平成10年(1998年)4月28日 NO.7

米国情報化関連投資の持続性について


 米国では、95年以降、経済のネットワーク化や情報・通信分野の技術革新を背景に、 コンピュータなどの情報化関連投資の増勢が鮮明となり、経済の好調持続の原動力となってきた。 97年についても、前年比で2割程度の増加と、引続き大幅な増加を示したが、企業収益の伸び悩みが懸念されるなか、 今後も高い伸びを続け景気拡大長期化の下支えとなり得るのであろうか。 本稿では情報化関連投資の実態を整理するとともに、その持続性を展望してみた。


情報化関連投資が米国経済に及ぼした好影響
 
コンピュータを中心に拡大を続ける情報化関連投資〜需要一巡の可能性
 
コンピュータへの更新投資需要は増勢を維持
 
資本設備による労働の代替も情報化関連投資の拡大に寄与
 
新たな需要を生み出すサービス産業の拡大
 
おわりに


1.情報化関連投資が米国経済に及ぼした好影響
 
 米国の景気拡大は今年で8年目に入るが、90年代における経済の好調は、主として企業部門に 牽引されてきた。第1表は、今回景気拡大局面における 部門別のGDP拡大への寄与度を、過去との対比でみたものだが、これをみると90年代の 景気拡大に対しては、従来に比べ、設備投資を中心とする企業部門、および輸出の役割が高まっている。
 これら輸出を含めた広義の企業部門が好調を続けた背景の一つに、以下にみるような 情報化関連投資の役割を指摘できよう。第1に、需要項目としての動向である。 情報化関連投資の増加ペースは、景気回復初年の91年こそ前年比1.4%の低水準にとどまっていたが、 翌92年以降97年に至るまで一貫して2桁台の増加を続けた。この結果、フローの設備投資全体に 占めるウェイトも97年には36.1%と、全体の4割弱を占めるに至っており(いずれも実質ベース)、 設備投資拡大の主たる牽引役となっている。
 第2に、製造業の競争力回復といった供給サイドへのプラス効果である。米国製造業は80年代に コスト競争力を低下させ、世界市場でのシェアを大きく後退させてきた。こうした状況に対し、 企業はリストラを進め、生産性向上努力を行った。この結果、米国企業の輸出競争力は改善を示し、 90年代半ば以降、米国輸出は総じて順調な拡大を続けてきた。こうした輸出競争力の回復を もたらしたのは、製造業の生産性向上で、80年代に年率2.7%にとどまっていた米国製造業の 労働生産性の上昇率は、90年代には同3.1%へ高まっており、情報化関連投資の本格化に伴う 企業の生産効率の改善が少なからず影響していると考えられる。

2.コンピュータを中心に拡大を続ける情報化関連投資〜需要一巡の可能性
 
 90年代における情報化関連投資の増加の特徴としては、先にみたような増加ペースの急拡大という点に加え、 内容の変化を指摘できる。第1図は、情報化投資の増加に対する 項目別の寄与度の推移をみたものだが、これをみると、80年代半ばまでは、通信機器を中心に、 情報化関連品目が全般に渡って増加を続けていたことがわかる。
 しかし、90年代における拡大については、94〜96年にかけて通信機器が増加に寄与したほかは、 ほとんどがコンピュータ関連によるもので、コンピュータ関連機器の増加ペースが全体の伸びを決定している。 したがって、今後も情報化関連投資が増加傾向を維持できるか否かは、第一にコンピュータ関連、 第二に通信機器の動向にかかっているといえよう。以下では、両項目それぞれについてみてみたい。
 まず、通信機器についてみると、確かに過去数年増加を続けている。ただし、設備投資循環図により、 フローの設備投資増加額を、ストックの金額との対比でみれば、すでに伸び悩み局面にあるといえ、 今後の拡大には多くを期待できそうにない(第2図)
 次に、コンピュータ関連機器についてみると、ホワイトカラー労働者へのパソコン普及率から判断すれば、 ハード面での需要は、すでに一巡している可能性もある。第3図は、 1994年時点における、ホワイトカラー労働者100人当りのパソコン台数を、主要先進国についてみたものだが (International Data Corporation社調査)、米国に関しては、すでに100台を上回っており(注)、 この時点で、1人1台体制が整っていた様子が窺える。

(注)なお、 Dataquest社の調査によれば、97年時点におけるホワイトカラー労働者への パソコン普及率は、米国が6割程度、日本が4割程度と報告されている。各社間の調査結果のばらつきは、 ホワイトカラー労働者の定義の仕方の違いによるものとみられ、数字のもつインパクトは、 幾分割り引いてみる必要があろう。

3.コンピュータへの更新投資需要は増勢を維持
 
 しかし、コンピュータ関連分野への設備投資の増加ペースは、ホワイトカラーに対してコンピュータ機器の 普及が一巡した可能性がある94年以降、更に高まっている。この原因としては、コンピュータ関連機器の 技術進歩に伴う旺盛な更新投資需要が考えられる。コンピュータ関連分野においては、技術革新に伴う 既存設備の陳腐化のスピードが、一般の資本設備に比べてかなり速く、そうした様子がコンピュータを はじめとする情報化関連設備ストックの除却率が一般設備に比べて高いことから確認できる (第4図)。普及が一巡した可能性があるとはいえ、 こうした技術革新を背景とした除却率の高さを考慮すれば、今後もコンピュータ機器に関する更新需要部分は、 情報化関連投資の拡大に寄与するものと思われる。
 実際、米国商務省発表のU.S Industry and Trade Outlook(1998)によれば、 実質ベースでみたコンピュータおよび周辺機器の出荷額は、95年以降も前年比30%を上回る増加ペースを維持しており、 98年に関しても同3割弱の高い伸びが見込まれている。

4.資本設備による労働の代替も情報化関連投資の拡大に寄与
 
 一方、労働需給の逼迫を背景に賃金が上昇し、企業にとっての雇用コストが増高する反面、 生産設備関連の資本財価格が下落傾向で推移していることも、情報化関連投資拡大の要因の一つとして指摘できよう。
 第5図は、実質ベースの設備投資を、実質キャッシュフロー、設備稼働率、 雇用コスト指数、設備投資デフレータの4変数で要因分解したものだが、推計結果に基づく要因別の増加寄与度をみると、 情報化関連投資の増加が顕著となった95年以降は、雇用コスト指数および設備投資デフレータによる影響度合いが 高まっており、労働から生産設備への代替が進んでいる様子が窺える。今後も当面は、労働需給の逼迫を背景とする 賃金の高止まりや、技術革新の進展に伴う情報化関連の資本財価格の下落傾向に大きな変化はないとみられ、 この点は、情報化関連投資の押し上げ要因となろう。

5.新たな需要を生み出すサービス産業の拡大
 
 加えて見逃せないのは、コンピュータの普及に伴い、関連サービス産業のプレゼンスが拡大していることである。 第6図は、今回景気拡大局面における雇用の増加ペースを、 コンピュータおよびデータ加工サービスに関して、全業種平均との比較でみたものであるが、 同業種の雇用の増加ペースがとくに94年半ば以降高まっており、市場規模の急拡大がみてとれる。
 また、Business Week誌が発表しているCorporate Scoreboard(全米900社対象)によれば、 売上高でみたコンピュータソフトウェアおよびサービス分野のハードウェア分野に対する比率は、 今回景気拡大局面のスタートである91年には13.8%にとどまっていたが、97年には39.6%と大きく上昇している。
 コンピュータソフトに関しては、新たな商品やサービスの開発が進んでいる可能性が高く、 今後についても産業の拡大余地はかなり残されているとみられる。こうした点も、 コンピュータ関連投資の裾野を広げ、情報化関連投資の拡大を促進させる要因となろう。

6.おわりに
 
 情報化関連投資といえども、企業の設備投資の一項目であることに変わりはなく、 先行き最終需要の拡大ペースが鈍化したり、企業収益が悪化を鮮明にすれば、何らかの影響を受けよう。
 しかし、情報化関連投資の拡大を支えているコンピュータソフト分野に関しては、 今後も更新需要による投資の拡大が見込まれる。また、コンピュータ関連分野をはじめとする 民間サービス業の隆盛をみる限り、新たな投資の拡大余地は広がりを続けているといえよう。
 こうしてみると、情報化関連投資が、今後当面拡大ペースを大きく鈍化させるとは考えづらく、 今しばらくは好調を持続し、景気を下支える展開が続くとみられる。
(4月20日 中村)