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事業承継における後継者育成のポイントと、正しく育成するための「サクセッションプラン(後継者育成計画)」を学ぶ
事業承継における後継者育成のポイントと、正しく育成するための「サクセッションプラン(後継者育成計画)」を学ぶ

事業承継における後継者育成のポイントと、正しく育成するための「サクセッションプラン(後継者育成計画)」を学ぶ

日本政策金融公庫総合研究所の「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」によると、日本の中小企業のうち後継者が決定している企業は10.5%、廃業を予定している企業は57.4%と半分以上を占めています。
また、帝国データバンクの約27万社を対象とした2022年の調査(全国企業「後継者不在率」動向調査)で、後継者が「いない」、または「未定」と回答した企業は57.2%にあたる15.4万社にのぼりました。

このように経営者にとって、ふさわしい後継者がいないこと、後継者が育っていないことが大きな問題になっているのです。

経営者は自身が年齢を重ねていく中で、事業を継続していくために事業承継を視野に入れます。

事業承継には「親族内事業承継」「社内事業承継」「M&Aによる事業承継」「IPO」の4つの種類があります。
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事業承継4つのパターン

「親族内事業承継」とは、その名のとおり現経営者の親族へと事業を引き継ぐことです。経営者のご子息・ご息女以外に、甥や姪など、他の親戚に引き継ぐケースも含まれます。「社内事業承継」とは、親族以外、つまり社内の役員や従業員に会社を引き継ぎます。どちらも後継者の育成が重要になってきます。
一方、「M&Aによる事業承継」はM&Aを通して後継者に相応しい人物(企業)を探し、会社を引き継ぐことを指します。「IPO」は、株式を公開することで資金を調達し、認知度が向上することで優秀な後継者候補を探しやすくなるのが特徴です。
これらの4つが事業承継のパターンとなります。それぞれの方法にメリット・デメリットがありますが、特に「親族内事業承継」「社内事業承継」のどちらかを考えている経営者は後継者育成を早期に進める必要があります。

後継者の育成

後継者育成はなぜ必要なのでしょうか。後継者候補が会社を任せられるに値する優秀な人物であればそれほど準備はいらないのでは、と考える経営者もいるかもしれません。

後継者育成とは?

後継者育成とは、主に、会社の今後の経営などを担う人物を教育することです。場合によっては、後継者の選定や、承継後の定着まで含むこともあります。
会社が存続する限り、経営者はいずれ引退することとなります。何も手を打たなければ、次に経営を担う後継者が不在となります。経営の担い手がいなければ、当然ながら会社は立ち行かなくなり、従業員や取引先、さらには株主にまで多大な影響を与えることになるかもしれません。

後継者育成が必要な理由

大きな理由は、経営上の不測の事態が起こりうるおそれがあるからです。現経営者が多くのことを1人で担っている場合、その経営者が事故に遭ったり、あるいは突然大病を患ったりして会社が立ち行かなくなるケースがあります。
そうしたときに、現経営者が持つノウハウや人脈などが引き継がれていれば、スムーズに事業承継が進み、事業低迷のリスクを抑えることができます。
また、こうした突発的なケースではなく、あらかじめ計画を立てて後継者を十分に育成し事業承継を進める場合も、入念な準備を行うことにより、新経営者のもとスタートダッシュを切ることができる可能性が高まるでしょう。

後継者がいない経営者がやるべきこと

後継者がいない場合は、どうすればよいのでしょうか。後継者不在の経営者が行うべきことを解説します。

4つの選択肢を検討する

後継者不在の経営者にとって、この問題に対して採るべき選択肢は4種類あります。それは親族内・社内人材の育成、第三者に売却(M&A)、IPO(株式公開)、そして廃業です。基本的には、この中から1つを選んで実行することとなります。
それぞれの選択肢について説明します。
  • 親族内・社内人材の育成
親族や社内の人材(役員など)を後継者として育成し、事業を承継します。親族や社内の人材に経営権を渡せば、これまで社内で形成された価値観があるため、スムーズに引き継ぐことができます。育成には時間がかかりますが、社内でハレーションが起きにくい方法です。
  • 第三者に売却(M&A)
親族や社内の人材以外の第三者に売却することでも事業承継は可能です。冒頭でお伝えしたとおりの後継者がいない問題に対する解決策として注目を集めています。
親族内・社内人材を育成する方法と比較すると、後述するIPOとも似ていますが、世間から広く優秀な候補者や企業を求めることができます。
  • IPO(株式公開)
ある程度の規模がある会社の場合はIPO、すなわち株式上場をすることによって事業を承継する方法があります。
上場企業になることによって、事業を引き継ぐことができる人や企業に経営権を渡します。上場することで会社の知名度が向上し、優秀な人材の目に留まる可能性が上がり、後継者を選ぶときにより相応しい人に任せることができるのです。
また、上場し株式を公開することで自社株を売却し、売却益を得ることができるので、納税資金にあてることができます。
  • 廃業
事業を引き継ぐ人が見つからない場合は廃業を検討することとなります。廃業は、一般には、会社を解散させるなどして事業を完全に終わらせることです。
その場合、全従業員を解雇し、これまでの契約を解除し、資産や負債を清算した後、会社をたたんで事業を完全に終わらせることとなります。従業員や関係各社への影響が非常に大きくなりやすいため、廃業は慎重に検討する必要があります。

後継者育成にかける時間

やや古いデータになりますが、2011年に独立行政法人中小企業基盤整備機構が公表した1万社対象の「事業承継実態調査」で、「後継者の育成は、承継予定時期の何年前から始めたほうが良いとお考えですか」という問いに対し、「5年くらい前」が24.8%、「5〜10年くらい前」が29.4%と、半数以上が5年以上必要と考えているようです。
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後継者育成の方法

大きく分けると、社内での育成と社外での育成の2種類の方法があります。

1.社内での育成

社内で育成することで、会社や経営者がこれまで蓄積した経験や知識をシェアしながら後継者を育てることができます。方法として主に以下の3つがあります。
  • 経営に関わる部門に勤務させる

経営に関わる部門や近い部門に勤務させることで業務内容を理解させ、専門的知識を習得させます。また別の考え方として、会社全体の理解を深めるために、さまざまな部署を経験させる方法もあります。

育成の過程では、さまざまな知識や経験の獲得が必要となりますが、通常、外部の研修などでは得られない、各社固有の知見を得る必要があります。例えば、会社の業務の流れ、会社や特定の部署内でのみ使われている用語や、それらの中で蓄積されている知識などです。
また、他の従業員などと一緒に従事することにより、お互いの心証を良くし、今後経営を担うときも良好なコミュニケーションが取れるようにすることも求められます。
  • 幹部クラスの役職に就かせる
いきなり代表に抜てきするのではなく、幹部クラスの役職に就かせるなど段階的に経営に参画してもらい、徐々に学ぶように取り計らいます。また近しい手段として、子会社などの関連会社の代表に就かせて経営を学んでもらう方法もあります。
いきなり代表とせず、幹部クラスに就かせることで、経験を積ませ、経営者となるのに必要な経営の心構え、リーダーシップなど、生きた知識を身につけてもらうことが期待できます。
  • 経営者が自ら指導する
経営者自身のみが持っているスキルや知識、また、理念や想いもあるはずです。これは経営者自らの指導でしか伝えられません。そのため、経営者としての心構え、経営理念、ノウハウといった経営者本人しか持ち得ない知識、経営に関する自社の経営状況や外部の経営環境の状況などを伝える必要があります。経営者自らが、後継者との間にあるギャップを埋めることは大切なプロセスの1つです。

2.社外での育成

社外で育成することで、社内にはない情報や、経営者としてのスキルを身につけてもらいながら成長を促すことができます。方法として主に以下の2つがあります。

  • 他社に勤務させる
取引先など他社に勤務させることで、自社では得られない経験や知識を積み重ねることができます。また、所属先が変わって業務範囲が広がることで新たな人脈ができる可能性もあります。
経営をするうえで柔軟な思考や意思決定は大切です。社内で育成するだけでは身につけられない経験や知識を社外で身につけることで、視野の広い、強く柔軟な後継者の育成につながります。
  • セミナーやワークショップに参加させる
短期間で知識や能力を習得させるためにセミナーやワークショップに参加させる手段もあります。セミナーやワークショップを受けることによって社内の経験では得ることができない、最新の制度や事業に関する知識などを効率的に取得し、それを自社で実践できれば、よりスピーディーな成長が期待できます。
後継者育成の方法としていくつか提示しましたが、もちろん1つに限定する必要はありません。経営に関わる部署で段階的にポジションを上げながら、一方で定期的にセミナーなどの機会も提供し、手厚く育成することが大切です。

正しく育成するための「サクセッションプラン(後継者育成計画)」

後継者を正しく育成するためには、経営者はどのようなプロセスで進めるべきなのでしょうか。後継者育成を進めていく際の計画を「サクセッションプラン(後継者育成計画)」といい、この言葉は広義で幹部人材の育成計画と捉えられることもあります。

サクセッションプラン(後継者育成計画)とは

一般的に後継者の見極めから、後継者を育てあげるまでの一連の計画を指しています。また、その計画にとどまらず、実行部分も含めた意味合いで使われることもあります。

  • 作成の手順
後継者育成におけるサクセッションプランであれば、定めるゴールは後継者への事業承継完了となります。一方、経営者によって異なるのはスタートのタイミングです。

すでに後継者になる人物が決まっているのか、それとも候補の中から選ぶ段階なのか、あるいは候補を選定するところからなのか。また、事業承継の推進にあたって後継者候補の選定前に、会社をどうしていくかという全体像から決めていく経営者もいます。

ケースバイケースで多少の前後はありますが、基本的には以下のような順で進めていくことになります。育成途中に後継者としては難しいと感じたり、後継者側から辞退されたりした場合は、あらためて「後継者となる人物像の設定」から練り直す必要があるでしょう。
  1. 会社の今後の全体像設計
  2. 後継者となる人物像の設定
  3. 後継者候補の選定、筆頭候補の選定
  4. 設計した会社の方針と後継者の意見とをすり合わせる
  5. 後継者候補の育成
  6. 事業承継の実行

まず「会社の今後の全体像の設計」は、自社のあるべき姿や経営戦略を定め、それに応じた会社の全体像を作りあげることです。そして、その全体像をもとに「後継者となる人物像の設定」をします。

「後継者候補の選定、筆頭候補の選定」は求める人物像に沿って行います。はじめから候補を1人に絞ってもよいですが、できれば比較できるように複数の候補を選定できるとより安心です。
「設計した会社の方針と後継者の意見とをすり合わせる」 工程では、選定した後継者の意見を今後の方針に取り入れます。現経営者と十分なコミュニケーションを取り、方針を見直すプロセスにより、後継者の主体性が醸成され、会社経営の自分事化を促します。
「後継者候補の育成」は先ほど紹介した育成方法などで時間をかけて、後継者(経営者)にふさわしい能力を身につけさせます。十分に育てあげたら後継者を新しい経営者に据えるべく「事業承継の実行」を進めます。

成功に導くためのポイント

サクセッションプランを立てても計画どおりにできなければ意味がありません。後継者育成においてはいくつかの注意すべきポイントがあります。

  • 後継者選定のポイント

事業承継を考える経営者は今後の会社の全体像が決まったら、それにマッチする後継者を探します。その際、選定基準を明確にすることが重要です。

ふさわしい後継者のイメージができたときに、経験やスキル、人脈などを客観的に判定ができる具体的な評価ポイントを設定することで、公平性の高い後継者選定ができるようになります。

  • 育成方法のポイント

後継者候補はそれぞれ性格や考え方などに違いがあり、秀でている部分も異なります。

そのため、育成方法についても型にはめることができません。経営層の近くにいることで大きく伸びる人、さまざまな部署を経験することで大きく伸びる人、社外の自由な環境で大きく伸びる人とさまざまなタイプがあるので、その後継者候補が最も伸びる育成方法を見出す必要があります。

  • 進行のポイント

サクセッションプランはあくまで計画であり、状況に応じて計画修正が必要になることもあります。

計画にズレが出てきた際はプロセスや内容を見直すことはもちろん、大きく乖離がある場合は計画全体を修正することを視野に入れてもいいかもしれません。

専門家に相談を

後継者育成は事業承継における大切なプロセスであるがゆえに難しく、慎重に進める必要があるため時間もかかります。円滑に後継者育成を進めるためには専門家のサポートがあるとより安心です。
後継者育成でお悩みの際は、MUFGウェルスマネジメントにぜひご相談ください。グループの総合力を活用して、サクセッションプラン(後継者育成計画)の作成をはじめ後継者の選定や育成、事業承継の実行まで、さまざまな面からサポートさせていただきます。
記事提供:株式会社ZUU
執筆者:中川 崇(公認会計士 / 税理士)

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(2023年10月1日現在)
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