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事業承継ファンドが注目される理由と有益な活用方法
事業承継ファンドが注目される理由と有益な活用方法

事業承継ファンドとは? 活用方法とメリット・デメリット

2023年現在、主に中小企業の後継者不在問題を解決する一つの選択肢として、事業承継ファンドが注目されています。M&Aとも比較される同ファンドには特徴的ないくつものメリットがあり、一方でデメリットもあります。また、親族内事業承継や従業員・役員への事業承継でも有効活用できるケースがあります。
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事業承継ファンドとは

なぜ今、事業承継ファンドが注目されているのでしょうか。

事業承継の一つの選択肢

事業承継は、経営者が後継者に会社の経営権や資産などを引き継ぐことです。事業承継ファンドは、その方法の一つの選択肢となっています。

ファンド(fund)とは、英語で「資金・基金」という意味です。ファンドでは、投資家から資金を集め、集めた資金を運用することで、投資家に利益を還元します。

事業承継ファンドでは、まず投資家から資金を集め、集めた資金を元手に、後継者不在に悩む企業の株式を買い取ります。そして、経営支援によって事業をテコ入れし、企業価値を向上させた上で、数年後にM&Aを実施して売却益を得ます。同ファンドが得た売却益は、投資家へと再分配されます。

後継者不在に悩むオーナー経営者からすると、株式を買い取って経営支援までしてくれる事業承継ファンドは、頼もしい存在と言えます。

事業承継ファンドが注目されている理由

事業承継ファンドが注目される背景として、後継者不在に悩む企業が多いことが挙げられます。

帝国データバンクの「全国企業後継者不在率動向調査(2022年)」によると、全国・全業種約27万社を対象とした調査で後継者不在率は57.2%にのぼります。

また、先代経営者との関係性(就任経緯別)のデータを見ると、同族承継は過去5年で減少傾向にあります。一方、従業員・役員を後継者とする「内部昇格」や、買収・出向を中心とする「M&Aほか」の割合は増加傾向にあり、これに比例するように事業承継ファンドの存在感が増しています。

事業承継ファンドとM&Aの違いとは?

後継者不在問題を解決する代表的な方法の一つにM&Aがあります。事業承継ファンドとM&Aにはどのような違いがあるのでしょうか。

事業承継は、引き継ぐ相手によって3つの種類に分けられます。

  1. 親族内事業承継
  2. 社内事業承継
  3. M&Aによる事業承継(第三者承継)

親族内事業承継とは、子息・息女をはじめとした親族を後継者とする事業承継です。社内事業承継とは、従業員や役員が会社を引き継ぐケースです。そして、親族内や従業員・役員に後継者がいない場合は、広く第三者から後継者を探すM&Aという手法が用いられます。

事業承継ファンドは、親族・従業員・役員に該当しない第三者であることから、M&Aの一つに分類されます。M&Aで会社を引き継ぐ相手は、企業もしくはファンドです。

オーナー経営者から見たM&Aのメリット・デメリットは次のとおりです。

M&A

メリット
  • 後継者の選択肢が増える可能性がある
  • 経営者が売却益を得られる可能性がある
  • 会社と従業員の雇用を守れる可能性がある
デメリット
  • 買い手が見つからない可能性がある
  • 取引先との関係が悪化する可能性がある
  • 従業員の反発を招く可能性がある
  • 企業文化が廃れる可能性がある
オーナー経営者から見た事業承継ファンドを活用するメリット・デメリットは次のとおりです。

事業承継ファンド

メリット
  • 経営者が売却益を得られる可能性がある
  • 経営支援を受けられる可能性がある
  • 企業文化を承継できる可能性がある
デメリット
  • 適したファンドが見つからない可能性がある
  • 数年後にM&Aが実施されると経営者が変わる可能性がある

事業承継ファンドの効果的な活用

事業承継ファンドはさまざまな形で活用することができます。

事業承継ファンドはM&Aの一つですが、親族内事業承継や社内事業承継においても、同ファンドを活用することで、柔軟な承継が可能となるケースがあります。

後継者不在問題を解決する

シンプルに、M&Aの売却先として事業承継ファンドを活用するケースがあります。同ファンドに自社株式を売却することで、後継者不在問題を解決でき、オーナー経営者は売却益を得られます。

事業承継ファンドに会社を売却するメリットとして、経営支援を受けられる可能性があることが挙げられます。例えば、オーナー経営者が実務に深く携わっており、社員がオーナー経営者に頼りきっている場合、他の経営者に会社を売却するだけでは、事業承継はうまくいきません。

しかし、事業承継ファンドの中には、オーナー経営者への依存度の高い状態を脱し、組織経営へと移行する手助けをしてくれるファンドも存在します。仕組み化や社員の自立を促す取り組みによって会社が組織化されれば、さらなる成長も期待できるでしょう。

後継者候補の成長を支援してもらう

親族内や従業員・社員に後継者候補がいるものの、まだ経営を一任するには心もとないという時も、事業承継ファンドを活用できます。

事業承継ファンドの中には、後継者をサポートする人材を派遣し、後継者の成長を支援してくれるファンドも存在します。同ファンドに株式を売却して勇退生活を満喫しながら、後継者育成を事業承継ファンドに委ねることもできるのです。

社内事業承継で後継者が株式買取資金を貯める時間を確保する

社内事業承継でよく起こる問題の一つに、後継者である従業員や役員に、株式を買い取るだけの資金力がないことがありますが、こうしたケースでも事業承継ファンドを活用できます。

まず、オーナー経営者は株式を事業承継ファンドに売却し、売却益を得ます。社長の地位は後継者である従業員・役員に譲り、勇退生活に入ります。後継者は、同ファンドによる経営支援を受けながら、事業を成長させ、資金がたまったら事業承継ファンドから株式を買い取ります。

このような手順を踏むことで、資金力不足の問題を解消し、社内事業承継を完了させる方法もあります。

現在の経営陣に引き続き経営を任せる

信頼できる現在の経営陣に引き続き経営してほしいと考える経営者も多いでしょう。その場合、事業承継ファンドに株式を売却しながら、経営の舵取りは現在の経営陣に行ってもらうことも可能です。

中小企業では、オーナー経営者が株主と社長を兼ねていることがほとんどです。しかし、必ずしも株主と社長を兼ねる必要はありません。

事業承継ファンドに株主となってもらい、現在の経営陣のうち誰かが社長に就任して、体制を変えずに経営を続けていくことも可能です。

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事業承継ファンドの種類

事業承継ファンドは国内にいくつも存在します。代表的な事業承継ファンドを3つ紹介しましょう。

中小機構のファンド

中小機構とは、国の中小企業政策の中核的な存在として企業を支援する機関で、支援の一環としてファンド出資を行っています。民間と連携しつつ、事業承継をはじめ新事業の創出や事業拡大など、さまざまなファンド出資の提案を受けつけています。国の支援機関ということもあり、幅広い支援メニューがあります。

日本投資ファンド

M&A仲介の豊富な実績を持つ日本M&Aセンターと日本政策投資銀行が共同設立したファンドです。優良な中小企業に投資し、成長を支えて企業価値を向上させます。全国の地方銀行とも連携し、地域密着型の支援を実現しています。

PE(プライベートエクイティ)ファンド

日本プライベートエクイティ株式会社が運用するファンドで、総額266億円の「事業承継・事業再編ファンド」を組成してきた実績を持ちます。事業承継問題に悩む中小企業経営者を対象に出資しており、特に、オーナー経営から組織経営へと移行する支援で豊富な実績があります。

事業承継ファンドの選び方

事業承継を成功させるためには、自社に合う事業承継ファンドを選ぶことが大切です。

事業承継ファンドの特徴を理解する

事業承継ファンドによって、出資対象とする企業規模や支援内容が異なります。また、短期的にリターンを最大化することをめざしているのか、長期的に企業価値向上に向けてサポートしていくのかといった姿勢にも違いがあります。それぞれの事業承継ファンドの特徴を理解した上で、自社に合うかどうかを考えていきましょう。

担当者の人間性を見極める

担当者の人間性にも注目しましょう。熱意があるか、自社をよく理解してくれるか、信頼できるか、経験豊富かといった視点で、担当者を見極めてください。

専門家のアドバイスを踏まえて選ぶ

信頼できる専門家のアドバイスにも耳を傾けましょう。事業承継を支援してくれる専門家や、長年付き合いのある税理士や公認会計士など、幅広い専門家の意見を踏まえて選ぶことも大切です。

事業承継ファンドを活用した事業承継の流れ

事業承継ファンドを活用した事業承継の一般的な流れは以下のとおりです。

  1. ファンド運営会社(投資会社)が投資家から資金を集め、事業承継ファンドを組成する
  2. オーナー経営者が専門家を通じて、もしくは直接、事業承継ファンドに問い合わせる
  3. 双方問題なければ、秘密保持契約を締結し、財務情報等を開示する
  4. 双方問題なければ、基本合意書を締結する
  5. 双方の条件のすり合わせを行う
  6. 弁護士や税理士などの専門家によるデューデリジェンス(買収監査)が実施される
  7. 最終の譲渡契約を締結する
  8. 譲渡対価の支払い等のクロージング手続きをする
  9. 事業承継ファンドが経営支援を行う
  10. 数年後、事業承継ファンドは株式を売却して売却益を得る

具体的な手続きは、事業承継ファンドによっても異なります。

事業承継ファンドを活用するメリット

事業承継ファンドは条件さえ合えば、オーナー経営者や後継者、従業員はもちろん、ファンドや投資家も幅広くメリットを享受できる優れた仕組みです。それぞれの視点でのメリットを見ていきましょう。

オーナー経営者のメリット

オーナー経営者のメリットは、後継者不在問題を解決し、売却益を得て悠々自適の勇退生活を送れることです。事業承継ファンドによる経営支援があれば、安心感が高まるでしょう。また、商品・サービスを後世に残すことができ、顧客や従業員を守ることができます。

後継者のメリット

後継者のメリットは、事業承継ファンドによる経営支援を受けられる可能性があることです。専門性の高い人材を派遣してくれるケースもあり、安心して経営の舵取りに専念できます。

従業員のメリット

事業承継ファンドに株式を売却しても、会社と従業員の間で締結された雇用契約は継続します。そのため、従業員は引き続き慣れ親しんだ職場で仕事ができます。

ファンドのメリット

適切な経営支援によって企業価値が向上すれば、事業承継ファンドにもメリットがあります。数年後に同ファンドが第三者に株式を売却することで、売却益を得られるからです。

投資家(出資者)のメリット

事業承継ファンドが得た利益が、投資家(出資者)へと還元されることです。事業承継ファンドの運用成績が良ければ、投資家の資金が同ファンドにより多く流入することとなり、後継者不在問題に悩む多くの企業が出資によって救われることになるでしょう。

事業承継ファンドに関わるリスク

事業承継ファンドにはたくさんのメリットがありますが、ファンドの見極めに失敗すると、さまざまなリスクが顕在化します。

例えば、売却後に経営が立ち行かなくなり、商品・サービスが変容したり失われたりする可能性があります。後継者は、適切な経営支援を受けられなかったり、経営者として成長する機会を得られなかったりする可能性があるでしょう。

経営に混乱が生じると、従業員が会社にいづらくなり、転職・退職する可能性があります。結果的に、従業員が職を失ってしまうこともあるでしょう。

こうした状況に陥ると、事業承継ファンドとしても十分な売却益を得られず、投資家に還元される利益も縮小されます。

このように事業承継ファンドの経営支援の結果次第では、多方面に影響が及びます。

事業承継を検討する際は専門家のアドバイスを

事業承継にはさまざまな選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。自社に合った事業承継の形を選択するためにも、豊富な支援実績を持つ専門家のアドバイスを受けましょう。

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記事提供:株式会社ZUU
執筆者:木崎 涼(ファイナンシャルプランナー / M&Aシニアエキスパート)
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(2023年10月1日現在)
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