平成9年(1997年)3月5日 NO.6

米国個人消費の先行きをどう見るか

(1) 個人消費の米国経済に占める比率は極めて高く、景気循環に与える影響も大きいため、その動向を見極めることが米国景気の先行きを展望する上での鍵となる。
(2) 足元、所得環境や消費者マインドが良好で、個人消費は堅調に推移している。ただ、家計の債務負担の高まりや耐久財の買い替え循環の一巡などが今後の拡大を制約するため、個人消費は先行きその増加ペースを徐々に鈍化させる可能性が高い。

はじめに
 
1.安定持続する物価
 
2.所得が伸び悩む今回景気回復局面
 
3.今後、消費者信用は個人消費の増加を制約
 
4.資産効果による消費押し上げも限定的に
 
5.耐久財消費循環
 
おわりに


はじめに
 
 米国経済における個人消費のウェイトは他の先進国と比較しても極めて高く、GDP統計ベースで全体の7割弱を占めている。 このため経済成長に対する寄与も大きく、これまでも同国の景気循環に大きな影響を及ぼしてきた。 91年第T四半期を谷とする今回景気拡大局面においては、個人消費は振れを伴いながら平均して前年比+2%強のペースで増加を続けており、緩やかな景気拡大に寄与してきた。

 もっとも今回景気拡大局面に関しては、情報化関連投資の急増を背景に設備投資の好調が続いたことから、一見すると設備投資が個人消費に代わって景気拡大を牽引してきたようにも見受けられる。 確かに、過去の拡大局面に比べれば、設備投資の経済成長に対する増加寄与度が幾分上昇しているのは事実である。 ただ、今回景気拡大期における個人消費の実質GDPに対する前年比増加寄与度は平均で+1.6%を示している(設備投資は同+0.6%)。 この間の実質GDP成長率の平均2.3%の約7割が個人消費により説明でき、これは過去の景気拡大局面と比較しても遜色ない。 このように、個人消費の米国景気拡大に対する重要性は依然として失われていない。

 昨年後半の個人消費の動向を振り返ると、夏場以降、年前半の高成長の反動もあり、大きく減速したあと、年末にかけて再び拡大に勢いを増し堅調な増加を示した。 GDP統計の実質個人消費でみると、昨年第3四半期に前期比年率+0.5%と、ほぼゼロ成長にまで落ち込んだあと、第4四半期には同+3.4%と再び伸びを高めている。

 一方、販売面からみると、注目されたクリスマス商戦は、地区連銀景況感報告において「小売業者の予想に見合った緩やかな拡大を示した」と報告されたように、まずまずの結果に終わった。 実際、 11月に前月比0.1%の減少を示した小売売上高は、12月には同0.3%の増加に転じており、この結果第4四半期の小売売上高は前期比+1.2%と、好調だった第2四半期と同程度の増加を示した。 年明け後も小売売上高は堅調な増加を続けている。

 また、消費の源泉となる個人所得は12月に前月比+0.7%と昨年6月以来の高い伸びを示した後も底固く増加しており、消費マインドを示す消費者信頼感指数も上昇を続け、1月には118.7(1985=100)まで上昇し、今回景気拡大局面最高水準を更新した。 2月にも118.4と高水準を維持している。所得、マインド両面からみて、足元の消費環境は極めて良好であり、こうした点からは、個人消費はこの先も堅調な増加を続けるように見受けられる。 ただ、一方で乗用車販売の息切れや、家計の債務負担問題など個人消費の足かせとなりうる要因も目立ち始めている。 そこで本稿では、米国景気の先行きに注目が集まるなか、景気動向を大きく左右する個人消費の先行きを展望してみたい。

1.安定持続する物価
 
 個人消費の動向に影響を与える要因としてまず考えなくてはならないのが物価の動向である。 第1図は、70年以降の実質個人消費と、消費者物価の推移をみたものであるが、過去個人消費が大きく低下した局面を振り返ると、いずれの時期においても物価の急騰がみられる。 こうした物価上昇の背景として、70年代の2回の物価上昇期には石油危機が、また90年の上昇局面には湾岸戦争が挙げられるが、とくに70年代の2回の物価上昇局面は、いずれも外生ショックによる物価の上昇が賃金に波及し、 その後スパイラル的に賃金と物価の上昇につながっていった姿がみてとれる(第1図)。 また、合わせてこれらの時期には、消費者信頼感指数が大きく低下していることから、物価上昇に伴う実質購買力の低下に加えて、消費者マインドの悪化が、個人消費の減少をもたらしていることがわかる。 90年からの個人消費の落込みには、戦争によるマインドの悪化が大きく影響したといえよう。

 このように物価上昇の消費に与えるマイナス効果は大きいといえるが、現在の米国経済の構造をみると、今後インフレが生じ、個人消費が大きく落込むおそれは小さいといえよう。 確かに、このところの時間当り賃金が幾分強含んでいることからも窺えるように、労働市場の引き締まりによる賃金上昇懸念は今後も燻り続ける可能性が高い。 しかしながら、国際競争の激化や消費者の低価格志向の強まりを背景に、製品への価格転嫁は容易でないため、企業の賃上げ抑制スタンスは依然衰えをみせていない。 また、失業率が低水準にとどまるなかでも、労働者の雇用不安は依然として根強く、雇用者自らが賃上げに対して自制的になる地合いが続いている。 とすれば、今後賃金が急速に上昇し、インフレが顕在化するような展開は想定しづらい。

2.所得が伸び悩む今回景気回復局面
 
 物価の安定と並び今回の景気拡大局面における特徴として挙げられるのが所得の伸び悩みである。 91年第1四半期を底とする今回景気回復局面においては、個人消費の増加ペースは過去と比較し極めて緩慢なものにとどまっているが、こうした消費支出の伸び悩みの背景としては、名目ベースの所得の伸びが緩やかであったことが指摘できる。 第1表はこれまでの景気回復局面における個人消費(実質ベース)の増加を要因別に寄与度分解したものであるが、70年代以降数回の景気回復局面に比べ、今回局面においては、 名目ベースの可処分所得の伸び悩みを背景に、実質消費支出の増加ペースが緩慢であることがわかる。一方で、消費デフレーターの上昇は小幅にとどまっており、物価の落ち着きが消費支出を下支えしている。 このような可処分所得の伸び悩みは、今回景気回復局面において、個人所得の過半を占める雇用者所得の増加が勢いを欠いていたことにより説明される。 第2図は雇用者数と雇用者一人当たり賃金の増加ペースを景気回復局面ごとに比較したものだが、今回景気回復局面においては、これまでに比べ雇用者数、一人当たり賃金ともに緩慢な増加にとどまっており、 いずれの要因も雇用者所得の伸び悩みをもたらす方向に働いていたことがわかる。

 こうした雇用者数と一人当り賃金の伸び悩みの背景としては、労働市場の構造上の変化があげられる。まず、雇用者数が大きく伸び悩んだ背景としては、情報処理関連の設備投資の増加が指摘できる。 企業の合理化、効率化の動きを受けた情報化関連投資は前年比で2桁台のペースで増加を続けており、この結果、情報化投資の設備投資全体に占めるウェイトも昨年後半には実質ベースで 30%を上回った。 こうして生産手段の人から機械設備ヘの代替が進んだ結果、生産増加に伴って新規雇用が増えにくい構造となっていることが考えられる。

 一方、一人当り賃金の伸び悩みについては、先にも触れたとおり、企業、雇用者両サイドの要因から、構造的に賃金が上昇しにくくなっていることが考えられる。 すなわち、雇用者サイドにおける、低失業下にもかかわらず根強い雇用不安と、企業サイドにおける賃上げ抑制スタンスがあいまって賃金が上昇しにくいメカニズムが出来上がったことが重要な要因として指摘できよう。

 まず、雇用者側の動きをみると、現状失業率は5%台前半の低水準を保っているが、こうしたなかでも企業のダウンサイジングの動きを背景に雇用者の失業不安は依然として払拭されていない。 2月上旬のグリーンスパンFRB議長の議会証言中に引用されたアンケート調査にみられたとおり、失業率の低下にも関わらず、昨年においてレイオフを心配していた大企業雇用者の割合は全体の46%と、 景気の谷である91年の比率(25%)の約2倍に上昇している模様である。

 一方、企業側についてみると、国際的な競争が激化するなか、賃金コスト抑制姿勢は依然として弱まってはいないとみられる。 近年の企業活動のグローバル化を背景に、米国の輸出入のGDPに対する比率は今回景気回復局面において一段と高まっている。 昨年第4四半期の輸出のGDP比率は実質ベースで12.3%、輸入の同比率が13.8%といずれも70年の2倍以上の水準に達している。 こうして米国経済における輸出入の影響は高まっており、内外の競争は激しさを増している。さらに、ディスカウントストアの好調からも窺えるとおり、消費者の低価格志向は衰えをみせていない。 このように企業にとってはコスト上昇の価格転嫁は厳しい状況が続いている。さらに、雇用の増加が相対的に賃金の低い部門を中心に進んだことの効果も大きい。 今回景気拡大局面における雇用者の増加を業種別にみると(第2表)、雇用の増加は小売業や民間サービスといった相対的に低賃金の部門を中心に進んでおり、製造業など、 比較的賃金の高い部門では合理化が進んでいる結果、かえって減少がみられる。こうした雇用の拡大傾向は低賃金部門の比率を上昇させ、結果として賃金の上がりにくい就業構造を構築しているといえよう。

 以上のように、労働市場の構造上の変化が雇用者所得が伸び悩んだ要因であることは間違いない。今後を展望しても、労働市場がこのように構造変化を示している以上は引き続き雇用者所得が大きく増える展開は考えにくい。

3.今後、消費者信用は個人消費の増加を制約
 
 雇用者所得が伸び悩むなか、物価の安定とともに、個人消費の拡大に大きく寄与したのが消費者信用の拡大である。過去、個人消費の限界的な増加に対しては、消費者信用残高の増加が大きく影響している(第3図)。 91年の景気回復局面入り後も、消費者信用残高は順調に拡大を続けてきた。

 ただ、先行きを展望すると、今後の増加余地は限られる模様である。これまでの消費者信用の増加により、その対可処分所得比は、昨年第4四半期で20.9%と、すでに過去最高水準にまで上昇している(第3図)。 実際、すでに消費者信用残高の前年比増加率は緩やかに低下に転じており、今後はこうした減少傾向が続く可能性が高い。

 もっとも、前回景気後退期にみられた、個人消費の大幅な落ち込みにつながるほどの消費者信用残高の急減は考えにくい。 確かに、その可処分所得比の上昇に伴い、延滞比率が上昇していることから、消費者信用の主な貸し手である商業銀行の貸出姿勢は幾分慎重になっている模様である。 前回、個人消費が急速に減少を始めた89年から90年にかけては、消費者信用の積み上がりを背景に、家計がバランスシート調整を進めたことと合わせ、商業銀行も不動産市況の下落などにより、バランスシートが大きく悪化し、 貸出に対する慎重姿勢を強めた。この結果、消費者信用が急減し、個人消費が大きく落ち込む原因となった。しかし、現在商業銀行を取り巻く環境は当時と大きく異なっている。 連邦預金保険公社に加盟している商業銀行の総資産利益率は、90年に0.48%にまで落込んだが、93年以降は昨年第3四半期に至るまで、1%を上回る水準での推移を続けている。 また、89年には6.21%と低水準であった自己資本比率は、足元8.31%にまで上昇している。このように、総資産利益率、自己資本比率ともに当時に比べて大きく上昇しており、収益・財務バランス両面で、商業銀行の経営状況は大幅に改善している。 こうした現状をみる限りは、この先消費者信用が減少傾向で推移する可能性が高いとはいえ、個人消費を大きく落ち込ませるほどの急減は考えにくい。

4.資産効果による消費押し上げも限定的に
 
 また、株価の上昇に伴う資産効果の役割も大きい。95年以降、米国の株価は大きく上昇しているが、こうした株価の上昇が資産効果を通じて消費者マインドを好転させた影響も大きいと考えられる。 第4図にみられるとおり、家計の資産は91年以降増加を続けており、バランスシートは改善を示している。 このうちここ1、2年は株式評価額の増加によるところが大きく、背景としては95年以降の株価の好調が考えられる。96年について試算すると、実質個人消費の伸び2.5%のうち、0.8%が資産効果によるものであったことが推計できる。

 このように、これまで個人消費の拡大に寄与してきた株価の上昇であるが、今後を展望すると、個人消費をさらに大きく押し上げる役割は担えないように思われる。 株価の動向についてみると、現状株式市場は活況を呈しているが、株価水準は総体としてみれば、企業収益等の経済実体から大きく乖離したレベルではない。 ただ、株価は夏場以来上昇ペースを速めており、これにはこの時期市場金利が大きく低下したことが効いていると考えられる。 この先も、企業収益の底固さや、ミューチュァルファンドを通じた投資資金の流入など、依然資金フロー面 からみた株式市場の需給バランスが良好なことから、株価が大きく下落に転じる可能性こそ小さい。 しかしながら、景気の堅調な拡大持続が予想されるなか、今後金利がさらに大きく下落する局面は考えにくいことなどから、これまでのペースで上昇が続くとは考えがたい。 したがって、今後については株価上昇に伴う資産効果が個人消費拡大に及ぼす影響は限られよう。

5.耐久財消費循環
 
 最後に、個人消費における耐久財支出の動向も見逃せない。耐久財の個人消費全体に占める割合は、1割強とウェイトこそ小さいものの、非耐久財やサービスといった他の支出項目の増減率の振れがあまり大きくないのに対し、 耐久財支出の増減は変動が激しく、消費支出全体の増減幅を拡大させている。こうした耐久財の過半を占めるのが自動車と家具・調度品で、耐久財の個人消費拡大に対する寄与の内訳を品目別にみると(第5図)、 この2項目でほとんどが説明できる。以下ではそれぞれについてみていきたい。

(1) 自動車

 米国において自動車の耐久財消費に占める割合は4割弱に達しており、これまでもその販売サイクルが耐久財支出の増減を大きく左右してきた。 第6図は自動車販売台数の推移をみたものだが、直近期についてみると、乗用車こそ昨年第3、第4四半期と2四半期続けて減少を示すなど、落込みがみられるが、RV車の販売が好調なため、 これを含むトラックは依然増加基調を続けている。自動車全体(乗用車+トラック)としてみれば、循環的にはすでにピークをうち、緩やかな減少トレンドを辿っていくとみられるため、今後大きく増加する展開は考えにくいが、 この先急速に落込むタイミングにもないとみられる。

 また、自動車の販売動向にはオートローン金利も大きく影響している。オートローン金利の変化は長期金利にやや遅行しているが、 96年後半のオートローン金利の上昇は自動車販売のマイナス要因となっている(第6図)。 ただ、長期金利は1月末以降若干低下を示しており、今後97年中は大方横這い圏内で推移するとみられるため、金利の自動車販売に対する影響は中立的なものとなろう。

(2) 家具・調度品

 また、いま一つの主要品目である家具・調度品については、昨年後半も前年比+9%台と、好調に推移している。 家具・調度品支出の推移は住宅着工件数と相関性が高いことから、これは年前半に住宅投資が高水準で推移した影響が続いているものと考えられる。 過去における住宅着工件数と家具・調度品支出の推移をみると(第6図)、家具・調度品支出は住宅着工件数に数四半期遅れる形で増減を繰り返しているため、昨年後半以降の住宅着工件数の減少傾向を考慮すれば、 今後は増勢が鈍化する可能性が高い。ただ、着工件数は減少傾向を強めたとはいえ、水準としてみれば年率140万戸前後と、歴史的にみて比較的高水準を維持していることから、その減少余地は限られよう。

 このように、自動車と家具・調度品という耐久財消費の変動要因となる主要な品目の動向からみると、耐久消費財支出は、急激に落込むリスクこそ小さいものの、この先緩やかな鈍化傾向を辿る可能性が高いといえよう。

おわりに
 
 以上みてきたように、足元、個人消費は好調を示しており、消費環境も良好であるため、今後当面は堅調な推移を続けよう。 ただ、先行きを展望すると、耐久財支出の増加余地は限られているうえ、株価の上昇による資産効果にも今後多くは期待できない。 さらに、すでに大きく積み上がった消費者信用残高の伸び率の低下トレンドが制約となり、個人消費はこの先年後半にかけて伸び悩む展開を辿る可能性が高い。 景気もこれに合わせ緩やかに拡大ペースを鈍化させていくこととなろう。
 
(3月5日経済調査部 中村)