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資産管理会社の設立によって得られるメリットは?
個人事業主が事業承継するには? 法人との違いや個人版事業承継税制を知る

資産管理会社とは? 設立のメリット・デメリットや設立手順を解説

不動産や株式を多く所有する資産家が、資産管理会社を設立しているケースがよく見受けられます。設立し、運営することでどのようなメリットをえられるのでしょうか。
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資産管理会社とは

資産管理会社は、不動産や株式などの資産を所有している人が、その資産を所有・管理することを目的として設立する法人のことをいいます。
一般的な企業とは異なり、資産家向けの会社として存在し、基本的には資産管理以外の事業活動を行いません。主な収入は、不動産を賃貸することによる賃料収入、株式を所有することによる配当収入です。
多くの収益不動産を所有する地主や自社株式の評価額が高いオーナー経営者、いわゆる富裕層の方が、資産管理会社を設立して活用すれば多くのメリットをえることができます。

設立のメリット

では実際に、どのようなメリットがえられるのでしょうか。
・所得に対する税金の違い
不動産や自社株式を個人で所有していた場合と、資産管理会社が所有した場合とでは、所得・利益に対して課税される税金の種類が異なります。
まず個人で課される税金は、所得税、住民税、個人事業税といったものが挙げられます。このうち所得税は、課税対象額が大きくなるほど高くなる累進税率が適用されており、課税所得が4,000万円以上で適用される税率は45%となります。
また、個人住民税のうち、所得に応じた所得割は、課税所得に対し一律10%とされています。個人事業税は、事業的規模で不動産貸付けを行う場合に、290万円を超える不動産所得(青色申告特別控除前)の5%が課税されます。

一方で、資産管理会社の利益に対して課される税金は、法人税、法人住民税、法人事業税などがあります。資本金1億円以下で年所得が800万円の中小法人の場合、中小法人の軽減税率の特例適用後で、これらの実効税率※はおよそ23.2%(年所得400万円以下の部分は21.4%)となります。

 

※実効税率は次の算式で計算/2024年1月時点

{法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率+特別法人事業税率}/(1+事業税率+特別法人事業税率)

このように個人にかかる所得税等と資産管理会社にかかる法人税等には差があり、より所得が高い人ほど税負担の差は大きくなります。

・所得の分散

資産管理会社を設立した際には、親族を役員に就任させて役員報酬を支払うことができ、その資産家本人のみに帰属していた不動産や配当の所得を、資産管理会社を通じて親族に分散させることにより、本人の所得税等を抑えることができます。

また、役員報酬を受ける親族は、その役員報酬が給与所得に該当し、他に給与を受けていなければ給与所得控除などの控除を受けることもできます。

・損失と利益を長期に渡って平準化

欠損金の繰越控除とは、その年に生じた損失を翌年以降に繰り越して、計上した利益と相殺していくことができる制度のことです。

繰越控除は個人の場合には最長3年間の繰り越しが認められているのに対し、資産管理会社では、最長10年間の繰り越しが可能となっています。

このように損失と利益を長期にわたって平準化できることも、資産管理会社設立のメリットといえるでしょう。
・経費の範囲が拡大
個人が所得をえるための経費は、必要経費と呼ばれており、収入をえるために直接かかった経費に限られています。

一方、資産管理会社の場合は、会社の業務上の経費が認められることになり、経費の範囲が広くなります。

・社会保険に加入可能

資産管理会社では、原則として社会保険に加入することが求められています。

そのため、個人で負担していた国民年金や国民健康保険から、厚生年金・健康保険に切り替わることになります。社会保険に加入することで以下のようなメリットがえられます。
  1. 国民年金よりも厚生年金の方が将来もらえる年金の額が高くなる場合がある
  2. 役員報酬を支払う親族も加入できる
  3. 追加の負担なしで扶養する親族も加入できる
・相続財産の整理

相続に際して資産の分割が容易になり、将来の相続財産を減らすこともできます。

資産管理会社への売却等によって資産を移転させることで、不動産や自社株式といった相続財産を、資産管理会社の株式に一本化することが可能になります。

例えば、不動産を複数の子どもに相続・贈与させる場合には、不動産の持分で分割しなければなりません。いったん分割された持分に応じた不動産の所有権は、取得した子どもの相続財産となり、相続によって承継されます。その不動産を有効利用しようとしても、持分を所有する複数の所有者と意見調整を行わなければなりません。

しかし、資産管理会社に不動産をすべて移転させておくことで、このような持分による分割がなくなり、資産管理会社の株式をどのように分割するかを考えれば良くなります。また、不動産の相続や贈与などの承継に伴って発生する登記費用も、資産管理会社に移転することで発生しなくなります。

資産管理会社においては、資産家本人への報酬を抑え、相続人である親族への役員報酬を支払うことにより、資産家への資産蓄積を抑えることもできます。

同様に相続財産を減らしていく生前贈与と比べると、相続開始前3年以内(*)に行われた相続人に対する生前贈与は、相続税の対象になりますが、資産管理会社からの役員報酬であれば、この規定は適用されません。
  • 2027年以降の相続から順次延長され2031年以降の相続では相続開始前7年以内となります。

設立のデメリット

まず、資産管理会社を設立するためには、法人の設立登記を行います。資本金の額にもよりますが、合同会社の場合で15万円、株式会社では30万円程度の費用が生じます。

また、資産管理会社が赤字であっても、法人住民税の均等割が1年間で7、8万円程度かかります。加えて、会社の会計や法人税の申告を担当する税理士への支払いも必要になります。

さらに、資産家本人の資産を会社に移転する際には、資産家本人に譲渡所得税、会社に不動産取得税、登記費用などが生じます。

法人を一度設立すると、簡単には廃業することができません。会社の解散決議、清算人選任、清算結了といった手続きを踏まなければならず、ここにも費用が発生します。

また、資産家個人と資産管理会社は、基本的に別個の存在であり、会社が保有する金銭を個人が自由に使うことは基本的に認められていません。会社から個人へお金を移すためには、役員報酬や配当などの方法をとる必要があります。

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資産管理会社を設立する手順

資産管理会社を設立するためには、株式会社や合同会社の設立登記を行う必要があります。おおよその手順は、定款の作成・認証、資本金の払い込み、登記申請書類の準備、設立登記となります。

1.定款の作成・認証

定款(ていかん)とは、その会社を運営していくうえでの基本的な規則を定めたもので、自社に合った定款を作成し、公証人の認証を受ける必要があります。以下は定款に定めておくべき主な項目です。
・商号
例えば、「○○株式会社」、「株式会社○○」といった具合に「株式会社」や「合同会社」の名称を前後に入れて定める必要があります。また、近隣地域では類似した商号を用いることはできません。
・事業目的

会社が営むことのできる事業を定めます。資産管理会社の場合には、「不動産の売買、仲介、斡旋、賃貸及び管理」、「有価証券の投資」などが想定されます。

・本店所在地

本店所在地は法人の登記簿に記載されます。登記簿は誰でも容易に取得できるため、慎重に検討する必要があります。

・出資者
資産管理会社の所有者であり、最終意思決定者となります。資産家本人の意向を組むためには、過半数は出資しておくべきでしょう。なお、役員報酬を支払う親族は、必ずしも出資者である必要はありません。
・資本金の額
会社の運営に必要な資金額を、資本金で準備すると良いでしょう。なお、資本金が1,000万円以上の場合、第1期目から消費税の課税事業者となるので注意が必要です。
・事業年度(決算月)
一事業年度を何月から何月までにするのかをあらかじめ決めておかなければなりません。事業年度が終了した後、2ヶ月以内に決算書類の承認を受けて、法人税の確定申告を行うことになります。
・役員とその任期
資産管理会社は、取締役1人から設立が可能です。取締役の任期は原則2年ですが、株式を譲渡する場合には、取締役会か株主総会の許可が必要になることを定款で定められた株式譲渡制限会社では、最長で10年以内とされています。

2.登記申請書類

法務局に提出する、資産管理会社の設立登記のための主な申請書類などを次に記します。

・代表者印の届け出

法人を設立する際には、法務局に登録する印鑑が必要となります。この登録する印鑑のことを、代表者印や実印と呼びます。

・就任承諾書

会社の役員に就任することを承諾したと証明する書面で、登記申請の際に必要になります。なお定款に設立時取締役選任と代表取締役の選定の記載があり、その役員が発起人でもある時は、就任承諾書は不要となります。

・資本金の払い込み

発起設立の場合は発起人が、募集設立の場合は出資者全員が、発起人、または設立時の取締役の個人の預金口座に出資金を払い込みます。その出資金が払い込まれた通帳のコピーを法務局に提出します。

3.設立登記後の手続き

登記申請書を提出してから1、2週間ほどで、資産管理会社の登記が完了します。完了後に法務局で登記事項証明書や印鑑証明書を取得し、会社の預金口座を開設します。その他、社会保険や税務上の届け出を各所へ提出します。

税務署 開業届、青色申告承認申請書、給与支払事務所等の開設届など
都道府県税事務所 開業届
市区町村役場 開業届
年金事務所 新規適用届、新規適用事業所現況書、被保険者資格取得届など
資産管理会社は設立の是非を含めて慎重な検討が必要なため、専門家に事前に相談した方が無難といえるでしょう。
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記事提供:株式会社ZUU
執筆者:八木正宣(税理士 / 行政書士 / CFP /1級FP技能士)
  1. 本記事は、2024年1月時点の税制、その他関連法規に基づく内容であり、今後の改正等により相違が生じることがあります。税法や法律に関わる個別、具体的なご対応は必ず税理士・公認会計士・弁護士等の専門家へご相談・ご確認ください。
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(2024年1月31日現在)
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