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農業における事業承継 ~大手企業参入やマッチング増加により多様化する承継の形~
農業における事業承継 ~大手企業参入やマッチング増加により多様化する承継の形~

農業における事業承継 大手企業参入やマッチングにより多様化する承継の形

高齢化が進む農業業界では後継者不在という問題が顕在化しています。その一方で、法改正を受けて大手企業が参入するなど農業の事業承継は多様化しており、農業経営者には今、いくつもの将来の選択肢があります。
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日本農業の後継者問題

農林水産省統計部によると、2020年時点における基幹的農業従事者(日常的に主に自営農業に従事している者)の平均年齢は67.8歳で、65歳以上の高齢者が全体の7割近くを占めています。

また、農林水産省の2020年農林業センサスでは、全国の農業経営体総数107万5,705のうち、5年以内に引き継ぐ後継者を確保しているのは26万2,278経営体と約4分の1にとどまっており、加えてそのうちの25万158経営体が親族内の後継者とされています。

農業経営体は、一般の中小企業以上に深刻な後継者不在問題に悩まされているといえるでしょう。

農業経営体の5年以内の後継者の確保状況

  5年以内に引き継ぐ後継者の分類

経営体数 割合
親族

250,158

23.20%

親族以外の経営内部の人材 8,712

0.80%

経営外部の人材 3,408 0.30%
5年以内の引き継ぎ予定なし
49,060 4.60%
確保できていない  

764,367

71.10%
合計 1,075,705

100.00%

出典:農林水産省 農林業センサス

農業経営体の動向

農業経営体は、2005年には200万9,380経営体が存在していましたが、2020年時点では107万5,705経営体と半数近くまで減少しています。その主たる理由の一つに、後継者の不足が挙げられています。

一方で農業経営体のうち、株式会社や農事組合法人などの法人経営体数は、2020年時点で3万707経営体となっており、2005年の1万9,136経営体から約1.5倍と増加傾向にあります。

農業経営体数とそのうちの法人経営体数

 

2005年 2010年 2015年 2020年
農業経営体数 2,009,380 1,679,084 1,377,266 1,075,705
うち法人経営体数
19,136 21,627 27,101 30,707
出典:農林水産省 農林業センサス
法人農業経営体が増加した要因としては、2009年に農地法が改正され、一般法人が農地を賃借する形態で参入しやすくなったことや、集落営農がふえて法人化が進んだこと、農作物の製造から販売・加工までを一体として行う農業の第6次産業化など経営の合理化を進めたことなどが考えられます。

農業経営を法人化することで経営管理が徹底され、事業発展が期待できるとともに、安定的な雇用の確保や円滑な事業承継が進めやすくなります。

また大手企業による農業分野への参入も目立っています。大手居酒屋チェーンのA社や、全国展開するレストランチェーンのB社、小売業大手のC社などは、その資本力と展開力を活かして農業分野に参入しています。

法人の農業参入

先述のとおり、2009年の農地法の改正により、株式会社などの法人が農業に参入しやすくなりました。

それまでは、農地の所有者により農地を耕作することが一般的とされてきましたが、高齢化や後継者不足等を背景に、農地所有者に限定せず、農地の適正かつ効率的な利用を促す方向に改正されました。たとえば、リース方式であれば、株式会社でも農地を借りることができるようになります。

農地を所有して農業を行う場合には、さまざまな要件が求められます。その要件を満たした法人を農地所有適格法人といい、要件を満たしていないと農地を所有できません。

一方で大幅に緩和されたリース方式は、農地所有適格法人ほどの要件はありません。その影響もあり、リース方式による農業経営法人は2019年12月末時点で3,669法人と、2009年の農地法改正前の約5倍のペースで増加しています。

法人の農業参入の2つの方式

方式

所有方式(農地所有適格法人) リース方式
形態 株式会社(株式譲渡制限あり)、合名会社、合資会社、合同会社、農事組合法人 問わない
農業割合
農地取得後の農業売上割合が50%超 問わない
構成員 農業関係者が過半数の議決権を占めること 問わない
役員
  • 役員の過半数が農業の常時従事者であり、かつ構成員であること
  • 役員または重要な使用人の1人以上が法人の行う農業に必要な農作業に従事すること
役員または重要な使用人の1人以上が農業の常時従事者であること
農地利用
  • 農地のすべてを効率的に利用すること
  • 一定の農地面積を経営すること
  • 周辺の農地利用に支障がないこと
 
その他  
  • 農地を適正に利用していない場合には、リースが解除される旨の契約が書面で締結される
  • 地域の農業者との適切な役割分担の下に、継続的かつ安定的に農業経営を行う
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農業の事業承継

事業承継とは、会社の経営権や資産を後継者へと引き継ぐことをいいます。まず、事業承継の3つの形と3つの要素について解説します。なお、詳細は以下をご覧ください。

事業承継の3つの形

事業承継は、誰に引き継ぐかによって3つの類型に分けられます。

1.親族内事業承継

子どもをはじめとした現経営者の親族に事業を引き継ぐことを指します。後継者育成に時間をかけられることや、経営と株式の承継時期を柔軟に決められることなどがメリットです。一方で、後継者候補が複数いる場合は、後継者の決定や経営権の集中が難しいケースがあります。

冒頭で紹介したとおり、5年以内に後継者が決まっている農業経営体のほとんどが親族を後継者候補としています。

親族内事業承継であれば、一緒に農作業に従事してノウハウを後継者に承継しながら、高額な農業用設備などをそのまま引き継ぐことができます。

もっとも、農家の廃業は増加傾向にあり、廃業した場合は、農地の管理を農業協同組合や知り合いの農家に託すケースが多く見られます。

2.社内事業承継

社内事業承継は、信頼できる役員や従業員の中から経営者としてふさわしい人物を探し、事業を引き継ぐ形です。メリットは従業員からの賛同がえられやすいことや、実務の引き継ぎがスムーズであることなどです。ただし、後継者は買収資金や納税資金の面で大きな負担を背負うことになります。

3.親族外(第三者)への事業承継

広く社外からふさわしい人物(会社)を探して事業を引き継ぎます。親族内や社内でふさわしい人物が見つからない場合や、後継者と見立てていた人物が事業承継を希望しない場合などに第三者への承継を検討することになります。

メリットは事業を存続できることや従業員の雇用を守れること、株式や農地などを売却して資金をえられることなどがあります。もっとも、必ずしも希望額で売却できるとは限らず、事業承継が思うように進まないこともあります。

また第三者に譲渡する際には、その後継者が農業関係者とは限りません。農業関係者以外の人が農地を所有することには厳しい制約があります。

前述のとおり農地の所有方式(農地所有適格法人)か、リース方式かによって要件は変わり、特に農地所有適格法人として承継する場合は、さまざまな要件をクリアする必要があります。

これまでは後継者がいないことを理由に廃業を選択していた農業経営者が一定数いました。しかし最近は、大手企業の農業への参入に加え、事業承継のマッチング会社も増えており、廃業を検討する際は第三者への事業承継を選択肢として考えても良いでしょう。

事業承継で引き継ぐ3つの要素

事業承継では経営権・経営資源・物的資産という3つの要素を引き継ぎます。

1.経営権

経営権の承継とは、代表取締役など代表者としての地位と役割を後継者へと引き継ぐことです。そのために後継者を探す、あるいは育成することも大事になります。

実際に引き継ぐ際は、株主総会を経て代表取締役を選任した上で、役員変更登記等の手続きをする必要があります。

農業を引き継ぐ側は、所有方式かリース方式かによって、農業従事者等の構成員要件や役員要件などそれぞれの要件を満たさなければなりません。

2.経営資源の承継

経営資源とは、会社の経営理念や信用力、ブランド、独自に築いてきたノウハウや長年培ってきた技術、育てた人材や取引先をはじめとした人脈などを引き継ぐことです。

経営権を引き継ぐと同時に、オリジナルのブランドや栽培技術、関係を深めてきた仕入れ先といった経営資源を引き継ぐことでスムーズな承継が可能になり、逆に十分な引き継ぎができていないと、事業承継を機に会社が低迷してしまう可能性もあります。

3.物的資産の承継

会社の株式(所有権)や事業用不動産等の資産(財産)、設備や事業用の運転資金などの物的資産を後継者へと引き継ぐことです。

会社が所有する不動産や設備、運転資金等は、株式を承継することで後継者へと自動的に引き継げます。しかし、オーナー経営者が個人で事業用資産を所有し会社に貸しているケースでは、事業用資産も併せて移転しておく方が良いでしょう。また、個人事業の場合、すべての事業用資産を個別に引き継がなければなりません。

後継者である法人が農地を所有する場合には、農地所有適格法人に該当していなければなりません。リース方式であれば要件は緩和されますが、一定の制約があります。
このように、農業経営者の事業承継は選択肢が増えつつあります。

農業経営や農業の事業承継に対しては、さまざまな補助金や融資、税制などのサポートもあります。事業承継はまだ先のこと、とは考えず、早めに準備を進めるのが望ましいでしょう。

MUFGには銀行・信託・証券に加えて、さまざまな専門知識とノウハウをもったグループ関連会社やグループ内外の幅広いネットワークがあり、農業の事業承継においてもさまざまなニーズにお応えしています。

農業の事業承継は、農地法など業界特有の制約などもあるため、専門家のサポートを受けて進めることをおススメします。後継者の問題でお悩みを抱えている農業従事者の方は、MUFGウェルスマネジメントにぜひご相談ください。
記事提供:株式会社ZUU
執筆者:八木正宣(税理士 / 行政書士 / CFP /1級FP技能士)
  1. 本記事は、2024年1月時点の税制、その他関連法規に基づく内容であり、今後の改正等により相違が生じることがあります。税法や法律に関わる個別、具体的なご対応は必ず税理士・公認会計士・弁護士等の専門家へご相談・ご確認ください。
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(2024年2月26日現在)
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