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平成10年(1998年)9月28日 NO.15
東京三菱レビュー

最近の石油情勢について



・ 世界経済に影を落とす原油価格低迷
 
・ 原油価格低迷の背景
 
・ 今後の見通し


1. 世界経済に影を落とす原油価格低迷
 

(1)最近の原油価格の推移
 原油価格の安値が続いている(第1図)。WTI先物期近物は、 97年10月始めに22.76ドル/バレル(終値ベース、以下同じ)の高値をつけた後、下落を続けた。 OPECを中心とした産油国の2度の協調減産合意を受けて、反発する場面もあったものの、 98年6月には11.56ドル/バレルと約9年振りに12ドル/バレルを下回る水準まで落ち込んだ。 その後、産油国の減産進展などからやや値を戻し、9月には15ドル/バレル台を回復したものの、 依然安値圏で推移している。

(2)原油価格下落による世界経済への影響
 このような原油価格の下落は、アジア危機以降グローバルな資金フローが不安定化し、 景気の減速・悪化に直面しているエマージング諸国に深刻な影響を及ぼしている。
 ロシアでは、アジア危機の波及に伴い、外国人投資家による短期国債・株式が加速し、 通貨ルーブルの切下げや民間対外債務のモラトリアムに追い込まれた。この背景には、 恒常的な財政赤字に、原油価格下落による経常収支の悪化が加わったことで、 ロシア経済のファンダメンタルズが悪化したことがある。
 また、中南米では、アジア通貨下落による相対的な価格競争力低下に、 一次産品の下落が重なり、輸出が減少、経済の足を引っ張っている。 輸出に占める原油の比重が大きいメキシコやベネズエラは、原油輸出収入の減少に直面している。 こうしたなか、ロシア危機が中南米市場にも波及し、メキシコペソが大幅に下落したほか、 ベネズエラも為替の事実上の切下げに追い込まれた。
 さらに、中東産油国では、政府予算の原油想定価格を実勢価格が大幅に下回っていることから、 財政収支悪化は避けられそうにない。
 一方で、景気拡大を続けてきた米国では、原油価格の下落が物価上昇を抑制し、 インフレなき経済成長に寄与してきた。しかし、足元では、アジアに端を発した金融市場の混乱が、 米国を含めた先進国市場にも波及している。 これまで、好調を維持してきた米国の企業収益も、 エマージング諸国の景気減速の影響を受け悪化している。米国は、 世界経済の牽引役としてアジアなどからの輸出品を吸収してきた。しかし、 今後米国の景気拡大ペースが鈍化すれば、それら輸出品に対する購買力が低下し、 世界的なデフレが顕在化する懸念がある。 これまでインフレなき景気拡大を支えてきた原油価格の下落が、 足元ではアジア危機に端を発したデフレ圧力を一層増幅する状況にあるといえる。

2.原油価格低迷の背景
 

(1) 大きく崩れた需給バランス
  このように世界経済に大きく影響を及ぼしている原油価格下落の背景には、 98年初めからの需給の大幅な緩和がある(第2図)
  需要については、アジア危機発生以降、同地域の景気悪化により、大幅に減少している。 アジア経済は、1980年代後半以降先進国からの直接投資を受入れ、輸出主導で高成長を維持してきた。 IEA(国際エネルギー機関)の統計によると、アジアの原油需要は97年までの10年間年率6%強の伸びを示し、 世界需要の年率1.2%の伸びに対する寄与度は0.7%ポイントと大きい。 しかし、昨年7月に発生した通貨危機の影響によりアジア主要地域では、 98年第1四半期以降マイナス成長に陥ったことに伴い、 原油需要も前年水準を下回っている(第1表)。 また、ロシアや中南米など他のエマージング・マーケットでも景気悪化から、需要が抑制されている。 さらに、先進国では、97〜98年のエルニーニョ現象による暖冬で、民間在庫が高水準に達していたことも、 原油価格に影響している。
  一方、原油供給量は、堅調な伸びを示してきた。 OPECは、97年11月の定例総会で98年1月以降の生産枠を2,503万バレル/日から2,750万バレル/日へと引き上げた。 このことで、ベネズエラなど生産枠を大幅に上回る超過生産が事実上容認された形となった。 その後の原油価格急落を受けて、OPECは98年3月及び6月の総会で、 98年2月の生産実績をベースに合計260万バレル/日(2月の生産実績比9.1%)の協調減産に合意した (第2表)。6月の減産合意では、メキシコ、 ノルウェーなどの非OPEC主要産油国も、2月の生産実績比50万バレル/日の減産措置を採ることとなった。 しかし、合意後の減産の進展が遅かったことから、原油価格の押し上げ効果は限定的なものにとどまった。 また、イラクの原油輸出枠の拡大も、供給圧力を一層高めている。国連は、98年5月、 イラクによる人道物資購入のための原油輸出計画を、従来の180日間で20億ドルから、 6月以降180日間で45億ドルへと引き上げることを承認した。 イラクの石油輸出能力は180日間30億ドル程度にとどまるといわれているが、生産量・輸出量は増加しており、 原油価格下落の一因となっている。

(2)原油価格の上昇を押さえてきた構造的要因
 過去10年間の原油の実質価格をみると、ほぼ横ばいで推移しており(第3図)、 中期的にも、原油価格は上昇基調にはなかった。その背景は、需給バランスは比較的安定してきたことがある。
 需要については、原油の効率的な利用技術の向上や、天然ガスなど代替エネルギーの開発により、 伸びが抑制されている。IEAによると、世界の石油消費の6割強を占めるOECD諸国では、 1980年から1994年の間に、GDP1百万米ドルに要する原油消費量は148トンから106トンへと大幅に減少しており、 原油の効率的な利用がすすんでいる様子が窺える。
 一方、供給サイドについては、需要増加を賄うに十分な生産量が確保されてきた。 原油採掘技術の向上により、可採埋蔵量は増加、産出コストは低下する傾向にある。 1986年以降の原油価格低迷によりコスト削減に迫られた石油企業は、開発・生産効率向上のため、 技術開発投資をすすめた。 その結果、それまで商業ベースに乗らなかった中小油田や深海油田の開発が可能になり、 可採埋蔵量の増加に結びついている。
 また、OPECの価格支配力が低下してきたことも、供給量の増加をもたらした。 1980年代以降、北海や中南米など非OPEC産油国の生産能力拡大に伴い、 OPECの世界市場におけるシェアは縮小した。1980年代後半には、 需要の減少と非OPECの生産拡大による需給緩和を背景に、OPEC内部にも、 OPEC公式価格からの値引き販売を行う加盟国がみられるようになった。こうしたことから、 OPECによる価格支配力は低下し、産油国では石油市場でのシェア維持・拡大指向が強まり、 生産抑制のインセンティブが働きにくくなった。OPECの機能は、加盟国に生産上限枠を設定することで、 原油価格の下落を抑えるといった程度の役割に後退している。

3.今後の見通し
 
  今後も、原油価格が大きく上昇に転じる材料は少ない。OPECの協調減産の実行率が高まることで、 価格が下支えされる可能性もあるが、協調減産量自体が原油価格の回復には十分なものとはいえない。 また、OPECを中心とした産油国による更なる協調減産も、 需要減少や原油価格下落の後追いにならざるをえない。 原油の供給過剰感や世界景気の先行きに対する不透明感が払拭されない限り、 原油価格が大きく反発する公算は小さいと考えられる。
  また、中期的な要因からも、原油価格の大幅上昇につながるような需給の逼迫が生じるとは考えづらい。
  世界経済の成長に伴い、エネルギー需要は今後も伸びるものの、原油依存度は低下を続けると考えられる。 97年京都で開催された地球温暖化防止会議で、 先進国及び旧ソ連は2010年までに二酸化炭素排出量を1990年比5.2%削減することに合意したことなど、 環境問題に対する取り組みも、原油の効率的利用を後押ししよう。 石油に比べて二酸化炭素排出量の少なく開発余地の大きい天然ガスが、 石油会社の戦略的事業になりつつあることからも、今後、原油依存度は次第に低下してゆこう。
  供給サイドについては、今後もOPECの影響力低下、非OPECの生産能力拡大という傾向は続き、 生産量の増加が続こう。サウジアラビアとメキシコを除く主要産油国は、 上流部門への外資導入を図っており、進出企業への配慮から生産抑制が困難な状況にある。 その背景には、産油国では、 @1986年以降の原油価格暴落に伴う財政悪化により原油開発のための資金不足、 A外資の先端技術や資金力を利用し、原油埋蔵量・生産量の拡大を図る機運の高まり、 などを背景に産油国の間で、国際石油会社への鉱区開放が進んだことがある。
  こうしたことから、中東の緊張の高まりなどの政治的要因や、天候要因を除けば、 今後も原油の需要に見合うだけの供給が十分なされるという構図が大きく変化することはなく、 原油価格の上昇余地は限られると考えられる。

(9月28日 久保田)