平成8年(1996年)4月18日 NO.2

急増するわが国の輸入にみる構造変化

(1) 93年以降、輸入が急増している。これは、わが国の貿易・産業構造の変化や日本企業のグローバル化によって促された国際分業構造の変化など構造的な要因が背景にある。 このため、輸入拡大基調は一過性で終わることなく、今後も継続するとみられる。
(2) こうした中で求められる対応は、輸入増加に伴う国内経済へのマイナスの影響を最小にするため、規制緩和を確実に推進し、市場機能が健全に働く環境を整えることにある。

はじめに
 
急増する輸入
 
製品輸入比率の上昇
 
逆輸入の拡大
 
輸入浸透度の上昇
 
企業のグローバル化が促す構造変化
 
求められる対応


はじめに
 
 わが国の貿易黒字(通関ベース)は92年以降、1,000億ドルを超え、米国をはじめとする諸外国の批判の対象にもなってきた。 しかしながら、円ベ−スの貿易黒字は92年の13.5兆円をピークに3年連続して縮小し、95年は10兆円まで縮小した。 ドルベ−スでは、急激な円高の進行に伴ってドル換算額が膨らんだために(逆Jカーブ効果)、94年には1,209億ドルまで拡大したが、95年には1,068億ドルへと5年振りに縮小した。 貿易黒字縮小に寄与したのは、94年以降輸出を大幅に上回る伸びを示している輸入の急増である。 前年比増加率でみると、輸出は94年に9.6%、95年は12.0%と増加した一方で、輸入は94年に14.2%、95年は22.3%と急増している(ドル金額ベース)。

 以下では、最近の急増するわが国の輸入の動きを通して、日本経済の構造変化をみるとともに、そうした構造変化に対してどのような対応が求められているかを検討してみたい。

急増する輸入
 
 第1図は輸入金額(ドルベ−ス)の変化を価格要因と数量要因に分けたものである。 プラザ合意後の円高の進展により、わが国の輸入数量は86年4〜6月期以降大幅な伸びを示したが、原油価格の下落をうけて輸入価格が低下したため、輸入金額は87年1〜3月期まではほぼ横這いで推移した。 その後も持続的円高、国内景気の回復により数量の増加が継続した一方、原油価格の上昇といった価格上昇要因も加わって、91年前半まで輸入金額は増加を続けた。 このいわゆるバブル期には高級自動車や高額の絵画などの奢侈品の輸入が拡大したのが特徴である。 しかし、91年後半以降は景気の減速による数量の伸びの鈍化、奢侈品輸入の減少や原油など一次産品価格の下落などから、輸入金額も前年比減少した。 93年4〜6月期以降は円高を背景に再び輸入金額は拡大に向かったが、その主因は輸入数量の拡大であった。 94年4〜6月期以降は7四半期連続して数量の前年比2桁増が続いており、円高修正が定着してきた96年に入っても前年比伸び率が1月8.3%、2月12.0%と高水準で推移している。

 こうした輸入数量の変動は景気循環や為替相場の変動に左右される。 輸入数量の変動を景気循環を示す所得要因(実質GDP)と為替相場変動の影響を含めた相対価格要因(輸入物価の国内卸売物価に対する相対価格)で説明する関数を推計すると、 第2図のとおり、94年以降は実績値が推計値から上方に大きく乖離する結果が得られる。 これは94年以降、国内需要が低迷する中にあって、輸入物価と国内物価の相対価格が変化し、輸入数量を押し上げるという円高の数量調整効果では十分に説明できないほど、輸入の拡大ペースが速かったことを示している。 これはとりもなおさず、「輸出が増えやすく、輸入が増えにくい」といわれたわが国の貿易・産業構造が大きく変化していることを示唆するものである。

 このような構造変化は、東アジアの工業化や日本企業のグローバル化を反映した国際分業構造の変化を反映した動きとみることができる。 そこで、輸入急増と同時に進行した製品輸入比率の上昇、逆輸入の拡大、輸入浸透度の上昇をみることでこれらの動きを確認してみよう。

製品輸入比率の上昇
 
 80年以降趨勢的に製品輸入の拡大ペースは原油や原料品のそれを上回ってきたが、93年以降、際立って高くなっている(第3図)。 この結果、製品輸入比率(輸入総額に占める製品輸入額の割合)は93年以降急上昇しているが、75年から92年の期間では、20.3%から92年の50.2%へと年間平均1.8%ポイントの緩やかな上昇であったのに対し、 93年から95年までの短い期間で、52.0%から59.1%へと年平均3.6%ポイントもの急ピッチで上昇した。また、96年に入ってからも60%程度まで高まっている。

 次に、製品輸入額の地域別内訳の推移をみると、91年以降の特徴はアジアのシェアが高まっていることである(第4図)。 既に80年代後半にはアジアの製品輸入額はアメリカを若干上回る規模となっていたが、90年代に入って急増した。 90年はEUからの高額品輸入に押されるかたちで、アジアのシェアは28%にとどまっていたが、95年には41%にまで拡大した。 しかも、アジアからの製品輸入の内訳をみると、その構成が相対的に付加価値の低い品目から高い品目へと変化している。 88年には繊維製品が29%、木製品等を含む「その他製品」が24%というように、一次産品を活用した消費財のシェアが高かったが、90年代に入り機械機器のシェアが高まった。 実際、機械機器のシェアは88年の18%から95年の39%へと大幅に上昇しており、そのなかでも事務用機器や半導体等電子部品の上昇が目立つ。 こうした製品輸入比率の上昇は、主にアジアとの水平分業関係が強まってきており、同時にその対象分野も徐々に高付加価値化していることを示している。

逆輸入の拡大
 
 アジアとの水平分業関係の強まりは、海外直接投資の増加、それに続く海外生産シフトによってもたらされた。

 周知の通り、85年のプラザ合意を契機に、円高に対応して製造業の海外直接投資(フロ−・ベ−ス)は急速に拡大し、ピークの89年度には163億ドルに達した。 その後は国内景気の低迷などから減少したが、93年度より円高の影響もあって再び拡大に転じ、94年度には138億ドルとなった。 こうした海外直接投資の拡大により、海外生産比率(国内企業売上高に占める海外現地法人売上高の割合)は86年度の3.2%から94年度には8.6%となり、通産省の予測によると95年度には10.0%に達したと見込まれる。

 日本の輸入との関連でみて大きな影響を及ぼしているのはアジアの生産拠点である。 海外直接投資を地域別にみると、90年代にはいって対中国投資の拡大によりアジア向けのシェアが高まっており、86年度の21%から93年度には33%、そして95年度上半期には49%(件数ベースでは77%)となり、 海外直接投資の半分はアジアに向けられている。アジアの生産拠点は、主として貿易摩擦回避のために設立された欧米の生産拠点と異なり、生産コスト面での優位性を活用するために設立されたものが多い。 このため、アジア現地法人の売上高経常利益率(94年度)は4.1%と北米(1.9%)、欧州(1.2%)、さらには国内企業の2.4%を大きく上回っている。 アジアでは現地での再投資も活発に行われており、例えば、92年度の日本からのアジアへの製造業直接投資は31億ドルであったが、再投資額は58億ドル、 94年度は日本からの投資52億ドルに対して再投資額は70億ドルと日本からの投資を上回る規模となっている。 アジアの生産拠点における売上高の販売先別内訳をみると、現地販売が73%(94年度)と大半を占めているものの、対日販売シェアが17%と欧米拠点と比較すると、その割合は高くなっている(北米5%、欧州8%)。

 こうしたなか、アジアからの輸入については、全体の製品輸入を上回るペースで現地法人からの逆輸入が増加している。 日本のアジアからの製品輸入に占める逆輸入のシェアは90年度には18%であったが、その後93年度には30%に達し、さらに95年度は40%程度にまで拡大すると見込まれている。

輸入浸透度の上昇
 
 次に、輸入浸透度(輸入/総供給)についてみてみよう(第5図)。 鉱工業製品の輸入浸透度は、92年の11.1%から95年の15.0%へと、最近の輸入急増を反映して急上昇したが、財別では非耐久消費財と資本財の浸透度が急速に上昇している。 非耐久消費財は、中国からの輸入拡大が続く繊維製品などを中心に上昇している。 一方、資本財は生産工程で使用される財であり、輸入浸透度の上昇は、93年以降の円高下で日本製品の価格競争力の維持を目的とした企業の海外調達が急速に進んでいることを示している。 実際に機械産業の海外調達状況をみると、機械産業全体の国内生産額に占める海外部品調達額の割合は93年度の4.5%から95年度には6.6%に引き続き上昇する見込みである (第1表)。 個別品目では、AV機器や電子計算機の比率が高く、内外での価格競争が激しい分野では、競争力を維持するために日本製部品から相対的に価格の低い海外部品の調達を強化している。 このように国内生産の中間投入や資本設備に輸入品が組み込まれていくといった生産構造の変化が輸入浸透度の上昇となってあらわれている。

企業のグローバル化が促す構造変化
 
 こうした製品輸入比率の上昇、逆輸入の拡大、輸入浸透度の上昇は、輸入数量の価格弾性値や所得弾性値を変化させた(第6図)。 輸入数量の所得(価格)弾性値とは、所得(価格)が1%変化したときに、輸入数量が何%変化するかを表したものであるが、 まず、所得弾性値については、製品輸入の弾性値が輸入全体の弾性値よりも高くなる傾向がある。弾性値の高い製品の輸入が増加することによって、輸入全体の弾性値が押し上げられたとみられる。 一方、価格弾性値は、94年4〜6月期以降急上昇している。その上昇ペースは製品輸入の方が高く、輸入全体の価格弾性値を押し上げた。

 これら弾性値の変化は、東アジアの工業化や日本企業のグローバル化が進行するなか、内外市場を総合的に睨みつつ、 海外調達や逆輸入を活発に行う国際戦略が浸透し、 国内品と輸入品との代替が相対価格の変化で速やかに行われるような経済構造に変化してきたことを示すものである。換言すれば、わが国の貿易・産業構造がより開放され、市場機能がグローバルに働き始めた証左といえよう。

求められる対応
 
 以上みてきたように、最近の輸入急増は、急激な円高だけではなく、貿易・産業構造の変化によるものであり、その背景には東アジアの工業化の加速や日本企業のグローバル化などの国際分業構造の変化がある。 この意味で、この輸入の増加基調は一過性のものではなく,輸入拡大のトレンドは継続するものとみられる。

 輸入の増加は、わが国の経常・貿易黒字の縮小基調の定着を通じて、最近の円高修正の動きを支えて景気回復を支援するというプラスの面もあるものの、 生産の減少やそれに伴う雇用の減少などの効果を通じて国内経済へのマイナスの影響が懸念されやすい。 例えば、労働省の「産業労働事情調査結果」(95年9月調査、対象は常用雇用者100人以上の民間企業4,015社)によると、海外進出や輸入拡大に伴い国内の常用雇用者が3年前より減少した企業の割合は25%にのぼり、業種別では、 電気機器、輸送用機械、ゴム製品における常用雇用者減少企業の割合は約40%となるなど、製造業の雇用悪化につながっている。 また、通産省の調査によれば、海外生産活動の活発化によって、94年度までは輸出誘発効果が輸出代替効果や逆輸入効果を上回った結果、貿易収支に対しては黒字拡大効果、さらに国内生産・雇用拡大の効果をもたらしていたが、 95年度には一転して逆輸入効果の拡大から、貿易黒字縮小効果(0.4兆円)、国内生産減少効果(2.8兆円)・雇用減少効果(11万人)を及ぼしたとしている。

 こうした状況下、わが国に求められる対応としては、輸入増加の国内生産・雇用の押し下げ効果を最小化するために、雇用の流動化を図りつつ、比較優位を失った労働集約的分野については輸入、 資本・知識集約的分野については国内生産というように市場機能を活用した選別化を図っていく必要があろう。 さらに、輸入増加のメリットが生活水準の向上に結びつくように、流通をはじめ国内の非貿易財産業の効率化を図り、市場の価格調整機能が健全に働くような環境整備を推進する必要があろう。 これらを促進するためには、規制緩和を確実に実施に移していくことが急務となる。

 
(4月11日 経済調査部 岩崎)