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第9回「Rise Up Festa」受賞者インタビュー

次世代へ繋ぐ地球環境の維持

“高断熱と経済性を両立したTIISA断熱材”
独自断熱材TIISA®で最先端分野から汎用断熱まで断熱問題に幅広く対応、超高温向け遮熱技術も保有
2022年12月2日
Thermalytica代表・小沼和夫氏
三菱UFJ銀行が主催するビジネスサポート・プログラム「第9回Rise Up Festa」の「次世代に繋ぐ地球環境の維持」分野において最優秀企業に選ばれたのは、株式会社Thermalyticaです。高断熱と経済性を両立した独自断熱材「TIISA®」を用いた事業について、株式会社Thermalytica代表・小沼和夫氏にお話を伺いました。

断熱性・耐火性・軽量性に優れた断熱材「TIISA®」の可能性

― 御社の事業概要を教えてください。

我々が製造・販売している主力製品、それがエアロゲル系断熱材「TIISA®」です。

断熱材といえば、例えば「発泡ウレタン」のような既製品がありますが、発泡ウレタンは石油由来のため燃焼しやすく(内装工事等の)吹付の際には有毒ガスを発生させます。ほかには耐火材として「セラミックボード」がありますが、これはかなりの重量物で、取り扱いにくいことが難点です。
エアロゲル系断熱材「TIISA®」
TIISA®はそれらの断熱材・耐火材と比較して、断熱性・耐火性が高く、非常に軽量です。もともとの状態は粉末状で、断熱シート・断熱ボード・断熱塗料などにも応用でき、宇宙・航空産業、液化燃料の保冷容器などの最先端分野から冷蔵庫・建材など身の回り用途まで幅広い分野で製品提供が可能です。

またTIISA®は石・砂の主成分として地球上にたくさん存在するシリカ(SiO2、二酸化ケイ素)由来のため、使い終わって廃棄したとしても地球環境を汚しません。製造する際にはいろいろな薬品を使いますが、薬品を再利用したり使用量を減らしたりするなど、できるだけ環境負荷をかけないことにこだわっていきたいと思っています。
当社の製品:独自のエアロゲル

― 事業モデルはどのような形でしょうか。

第一には断熱塗料などを自社で商用生産・販売していくケースですが、他方で、企業・メーカーで生産される新製品の部材(例えば家電メーカーの冷蔵庫など)に採用していただくケースも多いと考えています。その場合は我々がお客様企業のニーズをヒアリングしながら製品化までを共同開発していくコンサルティング的機能を備えるつもりです。また事業が拡大した後はライセンス契約を交わしたうえで、生産協力してくださるパートナー企業も探したいと考えています。

― 株式会社Thermalyticaの設立について教えてください。

私自身はもともと某・電気メーカーの研究者でしたが、基礎研究成果の実用化に携わることが念願だったため、今から11年前に会社を早期退職。茨城県つくば市にある「国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)」に転職しました。NIMSで担当した外部連携部門は企業との共同研究などをコーディネートする部署だったのですが、そこで弊社のCTOであるウー・ラダーと知り合いました。

NIMSで5年間、外部連携部門の仕事をした後、一度NIMSを離れ、筑波大学で産学連携の仕事をしていたのですが、今から2年半前にウーから「この断熱材(TIISA®)を自分で普及させたい」との相談を受け、私とウーを含む4名で起業準備を開始。計画に1年ほどかけ、NIMS認定ベンチャーとして会社設立したのが2021年4月のことでした。
株式会社Thermalytica

メンタリングプログラムに感じた“躍動感”と“充実感”

― Rise Up Festaへの応募動機・経緯を教えてください。

神奈川県川崎市のアクセラレーションプログラム「Kawasaki Deep Tech Accelerator」へ参加したことがきっかけです。そのメンターの方からRise Up Festaの存在を教えていただきました。そしてさっそく募集要項を読んだところ「これは自社事業にとって非常にドンピシャなビジネスサポート・プログラムだ」と感じました。

― どんな点が魅力的だったのでしょうか。

特に魅力的だと感じたのは、事業提案として募られていた4つのテーマです。具体的には「次世代へ繋ぐ地球環境の維持」「健康社会・Well-beingの実現」「先端技術によるビジネスプロセス改革」「都市・暮らしのアップデート」を指します。

それまで我々が参加してきたDeepTech領域のコンテストといえば「AIで人の生活を便利に」というテーマが掲げられるなど、どれも”技術起点”がお題目になりがちでした。しかしRise Up Festaは4つのテーマがそうであるように“社会起点”あるいは“世界起点”です。いずれのテーマも起業家たちに「地球環境や社会課題に対する自社の事業価値」を問いかけているのです。Rise Up Festaに参加すれば「自分たちが何のためにベンチャーを立ち上げたのか」「何を目指しているのか」今一度考える機会になる、そう思いました。

― 参加者は1次審査(書類審査)・2次審査(プレゼン審査)を経て、最終審査に臨み、最終審査前にはブラッシュアップ期間も設けられています。率直なご感想は?

想像していた以上に素晴らしいプログラムでした。事前に「三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が総力を上げて運営する」と聞いていましたが、その看板に偽りなしだと思いました。

― 具体的にはどんな点が「良かった」と思いますか?

MUFG傘下のメガバンク・ベンチャーキャピタル・コンサルティング各領域の“現役”プロフェッショナルが親身に、そして本気でメンタリングしてくれたことです。他で行われる同様のプログラムではどうしてもOB系の方々からメンタリングを受けることが多く、もちろんそうした方々から受けるメンタリングもたいへん有り難いですが、どうしても現役とOBでは差が生じます。Rise Up Festaで現役の方から受けたメンタリングでは、常に我々の悩みに応じた適材適所のマッチングをしてくれるなど、言葉で表現するのは難しいですが「躍動感」がありました。

またメンタリング自体の質が高く、非常にプロフェッショナルでした。メンタリングを受ける我々生徒の側も次第にプロになっていくものです。今回は最終ピッチへのブラッシュアップを主目的としたメンタリングでしたが、メンターから「小沼さんのその説明では伝わらないよ」「本当はこういうことが言いたいのでは?」などの指摘を受けるたび、それらの言葉が私の胸に突き刺さり——正直その瞬間は何度も気持ちをへこまされましたが(笑)——自分が成長しているという「充実感」を得られました。

「これであなたもRise Up Family」——その言葉に勇気をもらった

― 「次世代に繋ぐ地球環境の維持」分野で最優秀賞を受賞。受賞後の変化は?

弊社はいわゆる「国研発ベンチャー」で、かつDeepTech分野ということもあり「技術は素晴らしい、けれどスタートアップとして本当に成功できるの?」と思われがちです。しかしRise Up Festa最優秀賞という形で事業性を評価いただき、私達の起業としての志である「地球のサステナビリティへの貢献」を認めていただけた。私にとって大きな自信になりました。

― 参加後のMUFGのサポート体制について。

最優秀賞を受賞後「これであなたの会社はRise Up Familyです」「今後はMUFGが総力を上げて中長期的に応援します」と、非常にうれしい言葉をいただきました。なるほど、Rise Up Festaは単にスタートアップによる事業創出を支援しようとしているだけでなく“ファミリー”を育てようとしているのか、とそのときに思いましたね。これは起業家としての大きな勇気になりましたし、実際受賞後には顧客候補となる企業様のご紹介やピッチ会への推薦など手厚い支援をいただいています。

― 今後の展望について。

起業から1年半の活動で、TIISA®という断熱材が社会で受け容れられる下地ができたと自負しています。また、耐熱材料の世界的拠点であるNIMSで培ったもう1つのコア技術である超高温遮熱・耐熱コーティングは、CO2フリー水素火力や宇宙船再利用の分野でも貢献が期待できます。今後はTIISA®と超高温遮熱・耐熱コーティングサービス事業のグローバル展開を踏まえながら世界にこの技術を波及させていきたいです。

同時に、DeepTechベンチャーとして今後のモデルケースになるような経営をしていきたいと思っています。研究機関が集積している「つくば」に拠点を置くベンチャーとして研究成果を社会にすぐに役立たせるモデルをお示しすることで、当地で長年行われてきた研究活動に対する社会の期待を高めたいと思っています。

この記事の執筆者:安田博勇(やすだ・ひろたけ)
フリーライター。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。

健康社会・Well-beingの実現

“細胞治療で未来を変える”
ヒト造血幹細胞の体外増幅技術を利用した、難病治療のための再生医療等製品の開発
2022年12月2日
セレイドセラピューティクス株式会社・荒川信行氏
三菱UFJ銀行が主催するビジネスサポート・プログラム「第9回Rise Up Festa」の「健康社会・Well-beingの実現」分野において最優秀企業に選ばれたのは、セレイドセラピューティクス株式会社です。「ヒト造血幹細胞の体外増幅技術を利用した、血液がん等の難病治療のための再生医療等製品の開発」について、セレイドセラピューティクス株式会社・荒川信行氏にお話を伺いました。

造血幹細胞の体外増幅技術を用いた細胞治療製品を開発

― 御社の事業概要を教えてください。

当社は造血幹細胞の体外増幅技術を用いた細胞治療製品の開発事業を展開しています。社名に入った“セレイド”は我々の造語で「Cell(細胞)×Aid(助力)=細胞で社会の役に立ちたい」との思いを込めています。

そもそも「造血幹細胞」は骨髄中で血球をつくり出す細胞でいわば“血液の源”。これまで白血病等の血液がん治療では、化学療法でがん細胞を極限まで減らした後、造血幹細胞の移植医療が行われてきました。しかし骨髄移植は「骨髄の調達・入手が困難(適合ドナーを見つけにくい)」「移植後の副作用が強い」、また臍帯血移植は「生着率が低い」などの問題がありました。

そうした課題を背景に、東京大学医科学研究所のチームは、これまで難しいとされてきた造血幹細胞の“体外増幅”に成功。当社はそこで生まれた技術をベースに「臍帯血から取り出した造血幹細胞を体外で増幅・加工させ移植する」——調達・副作用・有効性いずれの問題も解消した次世代製品を開発・提供しています。

― 市場性とビジネスモデルを教えてください。

世界の血液がん年間新規患者数は129万人と言われています。白血病だけでも48万人で、2028年には3.1兆円規模の産業になると考えられています。

ビジネスモデルとして現状考えているのは「病院からリクエストを受ける→臍帯血バンクから臍帯血を手に入れる→それを製品化して病院に届ける」というサプライチェーンです。しかしそれを社会実装するとなればとても1社では賄いきれません。やがては大手グローバルファーマー(大手製薬企業)にライセンスアウトし、開発マイルストーン・ロイヤリティ収入を得ていく形にしたいと考えています。

― セレイドセラピューティクス株式会社の設立について。

当社は2020年に設立した、東京大学・筑波大学発のバイオ系スタートアップです。

私はもともとアクセンチュアで経営コンサルタントとして活動していましたが、今から10年ほど前に大学発バイオベンチャーの運営やいくつかのベンチャーの新規事業開発に関わる仕事をしていました。そうした活動のなかで当社の創業科学者である山﨑聡先生、中内啓光先生に出会いました。

アクセンチュアを辞めた後は再生医療やヘルスケア事業に携わるようになるなど、社会に役立つ事業に取り組みたいと考えていました。コンサルとして当社の事業化を検討する中で、先生方の思いに共感し、私も共同創業者として創業に参画することになりました。

― 創業後、特にご苦労されたことは何ですか。

計画を立てていた期間がちょうどコロナ禍に重なってしまったことです。外出自粛が進んでいたため人集め・チームづくりに苦労しました。そうしたなか東大IPC(東京大学協創プラットフォーム開発)に相談したところ、テック系ベンチャー向けの起業支援プログラム「1st Round」をご紹介いただき、そこに採択されたことが大きなターニングポイントになりました。

社会実装に不可欠な「米国展開」に向け、助言をもらえた

― Rise Up Festaへの応募動機・経緯を教えてください。

当時からいくつかのアクセラレーションプログラムに参加していたのですが、そのなかでRise Up Festaを知りました。

日本国内でこの事業を展開していくためには法規制の問題などを乗り越えていかなければいけません。つまり社会的なニーズを高めていかなければこの事業は成り立たず、Rise Up Festaのようなイベントを通じて、我々がどのような目的でこの事業に取り組んでいるのか広く知っていただく必要があると考えました。

― 実際に参加した率直な感想を聞かせてください。

Rise Up Festaは非常にジェネラルなプログラムなので、幅広い層に訴えかけられると思いました。しかしその反面として専門知識・専門用語があまり通じません。「医療」「海外展開」などをテーマに掲げるいつものピッチ大会では共通言語が通じ合う前提でプレゼンなどが進められ、質疑などでも話の内容がディープになりがちです。Rise Up Festaでは「造血幹細胞移植とは何なのか」といったことから理解してもらわなければいけませんでした。

― プレゼンに関してはメンターからのアドバイスもありましたか。

はい。メンターの皆様から当社のプレゼンに関する適切かつ客観的な助言をいただき、プレゼン力が養われました。社会実装を狙っていく当社にとってそれは、必ず身に付けなければいけないテクニックだったと思います。

また最終プレゼンに向かう期間中には、他の起業家の皆様のビジネスを知ることができました。普段から医療に閉ざされた世界で活動することが多かったため、どれも参考になりましたし、新鮮な経験ができたと思います。

― メンタリングを受けて、御社のビジネスプランも変わりましたか。

実は当社がRise Up Festaに参加した動機の背景にはもう1つ「米国展開」というビジョンがありました。

ヒト造血幹細胞の体外増幅技術を国内で産業化していくとなれば、臨床や法規制の問題などがあり、社会実装にかなりの時間を要すると想定されます。そこで新たに見据えた市場が米国でした。日本で基盤技術開発・非臨床のPoCを行い米国に持っていく。当地での非臨床安全性試験・臨床試験を経て市場をつくり国内に逆輸入する——その道筋をつくるうえで専門家の皆様からアドバイスがいただきたく、Rise Up Festaならばそれを叶えられると考えていました。

実際Rise Up Festaでは、米国展開に関するさまざまな助言をいただけたと思います。特にMUMSS(三菱UFJモルガン・スタンレー証券)のチームを紹介いただき、米国でのIPO(新規上場)、調達環境、子会社設立に関するアドバイスを受けました。皆様のアドバイスは当社コーポレートストラテジー立案の参考とさせていただいています。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の専門家からの助言、そして創薬・開発パートナーになり得る企業・投資家とのマッチングは、Rise Up Festaならではの貴重な体験です。

国内展開時には再びMUFGのネットワークを活用したい

― 参加後のMUFGのサポート体制について。

他のアクセラレーションだとイベント1回きりで主催者との関係が途絶えてしまったりするのですが、Rise Up Festaでは参加後も新たにNAGOYA CONNÉCT(愛知)やうめきたピッチ(大阪)といった他のピッチイベントを紹介いただくなど露出の機会を与えてくれました。当初の参加目的の通り、当社事業を幅広くPRさせていただいています。

我々の事業の場合は商圏が医療に限定されるため、興味を持っていただけるパートナーも数えるほどしかいません。しかしそんな当社でもPR面で参加後の効果を十分すぎるほど実感しています。当社のような企業でなければもっと商圏が広いでしょうから、より一層Rise Up Festaの効果を実感できるのではないでしょうか。

― 「健康社会・Well-beingの実現」分野で最優秀賞を受賞。受賞後の変化は?

最優秀賞の受賞はかなりポジティブに働いていると思います。他のベンチャーの方と話をしていても我々の存在を知っていただいていますし、今後は資金調達の面でも武器になると思います。

― 今後の展望を教えてください。

ここまでお話してきた通り、現在は「国内で非臨床POCを取得し、最初の市場は米国を狙う」というリード・パイプライン開発に専念しています。しかしゆくゆくは国内企業とお話させていただく機会も増えていくでしょう。今回のRise Up FestaでMUFGとのネットワークができたことは当社の強みです。国内展開の際には是非またご協力をいただきたいと考えています。

この記事の執筆者:安田博勇(やすだ・ひろたけ)
フリーライター。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。

先端技術によるビジネスプロセス改革

“製造業×AI 目視検査の自動化を実現”
16年に渡って研究開発を行った産総研発の特許技術を用いた、従来よりも効率的な異常検知を可能とするソフトウェアを提供
2022年12月2日
株式会社アダコテック代表取締役・河邑亮太氏
三菱UFJ銀行が主催するビジネスサポート・プラグラム「第9回Rise Up Festa」の「先端技術によるビジネスプロセス改革」分野において最優秀企業に選ばれたのは、株式会社アダコテックです。「製造業 × AI の組み合わせで、検品工程で従来よりも効率的な異常検知を可能とするソフトウェア」について、株式会社アダコテック代表取締役・河邑亮太氏にお話を伺いました。

製造業の検品作業を自動化するSaaSソフトウェア

― 御社の事業概要を教えてください。

製造業における検品作業の95%はいまだ人の目視で行われ、工場の5人に1人は検品作業従事者です。しかし深刻な労働力不足から検品現場は限界を迎えています。私も工場に1週間泊まり込みで検品作業を体験して実感したのですが、1日数千個という部品に対し数十ミクロンという細かい傷を探し続ける作業は、精神的なプレッシャーが大きく、単調に見えながら熟練技術を必要とします。

アダコテックはこうした課題を背景に、産業技術総合研究所(以下、産総研)の特許技術「HLAC」を活用した検品AIソフトウェアを提供。画像の特徴をいち早く正確に抽出する技術を使い、検品作業の自動化を実現しました。

― 検品AIソフトウェアについて。

検品AIの解析モデルで検証に必要なデータ数は、一般的なディープラーニングAIと比較しても非常に少ない「良品データ100枚」のみ。学習はたった1分で完了します。汎用パソコンから処理できるため、ハイスペックなパソコンやシステムを導入する必要がありません。またAIソリューションは判断根拠がブラックボックス化されがちですが、当社検品AIはブラックボックス化されず説明可能なロジックを用いて構築します。

以上のサービスをSaaSソフトウェアとして提供。検査人員の大幅削減や良品率の向上に寄与しており、すでに大手自動車会社のエンジン部品に採用されたケースでは、1工場あたり2億3,000万円の導入効果が見込まれています。

― 株式会社アダコテックの設立について。

会社の歴史自体は長く、前身の設立は16年前の2006年10月です。産総研と関係のあった現・アダコテック取締役CTO伊藤桂一らが産総研認定ベンチャーを立ち上げ、2012年3月、認定ベンチャー事業を承継する形でアダコテックが法人設立されました。

私がアダコテックに入社したのはそれよりずっと後のことです。2019年6月アダコテックは東京大学エッジキャピタル(UTEC)とDNX VenturesからシリーズAの資金調達(4億円)を実施しているのですが、そのタイミングでDNX Venturesからの紹介を受けて、同年7月、4人目の社員としてジョインしました。

― アダコテックへの入社の理由は?

私にはかねてより「高度経済成長期のような、元気な日本を取り戻したい」という思いがあります。アダコテックはそのときすでに日本発の独自技術を持ち、製造業の課題を解決できる力を持っていました。しかし当時は仕事も受託開発が中心で、ビジネスが確立されていませんでした。

私はそれまでの三井物産やDMMのキャリアで事業経営、事業管理、M&A実務、新規事業提案などに従事しており、入社以降は検品AI事業化を自らのミッションに据え、製造業にまつわるお客様課題の抽出、プロダクト化、チームづくり等に注力してきました。
株式会社アダコテック

メガバンクの本気度とネットワークで「業界の解像度が上がった」

― Rise Up Festaへの応募動機・経緯を教えてください。

以前よりお世話になっていた三菱UFJ銀行の担当行員の方からご紹介いただいたのがきっかけです。そのとき当社は自動車業界以外の販路を模索していた時期だったので「三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のリソースを使いながら、各領域のプロフェッショナルがサポートする」という話に興味がわきました。

また、こうしたピッチイベントで何か受賞するなどしてメディア等への露出が増えれば、ビジネスや採用の面で有利に働きます。コストを抑えた広報活動にもなるだろう、と考えました。

― 参加後の率直な感想を聞かせてください。

これまでRise Up Festa以外のビジネスコンテストあるいはピッチイベントに何度も参加してきました。そのほとんどはRise Up Festaと同様、本当に素晴らしいイベントです。しかし大企業主催のアクセラレータープログラムでは時として「事業シナジー」や「ビジネスマッチング」を謳いながら、主催側の本気度が低かったり温度感がなかったりするケースに遭遇します。もちろん我々ベンチャー側は、そのイベントで何のメリットも得られません。

それに対しRise Up Festaでは、メンターの方たちから常に「参加するベンチャー・起業家が何をしたいのか」を問いかけられ、「必要なものがあれば何でも持ってくるから!」というスタンスで、かなり前のめりなサポートを受けました。例えば当社から「こんなことがやりたい!」と目的を明確に打ち明ければ、メンターが業界のエキスパートを即座に紹介してくれたこともあります。おかげでその業界の解像度が上がりました。

他と比較するわけではありませんが、メガバンクが取り組む当ビジネスサポート・プログラムの本気度とネットワークを目の当たりにできたと思います。

― メンタリングを受けて、御社のビジネスプランも変わりましたか。

変わりましたね。製造業と一口にいっても工場の生産品は多種多様ですし、1つの生産のなかでも部品ごとにたくさんの工程があります。そのため「どこに注力すべきか」というターゲット選定は、我々にとってとても難しいテーマでした。今回紹介していたいだいたお客様へのヒアリング、あるいは製造業への出向経験のある行員の方とのブレストを通じ、ターゲット選定や市場選定がかなりブラッシュアップされたと思います。

検品ソフトウェアの技術的デファクトスタンダードを確立したい

― Rise Up Festaへの参加を検討する起業家に向け、何かアドバイスはありますか。

最近は起業家向けイベントもたくさん開催されていますが、どんなイベントであれ、技術評価より大事になのはビジネスとしての確度、そして産業へのインパクトです。当社もたとえそれがDeepTech系のイベントだったとしても、技術の部分はできるだけわかりやすく説明しています。ディープテックだからこそ小難しくならないよう「誰のどんな課題が解決され、どのようなインパクトを与えるのか」が大事なのです。

Rise Up Festaも同様で、私の場合は「これならば銀行の方が銀行の取引先に紹介したくなるかな?」といったことをイメージしましたね。書類審査やプレゼンではそうしたことを意識されるとよいのではないでしょうか。

― 今後の展望を教えてください。

検品作業の市場規模は世界30兆円とも言われていますが、日本の製造業はとかく前例主義に陥りがちです。そのため最優先すべきは「大手企業への実装」であり、自動車、電子部品・半導体・その他の領域をターゲットに最大手企業での導入を進めています。日本メーカーは海外生産比率が非常に高いため海外展開も念頭に置いています。

他方、本当に検品作業にご苦労されている方々の中心は、中小・零細企業の皆様です。業界に対してより汎用的かつ安価なサービス提供をしていくためには、当社検品AIアルゴリズムを既存の「検査装置」へ組み込む必要があると思います。当社ではそのための新規事業開発を行い、2023年中に2社・2製品で実装する予定です。
すなわち現時点で目指しているのは「ラップトップパソコンのCPUにインテルが入っているのが当然」というのと同じ状態。検品ソフトウェアの技術的デファクトを確立していきたいと考えています。

さらにその先の話で申し上げれば「なぜ不良品が出るのか」「どういう製造条件であれば不良品が出ないのか」といったことも「データ×AI」で解明されていきます。まだ構想段階ですが、ゆくゆくは製造業のそうした課題も解決するプラットフォームを構築し、不良品が出ない世界を創っていきたいと考えています。

この記事の執筆者:安田博勇(やすだ・ひろたけ)
フリーライター。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。

都市・暮らしのアップデート

“衛星間光通信のリーディングカンパニー”
宇宙空間における光中継衛星ネットワークサービスの実現をめざす、つくば発の宇宙スタートアップ
2022年12月2日
株式会社ワープスペース代表・常間地悟氏
三菱UFJ銀行が主催するビジネスサポート・プログラム「第9回Rise Up Festa」「都市・暮らしのアップデート」分野において最優秀企業に選ばれたのは、株式会社ワープスペースです。実現をめざす「宇宙空間における光中継衛星ネットワークサービス」について、株式会社ワープスペース代表・常間地悟氏にお話を伺いました。

宇宙空間の“携帯電話の基地局”に。宇宙・地上間の常時高速通信を実現

― 御社の事業概要を教えてください。

宇宙空間の低軌道衛星(高度400〜1,000km)のうち9割は、電波を地上に届けることができない通信圏外にあります。しかも地球との通信に必要な国際周波数申請には衛星1機あたり24カ月以上がかかると言われ、それによる機会損失は「約20兆円規模」とも言われます。

それらの課題に対し我々は、地上と宇宙空間を光通信で結ぶインフラを開発。宇宙空間における光中継衛星ネットワークサービス「WarpHub InterSat」の実現を目指します。

具体的には、低軌道より少し高い軌道上に“携帯電話の基地局”のような機能を持つ光中継衛星を複数置き、24時間365日、低軌道の衛星が携帯電話よろしくワープスペースの中継衛星に接続し、高速光通信ネットワークで結ばれるようなイメージです。光通信のため電波の周波数を獲得するような業務は必要なくなり、電波より数倍〜数十倍も速いデータスピードを実現。宇宙産業に大変革をもたらします。

― 市場性とビジネスモデルを教えてください。

基本的には民間の地球観測衛星事業者に高速光通信サービスを提供し、その対価として通信料を徴収する、いわゆる携帯キャリアに近いビジネスモデルです。一方で宇宙空間中のインフラ事業者として、JAXAのような政府系宇宙機関、あるいは大手インフラ企業等にも掛け合っていきたいと考えています。

市場性で申し上げるならば、地球観測産業の市場規模は年間10%で増加しており、7年後には1.1の7乗で約2倍になる計算です。データ流通量も比例するように増加しています。しかしこの領域は技術的ハードルがとても高く当社を含め民間では世界で3〜4社しか着手できておりません。まずは2025年を目処に地球低軌道上の通信インフラを整備し、ゆくゆくはシスルナ(地球〜月軌道周辺)・月面、さらには火星とも通信をつないでいきたいと考えています。

― 株式会社ワープスペースの設立について。

事業化の発端は、筑波大学で行われてきた人工衛星開発プロジェクトでした。特に2010年代は宇宙空間における通信の課題が頻出し、いくつもの議論を重ねた結果、最もフィージブル(実現可能)な解決策が光通信だと考えられました。

当社はその事業化を目指し、2016年筑波大学発宇宙ベンチャーとして始動。会社設立以降、世界の宇宙光通信領域でトップランナーとして活躍してきた研究者・エンジニアたちを当社に集めました。私は大学時代から複数のベンチャーを興すなどしてきたのですが、ベンチャー育成の活動をしているなかで当社との縁に結ばれ、会社設立と同年にワープスペース社外取締役に就任、その後2019年1月CEOに着任しています。
株式会社ワープスペース

メンタリングが「副賞」にあらず。プログラム中に組み込まれる利点

― Rise Up Festaへの応募動機・経緯を教えてください。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の方とはかねてよりお付き合いがあり、そのなかでRise Up Festaをご案内いただきました。正直こうしたコンテストやコンペティション形式のイベントにはたびたび案内・招待されていたのですが、今回ご案内いただいたのは「宇宙産業」として切り出していないイベントで、参加してみるのも面白そうだと思いました。

― 宇宙産業に特化されていないイベントになぜ興味を持ったのですか。

我々が今展開しようとしているビジネスは、民間の地球観測衛星事業者に対する高速光通信サービスの提供です。しかしだからといって「宇宙空間だけで完結」するわけでは決してありませんし、地球観測衛星事業者だけにこのビジネスをPRしていてはいけないと思います。最終的に地球観測衛星の恩恵を受ける、すなわち高速光通信サービスに載るデータの恩恵を享受するのは地上にいる皆さん。地球観測衛星事業のエンドユーザーです。

となれば、我々が宇宙開発や宇宙産業の世界に閉じこもる必要はありません。Rise Up Festaに参加すれば当社事業が産業界に認知されるのに加え、地球社会・人類社会を切り口にMUFGの専門家たちと議論ができる。その機会はとても有益だと考えました。

― 実際に参加した率直な感想を聞かせてください。

通常は、何かの賞を受賞するなど最終的な選出企業だけが副賞的にメンタリングの機会を得るものです。しかしRise Up Festaは最終選考のプログラムそのものにメンタリングが組み込まれていて、その点がすごく面白いと思いました。MUFG全体でプッシュしていただけることも含め、ただのビジネスコンテストとは違いました。

またメンタリングでは、宇宙開発や宇宙産業に限定されない「横断的領域の専門家」から多くのご支援をいただきました。いつもは宇宙産業に詳しい専門家からたくさんのアドバイスをいただき、それはそれでとても有意義なご意見ですが、Rise Up Festaでは特にMUFG各社の広範なネットワークから当社ビジネスをご覧いただき、またそれに対して多くのインサイトをいただけました。ビジネスがブラッシュアップされたと思います。

産業界×光中継衛星の“ユースケース”を見つけていきたい

―メンタリングでは、どのような気づきが得られましたか。

当社ビジネスで特に重要だと考えているのは「ユースケース」です。光中継衛星ネットワークサービスが最終的に「地上のどんな産業に波及していくのか」——そのシナリオをたくさん生み出さなければいけません。

Rise Up Festaメンターの皆様はあらゆる産業を熟知する専門家の方たちばかり。本当に幅広いユースケースについて議論できたと思います。イベント参加後はプレゼンもかなりユースケース寄りになり、より多くの方に訴えかけられる内容になりました。ユースケースの産業側の方たちから資金調達いただくこともあるので、これは会社運営の観点で考えても極めて重要です。

― 参加後のMUFGのサポート体制について。

かねてよりビジネスマッチング先をたびたびご紹介いただいているため、関係性という意味ではこれまでと変わりません。しかしこれからいろいろな産業の方たちとお付き合いしていきたいため、今後はそのご支援に期待しています。多くの産業の方たちとのブレストやセッションを通じ、ユースケースを見つけていきたいです。

― 今後の展望を教えてください。

地上と宇宙空間を高速かつシームレスにつなぐ光通信インフラは“インターネット”の次の通信イノベーションになり得ます。これから10年20年先、宇宙空間に滞在し長期的に活動する人は宇宙飛行士以外にも数百人・数千人単位でおそらく出てくるでしょう。私はインターネット以降に地球上で起きたことがもう一度宇宙空間上でも起こると考えているので、展望としては、まずは当社がそのインフラを整備し、そのインフラ上で新しい産業やサービスが創造されていくことを期待しています。

しかし同時に、我々のようなスタートアップ1社にできることは限られています。インフラ整備のためには、宇宙産業はもちろん宇宙以外の産業界からも適材適所のケーパビリティを持ち寄らなければいけません。最早、業界や国、さらには会社の規模に関わらず、すべての企業・団体が当社のパートナーになり得ると思います。
これからもRise Up Festaを通じて得られた知見や気付きを忘れずに宇宙産業を飛び出し活動していきたい。その意味ではメガバンクを母体とするMUFGの存在は欠かせません。国や業界を超えたコミュニケーションのハブ(結節点)になっていただけると、たいへん有り難いと思っています。

この記事の執筆者:安田博勇(やすだ・ひろたけ)
フリーライター。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。