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事業承継がはらむさまざまな問題、後継者にスムーズに事業を引き継ぐために取り組むべきこと
事業承継がはらむさまざまな問題、後継者にスムーズに事業を引き継ぐために取り組むべきこと

事業承継がはらむさまざまな問題とその解決策
スムーズな事業承継のために取り組むべきこと

事業承継は多くの問題をはらんでおり、それゆえに思ったとおりに進まないことが多々あります。事業を承継する先代経営者と、先代経営者を親に持つ次の世代に向けて、事業承継の問題点を整理してお伝えします。事業承継や相続について考えるうえで、ぜひ参考にしてください。
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事業承継を取り巻く現状

まず、事業承継の意味や中小企業を取り巻く現状について見ていきます。

社長の高齢化と後継者不足

事業承継とは、会社の経営権や資産を先代経営者から後継へと引き継ぐことです。事業承継では、経営権・経営資源・物的資産という3つの要素を引き継ぎます。具体的には、代表取締役社長の地位を託し、経営理念や経営や実務のノウハウ、人脈や情報、事業用資産等を渡すことで、事業承継が完了します。

今、多くの企業が後継者不足に悩んでいることから、事業承継はテレビや新聞などのメディアで頻繁に取りあげられています。

帝国データバンクの「全国企業後継者不在率動向調査(2022年)」によると、全国・全業種の2022年の後継者不在率は57.2%にのぼり、半数以上の企業が後継者不足に悩んでいる状況です。社長年代別の後継者不在率では、60代が42.6%、70代が33.1%、80代以上が26.7%です。経営者が60代以上になっても、そのうちの2~3人に1人の割合で後継者が見つかっていないことは、深刻な問題といえます。

また、東京商工リサーチの「全国社長の年齢調査(2021年)」によると、社長の平均年齢は次のように推移しています。

社長の平均年齢推移 東京商工リサーチ調べ
2015年から2020年までの5年間で、社長の平均年齢が上昇していることから、社長の高齢化に伴い、後継者問題はますます深刻化していくことが予想されます。

中小企業が抱える後継者問題

独立行政法人中小企業基盤整備機構が公表したデータによると、日本の全企業数約359万社のうち、99.7%にあたる約358万社は中小企業です。全従業員数約4,679万人のうち、68.8%にあたる約3,220万人が中小企業で働いています。
中小企業は、日本社会を支える重要な存在であり、雇用の創出に大きく貢献しています。また、中小企業の中には、世界的なシェア獲得につながる先端技術を持つ会社や、地域資源を有効活用し伝統を継承する会社など、後世に残すべき技術や伝統を持つ会社も多く存在します。
そうした中小企業の多くが、社長の高齢化に伴う後継者問題に悩まされているのが現状です。
日本政策金融公庫が2023年3月に公表した資料「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」によると、後継者がすでに決まっていて、後継者本人も承諾している企業は全体の10.5%に留まり、廃業予定企業は57.4%にものぼりました。廃業予定企業の廃業理由としてもっとも多かったのは「そもそも誰かに継いでもらおうと考えていない」が45.2%を占めています。
一方、「子どもがいない」「適当な候補者が見つからない」など、後継者不足を廃業理由とする企業も28.4%と決して少なくない数字です。このように、中小企業が廃業する大きな理由の一つとして、後継者不足があるのはデータからも明らかです。
また、中小企業庁「2020年度版「小規模企業白書」によれば、事業規模が小さな企業ほど、M&Aをはじめとした親族外への承継に消極的な傾向があることも伺えます。

事業承継の2025年問題

事業承継の2025年問題とは、日本の経済成長を支えてきた団塊の世代が75歳を超えることによって発生するさまざまな問題です。日本が超高齢化社会へと移行することで、働き手の減少にともなう社会保障負担の増加や深刻な人材不足などが問題視されています。
事業承継の観点からも2025年問題は決して軽視できません。多くの企業経営者が75歳以上となることで、後継者不足に伴う廃業や倒産が増えると考えられています。廃業する企業が増えれば必然的に雇用は失われ、GDPの多大な消失も予測されるため日本の経済活動鈍化は免れません。

高齢の経営者が勇退を選択しない6つの理由

高齢であっても、なかなか勇退に踏みきれない経営者は多くいます。経営者が勇退を思いとどまる主な理由として、以下6つが挙げられます。

1.後継者が決まっていない

後継者が決まっていないと、事業を引き継ぐことができません。親族に引き継ぐ意思がなかったり、その資質がなかったり、社内や外に目を向けてもふさわしい人材が見つからないこともあるでしょう。しかし、廃業するにも多額のコストがかかることから、健康面で不安を感じつつも、気力や体力を振り絞って経営を続けている経営者は大勢います。

2.後継者の育成が不足している

後継者が決まっていても、後継者が経営者として十分な手腕を発揮できるまでに成長していなければ、現経営者は勇退を決意できません。指名した後継者によっては会社や事業への理解を深めたり、社内での関係構築のために時間が必要なこともあります。また、現経営者が忙しく後継者の育成にまで手が回らない場合もあります。

3.取引先、従業員の賛同を得られない

親族に事業を引き継ぐ予定でも、取引先や従業員の賛同が得られず、現経営者が勇退を決意できないケースがあります。経営者としての資質や経験が十分でも、その後継者と取引先・従業員の間に軋轢が生まれてしまっては、事業の存続が危ぶまれます。取引先との関係値が低下して売上に影響が出たり、従業員との連携がうまくいかず生産性が下がったりすることも考えられます。

4.事業承継で相続トラブルが生じる

事業承継と相続は密接に関係しています。後継者を決めることや事業承継をすることによって、相続トラブルが生じるリスクがあると、現経営者は勇退を決心できません。例えば、親族に複数候補者がいる場合や社内や外部から後継者を選ぶ場合には親族との間で問題が起こる可能性があります。そうしたトラブルを予見し、事業承継と向き合うのを先延ばしにしてしまうこともあるかもしれません。

5.事業承継を相談する相手がいない

事業承継を相談できる相手がいないのも、経営者にとっては深刻な問題です。事業承継はデリケートな話題であり、家族であっても、悩みを簡単に口にできるとは限りません。税理士や銀行担当者などに不安を漏らしたとしても、世間話程度で終わってしまうこともあります。事業承継を具体的に検討するうえで、悩みを打ち明けて相談できる相手は心強い存在です。時には決断の大きな後押しとなってくれます。

6.経営の第一線から退く意思がない

経営者自身が、事業承継を全く考えていないケースもあります。「まだ元気だから事業承継は必要ない」と考える経営者は多いですが、健康上のトラブルはある日、突然その身に降りかかってきます。交通事故などの災難に遭う可能性もゼロではなく、いかに今が順調であっても、早めに準備をしておくに越したことはありません。

事業承継できなかった場合のリスク

後継者を決めないまま病気で倒れてしまうようなことがあれば、最悪の場合、廃業せざるを得なくなります。いざという時にあわてることがないよう、リスクを考慮して対策を練っておくことが重要です。
事業承継できなかった場合のリスクを3つ紹介します。

多額の廃業コストがかかる

廃業する時は、不動産を売却したり、機械設備を廃棄したり、従業員に退職金を支払ったりと、多額の廃業コストがかかります。廃業コストが数百万円から1千万円超に及ぶことも少なくありません。場合によっては、廃業後に手元に残る金額が想像以上に少なくなり、勇退後に生活苦に陥ってしまうリスクが生じます。

また、負債を抱えている場合、自宅等の個人資産を売却しなければならなくなるケースもあります。それでもなお個人負債が残った場合、勇退後も働いて負債を返済していかなくてはなりません。家族総出で返済に追われるリスクもあります。

従業員が雇用を失う

廃業すると、従業員は退職せざるを得ません。しかし、年齢等によって希望に見合う転職先が見つからないケースも多くあります。突然の廃業であれば、なおさら転職先を探すのに苦労するのではないでしょうか。廃業した経営者と、働き口を失い家計が圧迫された従業員との信頼関係も壊れてしまうかもしれません。

顧客や取引先に影響を与える

廃業は、大切に育ててきた事業がこの世から消えることを意味します。自社で開発した商品・サービスがなくなることに対して惜しむ声があがり、また取引先やお客さまにも迷惑をかけてしまい、廃業を後悔する経営者は少なくありません。また、場合によっては取引先が苦境に立たされ、廃業の道を選ばざるを得なくなるおそれもあります。事業承継の準備を早めに進めておけば、廃業という最悪の事態は避けられる可能性があります。
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事業承継の種類とそれぞれのリスク

事業承継は、事業を引き継ぐ相手によって「親族内事業承継」、「社内事業承継」、「M&Aによる事業承継」の3つの種類に分けられます。それぞれの事業承継で考慮しておくべきリスクを解説します。

親族内事業承継の意味とリスク

親族内事業承継とは、子どもをはじめとした親族内の後継者に事業を引き継ぐことです。
親族内事業承継では、自社の株式を後継者に渡すにあたり、相続や贈与を選択することが一般的です。しかし、自社株式の評価額が想像以上に高額になった場合、株式を渡す際の相続税・贈与税も高くなるリスクがあります。
まずは税理士に依頼するなどして自社株式の評価額を確かめるとともに、株式の移転方法を早めに検討することをおススメします。

社内事業承継の意味とリスク

社内事業承継では、役員や従業員の中からふさわしい人物を選んで事業を引き継ぎます。

社内事業承継では、後継者から譲渡対価を受け取り、株式を売却する手法を取ることが一般的です。しかし、従業員が株式を買い取るための十分な資金を蓄えているとは限りません。従業員に事業を引き継ぐと決めたら、買い取り資金の確保について早めに検討し、準備を進めていく必要があります。

M&Aによる事業承継の意味とリスク

M&Aによる事業承継では、広く第三者の中から候補者を探し、ふさわしい人物(会社)に事業を引き継ぎます。
親族内や社内で後継者が見つからなかったとしても、M&Aで事業承継することにより廃業を避けることができます。また、経営者は株式の売却益を得ることで、勇退後の生活にゆとりが生まれます。
ただし、すぐに事業を引き継ぐにふさわしい人物(会社)が見つかるとは限りません。そのため、早めにM&Aの準備を進め、買い手候補を探すことが大切です。
また、経営状況が悪化してからでは、M&Aによる十分な売却益を見込めないことがあります。財務状況等を専門家に見てもらい、M&Aのタイミングについてもしっかり検討する必要があります。

事業承継と相続の関係

事業承継と相続は密接な関係にあり、この2つに関わる問題が起こることがあります。

親族内事業承継と遺留分

親族内事業承継で、特定の親族に自社株式を引き継がせたいと考えている場合、遺言書を作成する方法があります。しかし、遺言書によって自社株式を相続させる場合は、遺留分に注意しなければなりません。
遺留分とは、法定相続人が最低限引き継げる遺産の割合のことで、法定相続分をもとに計算されます。遺留分が認められている法定相続人は、配偶者・子・直系尊属であり、民法で定められています。
自社株式を含め、遺言で遺産を誰にどのくらい引き継がせるか決めておいたとしても、遺留分の権利を持つ法定相続人が、遺留分に満たない金額を請求する可能性があります。請求された側は、金銭でその金額を支払わなければなりません。

社内事業承継・M&A後の相続税の支払い

社内事業承継やM&Aでは、後継者が株式を買い取ることになるため、事業承継と同時に現経営者が売却益を得ることになります。売却益により資産が増えることは大きなメリットですが、相続税の増加には注意しなければなりません。
具体的には、相続税がどのくらいかかるかを試算し、遺産をどのように分割するのか、納税資金をどうやって準備するのか、さらには国が用意した優遇制度の活用について検討しておくことが大切です。

事業承継問題の6つの解決策

事業承継問題は、正しい知識のもと適切な対策を行うことで解決が可能です。以下、事業承継問題を解決へと導く6つの対策を紹介します。

1. 早めに事業承継を検討する

事業承継において、後継者育成や税金対策、買い取り資金の準備などには、十分な時間をかける必要があります。

健康上の問題が生じてからあわてて準備を始めたが間に合わず廃業した、というケースはよくあります。早めに事業承継を検討し、後継者に意思確認をしておくと同時に、専門家に相談して準備を進めていくとより安心です。

2. 経営の問題点を解決しておく

事業承継を意識し始めたら、財務状況をはじめ経営の現状把握をしっかりと行い、事業承継におけるリスクや問題点を洗い出しておきましょう。リスクや問題点を把握すれば、早めに対応策を検討でき、場合によっては手を打つことができます。

3. 国の優遇制度を活用する

事業承継を後押しするため、政府はさまざまな優遇制度を用意しています。「事業承継税制」や「事業承継・引継ぎ補助金」といった優遇制度を活用すれば、相続税・贈与税が一部免除されたり、事業承継にかかる経費の補助を受けられたり、さまざまなメリットを享受できます。優遇制度の内容や期限を確認し、積極的に活用を検討しましょう。

「事業承継税制」について、くわしくは下記をご覧ください。

4. 事業承継とあわせて相続対策を始める

中小企業のオーナー経営者にとって事業承継と相続は切っても切り離せないものであるため、事業承継を進める際は同時に相続対策も行うことをおススメします。株式の移転方法をよく検討し、事業承継税制などの制度を理解して相続対策にも取り組み、事業承継と相続対策が万全なものとなれば、さまざまな不安が解消されるはずです。

5. 自社株式の承継についてすり合わせる

事業承継で引き継ぐ財産のなかで大きなウエイトを占める自社株式を承継すると、金額に応じた税金を納める必要があります。売買と贈与、相続などの譲渡方法があり、どの方法を選ぶかによって最終的な納税額が変わるため注意が必要です。
納税額は、自社株式の評価額に基づき算出されます。評価額が高いほど納税額は高くなります。

6. 信頼できる専門家を探して相談する

事業承継や相続対策は、高い専門性が必要とされます。税理士・弁護士・公認会計士・中小企業診断士などの専門家に相談し、リスクを抑えて取り組むことが大切です。
もちろん、自社のみで事業承継を実施することは不可能ではありませんが、その場合でも事業承継に関する正しい知識を取得していることが大前提です。正しい知識がないと行動に移しづらく、実行したとしても選択を誤ったり、余計な時間を浪費しかねません。

事業承継の問題を適切に把握し対策をするには

事業承継問題を後回しにしてしまうと、後継者を確保できず廃業の道を選択せざるを得なくなる可能性があります。廃業となると多額のコストの発生、顧客・取引先への影響などが懸念され、従業員も仕事を失うことになってしまいます。このような事態を避けるべく、事業承継問題のリスクを正しく認識し、適切な対策を行うことが求められます。
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記事提供:株式会社ZUU
執筆者:木崎 涼(ファイナンシャルプランナー / M&Aシニアエキスパート)
  1. 本記事は、2024年1月時点の税制、その他関連法規に基づく内容であり、今後の改正等により相違が生じることがあります。税法や法律に関わる個別、具体的なご対応は必ず税理士・公認会計士・弁護士等の専門家へご相談・ご確認ください。
  2. 本記事は情報提供を目的としており、投資等の勧誘目的で作成したものではありません。商品の購入時にはお客さまご自身でご判断ください。
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(2024年1月31日現在)
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