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事業承継税制とは?安心して利用するために制度の内容や贈与税・相続税の仕組みを学ぶ
事業承継税制とは?安心して利用するために制度の内容や贈与税・相続税の仕組みを学ぶ

事業承継税制とは?
制度の内容・要件やメリット・デメリットをわかりやすく解説

円滑な事業承継を妨げる要因のひとつに、自社株式の引き継ぎに際して発生する多額の贈与税・相続税があります。「事業承継税制」は、こうした問題を解決するために創設された制度です。本記事では、この事業承継税制の概要をはじめ、利用するメリット・デメリット、手続きの流れや条件などを解説します。
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事業承継と事業承継税制とは?

まず事業承継や事業承継税制の概要を説明します。

事業承継とは

事業承継とは、先代経営者が後継者に事業を引き継ぐことです。事業承継には、主に次の3種類があります。
  1. 親族内事業承継
  2. 社内事業承継
  3. M&Aによる事業承継

中小企業の多くは、経営者が株主を兼ねています。そのため、事業承継では経営権だけでなく自社株式を後継者に引き継ぐケースが多くあります。

社内事業承継やM&Aによる事業承継では、自社株式を売却することが一般的ですが、親族内事業承継の場合、多くは生前贈与・相続によって自社株式を引き継ぎます。

この時、経営が順調だと、自社株式の評価額が想像以上に高額となり、多額の贈与税・相続税が発生することがあります。

事業承継の種類について、くわしくは下記をご覧ください。

事業承継税制とは

多額の贈与税・相続税が発生すると、予想外の支出で経営が圧迫され、円滑に事業承継することが難しくなります。この問題を解決するため、2009年度の税制改正で「事業承継税制」が創設されました。

事業承継税制を活用すれば、事業承継のために後継者が取得した自社株式にかかる贈与税・相続税について、納税猶予を受けられます。その後、一定期間にわたって要件を満たすと、猶予された税額は免除されます。

2018年度の税制改正では事業承継税制の活用を促進するため、新たに特例措置が設けられました。特例措置では、特例承継計画を提出することで、対象株式や納税猶予割合が拡充されました。特例承継計画の提出期限は、2018年の税制改正当初「2023年3月31日」でしたが、2022年の税制改正で1年延長され、「2024年3月31日」までとなっています。

事業承継税制は2018年度の税制改正で10年間の限定措置として要件が緩和され、さらに利用しやすくなりました。また、2019年度の税制改正では、個人向けの事業承継税制も新設されました。

個人版事業承継税制について、くわしくは下記をご覧ください。

贈与税・相続税の仕組み

事業承継税制について理解するためには、贈与税・相続税の仕組みを知っておかなければなりません。この章では、贈与税・相続税の仕組みと、計算例を紹介します。

贈与税の仕組みと税率

贈与税とは、個人から財産を贈与された人(受贈者)にかかる税金であり、受贈者が納めます。1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産の合計額から、基礎控除110万円を差し引いた金額をもとに計算します。

贈与税の計算式は次のとおりです。

  • (受け取った財産 – 基礎控除110万円)× 贈与税率 – 控除額 = 贈与税額
贈与税率と控除額は以下のとおりで、受け取った財産が大きくなるほど、税率も高くなります。
基礎控除後の財産の合計額 贈与税率 控除額
200万円以下 10% -
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円
出典:国税庁
  1. 贈与税率には一般税率と特例税率があり、直系尊属(祖父母や父母など)から18歳以上の子・孫などが贈与を受けた場合、特例税率が適用されます。ここでは特例税率を記載しています。
仮に、後継者に贈与した自社株式の評価額が5,000万円の場合、贈与税額は次のように算出されます。
  • (5,000万円 – 基礎控除110万円)× 贈与税率55% – 控除額640万円
    = 2,049万5,000円

相続税の仕組みと税率

相続税とは、被相続人(亡くなった人)から相続等で財産を受け取った人(相続人)にかかる税金で、相続人が納めます。相続税の計算の大まかな流れを記載します。
  1. 課税価格(相続税上の評価額)の合計額を計算し、負債の額と基礎控除を差し引いて課税遺産総額を計算する
  2. 課税遺産総額を、法定相続分に従って各相続人が取得したとして、各人の相続税額を計算する
  3. 各人の相続税を合算したうえで、実際に取得した財産の課税価格に応じて税額を割り振る
  4. 加算や税額控除を適用して、各人の納税額を計算する

相続税の基礎控除の計算式は下記のとおりです。もし、現預金や自社株式の評価額、不動産等のすべての財産の合計額が、基礎控除を下回っていた場合、相続税の申告や納税は必要ありません。

  • 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例えば、夫がオーナー経営者で、妻と子2人の3人が法定相続人というケースでは、基礎控除の金額は以下となります。
  • 3,000万円 + 600万円 × 3人
    = 4,800万円
続いて、相続税率と控除額を記載します。法定相続分に応じた財産の取得金額が高くなるほど、相続税率も上がります。
法定相続分に応じた財産の取得金額 相続税率 控除額
1,000万円以下 10% -
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円
出典:国税庁

仮に、基礎控除を差し引いた後の法定相続分に応じた財産の取得金額が1億円とすると、相続税額は次のようになります。

  • 1億円 × 30% - 700万円 = 2,300万円
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事業承継税制が設けられた理由

事業承継にまつわる贈与税・相続税は、なぜ後継者の大きな負担になるのでしょうか。

仮に先代経営者から現預金を5,000万円贈与された場合、2,049万5,000円の贈与税は、受け取った現預金から支払うことができます。しかし、自社株式を贈与された場合、受け取った自社株式をそのまま贈与税として支払うことができません。別途、納税額に見合う現預金を用意しなければなりません。現預金以外の財産の贈与を受けた場合は、後継者にとって納税の負担が大きくなります。
相続税の場合、相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に納税しなければなりません。予期せぬ状況で先代経営者に万一のことが起きた場合、後継者は短期間で納税資金を工面しなければなりません。期限を過ぎると延滞税等が発生し、納税額が増えてしまいます。相続税が想像以上に高額となり、後継者が納税のために金融機関から借り入れをするケースもあります。

こうした後継者の負担を軽減するため、事業承継税制が設けられました。

事業承継税制の仕組み

事業承継税制を活用すると、一定の要件を満たせば、後継者が取得した自社株式(非上場株式)にかかる相続税や贈与税の納税猶予が始まります。その後、一定期間要件を満たすことで、猶予された税額は免除されます。免除される税額は特例措置の場合、相続税が80%もしくは100%、贈与税が100%です。

事業承継税制には、一般措置と特例措置の2つがあります。どちらの制度を活用するかで、猶予される税額や対象となる株数等が異なります。それぞれの制度の違いを比較表で整理しました。

2018年度の税制改正では、事業承継税制の活用を促進するため、新たに特例措置が設けられました。特例措置では、特例承継計画を提出することで、対象株式や納税猶予割合が拡充されました。

特例承継計画の提出期限は、2018年の税制改正当初「2023年3月31日」でしたが、2022年の税制改正で1年延長され、「2024年3月31日」までとなっています。
  一般措置 特例措置
対象株式 発行済議決権株式総数の3分の2まで 全株式
適用期間 なし 2027年12月31日まで
特例承継計画の提出 不要 必要
納税猶予割合 贈与100%、相続80% 100%
後継者 筆頭株主である後継経営者1人のみ 持ち株10%以上の後継経営者3人まで
雇用確保要件 5年平均で相続・贈与時の80%以上を維持 実質撤廃
相続・贈与から5年後以降の減免要件 民事再生や会社更生の際、その時点での評価額で相続税・贈与税を再計算し、超える部分の猶予税額を免除 「経営環境の変化を示す一定の要件」を満たす場合、譲渡や合併による消滅・解散時にも一般措置と同様の減免を導入可能

事業承継税制を利用するメリット・デメリット

事業承継税制の利用には、メリットとデメリットの両面があります。どちらの面も把握したうえで、利用の可否を判断することが重要です。

事業承継税制のメリット

第一に、相続税や贈与税の負担を軽減できることです。事業承継にあたっては、通常自社の株価に応じて算出された税金を納付しなければなりません。しかし、事業承継税制を利用すれば、その納付義務が免除または猶予されるため、後継者は株の売却や多額の現金の用意などを課されずに、事業を引き継ぐことが可能です。
また、事業承継税制の特例措置を利用する場合は、後継者候補同士の争いを回避できるという利点もあります。特例措置では、最大3人までの後継者に承継するパターンも想定されているので、承継後に共同経営の形を取ることもひとつの手です。従業員などを後継者に指名したい場合の親族外承継のケースにおいて利用できる点も大きなメリットとして挙げられます。

事業承継税制のデメリット

免除が決定されるまでの期間が長く、この期間中は特例承継計画の認定後も、定期的に都道府県や税務署への報告をする必要があるため、手間がかかります。
また、納税猶予期間中に規定の取り消し事由が発生した場合は、猶予されていた税額に利子を加算して納付することになります。代表的な取り消し事由は以下のとおりです。
  • 後継者が代表者を退任した(精神障害や身体障害、要介護などやむを得ない状況を除く)
  • 同族の議決権数が過半数以下になった
  • 後継者の同族関係者が後継者より多くの議決権数を保有することになった
  • 納税猶予対象株式を譲渡した
  • 総収入金額がゼロになった
  • 資本金や準備金が減少した
取り消し事由は相続・贈与ともに20項目以上あります。くれぐれも取り消し事由に該当することがないように注意が必要です。
「事業承継税制」について、くわしくは国税庁および中小企業庁の公式サイトをご覧ください。

事業承継税制の手続きの流れ

事業承継税制の手続きの流れを見ていきます。

相続税のケース

  1. 特例措置を活用する場合、特例承認計画を都道府県庁に提出する
  2. 相続開始後、8ヵ月目までに都道府県庁に事業承継税制の申請をする
  3. 審査後、都道府県庁から認定書が交付される
  4. 認定書の写しを添付して相続税の申告書等を税務署に提出する
  5. 納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供し(特例を受ける非上場株式のすべてを担保提供すれば、見合う担保とみなされる)、税務署に申告する

この手続きによって、納税猶予期間が始まります。加えて、納税猶予が開始してからも次の手続きが必要になります。

<5年間>

  • 都道府県庁へ年1回「年次報告書」を提出する
  • 税務署へ年1回「継続届出書」を提出する
<5年経過後>
  • 税務署へ3年に1回「継続届出書」を提出する
5年経過後に、後継者がさらに次の後継者へと贈与する「猶予継続贈与」をすれば、相続税が免除されます。なお、5年経過前にやむを得ない理由で代表権をなくし「猶予継続贈与」をした場合、5年経過後に会社が破産や清算といった事態に陥った時や、後継者が死亡した時なども相続税は免除されます。
事業承継税制の仕組み(相続のケース)
事業承継税制の仕組み(相続のケース)

贈与税のケース

贈与税の納税猶予手続きは、基本的に相続税のケースと同じです。都道府県庁に事業承継税制の活用を申請する期限は、贈与が発生した年の翌年1月15日までです。納税猶予期間が始まってからの手続き、贈与税が免除される条件も相続税のケースと同様です。

ただし、贈与税の納税猶予期間中に先代経営者が死去した場合、贈与税は免除されますが、相続税の納税義務が発生するケースがあります。その際には、一定の手続きによって、相続税の納税猶予へと切り替えることが可能です。

事業承継税制の仕組み(生前贈与のケース)
事業承継税制の仕組み(生前贈与のケース)

事業承継税制を活用するための条件

事業承継税制には厳格な要件が定められています。相続税・贈与税それぞれの要件を見ていきます。

1.先代経営者が満たすべき条件

  • 会社の代表者であった
  • 相続開始または贈与の直前に、現経営者親族などで総議決権数の過半数を保有しており、筆頭株主であった
  • (贈与の場合)贈与時に代表者を退任している(有給役員として残ることは可)

2.後継者が満たすべき条件

  • 相続開始または贈与時、後継者と後継者親族などで総議決権数の過半数を保有することになる
  • 後継者が1人なら、最も多くの議決権数を保有することになる。後継者が2人または3人なら、総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有することになる
  • (贈与の場合)贈与時に20歳以上(2022年4月1日からは18歳以上)で、贈与の直前で3年以上役員であり、代表者である
  • (相続の場合)相続開始の直前に役員であり、相続開始から5ヵ月後に代表者である

3.会社が満たすべき条件

  • 中小企業者
  • 従業員が1人以上
  • 上場会社、風俗営業会社ではない
  • 資産管理会社等に該当しない

4.事業承継税制スタート後の条件

<5年間>

  • 後継者が会社の代表者で筆頭株主
  • 後継者が猶予対象株式を継続保有している
  • 雇用の8割以上を5年間平均で維持する

<5年経過後>

  • 後継者が猶予対象株式を継続保有している
なお特例措置では、雇用を維持できない場合、認定支援機関の指導や助言を受けたうえで、その意見が記載されている報告書を都道府県庁に提出すれば、納税猶予は継続されます。

事業承継税制を安心して利用するには専門家のサポートが不可欠

事業承継に際して自社株式の引き継ぎを行うと、後継者に大きな税負担が生じる場合があります。事業承継税制の利用は、この負担を軽減するために有効な方法ですが、非常に複雑な制度であり、利用にあたっては専門的な知識が求められます。税額への影響の大きさを考えると、税理士等の専門家のサポートを活用すると安心です。
MUFGウェルスマネジメントでは、グループの総合力を活かしたさまざまなソリューションを提供しています。事業承継でお困りの際は、以下のお問い合わせフォームよりぜひご相談ください。

記事提供:株式会社ZUU

執筆者:木崎 涼(ファイナンシャルプランナー / M&Aシニアエキスパート)

  1. 本記事は、2024年1月時点の税制、その他関連法規に基づく内容であり、今後の改正等により相違が生じることがあります。今後の関連法規の改正等により相違が生じることがあります。税法や法律に関わる個別、具体的なご対応は必ず税理士・公認会計士・弁護士等の専門家へご相談・ご確認ください。
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