平成11年(1999年)11月15日 NO.10

原油価格上昇の背景と展望

 原油価格は96年12月をピークに、その後下落基調であったが、本年春以降、上昇を続けている。それまでの原油価格下落は、世界的なディスインフレ傾向の一因ともいわれてきた。また、原油収入の減少を通じて、産油国の信用にも少なからず影響を与えてきたといわれている。本稿では、本年春以降の原油価格上昇の背景を分析することで、今後の原油価格を展望し、あわせて世界経済への影響にも触れてみたい。


騰勢を強める原油価格
 原油価格は、96年12月以降、供給過剰感を背景に下落を続けてきたが、99年3月石油輸出国機構(OPEC)による協調減産合意をきっかけに上昇に転じた。6月末以降は、米国石油協会(API)の原油在庫統計が減少を示したことや、北米精油所のトラブルなどが買い材料となったことで、原油価格は騰勢を強め、7月半ばには、97年11月以来の20ドル/バレル台(WTI先物期近物ベース、以下同じ)を回復、98年12月の安値圏10ドル/バレル台からの約90%以上の上昇を示した。その後、減産合意が2000年3月まで継続するとの情報が流れるなか、世界全体の需給が供給不足へと傾くとの予測が根強いことから、9月に入り24ドル/バレルを突破した(第1図)。


世界的な景況感改善の兆し
 ここ約半年の原油価格上昇の背景には、まず、景気要因が指摘できる。99年初めまでの原油価格低迷の背景には、アジア危機の影響や国際金融市場の不安定化による世界的な景況感の悪化がある。それに伴い原油需要の見通しも下方修正され(第2図)、原油価格は大幅に下落した。


 しかし、99年に入り国際金融市場が落ちつくにつれ、世界各国の経済見通しも程度の差はあれ、アジアを中心に上方修正されるなど、上向いてきている。
 90年代の世界経済を牽引してきた米国の景気は、個人消費や設備投資の好調を主因に、依然堅調な拡大を続けている。また、欧州は内需の底固さから減速局面から脱し、徐々に回復へと向かいつつある。さらに、アジアでも景気刺激策と並行して経済改革が進められたことから、総じて回復傾向を強めている。日本も、99年1〜3月期、4〜6月期と2期連続のプラス成長を記録した。
 確かに、先進国全体の原油在庫水準は本年4月から前年を下回ってきているものの、水準自体は依然として高い(第3図)。しかし、世界経済の回復により原油の需給タイト化が見込まれることも強材料として好感され、原油価格の上昇を支えている。



効果を発揮したOPECの協調減産
 こうした世界的な景気回復傾向に、99年3月の第107回総会で合意したOPECの協調減産が加わったことが原油価格を大幅に上昇させることとなった。特に今回のOPEC協調減産においては、減産量が大幅であることと、各加盟国の遵守姿勢が強く、足並みが揃っていることがその効果を高めることとなった。
 減産量については、99年3月に合意されたOPECの協調減産量171.6万バレル/日 が、98年3月(125万バレル/日)、同年6月(135万バレル/日)の減産量に比較して大幅であった。この減産量は、これまでの供給過剰を背景に積み上がった原油の余剰在庫を一掃するのに十分であると考えられている。また、減産遵守状況をみると、OPEC加盟国の減産達成率は80〜90%台を維持しており、過去2回の協調減産合意時に比べて高水準である(第4図)。さらに、9月には第108回OPEC総会でも、減産継続が確認されている。


 今回、OPECの協調減産の遵守姿勢が強い背景には、まず、OPEC加盟各国の経済情勢の悪化がある。原油依存度の高いOPEC経済は、原油価格低迷の長期化に伴い、景気、経常収支、財政収支の大幅悪化に直面し、原油価格建て直しに対するインセンティブが働きやすかった状況下にあったとみられる。
 また、OPEC最大の産油国サウジアラビア(OPEC内シェア約30%)が、これまでのシェア重視から価格重視へ政策スタンスを転換したことも大きい。親米的なサウジアラビアは、湾岸戦争以降に経済制裁を課せられたイラクの石油輸出減少を補うためもあり、シェア拡大を図ってきた。しかし、原油価格低迷により収入増加に至らず財政赤字拡大が深刻化したため、価格重視への転換を迫られていた。この政策スタンスの転換により、サウジアラビア以外のOPEC加盟国にとって、減産合意遵守により自国のシェアが低下する懸念が後退したことから、加盟国間での大幅減産合意が可能となった。
 さらに、この大幅減産合意においてこれまで減産に非協力的であったベネズエラとイランが果たした役割も大きかった。まずベネズエラは、98年11月の第106回総会では大統領選挙を控えていたため合意を拒否したが、99年2月に誕生したチャベス政権が価格重視の観点から減産公約を全面に出したことを機に、協調減産の下地ができた。これに加え、イランもサウジアラビアから引き出した基準生産量に関する譲歩と引きかえに、協調減産を遵守する姿勢を明確にした。すなわち、98年7月からのイランの生産上限は331.8万バレル/日であり、本来これが減産の基準生産量となるべきであったが、99年3月の第107回総会の直前に引き出したサウジアラビアの譲歩によってこの基準生産量を362.3万バレル/日に設定することが認められたのである。
 原油価格が上昇したその他の要因として、米国在庫の減少が市場に与えたインパクトも大きい。今回の原油価格の上昇局面では、API発表の原油・製品在庫の減少基調から生まれた投資家の買い安心感が効いている。
 この在庫低下基調の背景には、景気の拡大傾向を持続している米国でガソリンなどの石油製品需要が旺盛なことや、国内の精油所のトラブル発生で操業度が低下したことがある。これらに加えて、原油先物市場の大幅な期先高・期近安(コンタンゴ)が解消していることも指摘できる(第5図)。
 98年に、米国景気が好調であったにもかかわらず在庫水準が大幅に上昇したのは、期先−期近スプレッドが大幅な期先高・期近安(コンタンゴ)であったため、石油企業が積極的に在庫積み増しに動いた結果といわれている。足元では、期近物の急騰に比べ期先物の上昇が小幅にとどまっているため、石油企業の在庫保有に対する誘因が弱まってきたとみられる。



今後の見通し
 原油価格は20ドル/バレルを突破して以降、ほぼ一本調子で上昇しているが、当面、上昇圧力は残ろう。OPECの協調減産に対する遵守姿勢はこれまでにないほど強く、米国の石油企業を中心に在庫取り崩しの動きが続くとみられるためである。市場心理も依然強気である。
 ただし、以下に示す原油需給を取り巻く環境を考慮すると、足元価格急落の可能性は低い一方で、原油価格の上昇余地も限られよう。
 需要サイドについては、日本経済の先行き不透明感は残るものの、米国の景気拡大は続くとみられるほか、アジア経済も最悪期を脱したことから、全体としてみると原油需要も回復しよう。しかし、現在の原油価格は、そうした期待をかなり織り込んでおり、世界景気が好調であった96〜97年の水準を超えており、かつ、過去10年の平均価格約19ドルを大きく上回っている(第6図)。なお、湾岸戦争で高騰した90年の水準や、第2次石油ショックの影響を引きずっていた85年以前の水準は、比較の対象からはずして考えてよかろう。したがって、米国の景気拡大ペースが一段と高まることや、アジア経済が90年代前半のような高成長を取り戻すことは期待しづらいことから、原油価格の上昇圧力は弱まるとみられる。




 一方、供給サイドについては、増産圧力が急激に高まる可能性は低いとみられる。OPECの現行の協調減産期間は99年4月から1年間となっており、9月の総会でも協調減産の確認がなされたことから、現行の枠組みは2000年3月までは大枠で維持されよう。
 ただし、原油価格が現行水準で推移することを前提とすれば、原油価格が極端に低迷した98年の1年間で悪化したOPEC加盟各国の経常収支や財政収支の改善はかなり進むとみられる。加盟各国の原油収入が回復すれば、シェア重視指向が再び高まり、減産実行率が低下することは経験則である。したがって、OPEC内の結束が今後弱まってくる可能性は高いとみられる。実際、一部のOPEC加盟国は、市況に応じて増産余地を検討する必要性について発言している。また、高値が続けば、これまでの価格低迷により絞られてきた非OPEC産油国の生産・開発活動が回復し、OPECの市場シェア低下につながる可能性もある。このように、OPECが協調減産を遵守すれば価格は当面維持できるものの、非OPECのシェア拡大を招くおそれがある一方、それを阻止するために自ら増産に転じれば、OPEC加盟国相互のシェア獲得競争の激化により値崩れを招きかねない。OPECがこうしたジレンマから抜け出すことは難しく、産油国同士の価格・原油生産量をめぐる綱引きは今後とも続こう。
 こうした状況下、原油価格の上昇余地は限られるとみられることから、一時的にコストプッシュの形で各国のインフレ率が押し上げられることはあっても、それがインフレ期待を煽り、持続的なインフレ率の上昇につながる可能性は低い。また、99年初までの極端に低かった原油価格が修正されたことにより、一部で懸念された産油国の信用リスクも後退してきている。このため、今回の原油価格の上昇が、世界景気の回復の芽を摘む可能性は低いとみてよかろう。

(10月7日 関口)