

非上場企業が自社株買いをする場合のメリット・デメリット
会社が株主から、自らの株式を買い取る「自社株買い」は上場会社だけでなく、非上場企業でもよく見受けられます。非上場会社が自社株買いを行うとどのようなメリットを得られるのでしょうか。
自社株とは
自社株買いとは
「自社株買い」とは、発行会社が自社の株式を他の株主から買うことをいいます。
以前は、一度払いこまれた資本は、会社の債権者保護の観点から維持する必要があるとされており、原則として禁止されていました。
しかし、自社株式を自由に取得することは米国をはじめとする他の国々では一般的な取引とされており、いったん取得した自社株式を売却して資金調達を行う手段としても利用されています。
そうした流れから、日本においても、2001年の商法改正で自社株式の取得及び保有規制が見直されるとともに、2006年に施行された会社法では、自社株式の取得手続きが緩和されることになりました。
上場企業の自社株買い
上場企業では、経営の安定化を図ることや、経営者からの株価に対するメッセージとして自社株買いが多く行われてきました。株主は保有する株式数に応じて議決権が得られ、株式を多数保有すること(割合や株式数は企業によって異なる)で、経営方針等の決定に影響を及ぼすことができるようになります。
自社株買いを行うことによって、市場での発行済株式数が減少することとなるため、既存株主の議決権比率を高めることができ、経営者にとって都合の良い株主に議決権を多く保有してもらうことで、敵対的買収を防ぐなど、経営の安定を図ることができます。
また、自社株買いを行うことによって、一株あたりの利益や株主資本利益率が上昇することになり、それに伴って株価も上昇します。自社の株価が割安だった場合は「カンフル剤」となるのです。
非上場企業の自社株買い
1.株主の売却ニーズに応じるため
株式を保有していた個人の株主が、相続や贈与等の何らかの事情により株式を現金化したい、というニーズがあります。
ただし、非上場企業の場合には、自由に株式を譲渡できる市場がなく、一般的に売却が困難とされています。そのため、保有する非上場株式を売却して現金化したいと思う株主が、株式の発行元である企業に対して、保有する株式の買い戻し請求をし、株式を現金化するケースがあります。
株主は保有していた非上場株式を現金化することができ、企業としても見ず知らずの第三者に株式を譲渡されず、自社株買いによって株主数が減少し、株主管理が効率的になり、株式の分散化を抑制できます。
2.株主への利益還元のため
企業が自社株買いを行った場合、企業が保有する株式については議決権が認められません。
加えて、発行済株式総数からマイナスされることになり、財務指標である一株あたりの利益が増え、結果として、株式の価値が増加するため、株式を保有する株主への利益還元になるととらえることができます。
3.役員・従業員への報酬の支払い手段として活用するため
自社株買いを行って保有株式を増やし、ストックオプションなどを通じてその自社株を役員や従業員に付与するケースもあります。
役員や従業員は自社株を取得することで株主にもなり、業務をとおして企業価値を高めることができれば、個人資産も増加することになります。企業への貢献や自身の働くモチベーションの向上にもつながることが考えられます。
非上場企業の自社株買いのメリット・デメリット
自社株買いのメリットとデメリットを理解するには、自社株買いという取引を、買い手である発行会社(株式会社)と売り手である株主の2つの立場から考える必要があります。
まず、自社株買いは買い手である株式の発行会社にとって、株式を発行して資金調達を行う取引とは全く逆の取引となり、会社資金を社外に流出することで自社株を取得することになります。そのため、資本取引として扱われることとなります。
他方、譲渡する株主側にとっては、保有する株式という有価証券を譲渡する取引であり、譲渡取引になります。
それぞれの立場を念頭におきながら、メリットとデメリットを見ていきます。
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メリット | デメリット |
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株主側 (売り手側) |
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発行会社側 (買い手側) |
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非上場企業が自社株買いを行うメリット
1.売り手である株主のメリット
- 現金化や納税資金確保の手段
相続税の支払いは原則として現金で納付しなければなりません。その納税資金を捻出するために、相続人である株主が自社株を売却して現金化するケースがあります。
すでに述べたとおり、非上場企業の場合は、取引相場が存在しないため、株式を保有する株主にとっては株式を現金化するハードルが高くなります。また、資産価値が高い企業や業績が好調の企業であると、その企業の株式の価値が高額になることが少なくありません。
そうした際に、相続人である株主が、被相続人から引き継いだ自社株を発行会社に買い取ってもらい譲渡代金を受領することで、納税資金を確保するケースがあります。
- 事業承継のための手段
事業承継するために保有する株式を後継者へ引き継がせたい、と考える経営者は相当数いるのではないでしょうか。
しかし、後継者に株式を取得するための十分な資金がないケースは多々あります。そうした場合に、現経営者の株式を会社がいったん買い取る方法があります。
株主が現経営者のみの場合には、自社株の議決権がないために、後継者は少ない株式を保有するだけで議決権の過半数をおさえることができます。
2.買い手である発行会社のメリット
- 経営の安定化
一般的に非上場企業では、定款によって株式の譲渡制限をしていることがほとんどであり、見ず知らずの第三者が株式を買い占めて企業を乗っ取るようなことはあまり考えられません。
しかし、老舗と呼ばれるような、歴史があり家族経営を行っている企業などでは、相続を繰り返すうちに株式が経営者以外の親族などに分散し、大株主が不在となってしまうケースも散見されます。
また、親族間で株式が分散所有されたことの影響として、親族間で経営の主導権争いが起きてしまう、といったトラブルも発生しやすくなります。
こうしたトラブルを避けるために自社株買いを行うことで、株式の分散化を防止し、経営を安定化させるケースがあります。
- 株主への利益還元
前述のとおり、買い取った自社株は発行済株式総数から除外され、一株あたりの利益は高くなり、既存株主が保有する株式価値が向上することになります。
自社株買いのデメリット
では逆に、自社株買いは売り手である株主、自社株を買い取った会社双方にどのようなデメリットがあると考えられるのでしょうか。
1.売り手である株主のデメリット
- みなし配当の可能性
みなし配当とは、自社株買いにより得た資金の一部について、株主は会社から配当金を受領していないにもかかわらず、株主に対する利益の分配を行ったとみなされて課税される税制のことをいいます。みなし配当の金額は、受け取った売却代金から、その株式に対応する資本金などを差し引いた額となり、計算式は次のようになります。

株主Aからすると、B社株式を取得した時点の500と売却時の1,000との差額が譲渡益になると考えることが通常ですが、自社株買いを行った場合には、みなし配当を考慮する必要があります。
すなわち、自社株買いを行った時点の売却株式に対応するB社の資本金等の額700と、取得時の価額である500との差額200が譲渡所得として扱われます。また資本金等の額を超えた買い取り価格との差額300がみなし配当となり、配当所得として扱われることになるのです。
なお、相続が発生し、相続人が納税資金を捻出するため、相続した非上場株式を発行会社に買い取ってもらう場合があります。このような場合で一定の要件を満たした時は、みなし配当に相当する金額を含む全額が譲渡所得になる特例があります。
株式の譲渡所得となれば、税率は20.315%となるため、みなし配当に相当する金額については、総合所得で課税される税率よりも低くなる可能性があります。
2.買い手である発行会社のデメリット
- 資金の社外流出
自社株買いを行う場合は企業の手元資金が社外へ流出することになり、企業の資金が十分でない場合は、資金繰りを悪化させる要因になることがあります。
- 源泉徴収の必要性
非上場企業の自社株買いにおいて、前記したみなし配当に該当した場合は、企業側で20.42%(2022年1月時点の税制)が源泉徴収されます。
- 自社株式処分時の手続きやコスト負担
企業が取得した自社株は、将来利用するために金庫株としてそのまま保有することもできますが、処分・消却する手続きを行うこともできます。その場合は、取締役会や株主総会の決議、公告等の手続きが発生するほか、コスト負担が必要になるケースもあります。
自社株買いを行う場合の留意点
- 会社法上の規制
会社法では、株主保護の観点から自社株の買い取りができるケースを限定しています。また、買い取りができるケースに該当しても、買い取りができる自社株は、配当を行うことができる財源と同様の分配可能額の範囲内に限られます。
- 自社株買いを行った後の株主構成を想定
前述のとおり自社株として取得した株式には議決権がないため、一度に大量の自社株買いが発生すると、残った株主間の議決権比率が想定外に変化する可能性があります。
- みなし配当が生じる場合の源泉徴収
- 買い取り価額
高すぎても安すぎても税務上、課税が発生する可能性があるため、適正な価額で取引を行う必要があります。
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執筆者:風間啓哉(公認会計士 / 税理士)
- 本記事は、2022年1月時点の税制、その他関連法規に基づく内容であり、今後の改正等により相違が生じることがあります。本記事は情報提供を目的としており、投資等の勧誘目的で作成したものではありません。商品の購入時にはお客さまご自身でご判断ください。本記事は、当行が信頼できると判断した外部執筆者に執筆を依頼したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本記事の記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答えしかねますので予めご了承ください。また、本記事の記載内容は、予告なしに変更することがあります。銀行からの融資には所定の審査があります。審査の結果、ご希望に沿いかねる場合があります。遺言信託や遺産整理業務等の相続関連業務については、当行は三菱UFJ信託銀行の信託代理店としてお取り扱いいたします。当行は信託代理店として媒介をいたしますが、当行には、契約締結に関する権限はなく、ご契約に際しては、お客さまと三菱UFJ信託銀行が契約当事者となります。
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