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特定財産承継遺言とは? 知っておくべき効果と作成をする上での注意点
特定財産承継遺言とは? 知っておくべき効果と作成をする上での注意点

特定財産承継遺言とは? 特定遺贈との違いと作成するうえでの注意点

「土地Aを長男に相続させる」など、生前に遺産分割の希望を遺言として伝えておくことで、希望したとおりの相続が実現しやすくなります。こうした遺言を、特定財産承継遺言といいます。
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特定財産承継遺言とは

特定財産承継遺言とは、特定の遺産を相続人の誰に相続させるかを指定する遺言のことで、民法1014条2項に定められています。

内容は例えば「土地A・建物を長男に相続させる」、「土地A・建物を長男に、土地Bを長女に相続させる」、「遺産の1/2を配偶者に、1/4を長男に相続させる」といったものです。この時、特定の遺産を相続する長男や長女は、受益相続人と呼ばれます。
このように遺産と相続人を指定した遺言は、以前は「相続させる旨の遺言」と呼ばれていました。しかし、2019年7月に改正民法が施行され、「特定財産承継遺言」と呼称が変わりました。

一般的な相続の形

相続において、必ずしも遺言があるとは限りません。まず、遺言がない場合、相続がどのように進むかを架空のA家を例に解説します。

A家の相続(遺言がない場合)

<A家の家族構成>
祖父、父(被相続人)、母、長男、長女、次男
<遺産>
現預金、自宅土地建物、貸し駐車場の土地、賃貸アパートの土地建物

法定相続人と法定相続分

民法では、遺産を相続できる「法定相続人」の順位が定められています。配偶者は常に法定相続人となり、配偶者以外は次の順位に沿って法定相続人となります。
法定相続人と法定相続分

第1順位の法定相続人がいる場合、第2順位、第3順位の人は法定相続人になれません。A家の場合、子が3人いるため、第2順位である祖父は法定相続人にはなりません。A家の法定相続人は、母と子3人のあわせて4人です。

また、子が複数いる時は、法定相続分を頭数で割ってそれぞれの相続分を計算します。A家の場合、母が1/2、長男・長女・次男がそれぞれ1/6となります。

遺産分割協議

遺言がない場合、法定相続人が話し合って誰がどの遺産を相続するかを決めます。この話し合いを、遺産分割協議といいます。

この時、必ずしも法定相続分に応じて遺産を分割する必要はありません。法定相続分は、あくまで相続税の計算や法律上の手続きで用いられる基準です。

A家では、収益物件である賃貸アパートを誰が相続するかをめぐって、長男・長女・次男でトラブルになりました。裁判で争うこととなり、裁判費用に加えて本来なら支払わなくて済んだ余計な相続税の負担まで発生しました。

仮に相続人全員が遺産分割の内容に合意すれば、スムーズに不動産の登記手続きや相続税の申告手続き等を進められます。しかし、A家のケースのように遺産分割協議がまとまらないと、裁判にまで発展してしまうこともあります。数年にわたって親族間での争いが続くことも少なくありません。

特定財産承継遺言がある時の相続の形

特定財産承継遺言がある場合、相続の形はどうなるのでしょうか。争いが生じなかった場合と争いが生じた場合の2パターンを紹介します。

A家の相続(特定財産承継遺言がある場合)

A家の父(被相続人)は、生前に次のような特定財産承継遺言を作成していました。
「自宅土地建物は長男、貸し駐車場は長女、賃貸アパートの土地建物は次男に相続させる」
また父は、遺言のとおりに相続してほしいという想いを家族全員に伝えてありました。

子3人が遺言内容に納得したパターン

長男・長女も賃貸アパートを相続したい気持ちはあったものの、次男は子が多く生活費の捻出に苦労していることもあり、父の想いをくんで遺言どおりに相続することに同意しました。
特定財産承継遺言がある場合、指定された遺産は、遺産分割の対象ではなくなります。そのため、指定のない現預金について遺産分割協議を行いました。母と子3人で話し合い、法定相続分を参考に現預金を相続することになりました。

長男が遺言内容に納得しなかったパターン

長男は特定財産承継遺言の内容にどうしても納得できず、次男が相続する予定の賃貸アパートの土地建物を自分が相続したいと考えました。しかし、長男の不満に気づいた次男は、単独で賃貸アパートの土地建物の名義変更を行うことで、無事に賃貸アパートを相続することができました。
遺言がない場合、相続人全員の同意がなければ、名義変更などの手続きを行うことができません。しかし、特定財産承継遺言があれば単独で名義変更ができるため、被相続人の願いどおりの相続が実現しやすくなります。

特定財産承継遺言を作成するメリット

被相続人と相続人それぞれの視点から、特定財産承継遺言を作成するメリットについて解説します。

被相続人のメリット

被相続人のメリットは、希望どおりの相続が実現しやすくなることです。
どんなに仲が良い家族でも、財産が絡むと関係性にひびが入ってしまうことは少なくありません。被相続人の存命中は、言いたいことを言わずに遠慮しているケースもあるでしょう。遺言もないまま被相続人が逝去すると、遺産分割で話がまとまらず、争いに発展するリスクが高くなります。
こうした親族間のトラブルを防ぎ、資産を防衛しながら次の世代へと引き継ぐために、特定財産承継遺言を活用しましょう。

相続人のメリット

親が生前に「土地Aは長男であるお前に譲る」と家族の前で口にしており、当然相続するつもりだった。しかし、親の死後に急に兄弟姉妹が権利を主張し、親の生前の願いを叶えられなかった――。このような悲しい出来事が、実際に起きています。
親はどうしても「我が子は仲が良い、自分の希望を叶えてくれるはず」と甘く考えてしまいがちです。しかし、遺言を作成する手間を惜しんだ結果、希望どおりの相続が叶わなかった、というのはよくある話です。
親の生前に「遺言という形で正式に希望を形にしてほしい」と働きかけておくことで、家族の不和を避けられる可能性があります。
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特定財産承継遺言と特定遺贈の違い

相続にくわしい方の中には、特定遺贈とどう違うのかと疑問を持たれた方もいるでしょう。

遺贈とは何か

遺贈とは、遺言によって法定相続人やそれ以外の人に遺産を遺すことです。遺贈であれば、法定相続人以外の人に遺産を遺すことも可能です。
例えば内縁の妻は、法定相続人にはなりません。しかし、遺贈を用いることで、内縁の妻に遺産を相続させることも可能となります。
遺贈には、「遺産の1/2を内縁の妻に遺贈する」など割合を指定する包括遺贈と、「土地Aを甥に遺贈する」など特定の遺産を指定して引き継がせる特定遺贈の2種類があります。

特定財産承継遺言と特定遺贈の違い

過去に、特定財産承継遺言が遺贈に該当するかどうかが裁判で争われたことがあります。結果的に、裁判所は、特定財産承継遺言は「遺産分割の方法」を指定したものだと結論を出しました。
特定財産承継遺言と遺贈(特定遺贈)には、次のような違いがあります。
特定財産承継遺言と遺贈(特定遺贈)の違い

特定財産承継遺言の特徴とメリット・デメリット

特定財産承継遺言の特徴は、遺産を渡す相手が法定相続人に限定されていることです。その分、単独で不動産を登記できる、農業委員会の許可が不要といった手続き上のメリットがあります。
特定の法定相続人に遺産を相続させるなら、特定遺贈より特定財産承継遺言を用いた方が、簡単に手続きができます。また、単独で登記できるため、他の相続人から妨害を受けるリスクも減ります。
デメリットは、相続放棄をすると、特定財産承継遺言で指定された遺産を取得できなくなることです。

特定遺贈の特徴とメリット・デメリット

特定遺贈の特徴は、法定相続人以外にも遺産を引き継げることです。内縁の妻や、甥・姪など、法定相続人以外の人に特定の遺産を引き継げることがメリットです。また、特定遺贈により財産の遺贈を受けた法定相続人である受遺者は、遺言書に記載されていない遺産分割協議の対象となる相続財産及び債務に対して相続放棄をしながら、一方で遺言書で特定遺贈された財産を取得することもできます。
デメリットは、特定財産承継遺言と比べると、相続人全員の同意がいるなど手続きが複雑になりがちで、希望どおりの相続が実現しないリスクがあることです。

特定財産承継遺言を作成する手順と注意点

特定財産承継遺言は以下の流れで作成します。注意点と併せて確認しましょう。

作成手順

遺言書は自作することもできますが、書き方に誤りがあると、効力を失ってしまうリスクがあります。そのため、専門家からサポートを受けることをおススメします。特定財産承継遺言の一般的な作成手順は次のとおりです。
  1. 財産一覧を作成する。必要に応じて不動産の調査や評価等を行う
  2. 法定相続人の範囲と遺留分を確認する
  3. 相続の希望を整理する。生前贈与や税金の支払いについても検討する
  4. 遺言内容を決める
  5. 遺言を作成する

解釈が分かれる危険性

遺言の書き方によっては、解釈が分かれ、トラブルとなるリスクがあります。例えば「土地A・建物を長男に相続する」とだけ記載していた場合、次の3つの解釈ができてしまいます。

  1. 長男は土地A・建物のみ相続し、その他の遺産は長男以外の子どもで法定相続分に応じて分割する
  2. 土地A・建物を含む遺産を法定相続分に応じて分割し、長男が土地A・建物を相続する
  3. 土地A・建物を除く遺産を法定相続分に応じて分割し、長男はそれに加えて土地A・建物も相続する
仮に他の子どもが、長男が土地A・建物を相続することをよく思っていない場合、1.の主張をする可能性があります。一方、長男がより多くの遺産を相続したいと考えている場合、3.の主張をして、トラブルに発展するリスクがあります。
「記載のない遺産については、法定相続分に応じて分割する」といった文言を加えておくと、3.の解釈と確定するため安心です。また、把握していなかった遺産が発見された時も、スムーズに遺産を分割できます。

遺留分を請求される可能性

遺言書を作成していても、法定相続人の「遺留分」を侵害している場合、遺言どおりの相続が実現しない可能性があります。

遺留分とは、法定相続人が最低限相続できる遺産の範囲のことです。法定相続人には遺留分を侵害した金額に相当する金銭を請求する権利が認められており、遺言があったとしても、遺留分の請求には応じなければなりません。

遺留分が認められるのは、法定相続人のうち、配偶者と第1順位、第2順位の人です。つまり、配偶者・子や孫・父母や祖父母は遺留分が認められますが、兄弟姉妹には遺留分がありません。
遺留分は法定相続分をもとに計算されます。仮に法定相続人が配偶者と子3人のあわせて4人とすると、遺留分は配偶者が1/4、子3人がそれぞれ1/12です。

特定財産承継遺言の第三者対抗要件

特定財産承継遺言で遺産を相続する場合、第三者対抗要件に注意が必要です。
2019年7月の改正民法の施行によって、特定財産承継遺言があったとしても、法定相続分を超える部分については「登記等の対抗要件」を満たさない限り、対抗できないとされました。
A家の例でいうと、長男が次男より先に賃貸アパートの土地建物の登記手続きをして、遺産分割のトラブルを知らない第三者に譲渡するといった想定ができます。この時、次男は賃貸アパートの土地と建物の法定相続分を超える部分については、権利を主張できなくなります。
結果的に、「賃貸アパートをすべて次男に渡すのは嫌だ」という長男の妨害が実現し、遺言どおりの相続が叶わなくなってしまいます。
「登記等の対抗要件」を満たすためにも、特定財産承継遺言に従って不動産を相続した時は、速やかに登記手続きをしましょう。なお、書き方によっては思わぬトラブルを招いてしまうリスクもあります。
特定承継財産遺言は、法定相続人に対してご自身が希望したとおりの遺産の分け方ができるメリットがある一方で、要件を満たさないと相続人の間で思わぬトラブルを招いてしまうデメリットもあります。まずは制度についての理解を深め、「誰に、何をのこすのか」を検討することから始めてみてはいかがでしょうか。
円満・円滑な承継の実現のためには、この他にも多くのことを検討する必要があり、お一人で取り組むには大きなご負担をともないます。
「遺産の分け方」に思い描く姿やお悩みがございましたら、以下のお問い合わせフォームよりMUFGウェルスマネジメントにお考えをお聞かせください。想いの実現に向けどのような備えが必要か、資産承継の専門家として一緒に考えさせていただきます。
記事提供:株式会社ZUU
執筆者:木崎 涼(ファイナンシャルプランナー / M&Aシニアエキスパート)
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(2024年1月31日現在)
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