

女性経営者がつなぐ承継への想い
松谷化学工業が受け継ぐ「経営理念」
兵庫県伊丹市に本社や工場を置く松谷化学工業は、1919(大正8)年創業の加工でん粉のパイオニア的存在です。 加工でん粉とは、キャッサバ(タピオカ)、トウモロコシ、ジャガイモ、小麦などからとれたでん粉を加工処理して、もちもち、サクサクといった食感を加えたり、保存性を高めたりしたもので、冷凍うどんやレトルトカレー、ロールパンなど幅広い食品に使われています。近年では、お茶や炭酸飲料などの特定保健用食品、機能性表示食品にも使われている「難消化性デキストリン」や「希少糖(アルロース)」などの機能性素材に力を入れています。食品以外の工業用品にも利用拡大しています。同社は、創業家が歴代の社長を務めてきたファミリー企業。2年前の2022年2月に、3代目の松谷晴世氏から4代目の阪本紗代氏へと経営がバトンタッチされたばかりです。
株式会社東京商工リサーチの調査結果(2023年)によれば、日本で創業100年以上の企業の割合はわずか1.2%に過ぎません。変化が激しい時代において世紀をまたいで事業を続ける松谷化学工業のような”長寿企業”は貴重な存在と言えるでしょう。同社は、2年前の松谷会長から阪本社長への承継が「女性経営者から女性経営者へのバトンリレー」であったことも注目されました。3代目から4代目へ、そして実の母から娘へ。承継の際に松谷会長と阪本社長はそれぞれ何を考え、バトンをつないでいったのでしょうか。松谷会長、阪本社長、阪本社長の夫である阪本喝治氏に、承継の際の想いやファミリー経営について、お話をうかがいました。
株式会社東京商工リサーチの調査結果(2023年)によれば、日本で創業100年以上の企業の割合はわずか1.2%に過ぎません。変化が激しい時代において世紀をまたいで事業を続ける松谷化学工業のような”長寿企業”は貴重な存在と言えるでしょう。同社は、2年前の松谷会長から阪本社長への承継が「女性経営者から女性経営者へのバトンリレー」であったことも注目されました。3代目から4代目へ、そして実の母から娘へ。承継の際に松谷会長と阪本社長はそれぞれ何を考え、バトンをつないでいったのでしょうか。松谷会長、阪本社長、阪本社長の夫である阪本喝治氏に、承継の際の想いやファミリー経営について、お話をうかがいました。
前任社長(現会長)の想い
子育てで多忙を極める娘への承継
悩みぬいた末の結論は「迅速果断」
悩みぬいた末の結論は「迅速果断」
―事業承継に踏み切るきっかけや、タイミングについてお聞かせください。
松谷会長
当時の娘は幼い長女の子育てに追われていたこともあり、母親としてそんな娘に経営者という重責を負わせることに全く迷いがなかったと言えば嘘になります。しかし、会社の存続を考えた時に一度決断したことはなるべく早く実行に移した方がいい、迅速果断の考えでいこうと思いました。それに、今のうちなら私も娘を見守っていくことができます。このタイミングを逃したら後がないと考え決断したのが2年前でした。

娘には社長として決断したことをやり遂げてほしい
―阪本社長に経営をバトンタッチされた際の想いをお聞かせください。
松谷会長
私は2006年に3代目社長となり、それから約12年間、会長職に留まった2代目社長の父・英次郎と“並走”する形で経営に当たってきました。父は自分のやりたいことをやりながら会社を大きくしてきた人、いわゆるトップダウン型の経営者でしたが、私は会社の将来を考え、合議制によるボトムアップ型の経営をしたいと考えました。父は表向きには私に対して異を唱えることはありませんでしたが、社員に対しては時折、私の方針に苦言を呈したりしていたようです。 こうした経験もあり、後継者である娘には社長としてやろうと決めたことをしっかりやり遂げてほしい、娘の意思を尊重したいという思いが強くありました。そのため、自分は行き詰った時の相談役や古参社員との橋渡し役に徹し、できる限りのサポートをしていこうと考えていました。
後継社長の想い

決断を迫られたときの軸となるのは「祖父」ならどうするか
―社長に就任されて意識の変化などがありましたらお教えください。
阪本社長
私は2011年に入社した後、しばらくの間、当時会長だった祖父の英次郎の秘書業務に携わっていました。今回の社長交代では、内定してから社長就任までの時間が短く、準備らしい準備もできませんでしたが、祖父と母がどのような話をしていたか、祖父がどのように人を判断していたかをすぐ近くで見てきたので、社長になって戸惑うことはありませんでした。祖父は経営者としての私の師であり、今でも大きな決断を迫られたり、困難な課題に直面したりする時は、まず祖父ならどうするかを考えています。祖父・母の背中を見ながら学んだ経験は、社長業をするうえで非常に大きな財産になっています。
夫は公私ともにサポートしてくれる最高のパートナー
―夫である喝治様への想いやご夫婦の役割分担についてお聞かせください。
阪本社長
経営者として、自分が「女性」 ということは特に意識していませんが、就任後に次女を出産し、母親業の負担は増えました。しかし、我が家は夫の理解もあり、育児も含めた家事はどちらか手の空いた方がやることをルールとしています。また、夫はビジネスの良きパートナーでもあります。私が社員に対してきつい言葉を口にした際、夫から「それは良くないよ」とたしなめられたことがありました。社長である私の言葉はどうしても社員にプレッシャーをかけることになってしまうので、苦言を呈すのは執行役員に任せて、私は「まぁまぁ」というなだめ役に徹すべきだというのです。困った時に夫や母に相談したり、助言をもらったりできるのは非常に心強く、夫と母が良き理解者でいてくれるからこそ、社長として、母として力を発揮できると考えています。
―社長をサポートするうえで、意識していることがあればお聞かせください。
阪本喝治氏
それぞれの役割を尊重し、ファミリー内で分担することを意識しています。女性だから、男性だからという考えは一切ありません。社長の一番身近な相談相手として、彼女が実務経験の乏しさに悩んでいた際には、実務経験を積んだ社員の協力を仰ぎながら、経営者として行うべき判断をすれば良いのではないかとアドバイスしたことがありました。経営者の役割としては、実務経験よりも、判断・決断が重要だと思ったからです。
ファミリー経営
松谷ファミリーに受け継がれる経営理念
―喝治様は松谷ファミリーをどのようにご覧になっていますか?
阪本喝治氏
外部からファミリーに入って、松谷化学工業がいかに社員を大切にする会社かを実感しました。社長が数年で変わってしまう会社と違い、当社では、短期的な収益を確保するために人材削減を行うことなどまずあり得ません。会社を長期にわたって存続させるためには何が重要なのか、創業ファミリーが一番よく分かっています。私たち夫婦には幼い娘が2人います。2人が将来当社の経営に携わるのかどうか定かではありませんが、娘たちの世代にいかに会社を残していくかは意識しています。会長も社長も「次世代につないでいく」という想いが非常に強く、そこは雇われ社長と大きく異なる目線だと感じています。

―ファミリー経営のメリットをお聞かせください。
阪本社長
創業家が何を大事に守ってきたのか、ぶれてはいけない軸は何か、むしろ時代の変化にあわせて発展させても良い軸は何か、といった「理念」を引き継いでいけるということが最大のメリットではないでしょうか。20年後、30年後に会社をどうしていきたいのか、長期的な目線で経営を考えられる点は非常に良いところだと考えています。
プロの支援で「自社株対策」や「ファミリー憲章」策定へ
―阪本社長はファミリー経営の課題をどのようにお考えですか?
阪本社長
松谷家の親族が増えていく中で自社株が分散してしまうことは2代目の祖父も心配していましたが、具体的な対策は打てていませんでした。一族内で会社への距離感に差が生まれ経営に関する考え方も多様化し、ファミリーをどう束ねていくべきかという新たな課題も生じてきました。そこで、三菱UFJ銀行のサポートを受け、同族経営の枠組みを表す「スリーサークルモデル(家族・経営・所有)」を意識しながら、「自社株対策」や、「ファミリー憲章」の策定に向けた準備を進めています。
大事なのは「人」「品質」そして「チームワーク」

―次の100年への意気込み、大切にしたいことをお聞かせください。
阪本社長
でん粉は日本人の生活をもっと健やかに、もっと便利にできるポテンシャルを秘めた素材です。その可能性を追求しつつ、でん粉の魅力がもっと世の中に知れ渡るよう道を拓いていきたいです。その実現に向け、当社が大切にしてきた「人」と「品質」に、もう一つ、「チームワーク」という要素を加えたいと考えています。プロ野球でも、ホームランバッターを揃えたチームが必ずしも優勝するとは限りません。他のメンバーへの思いやりや、皆が心を一つにして大きな課題を乗り越えようという気持ちを持つことで、イノベーションも起こり、会社がうまく回っていっていくのではないかと思います。幸いにして、当社には専門的な知見を有する数多くのメンバーがいます。一人ひとりの能力を「チーム」として引き出すことで、相乗効果を生み、松谷化学工業の力を最大限発揮したいと考えています。

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※記事内容・社名・役職はインタビュー時(2024年10月時点)のものです。
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