平成8年(1996年)11月7日 NO.21

米国の対東アジア貿易動向

(1)

米国の対東アジア貿易(日本を除く)は、近年の拡大が著しい。東アジア内での産業移転に伴う低付加価値製品輸入先のシフト(NIES→中国・ASEAN)、NIESからの高付加価値製品輸入の増加、 また米国の対外直接投資増加に伴う輸出入増加などの構造的変化がみられる。

(2) 今後も対東アジア貿易は輸出入ともに堅調な拡大が見込まれるが、輸入の増加が輸出のそれを上回り、貿易赤字は拡大傾向を辿ることとなろう。 こうしたなかで、輸出を拡大させるために米国企業の競争力強化の努力が不可欠であろう。

対東アジア輸入の増加
 
対東アジア輸出も増加
 
対ASEAN・中国赤字の拡大
 
増加する米国の対東アジア直接投資
 
今後の展望と課題


 米国の対東アジア貿易は、80年代後半以降増加傾向が明白であるが、特に近年の拡大は著しい。91年から95年までの対東アジア貿易額(輸出入合計)は平均14.9%増と、対全世界貿易額の増加率(同9.9%)を大きく上回った。 これに伴い米国貿易全体に占める対東アジア貿易のシェアは、95年には21.2%まで上昇し、カナダ(同20.5%)やEU(19.2%)、日本(14.1%)を上回った。 今や東アジアは米国にとって大きな貿易相手地域となっている。 96年6月に、米国の対中赤字が対日赤字を初めて上回り、80年代から最大の貿易赤字相手国であり続けた日本に中国がとって代わったことも、こうした対東アジア貿易の拡大を象徴している。

 成長著しい東アジアは「世界の成長センター」として最も期待されている地域であり、米企業の進出もここ数年は目覚しい。

そこで本稿では、近年の米国の対東アジア貿易の動向と特徴について概観した後、対東アジア直接投資の面からの考察を加え、最後に今後の展望と課題を述べてみたい。

(注)本稿では、東アジアはNIES(韓国、台湾、香港、シンガポール)、ASEAN(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ)、中国の9カ国をさす。また輸出入は特記なき限り財の輸出入とする。

対東アジア輸入の増加
 
 米国の対東アジア貿易の大きな特徴として、まずは輸入の急増が挙げられる。87年から95年までの8年間、対東アジア輸入は平均10.9%増加したが、これは対全世界輸入の平均増加率7.8%を3.1%ポイント上回る勢いであった。 特に92年以降は毎年2桁の高い伸び率を記録しており、95年までの4年間の平均増加率は15.1%となった(同期間の対全世界輸入は同11.1%増)。 その結果、対東アジア輸入のシェアは85年の15.8%から95年には23.0%まで上昇した。

(1)低付加価値製品の輸入先のシフト
 東アジアの中で地域別に輸入動向をみてみると(第1図)、80年代終わりから90年代初めにかけての「対NIES輸入減少、対ASEAN・中国輸入急増」の動きが顕著である。 88年から93年までの平均増加率は、対NIES輸入がわずか0.5%であったのに対し、対ASEAN輸入は18.3%、対中国輸入は29.9%と高い伸びであった。 94年には対ASEAN・中国輸入の合計が、対NIES輸入を初めて上回った。

 このように地域によって輸入動向に相違がみられるのは、東アジア内での産業移転により、低付加価値製品の輸入先がシフトした影響が大きいとみられる。 NIESは80年代後半以降、安価な労働力を求めてASEANや中国への直接投資を増加させ(第1表)、労働集約的製造業を移転していった。 それに伴い米国は、かつてはNIESから輸入していた履き物や衣類、うば車・玩具・運動用具、かばん類などの労働集約的製品の多くをASEANや中国から輸入するようになった(第2表)。

 SITC(標準国際貿易商品分類)コード1桁で分類した商品別輸入動向をみてみると(第2図)、前述のような労働集約的な低付加価値製品が含まれる第8分類(雑製品)の輸入シェアの推移が、 対NIESと対ASEAN・中国で好対照をなしている。NIESからの第8分類の輸入は89年以降減少を続け、85年には48.0%であった輸入シェアも95年には22.9%まで低下した。 これに対し、対ASEAN・中国では大幅な増加が続き、輸入シェアは対ASEANで15.1%から92年には31.2%へ、対中国では43.6%から93年には66.1%へと、ともに大きく上昇した (ただし、その後は以下で述べる第7分類の輸入の増加によりシェアは低下している)。

(2)ASEAN・中国の日系子会社からの輸入増
 対ASEAN・中国輸入の急増は、家電やコンピューター、半導体などの機械類の増加によるところも大きい。 SITCコード第7分類(機械類・輸送機器類)の輸入シェアの推移を85年から95年の10年間でみてみると(第2図)、対ASEANでは22.2%から53.6%へ、 対中国では2.4%から26.4%へと大幅に上昇している。こうした機械類の輸入の増加には、アジア諸国へ進出した日系企業からの輸入の増加も影響しているとみられる。

 そこで日本の製造業の対東アジア直接投資の動向(フロー)をみてみると(第3図)、80年代終わり以降、投資相手先がNIESからASEAN・中国に大きくシフトしているのがわかる。 87年から94年までの直接投資総額に占める割合は、対NIESは11.2%から6.1%へ半分近くシェアを落としているのに対し、対ASEANは9.0%から16.3%へ、対中国は0.9%から13.4%と、いずれも拡大が著しい。 産業別には、電機や化学産業での直接投資が多く、全体の4割から5割を占めている。

 こうした日本企業の直接投資の増加に伴い、日系子会社の米国への輸出も増加してきた。 日系子会社の輸出動向をASEANの場合を例にみてみると(日本通産省調べ)、在ASEAN日系子会社(一般・電気・輸送・精密機械産業)の北米向け販売額は、87年度には3.9億ドルであったものが、93年度には16.5億ドルと4倍以上となった。

(3)対NIES輸入は再び増加へ
 また最近の動向で特筆すべき点として、頭打ち状態を続けていた対NIES輸入が、94年以降再び上昇傾向を強めていることが挙げられる(第1図)。94年、95年の増加率はそれぞれ10.6%、14.9%であった。 こうした増加傾向は、前述したようなSITC第8分類(雑製品)の減少を上回る勢いで第7分類(機械・輸送機器類)が増加していることによる(第2図)。 92年以降、第7分類の輸入は大幅な増加を続けており、特に94年、95年は21.2%増、27.0%増と著しい増加を見せた。

 これは、90年代入り後の米国の情報化投資の活発化に伴うものであり、機械・輸送機器類の中でも、特にコンピューターや半導体といった製品の輸入が目立つ。 またこうした現象の背景には、NIESの地場企業の成長があるとみられる。特に韓国や台湾においては近年、半導体やコンピューターの地場企業の成長が著しく、世界でもトップレベルの水準まで追いついてきている。 こうして、対NIES輸入については、低付加価値製品(雑製品)の輸入から高付加価値製品(機械類)の輸入へとシフトがみられる。

対東アジア輸出も増加
 
一方対東アジア輸出は、80年代半ばまでほぼ横ばいであったが、それ以降は東アジアの高成長を背景に増加を続けている。 87年から95年までの平均増加率は16.3%と、輸入と同様、対全世界輸入の平均増加率11.0%を大きく上回っている。 その結果、輸出シェアは85年の11.6%から95年には18.8%まで上昇した。

 地域別では(第1図)、輸出額でみると対NIESが圧倒的に大きく、対東アジア輸出の約7割を占めている。 しかし伸び率では対ASEAN・中国輸出が対NIES輸出をしのぐ勢いをみせている。 87年から95年までの平均増加率は、対NIESが15.4%、対ASEANが19.5%、対中国が16.4%であった。

 商品別構成は、対NIES、ASEANでは大きな変化は見られず、SITC第7分類(機械類・輸送機器類)が50%から60%と、圧倒的シェアを占めている。 対照的に、対中国では80年代後半からの急速な経済発展による産業の高度化を背景に、第7分類のシェアが88年の29.4%から93年には64.1%まで大幅上昇した。

対ASEAN・中国赤字の拡大
 
 次に貿易収支についてみてみると(第4図)、「対NIES赤字は縮小、対ASEAN・中国赤字は拡大」という対照的な動きがみられる。 対NIES赤字は主に輸入の減少・鈍化から88年以降急激に縮小し、ここ2年の輸入の増加も輸出の増加に相殺されて縮小を続けている。 赤字全体に占める割合も88年の23.8%から95年には4.9%まで低下した。対照的に、対ASEAN・中国赤字は80年代終わり以降急増した。 特に対中赤字の拡大は顕著である。86年にはわずか16.7億ドルにすぎなかった対中赤字は、95年には337.9億ドルと約20倍に膨れ上がり、赤字全体に占める割合も1.2%から21.3%へ大幅上昇した。 そして96年6月には、対中赤字が対日赤字を初めて上回り、80年代から最大の貿易赤字相手国であり続けた日本に中国がとって代わった。 7月には再び対日赤字が最大となったが、中国は今や米国にとって日本に次ぐ第2位の貿易赤字相手国となっている(注)。

 東アジア全体に対する貿易赤字をみてみると、87年から91年までは対NIES赤字の縮小幅が大きかったことから縮小していたが(419億ドル→335億ドル)、 92年以降は対ASEAN・中国赤字の拡大幅が対NIES赤字の縮小幅を上回り、再び赤字拡大を続けており、95年には607億ドルとなった。

(注)こうした対中赤字の急拡大は、@統計のカバー範囲の問題(米国の統計では香港経由の中国からの輸入は中国からの輸入として計上されるが、香港経由の対中国輸出は対中国輸出として計上されない)、 A中国の香港経由の対米輸出が経由地でかさ上げされている、といった理由から過大評価されている面もあるが、こうした要因を除いても95年の対中国赤字は220〜250億ドルと推定され、拡大している事実は変わらない。

増加する米国の対東アジア直接投資
 
 前述のような輸出入の増加には、米国の対東アジア直接投資の増加も背景の一つとして挙げられよう。そこで以下では米国の対東アジア直接投資について考察してみる。

(1)米国製造業の対東アジア直接投資動向
 米国の対外直接投資は、伝統的にイギリス、ドイツ、フランスなど欧州向けが多く、95年においても半分以上を占めているが、近年では東アジア向けも製造業を中心に増加してきている。 米国製造業の東アジアへの直接投資(フロー)は、80年代後半以降、着実な増加を続けている(第5図)。 92年には前年比減少したものの、その後の急増は著しく、94年には33億ドルと、86年(5億ドル)の7倍弱となった。 製造業の直接投資全体に占める割合も8.6%から13.2%まで上昇した。産業別では電気・電子機器、産業用機械、化学などの分野が半分以上(94年は66.2%)を占めている。

 地域別ではNIES向けが大半で、94年も対東アジア直接投資の65%を占めた。特にここ2年間は急増しており、94年には20億ドルを超えた。 一方、金額的にはまだ小さいものの、ASEAN、中国向けの近年の増加も目立つ。86年には6千万ドルにしかすぎなかったASEAN向けは94年には9億ドルとなり、中国向けも、90年の1千万ドルから94年には3億ドルとなった。

 こうしたフローの直接投資の結果として生じる直接投資残高の推移についてみると、95年末の残高(対東アジア全体)は簿価評価で185億ドルとなった。 対全世界の直接投資残高に占める割合はいまだ7.2%と低水準ではあるものの、88年以降年平均19.0%の高い伸びで増加している。

(2)高い直接投資収益率
 投資形態別にみると、対東アジア直接投資では、利益再投資(海外子会社の利益のうち親会社に配当せずに内部留保した部分)の割合が総じて高く、90年から94年までの利益再投資率 (90年から94年利益再投資額合計/同期間直接投資フロー合計)は84.6%と対全世界直接投資の同60.4%を大きく上回った。 東アジア諸国は、周知の通り、80年代から現在に至るまで概ね高成長を持続しており、こうした高成長を背景に海外子会社の収益状況も非常に良好である。 93年の対東アジア直接投資の収益率をみてみると(第3表)、22.6%と、欧州(同11.6%)や日本(同8.2%)と比較するとはるかに高い。 こうした高成長の持続と高い収益率を背景に、利益再投資も高い水準となって、対外直接投資増加の要因となったのである。

(3)在東アジア米系子会社の貿易動向
 前述のような直接投資の増加により、在東アジア米系子会社の米国との貿易取引も増加している。 出資比率50%以上の在東アジア米系子会社の貿易動向をみると、対米国貿易額(輸出入合計)は89年の211億ドルから93年には311億ドル(注)へ約1.5倍となった。 4年間の平均増加率は10.2%で、米国の対東アジア貿易の増加ペース(同9.1%)を上回った。 米系子会社と米国間の貿易額が全体の貿易総額に占める割合をみてみると(93年)、東アジア全体では15.3%であったが、国別では、香港、マレーシアでそれぞれ39.7%、22.5%と、 東アジア全体の15.3%を大きく上回っているほか、シンガポールに至っては53.0%と、貿易総額の半分以上が米系子会社貿易で占められている。

(注)93年については在インドネシア米系子会社からの輸入額は入手不可能のため除かれている。そのため、 実際は311億ドルより大きいとみられる。これは後述の在東アジア米系子会社からの輸入についても同様である。

 米国から在東アジア米系子会社への輸出動向をみてみると、89年から93年までの4年間で平均12.9%増加し、米国の対東アジア輸出増加の一因となっている。 米国の統計では地域別に資本財や消費財などといった財別の貿易動向をみることはできないが、こうした米系子会社への輸出増加は直接投資の輸出誘発効果による資本財輸出の増加によるところが大きいとみられる。

 一方、在東アジア米系子会社からの輸入は、93年までの同期間、平均8.5%増加した。在東アジア米系子会社の販売先をみると、米国本国への輸出(米国にとってみれば逆輸入)割合が高い。 93年の対米輸出割合(米系子会社の米国向け販売額/米系子会社の販売総額)は19.9%で、在欧州子会社(4.3%)や在日本子会社(4.9%)をはるかに上回っている。 米国の対東アジア輸入の増加の背景の一つとして、こうした在東アジア米系子会社の本国輸出指向も挙げられよう。

 以上のような輸出入の動向により、在東アジア子会社との貿易収支は、米国側の赤字が続いており、93年は66億ドルの赤字であった。 これは日本が在アジア子会社に対して黒字となっている状況とは対照的である。在アジア子会社の販売先をみると日系・米系とも現地販売がトップであるが、日系企業は第3国輸出のウエイトが高く、 米系企業は本国向け輸出のウエイトが高い。日本企業も米国企業も直接投資を通じ、東アジアをグローバルな生産システムの中に組み込んできたが、こうした在アジア子会社の性格の違いが子会社との貿易収支の好対照に反映されているといえよう。

今後の展望と課題
 
 最後に今後の米国の対東アジア貿易動向の展望と課題について述べておこう。輸入については、@ASEAN・中国での労働集約的製造業の発展に伴う輸入増加の持続、 ANIESの地場企業の発展を背景とした機械類の輸入増加、B米国の対東アジア直接投資の増加に伴う逆輸入の増加、C在東アジア日系子会社の活躍、D米国経済の堅調持続、などを背景に、今後も堅調な拡大が続くと予想される。 他方、輸出も東アジア地域の高成長持続や米国からの直接投資増加に伴う輸出誘発効果などから堅調な増加を続けるとみられるが、輸入の増加には及ばないとみられ、その結果対東アジア貿易赤字の拡大は避けられないであろう。 もちろんある特定国あるいは地域に対して貿易収支が必ずしも均衡しなければならないというわけではない。しかし、特定国あるいは地域に対する大幅な赤字は政治的軋轢を生む可能性もある。 こうしたなか、米国政府は東アジアを中心とした地域への輸出振興策として、対ASEAN輸出拡大計画(94年6月)、国家輸出戦略(95年4月)、米太平洋通商・投資政策委員会の設立(96年3月)、 官民一体となった輸出拡大ミッションなど政策的努力を行ってきた。 こうした政策は、賃金水準の相対的に高い輸出企業の雇用促進を通じ、米国内の雇用確保という点をも意図したものであった。 しかしながら、輸出拡大のためにはやはり米国企業の競争力強化の努力が不可欠であろう。 近年米国製造業の労働生産性は改善を続けているが、今後も各企業レベルでの競争力強化に向けての積極的取り組みが求められよう。
 
(10月31日 経済調査部 高沢)