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平成10年(1998年)12月28日 NO.17
東京三菱レビュー

中国の輸出減少と人民元、国有企業改革への影響


はじめに

 中国の輸出は、アジア危機発生後も比較的高めの伸びを維持してきたが、足元、減少傾向が鮮明になってきた。中国にとって輸出は、経済に占めるウェイトが大きく、成長持続の重要な要素であるため、政府は付加価値税還付率の引上げなど、輸出回復に向けた対応策を講じているが、これまでのところその効果は限定的である。本稿では、最近の輸出減少の背景を分析するとともに、その影響について整理してみたい。



・ 1.悪化が鮮明になった輸出とその背景
 
・ 2.今後も減少傾向が続くと予想される輸出
 
・ 3.中国経済の先行きを大きく左右する輸出減少
 


1.悪化が鮮明になった輸出とその背景
 
 11月の中国の輸出伸び率は▲9.7%と、10月の▲17.3%に続き大幅な落ち込みとなった。これで中国の輸出は、98年8月以降、伸び率が4ヶ月連続して前年比でマイナスとなり、減少傾向が鮮明になっている(第1図)
 最近の輸出動向を子細に分析してみると、以下のような特徴がみられる。

(1)アジア向けの大幅減少に加え、欧米向けも鈍化傾向
 相手国・地域別では、輸出の過半を占めるアジア向けが、98年7月以降、大幅な減少を記録している。10月の伸び(前年同期比、以下同じ)は、日本向けが▲20.3%となったほか、ASEAN4ヶ国、NIEs向けも、フィリピンを除くすべての地域でマイナスとなった。
 また、全体の3割強を占める欧米向けは、比較的堅調に推移してきたが、ここにきて伸びが鈍化傾向にある。実際、98年1〜10月の累計でこそ、米国向けが14.1%、EU向けが18.6%と高い伸びを示しているが、月を追って伸びが鈍化しており、10月だけを見ると、それぞれ▲1.3%、▲2.8%とマイナスに落ち込むまでになっている(第1表)
 この背景には、アジア景気の大幅な落ち込みと、欧米景気の減速がある。近隣アジア諸国では、危機発生後、内需を中心に景気後退が鮮明になっており、輸入が急減している。97年の中国輸出の37%を占めるASEAN4ヶ国およびNIEs全体の実質GDP成長率は、97年の5.2%から98年は▲5%程度まで落ち込む見込みであり、17%を占める日本の成長率は、97年の1.4%から98年は▲3%弱まで落ち込んだとみられる。一方、欧米景気は、総じて比較的好調であったが、98年後半にかけ減速傾向が鮮明になってきている。

(2) 目立つ労働集約財の低迷
 品目別では、繊維製品、皮革製品などの労働集約財の落ち込みが顕著である。一方で、比較的堅調に推移してきた機械・電機製品、輸送機械などの資本集約財の輸出も、伸びが低下してきている(第2表)
 この背景には、中国製品の価格競争力低下があるとみられる。アジア危機以来、近隣アジア通貨が程度の差はあれ、かなり下落したにもかかわらず、人民元は対ドル相場水準を維持してきた結果、繊維製品などの労働集約財においては、中国製品の価格競争力が相対的に低下した。これは、資本集約財よりも労働集約財の方が、先進国などの第3国市場において、他のアジア諸国製品との競合関係が強いとみられるためである。
 ASEAN諸国の輸出活動は、危機発生直後は、例えば輸出財生産に投入される原材料、部品の輸入金融の問題など、国内経済と金融情勢の混乱によって麻痺状態にあったとみられる。こうした混乱が終息するにつれ、中国との競合関係が次第に顕在化してきており、今後、中国の労働集約財の輸出がさらに悪化する懸念も残る。

(3)不振の国有企業輸出
 企業形態別では、輸出の過半を占める国有企業での落ち込みが目立ち、10月は前年比▲27%まで落ち込んでいる。輸出の牽引役として比較的堅調に推移してきた外資系企業の伸びも鈍化傾向にあり、10月はマイナスを記録した。ただし、落ち込みの程度は国有企業ほど深刻ではない(第3表)
 国有企業で輸出不振が顕著なのは、輸出に占める労働集約財のシェアが、外資系企業よりも高いためである。また、貿易形態の違いも背景にある。輸入原材料、部品、半製品を加工して輸出する加工貿易では、周辺国通貨の下落の一部が投入輸入財価格の下落に反映されるため、輸出価格をさらに引き下げることで競争力を確保する余地がある。これに対して、国内で原材料から生産した製品を輸出する一般貿易ではこうした余地が小さい。このため、加工貿易が8割以上を占める外資系企業は、アジア通貨下落による競争力低下の影響を比較的受け難いのに対して、一般貿易が6割以上を占める国有企業は影響を受け易いと考えられる(第4表)

2.今後も減少傾向が続くと予想される輸出
 
 これらの特徴が示すように、最近の中国の輸出減少は、世界景気の悪化と人民元相場維持の影響が徐々に顕在化してきた結果とみられる。
 政府は、98年1月以降、繊維、鋼材、セメント等、国有企業の輸出比率の高い分野について、付加価値税還付率を順次引き上げるなどの輸出促進措置を実施してきた。また、国有企業支援のため、3回にわたり利下げも行なってきた。しかし、これまでのところ、その効果は十分に現われていない。
 今後も、中国の輸出を取り巻く環境は厳しい状況が続くと予想される。主要輸出相手国の需要低迷ないし景気減速が続くと見られ、周辺諸国の通貨下落の中国輸出への影響もさらに顕在化してくるとみられる。この結果、99年の輸出額は、98年比で約100億ドル減少し、1,700億ドル程度まで落ち込むことが予想される。

3.中国経済の先行きを大きく左右する輸出減少
 
(1)当面小さい外貨流動性逼迫の懸念
 輸出減少の影響としては、まず、国際収支の悪化が懸念されている。今後、内需振興策が本格化してくれば、輸入増加は避けられず、経常黒字は縮小に向かうと予想される。また、中国景気の減速から、対中直接投資も99年は減少する可能性が高く、資本収支の黒字幅も縮小するとみられる。このため、少なくとも、為替需給面においては、人民元買い圧力が弱まる可能性がある。
 ただし、年間200億ドル台後半のペースで推移してきた高水準の経常収支の黒字を考えると、これが赤字に転じるまでには、まだ相当の時間を要するとみられる。また、中国は、対外債務に占める短期債務の比率が低く、それを十分にカバーする豊富な外貨準備を保有していることや、厳格な資本規制の存在を考慮すると、周辺アジア諸国のように、外貨流動性危機という形で国際収支危機に陥り、通貨下落を余儀なくされるといった可能性は当面は小さいとみられる。

(2) 小さくない景気、構造改革推進への悪影響
 中国の輸出減少を考える場合、国際収支への影響よりも、国内経済への影響の方が重要である。
 まず、景気への悪影響である。輸出はGDPの2割を占めていることからも、輸出の落ち込みが景気に及ぼすインパクトは小さくない。景気は内需の悪化を主因に減速傾向を強めてきたが、政府の内需振興策と利下げの効果から、実質GDP成長率(前年比)は98年1〜6月の7.0%から1〜9月は7.2%へと幾分上昇した。しかし、ここで景気の下支え役を果たしてきた輸出が減少に転じたことで、景気は再び減速を余儀なくされる公算が高い。
 さらに、輸出減少は、構造改革推進にも暗い影を落とす。輸出減少が外資系企業ではなく国有企業で顕著であるため、内需減速によって続いていた国有企業の経営悪化に拍車がかかる惧れがある。その結果、政策の最重要課題の一つである国有企業改革の推進が一層困難になるとみられる。国有企業の経営が悪化しているなかでの改革断行は、失業増加による社会不安惹起に対する懸念をさらに高めるからである。
 国有企業改革の遅れは、国有企業向けの巨額の不良債権に苦しむ金融セクターの改革をさらに遅らせたり、円滑な外資流入の足枷となることで、国内経済に深刻な影響を及ぼす。その結果、「構造改革の遅れにより構造問題が手付かずで残ることで、景気の回復が一層困難なものになり、それがさらに構造改革を遅らせる」という悪循環に陥る懸念も払拭できない。
 この悪循環を防ぐために、政府は付加価値税還付率の一層の引上げなど、追加の輸出支援策を実施する可能性が高いとみられる。12月9日に閉幕した経済工作会議のなかで、「99年は、あらゆる手段を通じて輸出を拡大させる」と強い決意を表明した背景にも、こうした悪循環への懸念があるとみられる。しかし、追加の輸出支援策をもってしても、輸出減少に歯止めがかからなければ、人民元相場下落誘導の可能性も高まろう。実際、政府内部のうち、貿易管理部門周辺では、人民元相場下落誘導による輸出製品の価格競争力強化を求める声が高まってきていると伝えられている。
 もちろん、人民元相場下落誘導に踏み切るには、他のアジア諸国への影響や先進国経済の状況なども十分考慮するとみられることから、当面その可能性は低いとみられる。しかし、万一行われた場合、様々な不安要因を抱える現在の世界経済への影響は小さくない。その鍵を握る輸出動向を、これまで以上に注意深く見守っていく必要があろう。

(12月16日、室賀、飯沼)