平成11年(1999年)7月16日 NO.8

改革が支える韓国の景気回復

アジアの先頭を走る景気回復

 韓国はアジアの景気回復の先頭を走っている。99年第1四半期の成長率は前年比4.6%と5四半期ぶりにプラスに転じた(第1図)。危機後の在庫圧縮の揺り戻しによって成長率が大きく嵩上げされており、設備投資も依然低迷が続いているとはいえ、消費や輸出は回復に向かっている。信用格付けは改善し、外資流入も回復し、危機下で受けたIMF融資の返済も進んでいる。為替相場は安定、株価も上昇が続いている。


第1図:実質GDP成長率と需要項目別寄与度
(資料)韓国銀行"Monthly Statistical Bulletin"


 この背景には、そもそも危機の深刻度が危機に直面した他のアジア諸国ほどではなかったことがあげられる。実際、危機発生前の状況をみると、80年代のバブルの反省から厳しい不動産投資規制もあり、不動産バブルの問題はなかった。ウォン相場も95年半ば以降、ドルに対し緩やかに下落し輸出も回復を続け、輸出競争力からみたウォン相場の割高感は小さかった。経常収支の赤字も96年にはGDP比4.4%に達したが97年には同1.7%まで縮小し、過去10年程度を累積してみても東南アジアに比べれば小規模であった。
 結局は前政権が政治スキャンダルによって事態収拾能力を失い、金融機関や財閥の構造問題の解決が放置され、財閥の不倒神話が崩壊するなかで、他のアジア諸国の通貨・金融危機が97年11月に韓国に伝染してしまったが、危機発生後の対応も他国と比べれば適切であった。
 まず、危機後、比較的短期間に緊縮政策から緩和政策に転じた。実際、98年2月には金利政策方針を緩和に転じた。韓国よりも前にアジア危機の影響を受けた国々が、危機の処方箋としての緊縮政策を続けたために、金融システム不安が増幅されて、事態収拾が一層困難になったという経験を生かすことができたためである。もちろん、資金流出が止まらずに市場の通貨先安感が続けば、当局の金融緩和をもってしても市場金利を引き下げることは容易ではない。対外債務繰り延べ交渉が、対象残高の主要部分の関係者が金融機関にほぼ限られていたこともあって、早期にまとまり資金流出に歯止めがかかったことも、緩和政策への転換を容易にした。


着実に進む金融・財閥改革

 しかし、何よりも、金大中政権の強力なリーダーシップの下で金融改革、財閥改革が当初の予想を上回るペースで進んできたことが、経済回復を支えている。
 金融改革については、不良債権比率が、他の危機に陥った国に比べるとかなり低かったこともあるが、金融監督機能を強化するなかで、公的資金投入と外資参入の支援の下、金融機関の整理・再編が進み、不良債権処理にも目処がついてきた。危機前に27行あった商業銀行は本年6月までに17行となった。不良債権比率は基準の厳格化にもかかわらず、98年6月末の22%から本年3月末の11%に低下し、商業銀行の自己資本比率は各行とも10%程度まで上昇した。総額64兆ウォン(GDP比14%)の公的資金投入パッケージのうち、本年5月までに46.5兆ウォンが投入されたが、新たな資金手当てにより、31兆ウォンが使用可能な資金として残っており、今後についても十分対応可能である。
 金融機関の貸出し行動は、ハイパワードマネーや準備率だけでなく、自己資本にも制約されるので、金融仲介機能の正常化には、金融緩和だけでは不十分で、金融機関への資本注入が必要であるが、こうした点を考慮した政策の結果、金融機関貸出しは下げ止まりつつある。ただし、現状では金融機関に十分な流動性はあるものの、財閥企業は債務削減を続け、中小企業も育っていないため、新規貸出先がみつからない状況にある。このため、資金が企業部門ではなく株式・不動産市場へと流れることで金融機関の健全性を損なう可能性もあり、注意が必要である。
 金融改革よりもペースは緩慢であるが企業改革も進んでいる。各財閥がそろって「フルセット主義」と呼ばれる事業分野拡大に走った結果、傘下に非効率な企業を多く抱えることとなったが、中核となる競争力ある戦略部門に経営資源を集中させ、それ以外は整理する動きが進んでいる。政府主導の下でビッグディールと呼ばれる財閥間の事業交換、整理対象企業の整理が進んでいる他、事業の外資への売却などが行われている。交渉事なので紆余曲折はつきものである。三星と大宇の間での自動車と電子産業を交換するビッグディールの白紙化は、交渉過程で本件がビッグディールの方法に馴染まないことが明らかとなり、他の手法で事業の整理を進めることになった事例であり、必ずしも財閥改革の後退を示すものではない。
 30大財閥全体で負債の自己資本に対する比率が500%を超えていた高レバレッジ体質についても、相互支払保証の解消や規制緩和による外資流入を通じて改善に向かっている。5大財閥の同比率は、97年末の470%から98年末の386%へと低下し、金融機関との財務構造改善約定に基づき本年末に200%を目指している(第1表)。


第1表:財閥の負債比率推移


 労働生産性の改善を大幅に上回る賃金上昇に象徴される高コスト体質も、整理解雇制の法制化や労働組合の協力から是正が進んでいる。単位労働コスト上昇率は96年までの10年間の年平均9%から98年はマイナス3%に低下した。
 中堅企業の構造改革については、資金繰り難に陥っているものの再建の見込みのある企業に対し、政府主導による企業財務再編作業(ワークアウト)が、債権銀行の協力の下で進められている。


警戒すべき過度のユーフォリア

 もちろん、手放しの楽観は禁物である。現在の景気回復は、在庫圧縮の大幅な揺り戻しが示すように、危機後の混乱が剥落したゆえの回復であり、GDPが危機前の水準に戻るのはある意味で当然で、焦点はそこから更に上に向かって安定的に成長できるかである。
 また、フロー変数であるGDPや企業収益が回復しても、その累積で形成される企業や金融機関のバランスシートなどのストック変数の改善は遅れる。危機の要因の一つが悪化したバランスシートにあったことを考えると、そのフォローは欠かせない。
 さらに、マクロという集計量に隠されたミクロの動きにも注意を要する。財務内容が異なっていても、一斉に韓国の金融機関からの資金引き上げが起こったことは、個別の企業、金融機関の状況把握の重要性を示しており、不良債権の偏在などに目配りすべきである。
 そして何よりも、韓国経済に対するユーフォリアが行き過ぎて、改革への熱意が後退しないよう見守る必要がある。改革の象徴的存在であった労使政委員会から労働組合と財界が脱退したことや、失業率が低下したとはいえ依然6.5%と高水準で、労働者の不満が潜在的に蓄積されていることは不安材料である。韓国経済の将来に改革が不可欠との認識は国民に深く浸透しており、改革の流れに変化はないとみられるが、十分注視しなければならない。


日韓経済協力は双方に利益

 このように、楽観が禁物であるからこそ、検討の動きがみられる自由貿易協定など日韓の経済協力強化の意義は小さくない。既に本年6月に輸入多角化制度による対日輸入規制が20年ぶりに完全撤廃されるなど、日韓貿易拡大に向けた環境整備が進みつつあるが、貿易、投資、マクロ政策面での協力の枠組み整備は、両国の構造改革に貢献する。経済構造が類似しているため競合関係ばかり強調されてきたが、互いに補完し協力できる分野も少なくない。日本に依存している輸入部品を韓国の現地生産にシフトすれば、韓国企業への技術移転、日本企業の韓国市場への参入拡大という点で、双方にメリットがある。日本で比較優位を失ったり、後継者のない事業を、韓国企業に売却し活用できれば、それは日本企業の事業再構築を促し、マクロ的には過剰設備の処理が進むことになる。
 危機再発防止の観点からは、当局間の金融協力の一層の緊密化を指摘する声もあり、それを足掛りに「円の国際化」の進展が展望できれば、両国ともメリットを享受できる。日韓経済協力には、共存共栄のプラス・サムの効果が期待できる。
 経済構造の類似性は最適通貨圏の条件でもある。実際、その条件の一つである経済ショックの対称性は統計的手法から確認できる。地理的にも近い。アジアのなかで日韓はこうした協力が少なくとも経済的に最も馴染む組み合わせと思われ、韓国側の熱意も伝えられている。日韓協力の成否は、アジアの域内協力の先導役となる可能性をも秘めており、官民の取り組みが求められている。

(7月9日 西村、室賀)