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スリーサークルモデルとは? ファミリービジネスを永続させる3つの視点と実践活用法
スリーサークルモデルとは? ファミリービジネスを永続させる3つの視点と実践活用法

スリーサークルモデルとは? ファミリービジネスを永続させる3つの視点と実践活用法

日本国内企業の多くは、特定の家族や親族を中心に経営・所有が成り立つファミリービジネスです。「スリーサークルモデル」は、ファミリービジネスの持続的な発展を支えるフレームワークとして注目されています。この記事では、スリーサークルモデルの定義・構造・役割と、実践的な活用方法について解説します。
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日本のファミリービジネスの現状と特徴

日本企業の多くがファミリービジネスの形態で経営されています。最初に日本におけるファミリービジネスの現状、強み、課題について解説します。

ファミリービジネスとは何か

ファミリービジネスとは、特定の家族や親族が企業の経営・所有の中心となっている事業形態です。同族会社、同族経営、オーナー企業、ファミリー企業とも呼ばれます。
法人税法上は、上位3株主グループが発行済株式の50%超を保有する会社を「同族会社」と定義していますが、株式比率が50%未満であっても、創業家が経営の主要メンバーとして関与している企業はファミリービジネスとして認識されるのが一般的です。

日本のファミリービジネスの現状

単体法人 同族会社 96.6% 非同族会社 3.4%
出典:国税庁「会社標本調査(令和6年)」より作成
国税庁「会社標本調査(令和6年)」によると、単体法人における同族会社の割合は約96.6%に達します(特定同族会社を含む)。非上場の中小企業を含めた日本全体では、約9割の企業がファミリービジネスといわれています。また日本は、創業100年を超える長寿企業の数が世界で最も多い国としても知られており、その大多数がファミリービジネスによって支えられています。

日本のファミリービジネスの強みと特長

ファミリービジネスは、一般に次の3つの強みと特長を持ちます。

1.長期的な視点での経営

経営者は大株主であることが多く、交代頻度が比較的低い傾向にあり、ファミリー内で経営権を承継することが多くあります。そのため、短期的な株主利益に左右されず、数十年単位の長期的な視点で経営判断を下しやすい傾向があります。

2.迅速な意思決定

経営トップと大株主が同一であり、さらにファミリーの意思決定を取りまとめる立場にあることが多く、ファミリーメンバー内・社内においてリーダーシップを発揮しやすい構造といえます。重要な経営判断を素早く実行に移せる点は、変化の激しい事業環境において大きな競争優位となりえます。

3.日本経済・地域経済の牽引役

ファミリービジネスは、国内主要都市のみならず地方都市にも多く存在します。各地域の雇用を生み出すとともに、取引関係の構築や企業間連携を通じた市場活性化など、日本経済・地域経済を牽引する重要な役割を担っています。

日本のファミリービジネスが抱えやすい課題

一方で、ファミリービジネスは構造的に次の4つの課題を抱えやすい傾向があります。

1.世代交代にともなう「遠心力」の発生と株式の分散

世代交代が進むと「家族・経営・所有」を引き離す「遠心力」が働き、株式の過度な分散により経営が不安定化するリスクが生じます。創業期には一体だった「家族」「経営」「所有」の3つの関係が、世代交代を経るにつれて引き離されるのは、ファミリービジネスに共通した課題といえます。

2.親族間の対立

家族・親族の価値観や意見の相違から、経営に関する意思決定が停滞するリスクがあります。過去の親族間での経営方針の対立は、先代経営者と後継者の経営ビジョンの不一致が一因であるケースが多く見られます。

3.ガバナンス機能の不全と「公私混同」

経営者の強いリーダーシップが強みになる反面、経営者の独善的行動や後継者の経営能力不足といった、企業価値を毀損しかねない特有のリスクもあります。また、経営において不適切な公私混同が生じやすい傾向があります。一般企業に求められるコーポレートガバナンスに加え、ファミリービジネスにはファミリー固有のガバナンスも必要です。

4.ルールや理念の明文化・文書化の遅れ

日本のファミリービジネスは諸外国と比較して、ファミリーの価値観を明文化し、定期的かつ意識的に伝達している企業が少なく、ガバナンスルールの文書化が進んでいない傾向があります。創業者の「暗黙知」が次世代に伝わらないまま世代交代を迎えることで、経営の一貫性が失われるリスクがあります。

ファミリービジネスの課題とスリーサークルモデル

ファミリービジネスの課題に共通するのは、家族・経営・所有という3つの異なる要素が複雑に絡み合い、それぞれの境界線が曖昧になるという点です。この構造を可視化し、課題を整理するためのフレームワークが、スリーサークルモデルです。

ファミリービジネスの課題とスリーサークルモデル

スリーサークルモデルは、ファミリービジネスを構成する家族・経営・所有の3つの視点から、関係性や課題を可視化するフレームワークです。ここでは、スリーサークルモデルの定義や役割について解説します。

スリーサークルモデルの定義

スリーサークルモデルとは、ファミリービジネスを構成する「家族(ファミリー)」「経営(ビジネス)」「所有(オーナーシップ)」という3つの領域の重なり合いによって、ファミリーメンバー間の立ち位置を整理し、利害関係による対立構造を体系的に分析するフレームワークです。

ノンファミリービジネスとの違い

通常のノンファミリービジネスでは、株主(所有)と経営陣(経営)という2つの主体が分離して存在しています。これに対してファミリービジネスでは、そこに家族という第三の主体が複雑に絡み合います。
一般的に、家族では「感情・絆・平等」が重視されやすいのに対し、経営は「成果・能力・合理性」を重視するシステムです。この本質的に相矛盾する2つのシステムが重なり合うことで、ファミリービジネス固有の強みにも弱みにもなります。スリーサークルモデルはこの複雑な構造を視覚的に整理します。

スリーサークルモデルを構成する3つの領域

スリーサークルモデルは、ファミリービジネスを以下の3つの領域(サークル)からとらえます。

1.家族(ファミリー)

血縁・婚姻によってつながる家族・親族の集まりです。創業者の理念、家訓、ファミリーのアイデンティティを共有するコミュニティであり、次世代への価値観の承継を担います。

2.経営(ビジネス)

企業の運営・成長・利益創出を担う領域です。経営戦略の立案・実行、組織マネジメント、市場への適応などが主要な要素となります。

3.所有(オーナーシップ)

企業の株式や資産の所有権を持ち、配当・議決権を通じて企業に影響を与える人々の領域です。財産的利益の保全と経営への関与のバランスが問われます。
これら3つのサークルが重なり合う領域が多く、かつそれぞれの意思が整合的であるほど、経営は安定します。逆に3つのサークルが引き離される「遠心力」が働くと、対立・混乱が生じやすくなります。

スリーサークルモデルにおける7つの属性

3つのサークルの重なりによって、ファミリービジネスに関与するすべての人物は7つのいずれかの領域に位置づけられます。自分がどの領域にいるかによって、利害関係・視点・役割が異なります。
所有(オーナーシップ) 家族(ファミリー) 経営(ビジネス)

①株を所有している・ファミリーメンバーである・企業経営に関与する

3つのサークルすべてが重なる領域で、最も複雑な立場です。オーナー経営者が該当します。家族・経営・所有という異なる3つの立場のニーズを同時に満たすことが求められます。

②ファミリーメンバーである・企業経営に関与する

株式は保有しないが、ファミリーメンバーとして経営に携わっている人物です。次世代経営者などが該当し、一般社員からはファミリーの一員として見られやすい立場といえます。

③株を所有している・ファミリーメンバーである

経営には直接関与しないものの、株式を保有する創業家ファミリーの一員です。配当や株価への関心が高い一方、経営判断には直接関わりません。

④ファミリーメンバーである

株式も持たず経営にも参画していないが、創業家のファミリーに属する人物です。世代を重ねると、この領域に属する人物がふえていきます。

⑤企業経営関係者

ファミリーメンバーでも株主でもなく、純粋に経営・業務を担うプロフェッショナルで、番頭などが該当します。能力と成果によって評価される立場です。

⑥株を所有している・企業経営に関与する

ファミリーメンバーではないが株式を保有し、かつ経営にも携わっている人物です。創業期の共同経営者、役員・従業員、PEファンドなどが該当します。

⑦株を所有している

ファミリーメンバーでも経営者でもなく株式のみを保有する、機関投資家・アクティビストといった外部株主です。配当・株価といった財務的リターンを主な関心事とします。

各課題に対するスリーサークルモデルの役割

ファミリービジネスの4つの課題に対するスリーサークルモデルの役割を解説します。

1.「遠心力」と株式分散に対する役割

企業が成長し世代交代を迎えると、会社に属さないファミリーメンバーの出現や株式の分散といった「遠心力」が働きます。スリーサークルモデルを定期的に活用すると、自社や創業家ファミリーの個人単位での現在地を客観的に把握できます。「どの領域にどれだけの人が集まっているか」「株式がどこまで分散しているか」の可視化によって将来のリスクに早期に気付き、対策を講じる契機となるのです。

2.親族間の対立に対する役割

代を重ねファミリーメンバーがふえると、コミュニケーション不足が生じる場合があります。これに対してスリーサークルモデルは、家族会議などを通じて円滑な関係を維持する「ファミリーガバナンス」の仕組みづくりの重要性を提示します。
また、事業承継において先代と後継者間の意見の相違によるトラブルを防ぐため、先代の立ち位置を「アンバサダー型」「将軍/帝王型」「アントレプレナー型」「ファミリーガバナー型」の4つに分類・整理し、スムーズな関係構築を支援します。

3.ガバナンス機能の不全と「公私混同」に対する役割

経営者の独善的な行動や公私混同は、「家族」と「経営」の境界線が曖昧であることから生じます。スリーサークルモデルの活用によってこの境界線を明確にし、それぞれの領域で求められる役割と責任を整理できます。
これはコーポレートガバナンスが求める透明性・公正な意思決定にも通じるものです。スリーサークルモデルは、一般企業のコーポレートガバナンスとファミリービジネス固有のファミリーガバナンスを両立させる思考の枠組みとして機能します。

4.ルールや理念の明文化・文書化の遅れに対する役割

日本のファミリービジネスでは、創業者の理念や価値観が「暗黙知」のままとどまり、次世代への伝達が属人的になりがちです。スリーサークルモデルを共通言語として活用することで、「どの領域で何を決めるべきか」という意思決定の構造を明確にし、ファミリー憲章やガバナンスルールの策定へと具体的なアクションへつなげられます。
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スリーサークルモデルを活用した実践的アプローチ

スリーサークルモデルは分析ツールにとどまらず、実践的な経営改善の指針としても活用できます。3つの視点それぞれから、具体的なアプローチを紹介します。
所有(オーナーシップ)長期の経営戦略  家族(ファミリー) ファミリーガバナンス 経営(ビジネス)事業継承・資産継承

家族(ファミリー)の視点:円滑なコミュニケーションと適切な承継体制の構築

家族(ファミリー)の視点からは、以下のようなアプローチが有効といえます。

・創業家のアイデンティティの承継

ファミリービジネスにおいて、創業の理念や価値観は経営の根幹をなします。しかし世代交代が進むにつれ、創業者の暗黙知が次世代に十分に伝わらないまま承継が行われるケースが少なくありません。
こうした課題に対して、スリーサークルモデルは「ファミリー」の領域を独立した管理対象として位置づけることで、理念の承継を経営課題として明確に認識させます。モデルを活用してファミリーの現状を定期的に棚卸しすることで、「創業の意志がどこまで共有されているか」や「次世代の誰が理念の担い手となりうるか」を構造的に把握できます。こうした認識が、ファミリー憲章の策定や定期的なファミリーミーティングの開催など、理念の文書化・共有に向けた具体的なアクションを後押しします。

・先代の適切なサポート体制

事業承継において頻繁に起きる問題の一つが、先代と後継者の役割の混在です。先代が承継後も実務に深く関与し続けることで、後継者が自律的な経営判断を下せなくなるケースがあります。一方で先代が完全に退いてしまうことで、後継者が孤立するリスクもあります。
スリーサークルモデルを活用することで、先代・後継者それぞれが現在どの領域に位置しているかを可視化できます。「先代は所有と家族の領域に軸足を移し、経営の実務は後継者に委ねる」という役割分担を構造的に整理することで、二重権力構造を防ぎつつ、先代の経験と人脈を会社の対外的な活動や後継者のサポートに活かす体制を設計できます。承継後に先代がどう関わるかをあらかじめ明文化しておくことで、この設計の実効性が高まります。

経営(ビジネス)の視点:長期目線での意思決定と柔軟な事業転換

経営(ビジネス)の視点からは、以下のようなアプローチが考えられます。

・長期的な視点に基づく投資

一般的な会社経営では、短期的な業績悪化を理由に長期投資が縮小されるケースがあります。特に世代交代期には経営の優先順位が不明確になりやすく、研究開発や設備投資の判断が先送りされがちです。
スリーサークルモデルを用いてビジネスの領域における意思決定の構造を整理することで、短期的な業績に左右されない投資判断の軸を明確にできます。ファミリービジネス特有の強みである長期視点を、モデルを通じて経営陣・ファミリーメンバー間の共通認識として定着させることが、一貫した投資継続の土台となります。

・環境変化に合わせた大胆な事業転換

既存事業への固執はファミリービジネスが陥りやすいリスクの一つです。創業事業への愛着や、先代から受け継いだ事業を変えることへの抵抗感が、時代の変化への対応を遅らせる場合があります。
こうした場面でスリーサークルモデルが果たす役割は、家族・経営・所有それぞれの立場から事業転換をどうとらえているかの可視化です。感情的な抵抗の背景にある利害構造の整理によって、対立を建設的な議論へと転換できます。事業には寿命があっても企業は永続できるという認識を、3つの領域の関係者が共有し、柔軟な事業転換の実現へとつなげていきます。

所有(オーナーシップ)の視点:株式の分散防止とファミリーガバナンスの構築

所有(オーナーシップ)の視点からは、以下のような実践につなげられます。

・自社株式の分散対策

世代交代が重なるにつれて親族がふえ、相続のたびに自社株式が細分化されていきます。それにともない議決権が分散し、経営の意思決定に支障をきたすだけでなく、経営方針をめぐる親族間の対立が顕在化するリスクも高まります。
スリーサークルモデルの活用により、現在の株式保有状況を「所有」の領域として可視化し、将来の分散リスクを早期に把握することが可能です。この認識を出発点として、信託の活用や資産管理会社への株式集約といった対策の必要性をファミリー全体で共有し、具体的な対応へと動き出せます。最適な手法は各社の状況によって異なるため、早期に専門家へ相談することも重要です。

・ファミリーガバナンスの仕組みづくり

ファミリービジネスでは、経営上のルールとファミリーとしてのルールが混在し、どちらの論理で意思決定すべきか判断がつかない場面が生じます。こうした曖昧さが、親族間の対立や公私混同の温床となりえます。
スリーサークルモデルは、家族・経営・所有それぞれの領域で何を決めるべきかを整理する枠組みを提供します。この整理をもとにファミリー憲章の策定、ファミリーミーティングの定期開催、後継者育成の仕組みづくりといったファミリーガバナンスの具体的な構築が可能となります。コーポレートガバナンスは、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた透明・公正な意思決定の仕組みです。一方、ファミリーガバナンスはコーポレートガバナンスを踏まえ、ファミリー内の協働とステークホルダーとの協働を促すことで事業を継続・承継し、持続的に成長するための仕組みです。両者を車の両輪として整備することが、ファミリービジネスの永続的な発展につながります。

まとめ

スリーサークルモデルは、ファミリービジネスが抱える複雑な課題を家族・経営・所有という3つの視点から構造的に整理し、解決への道筋を示すフレームワークです。世代交代による遠心力、親族間の対立、ガバナンスの不全、理念の承継といった課題は、このモデルを共通言語として活用することで、客観的に可視化・対処できるようになります。
100年企業をめざすファミリービジネスにとってスリーサークルモデルの活用は、永続的な発展のための経営インフラです。まずは自社や創業家ファミリーの個人単位での状況をこのモデルに照らして整理することから始め、専門家とともに具体的な対策を検討すると良いでしょう。

記事提供:株式会社LITTLE DISCOVERY

執筆者:松田 聡子(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP®認定者、DCアドバイザー)

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