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CSRとは? 企業の社会的責任が経営や投資にもたらす変化を解説
CSRとは? 企業の社会的責任が経営や投資にもたらす変化を解説

CSRとは? 企業の社会的責任が経営や投資にもたらす変化を解説

CSR(企業の社会的責任)という考え方が、経営だけでなく投資や資産運用の世界でも注目されています。環境への配慮、地域社会との共生、ガバナンスの強化といった取り組みは、企業の信頼向上や持続的成長に直結し、企業価値を測る新たな指標にもなりつつあります。
本記事では、CSRの基本からその広がり、資産運用への影響までをわかりやすく解説。企業や個人が社会課題にどのように向き合えばよいか、資産運用に活かすためのヒントをお届けします。

CSRとは何か? 企業の社会的責任の基本を知る

CSR(企業の社会的責任)をめぐる昨今の状況 CSRの深化 SDGs (持続可能な開発目標)への対応
参考:CSR実態調査(経団連)資料

CSRの意味と語源、歴史的背景

CSRは「Corporate Social Responsibility」の略で、「企業の社会的責任」と訳される言葉です。1950年代にヨーロッパでその概念が提唱され、後に日本に輸入されました。
日本におけるCSRの歴史は、1956年に経済同友会が「経営者の社会的責任の自覚と実践」を促すために、CSR決議を行ったことに始まります。企業は自社の利益を追求するだけでなく、社会や環境への配慮も求められるという概念が起源とされています。
その後、1990〜2000年前後に、世界的に認知されるようになりました。
1990年代後半から多くの米国企業がCSRの取り組みを始め、2000年代に企業活動のグローバル化によって発展途上国の労働者を多数雇用したことをきっかけに、CSRの法整備が進みました。
EUでは、2000年に採択されたリスボン戦略(長期的な経済・社会改革戦略)の目標達成に向けて、CSR活動が強化されるようになりました。
そして日本では、2000年に起きた集団食中毒事件や2004年に起きた総会屋利益供与事件などの不祥事で失った消費者からの信頼を回復するために、CSRの重要性が広く社会に認識されるようになったのです。

CSRの7つの原則、7つの中核主題

CSRの基本概念として、「7つの原則」と「7つの中核主題」があります。7つの原則とはCSRを実践するうえでの「姿勢や価値観」を表し、7つの中核主題はCSRを具体的に展開する「取り組むべき分野」を表します。

7つの原則

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姿勢や価値観 説明
説明責任 Accountability 企業活動の結果について、株主をはじめとする関係者に対し、その責任を果たす義務がある。
透明性 Transparency 事業の意思決定や活動内容を、適切な情報開示を通じて明確にする義務がある。
倫理的な行動 Ethical behavior 企業として、誠実かつ公正で倫理に基づいた行動が求められる。
ステークホルダーの尊重 Respect for stakeholder interests 顧客、従業員、取引先など、利害関係者の意見を尊重し、それぞれの立場を考慮する義務がある。
法の支配の尊重 Respect for the rule of law 国内外の法令を遵守し、法制度に則った企業活動を行う義務がある。
国際規範の尊重 Respect for international norms of behavior グローバル社会の一員として、国際的な規範や慣習を尊重する倫理観が求められる。
人権の尊重 Respect for human rights あらゆる人々の人権を尊重し、その権利を侵害しないよう努める義務がある。

7つの中核主題

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取り組むべき分野 説明
組織統治 Organizational governance CSRを組織全体で実現するための経営体制や意思決定プロセスを整えること。
人権 Human rights 差別をなくし、適切な労働条件を確保するほか、児童労働や強制労働を排除すること。
労働慣行 Labour practices 雇用、労働安全衛生、人材育成、労使関係など、職場における公正な労働慣行を守ること。
環境 The environment 環境保全、気候変動対策、生物多様性の保護など、環境への配慮と対策を行うこと。
公正な事業慣行 Fair operating practices 贈収賄の防止、責任ある調達、公正な競争、消費者との信頼関係構築などを行うこと。
消費者課題 Consumer issues 製品の安全性確保、広告内容の透明化、個人情報保護、消費者からの苦情への対応などを行うこと。
コミュニティへの参画と発展 Community involvement and development 地域社会との連携、雇用創出、教育支援、文化保護など、コミュニティに貢献すること。
以上の原則と中核主題は、ISO26000(*)においてセットで定義されており、CSR経営を進める企業にとってのガイドラインとなっています。
  • ISO26000とは、2010年11月にISO(国際標準化機構)が発行した組織の社会的責任に関する国際規格。社会的責任に関する国際的に開発された包括的なガイダンス文書であり、持続可能な発展への貢献を最大化することを目的とする(経済産業省定義)。

なぜ今、CSRが重要視されているのか

CSRが重要視されるようになった理由として、気候変動や人権問題など、企業を取り巻く社会課題が多様化していることが挙げられます。CSR実践の目的が、これまで多かった企業が行う「良いこと」(社会貢献および慈善活動)から「社会課題の解決」(社会的責任)へと変化しているのです。
かつては緑化活動や資源の再利用、障がい者雇用支援などの社会貢献を通して、CSRを実践する自社の活動が認知されてきました。ところが最近は、国が目標とする政策に企業も達成義務を課せられるなど、CSRに具体的な数値の目標が加わっています。

CSR・ESG・SDGsの違いと関係性

企業が果たす社会的責任という観点で、CSR・ESG・SDGsは似たようなイメージがありますが、異なる部分も多くあります。ここでは、3つの言葉の違いをご紹介します。

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項目 CSR ESG SDGs
意味 企業の社会的責任。法令遵守・地域貢献など 環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)への配慮 国連が定めた2030年までの持続可能な開発目標(17目標)
視点 企業 投資家・金融市場 国家・企業・市民社会
主な目的 社会的信頼の獲得 投資判断基準 世界全体の課題解決
対象 企業活動全般 上場企業・投資対象 国・自治体・企業・市民社会
評価方法 定性的(事例・方針) 進捗指標(KGI/KPI) 進捗指標(達成率)
特徴 社会的貢献を重視 持続的成長やリスク管理、組織管理を重視 社会課題解決の姿勢を重視
CO₂削減、省エネ、地域貢献活動、社員の働き方改善 再エネ導入(E)、多様性推進(S)、社外取締役の活用(G) 目標7「エネルギーをみんなに」、目標13「気候変動に具体的な対策を」

ESG(環境・社会・ガバナンス)との違い

ESGは投資家が企業評価で重視する3つの非財務要素を表します。これに対してCSRは、企業の姿勢・行動全般を含む広い概念です。ESGはその中から投資判断に直結する評価軸を抽出したものです。
CSRが社会的信頼を獲得することを目的とするのに対し、ESGはその企業への投資判断の基準とすることを目的としています。また、CSRは企業活動全般の評価に関わるのに対し、ESGは環境・社会・ガバナンスが個別に評価されるという違いがあります。

SDGs(持続可能な開発目標)との違い

SDGsは2015年に国連が採択した17の目標と169のターゲットです。CSRやESGが企業行動・投資評価の枠組みであるのに対し、SDGsは国や社会全体で目指す国際的な共通目標です。企業はCSRやESGへの対応をSDGsの達成に結びつける形で活用することが多く見られます。その理由は、個々の企業が社会的責任を果たし、ESG対応を進める経営を行うことが、SDGsの17の目標の達成に資することになるからです。

CSRに企業が取り組む意義とは?

特に以下の3つの要素は企業経営において大きな意義を果たすので、CSRを強化する動機付けになります。

1.企業イメージの向上と顧客の信頼獲得

企業活動を行ううえで、会社が特に重視するのが顧客からの信頼獲得や企業イメージの向上です。企業の経営姿勢が消費者の購買行動に影響を与えるため、CSRへの真摯な取り組みが重要です。
身近な例では、外食業界のプラスチック資材を紙製に切り替えて環境負荷を軽減する取り組みや、小売業界のレジ袋削減への施策などが挙げられます。いずれも企業が社会的責任を果たしている姿が目に見えてわかるので、企業イメージの向上につながりやすい取り組みといえます。

2.人材確保・定着への好影響

人手不足が問題となる現在の雇用環境下において、優秀な人材を確保し定着させることは企業にとって大きな課題です。特に少子高齢化の進展から、若年層や特別な技術をもった専門分野の人材獲得競争は激しさを増しています。
その中で、社会的責任を果たす企業は、若年層や専門人材からの支持を得やすく、社員の定着率も高まる傾向にあります。
CSRが進んだ企業は、長時間労働を是正する働き方改革や、国籍・年齢・性別・宗教などさまざまな違いを持つ人たちが同じ組織で働くダイバーシティの推進にも貢献します。

3.法令遵守とリスクマネジメント

CSRはリスク対応の一環としても重要な役割があります。企業の経営に大きな影響を与えるのが不祥事や炎上などのリスクです。これらのリスクを未然に防ぎ、企業の持続可能性を高めるために必要なのが、CSR活動の一環としての法令遵守とリスクマネジメント(不確実なリスクの発生に備え、損失を最小限に抑える管理手法)です。
会社ぐるみの検査データの改ざんや社員による横領、パワハラ訴訟など、企業の不祥事は多くの場合、ニュースでも報道され社会問題となります。不祥事が起きた場合、多くの企業で弁護士を含む第三者委員会を立ち上げて再発防止に取り組みます。
一方、ネットでの炎上は事実だけで炎上するとは限らないので、やや事情が異なります。ネットで炎上する理由には「批判」「誹謗中傷」「デマ」などがあります。たとえば、不祥事を起こしたのはA社であるにも関わらず、同業のB社も「A社がやっているのだからB社だってやっているはず」という根拠のないデマを流されて風評被害を受ける可能性もあります。
そのため、企業ではリスクマネジメントとして、モニタリング体制を構築しているケースがあります。炎上検知ツールを使って、専門の担当者によるモニタリング業務を継続的に行い、炎上を未然に防ぐ対策を行います。

CSR視点を取り入れた「資産運用」の考え方とは

近年は世界的な傾向として、資産運用にCSR視点を取り入れて投資先を選ぶことが大きな潮流になっています。ここではCSR視点の金融商品の選び方や投資戦略について紹介します。

社会課題解決に貢献する金融商品の選び方

個人が社会課題解決に貢献する金融商品を選ぶにはどうしたらよいでしょうか。代表的な3つの商品で考えると、以下のような選択肢があります。

投資信託

新NISA(少額投資非課税制度)で多くの個人投資家が選んでいるのが投資信託の商品です。投資する企業を個別に選ぶ必要がなく、テーマごとに銘柄がパッケージされているため、初心者でも投資しやすいという特徴があります。投資信託の中にもESGやSDGsをテーマにした商品があるので、積立投資を行えば長期的に社会貢献とリターンを両立できます。

株式

個別の企業に投資する場合は、「ESGスコア」や「SDGsの企業ランキング」などのデータを参考に銘柄を選ぶ方法があります。これらのデータで上位にランクされているのは、ほとんどが各業界を代表する大企業なので、初心者が投資するのに相応しい銘柄が多くあります。100株以上の単元株を保有すると株主総会にも出席できるので、CSRへの取り組みについて質問することも可能です。

債券

債券では、社会や環境の持続的発展を支援するプロジェクトの資金調達のために発行される「サステナブル債」があります。たとえば、ある県では「ESG債」と銘打ち毎年サステナビリティボンドを発行しています。SDGsの推進に向け、集めた資金を環境問題、社会的課題の解決につながる事業に活用したものです。こうした商品は販売を委託された一部の証券会社で購入できる場合があります。

投資家に求められる倫理と責任

資本主義社会では資金を出す投資家なども、社会的責任を果たす姿勢(スチュワードシップ)が問われています。株主となる投資家には倫理と責任が求められるという点を心得て投資する必要があります。
また、人権面では、日本国内でも企業によるパワハラや過重労働、男女格差など多くの問題が指摘されています。
個人としてもこれら問題のある企業に投資することは、間接的にその企業を支援することになるので、倫理観をもって投資判断を行うことが求められます。

将来を見据えた運用戦略とリスク管理

CSRに配慮した運用は、短期的な利益ではなく、中長期的な成長や安定性を重視する戦略に適しています。
たとえば、先に述べたパリ協定の努力目標である気温の上昇を1.5度に抑えるには、2050年までに脱炭素化を達成する必要があります。これが2度であれば2075年までに達成とさらに長期的なロードマップが必要です。もし達成されれば異常気象の緩和などからマインドが好転し、世界的な経済の繁栄が訪れるかもしれません。そうなれば、運用している資産からも大きなリターンを得られる可能性があります。
ただし、長期間の運用の場合、いつ何が起こるかわからないので、リスク管理は必要です。1つの金融商品だけに集中投資するのはリスクが大きいので、ポートフォリオを分散することが望ましいです。

投資で実践するCSR

CSRは企業の社会的責任と訳されますが、個人も投資家の立場でCSRを実践することが可能です。自分に生かせることがあれば実践するのもよいでしょう。
投資家としてCSRを実践する方法には、企業が発行する統合報告書のCSRに関する項目をチェックすることや、ESGスコアで上位に評価されている企業を投資先に選ぶなどの方法があります。
たとえば、ESGブック社が提供しているESGスコアでは、E(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)の項目に分けてスコアが表記されています。したがって、自分が環境に配慮した経営を行っている企業を支援したいと思えば、環境スコアが高い企業の株式に投資することで実践できます。
持続可能な企業への投資が、社会的インパクト(活動や投資によって生み出される社会的・環境的変化)と長期的リターンの両立につながると考えられます。

まとめ CSRは企業だけでなく個人にも深く関わる

CSRは、企業が主体となるだけでなく、私たち個人の製品やサービスの選択、資産運用にも深く関わるものです。単なるイメージアップにとどまらず、企業が社会と共生していく姿がCSRでの取り組みに表れます。さまざまな社会課題が持ち上がる中、そうした課題への企業の取り組みや姿勢は、今後も経済や投資の世界でますます重視されていくでしょう。

記事提供:株式会社 ZUU

執筆者:丸山 優太郎(ライター)

監修:一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会 代表理事 安藤 光展

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(2025年12月26日現在)
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