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ファミリービジネスの持続的発展に向けた対策 ファミリーオフィスや民事信託の活用方法
事業承継がはらむさまざまな問題、後継者にスムーズに事業を引き継ぐために取り組むべきこと

ファミリービジネスの持続的発展に向けた対策 ファミリーオフィスや民事信託の活用方法

現在日本には、約4,000社の上場企業がありますが、そのうちトヨタ自動車やファーストリテイリングなど、特定の親族が中心となって経営を行う、いわゆる同族経営の会社の割合が約半数を占め、非上場の中小企業まで含めると、その割合は9割を超えるともいわれています。

広く世界を見ても、ヨーロッパを中心とする有名ブランド企業などで同族経営が続けられており、企業継続において有効な手段の一つであることが明らかとなっています。そのような同族経営を支えるためには、一族にとって重要な価値観を維持・共有する体制を整えるための「ファミリーガバナンス」の構築と「ファミリーオフィス」の設立が有効であり、ファミリーの総意に基づいて特定の親族が保有する株式や不動産などの資産が、安定的に維持されることが重要となってきます。
しかし、国内では決して「ファミリーガバナンス」の意識付けが高いとはいえず、また、一族の有形資産・無形資産を管理する「ファミリーオフィス」を活用している企業はまだまだ少ないといえます。
本コラムでは、同族経営が発展していくために重要な要素である「ファミリーガバナンス」や「ファミリーオフィス」について詳しく解説していきます。
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ファミリーガバナンスとは何か、その必要性を解説

ファミリーガバナンスとは?

ファミリーガバナンスとは、同族経営にとって重要な価値を維持・発展させ、ファミリーの持続的な成長を実現するために、ファミリーの一体性を維持・強化する仕組みのことを言います。
「ガバナンス」は日本語で「統治体制」と訳されますが、近年上場会社を中心に企業継続に不可欠な要素として「コーポレートガバナンス」が叫ばれ、社会的にも「ガバナンス」というキーワードが広く認知されるようになりました。「コーポレートガバナンス」とは、以下のように定義されます。
「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。
(引用: 金融庁コーポレートガバナンス・コードより)

他方、ファミリーガバナンスは、同族経営の会社とファミリーの持続的な成長を実現するための統治体制であり、コーポレートガバナンスが重要視する「オーナーシップ(所有)」と「ビジネス(経営)」の視点に加えて、「ファミリー」の視点を加えた仕組みと言えます。

同族経営を行うにあたり考慮する必要があるガバナンスは、ファミリーガバナンスだけではありません。当然、コーポレートガバナンスも意識していく必要があり、コーポレートガバナンスとファミリーガバナンスを両立させていく必要があると言えるでしょう。

なぜファミリーガバナンスが必要なのか?

トヨタやファーストリテイリングなどの長寿企業には、一族間で共有されている価値観があるとされています。創業当時は、株式保有の方針や事業運営などの理念の共有ができていても、世代交代により一族の価値観がずれていくことは起こり得ることです。そのずれが、一族の団結を弱体化させ、ひいては意見対立により、ビジネス上の意思決定が困難になってしまうことも少なくありません。
このような事態を避けるために、一族の価値観や株式・不動産などの資産の承継に関する方針などを共有していく仕組みであるファミリーガバナンスの構築が有効とされています。

ファミリーガバナンスの未整備で起こり得るリスク

ファミリーガバナンスが未整備である場合は、先に触れたように、ファミリー間の団結の弱体化や、ビジネス上の意思決定が困難になってしまうこと以外にも次のようなリスクがあるとされています。
1.散財や婚姻などによるファミリー資産の流出リスク

ファミリーの資産を無意味な投資や私的な散財に利用してしまうことや、子どもや孫などの配偶者側への資産流出が発生する可能性があります。

2.後継者のフォロー体制が不十分であることのリスク

ファミリー内から選抜した後継者に適切な経営能力や十分な経験がない場合、本来はファミリー間でサポートすべきところが、むしろ後継者をめぐるファミリー間の対立のきっかけとなってしまい、結果として同族経営そのものがうまくいかなくなるリスクがあります。

3.後継者による暴走リスク及び資産の私物化リスク

後継者が他のファミリーメンバーの意見などを聞くことなく、いわゆるワンマン経営に陥ってしまうことや、ファミリーで管理する法人資産を私物化してしまうなどの行動が発生する可能性があります。

4.相続や意思能力喪失時に伴うリスク

一族内での相続が発生した場合や高齢などにより意思決定が困難となってしまった場合に、ファミリー内が混乱し、ファミリー全体の利益から乖離した意思決定がなされる可能性があります。

上記4つのリスクを低減させ、同族経営の維持・発展をめざす上で、ファミリーガバナンスの構築は重要と考えられます。
また、ファミリーガバナンスにおける相続対策の必要性について詳しく知りたい方は以下のコラムも参考にしてください。

ファミリーガバナンス構築のための具体例

ファミリーガバナンスを構築するためには、具体的にどのようなことを行えばいいのかを解説していきます。
ファミリーガバナンスの構築には、家訓や国の憲法に相当するファミリー憲章の制定、コミュニケーションを図るための継続的なファミリーミーティングの開催が必要とされています。そして、その運営主体としての位置付けが「ファミリーオフィス」となります。
以下は、岩崎彌太郎の母である美和が残したとされる岩崎家の家訓です。

一、人は天の道にそむかないこと。

二、子に苦労をかけないこと。

三、他人の中傷で心を動かさないこと。

四、一家を大切に守ること。

五、無病の時に油断しないこと。

六、貧しい時のことを忘れないこと。

七、常に忍耐の心を失わないこと。

引用:三菱商事 あゆみ「第1話 三菱創業者の陰に、しっかり者の母あり」より(2024年9月2日)

ファミリーオフィスとは?

ファミリーオフィスとは、ファミリー憲章やファミリーミーティングなど、スムーズな同族経営を実現するために、ファミリーが有する有形資産・無形資産を運用管理するプライベートカンパニーのことを指します。
似たような概念として、資産管理会社があります。資産管理会社とは、一族の保有する資産を運用管理するための“器”としての機能を持つプライベートカンパニーです。保有資産の運用管理機能を有する点はファミリーオフィスと共通しますが、一族の保有する共通の価値観や社会的使命などの無形資産の承継も含んでいない点が異なります。

前述したように、ファミリーオフィスは一族の発展や同族経営の持続的な成長を促すために有形・無形の資産を運用管理することから、次のような3つのサークルをワンストップでカバーする機能が求められます。

スリーサークルモデル
(出典:スリーサークルモデル「Tagiuri and Davis,”Bivalent attributes of the family firm”(Family Business Review1982) をもとに作成)

ファミリーガバナンス構築のための代表的な手法「民事信託」とは?

民事信託とは、信託契約を締結することにより、信頼できる親族などの受託者に財産管理を託すことが可能となる制度です。この民事信託をファミリーガバナンス構築のために活用する方法を解説していきます。
・議決権を分離した自己信託の活用
経営者が生前に後継者へ会社の株式を譲っておきたいと考えてはいるものの、議決権自体はまだ自身で保有しておきたいというニーズは多く存在します。そのような場合には、「議決権を分離した自己信託」の活用が有効です。

これにより、経営者の生前において、配当などの経済的価値である受益権を後継者に移転させることができる一方で、法人の議決権は経営者に残し続けることができます。

・受益者連続型信託の活用
さらに、「受益者連続型信託」を合わせて活用することにより、万が一後継者が先に亡くなった際の次の後継者を指名しておくなど、経営者の意思を反映して、あらかじめ受益者となる後継者の順番を決定しておくことも可能です。

民事信託の主なメリットと留意点

<主なメリット>
・経営者の意思を反映した事業承継が可能
相続とは異なり、経営者の存命中、かつ意思能力が十分にある状況で信託契約を締結することとなるため、経営者の思いを反映した事業承継が可能です。また、これにより後継者争いのようなトラブルを事前に防ぐことができます。
・経営の空白期間を発生させない
後継者が明確に決定しているため、経営者が亡くなった場合にスムーズに経営を引き継ぐことが可能です。また、一般的な相続の遺産分割手続に比べて手続きがスムーズで、次世代の経営に注力することが可能です。
さらに、受益者連続型信託を利用することにより、万が一次の後継者が先に亡くなった場合も、その次の後継者へスムーズに事業を承継することができるため、経営の空白期間が発生しません。
・財産価値が上昇する前に承継可能
税務上は信託により受益権が後継者に移転した時点で贈与税の課税対象となるため、対象となる法人株式の株価がその後上昇した場合、結果的に低い評価額で贈与できたことになります。
<主な留意点>
・財産管理以外の委託はできない
民事信託は財産を対象とした信託契約となっているため、老後の身上看護などを約束する権限などは指定することはできません。
・信託契約後に発生した事象に対する対応が必要
信託は10年以上先の将来を見据えて設計されることが通常です。そのため、経営者の当初の意思と異なる状況が後々発生した場合には、トラブルの原因となる可能性があります。そのため、あらかじめ信託契約が解除できる条項を準備しておくなどの対応が必要です。
また、贈与全般に言えることですが、後継者へのスムーズな株式などの移転はできたものの、相続人から遺留分に基づく侵害請求などをされる可能性があり、相続財産をめぐってファミリー間のトラブルに発展する可能性があります。
・課税が高額になる可能性がある
信託契約によっては、思いがけず高額な贈与税を課される可能性があります。例えば、委託者である経営者が受益権を保有している状態では問題ありませんが、後継者などへ受益権を移転させるようなケースでは、贈与税などの課税が発生する可能性があります。

家族信託とは

ファミリー間の信託に特化した民事信託が家族信託と呼ばれています。家族信託は、現経営者を委託者兼受益者、後継者を受託者に設定することが一般的です。ファミリーメンバーが高齢化して判断力の低下が起きる前に、信託契約を締結することでファミリーに関するトラブルを回避しておきたいというニーズが高まっているため、ますます注目されています。

まとめ

ここまでファミリーガバナンスやファミリーオフィス、民事信託の活用方法について解説してきました。
大切にしたい価値観はファミリーごとに違うでしょう。そのため、ファミリーオフィスを活用したファミリーガバナンスのあり方も、ファミリーごとに異なります。
具体的に相続対策やファミリーガバナンスの構築をどのような形で進めるかの検討を行う場合には、専門的知識があり、ファミリーから独立した視点でのアドバイスが期待できる弁護士や税理士などの専門家に事前に相談することをおすすめいたします。
記事提供:株式会社ZUU
執筆者:風間啓哉(風間会計事務所代表 公認会計士 / 税理士)
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(2025年4月4日現在)
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