
私の場合は、大学時代、周囲に起業する人が多かったんですね。私自身も大学3年生の頃に先輩と会社を立ち上げたのですが、事業を進める中で疑問を感じたこともあり、いったんは就職の道を選びました。しかし、当時の体験、つまり「無から価値を生み出し、それを社会にとって必要不可欠な存在にしていく」という作業を仲間と共に営んでいくことの楽しさがずっと頭の中にあって、30歳になる前に会社を起こしました。
宮田:
学生時代から、そうした起業家マインドをお持ちだったわけですね。
対談写真01
稲田:
はい。それに加えて前職のリクルートで新規事業の立ち上げに関わっていて、いろいろな産業を見ていた中で、住宅業界や建設業界こそ早急にIT化を進めて業務の効率化を図る必要性があると感じていました。ですから、業界とのつながりがあったわけではないのですが、エンジニアと2人で、私の自宅からスタートした次第です。
宮田:
今のビジネスモデルを立ち上げるに至った背景には、何かを変えたいとか、これをこうしたいといった強いモチベーションがあったのではないでしょうか?
稲田:
そうですね。最初の3年間は、知り合いのつてをたどり、いろいろな建設会社様のシステム開発を受託し、勉強させていただきました。その中で、業界で働く方々はITの力を使えばもっと本来やるべき仕事に集中できるのではないかと思い、現場業務や事務作業の効率化を意図したクラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を開発しました。例えば、現場監督の業務を分析すると、ハードワークの中で1日平均3時間も移動に費やしているわけです。IT化によってこの移動時間を削れれば、その分を工程管理などの“本業”に充てることができるようになるはずと考えました。
宮田:
なるほど。システム開発を通して業務の非効率的な部分を分析していたわけですね。どうりで、業界の深いところまで理解なさっていると稲田さんから感じるわけですね。そうでないと、ANDPADのようなサービスのプラットフォーム化はできないと思っていました。

スタートアップ支援に必要なこと〜MUFGスタートアップ支援〜

対談写真02
宮田:
現在、MUFGのスタートアップ支援サービスは、銀行だけでなくグループ内の証券会社や信託銀行、ベンチャーキャピタルなども巻き込み、多様なソリューションを提供できるようになっています。そうした中で、銀行だけでは出来ることは限られていると思っています。お客さまをその成立の歴史を含めて深く理解し、リスペクトし、ファンになって、自分自身の体の一部として成長を願い、サポートしていくそういったRM(リレーションシップマネージャー)を育てていきたいと考えています。その上で、銀行員という枠をこえて信託機能であったり、証券機能であったり、その時々でお客さまに一番ふさわしいサービスをスピーディにお届けしていくことを目指していきたいと思っています。
稲田:
大変心強いお言葉です。シード期の経営者が何を考えているかというと、誰に対してどんな価値を提供するのかを明確にし、プロダクトやサービスの開発に人生の全ての時間を注ぎ込みたいのです。しかし、その頃の自分が何をしていたかと言えば、会社の設立の手続きであるとか、右も左も分からない中で資本政策を考えるとか、資金調達の事業計画をつくるとか、経営のさまざまな手続きに追われていました。結果的に、プロダクトやサービスづくりに時間が割けない。これは大きなジレンマです。今は銀行様がこれだけスタートアップに目を向けていただいているわけですから、そこをうまく生かしていくべきだと思います。
宮田:
はい、ぜひご活用いただきたいですね。銀行では、本部に2019年に「成長産業支援室」を設置し、スタートアップへ多様なサポートをしてきました。さらに、2021年からはスタートアップ専門の営業チーム「成長企業営業部」を立ち上げ、先ほど稲田さんがおっしゃったようなファウンダーの方々のジレンマを解消し、本業に全精力を傾けていただけるように、金融取引や非金融取引(ビジネスマッチング等)のお手伝いをさせていただいています。今はいろいろな宿題をいただき、それを1つ1つ解決することで我々自身が成長しながら、スタートアップと同じベクトルで、社会課題解決に向けて並走していけたらと考えております。
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稲田:
素晴らしいですね。現時点では資本市場がかなり不安定になっています。成長段階で赤字が先行しがちなスタートアップにはいささか分が悪い状況です。例えば、今のようにエクイティの調達環境が良くないとしたら、デットという選択肢もあるといった資金調達の多様性を示していただけるのは、スタートアップにとって大変ありがたいことです。スタートアップの経営サイドは、その多様な選択肢の中で成長はもちろん取るわけですが、事業の持続性も担保していかないといけない。その意味で、大きく飛躍するために、生き残るための資金調達手段を持てるというのは大変良いことだと思います。
宮田:
過去には現物価値のあるものを担保評価してといった時代もありましたが、今はいろいろな「価値」をきちんと評価して、あるいはキャッシュフローをしっかり見ながら、それに対してファイナンスを付けていくという流れになっています。ビジネスの価値をいかに適切に評価してファイナンスを行うかが、我々の腕の見せどころです。そこを磨き上げて、いろいろな形でご提供できるようになってきていますので、これからもご期待ください。
稲田:
はい、大いに期待しております。御行がスタートアップへのスタンスを大きく変え、支援事業に積極的になっていらっしゃるその意気込みの強さが、当社への対応からもひしひしと感じられました。

MUFGのパーパス「世界が進むチカラになる。」に込めた想い

対談写真04
宮田:
MUFGは2021年に「世界が進むチカラになる。」というパーパスを策定しています。なかなか大上段に構えたパーパスなのですが、自分事として置き換えたとき、「そうか、お客さまの進むチカラになればいいんだ」ということに気づきました。お客さまの成長と発展に尽力することで「ありがとう」と言っていただくことができたら、それによって我々は自己実現の実感が得られます。ですから、従業員には、「お客さまのチカラになることで自己成長を果たしてほしい」とハッパをかけています。従って、従業員たちはスタートアップに対しても「自分たちが、お客さまの進むチカラになっていく、社会課題を解決するチカラになっていく」という強い意識を持っているはずで、ここは一貫性があるんじゃないかと自負しておる次第です。
稲田:
御行のパーパスから従業員の方に落とし込んだ精神は、当社との取引においても、いかんなく発揮されていたように思います。御行のご担当者様はかなり深くまで当社のビジネスモデルをご理解くださった上で、我々がどこまで事業の展望を描いているかとか、オフェンスだけでなくディフェンス面にも配慮しながら、丁寧に取引条件をつくり上げてくださいました。まさにそれこそ、「お取引様の進むチカラになる」姿勢ではないでしょうか。さらに、御行の中や御行のビジネスパートナー、他のお客さまに対しても、当社のことを「こういう面白い事業がありますよ」「大変良いビジネスなんです」と周知させてくださっている。我々が良いサービスをつくっていかないと、そうやって広げていただく意味がありませんから、頑張らないといけないな、と思いました。今後もお互いに切磋琢磨していけそうです。

MUFGが持つプラットフォーム

宮田:
DX化が進んできたことにより、子会社のビジネステックが運営する「ビジクル」というプラットフォームを通じて、さまざまなお客さまをご紹介ができるようになっています。これは、MUFGとしても大変画期的なことです。また、こうしたサービスは御社のような参加企業様が、ビジネスのトップラインを上げていくことに寄与するのではないかと考えていました。
ビジネステックが運営する「ビジクル」のサービスフロー
稲田:
当社のようなITのスタートアップでB2Bの企業の場合、特にエンタープライズの大手の会社様や地方の会社様それぞれとの間に大きな「信用の壁」が立ちはだかっているように思います。事業運営をしている中で歯がゆさを感じるのが、いくら良いプロダクトをつくっても、知っていただけないとか、先方の経営陣の方に対してご挨拶の機会をいただけないといったケースがままあることです。そうした中で、御行とタッグを組むことによって、経営に近い方に直接当社のサービスの価値をご説明したり、3年あるいは5年といったタームで建設DXやIT投資をどのように考えていらっしゃるのかお伺いしたりできます。また、地方の中小の建設会社様は銀行様とのお付き合いが深いこともあり、御行のご紹介というだけで話を聞いていただけるのも大変ありがたいですね。
対談写真05
宮田:
それは新たな気づきです。MUFGには明治時代まで遡る長い金融・銀行業の歴史の中で築かれた信頼や信用があり、そこをご評価いただく機会は多いのですが、御社が信用の壁を乗り越えるお役に立てているならうれしいですね。もちろん、その前提として御社のサービスが素晴らしいということがあるわけですが。我々のプラットフォームの発展と御社の成長戦略がリンクして、ウィンウィン(win-win)な形で進んでいけるよう、今後もビジクルをより一層充実させていきたいと思います。
稲田:
スタートアップにとっては、やはり、知っていただくということが第一歩であり最低限必要なプロセスなわけですが、これまでは残念ながら、その知っていただく機会が非常に少なかったように思います。今の宮田様のお話を伺うと、御行がその知っていただくための機会設定を積極的に増やしてくださっていることがよく分かり、これは多くのスタートアップにとって福音になります。
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宮田:
ありがとうございます。日本の経済を振り返ると、昭和・平成と我々銀行は金融機関として日本のものづくりを支え、日本社会の豊かさの創出に寄与してきました。そして今の令和の時代、我々に求められている大きな役割の1つが、御社のように社会課題を解決するとか、社会の非効率な部分を効率化した上で違う付加価値を提供していくお客さまのお手伝いをすることではないかと思います。ただ、そのお手伝いの仕方もこのコロナ禍でずいぶんと変わっています。そうした中で、我々はビジクルのようなユニークな取り組みを始めました。日本の企業、あるいは国民の皆さまの将来に向けた発展を、ワンストップで支えることができるのがMUFGなのではないかと思います。これは自負というより、そうあってほしいという次世代の従業員に向けた私の願いです。稲田さんは、いかがでしょうか?
稲田:
そうですね。新しいパーパスや、これまで培われてきた金融サービス、さらにはこれまで多くの日本企業を支えてきた経験を生かしながら、御行が新しい企業の若い経営者とソリューションやテクノロジーを一緒に創出していく。そうした流れをつくっていただけるのではないかという期待感があります。当社もスタートアップの一社として、そのプラットフォームの中で世の中に良いサービスを提供していきたい、と改めて思いました。
宮田:
我々自身、いろいろな業務に追われると、内向きになりがちです。しかし、下を向いていたり、パソコンの画面ばかり見ていたりしては、なかなかブレイクスルーできません。やはり直接お客さまにお伺いして、その中でお悩みや課題を共有させていただき、自分事としてそれに向き合い、解決のお手伝いをすることが大切かと。それによってお客さまと一緒に発展し、日本の社会を少しでも良くしていくことができたらいいと思います。本日は誠にありがとうございました。今後とも、よろしくお願い致します。
稲田:
こちらこそ、よろしくお願い致します。

プロフィール

宮田 敦(みやた あつし)

宮田 敦(みやた あつし)
株式会社三菱UFJ銀行
取締役副頭取執行役員
法人・リテール部門長
ウェルスマネジメント本部長

稲田 武夫(いなだ たけお)

稲田 武夫(いなだ たけお)
株式会社アンドパッド
代表取締役