平成9年(1997年)2月14日 NO.5

米国を巡る最近の国際的資金フローの動向

 米国の資本収支は、94年〜95年頃から、@外国通貨当局のドル買い介入の動き、A米国景気の堅調や内外金利格差を背景とした海外民間投資資金の米国への流入、などを主因に変化がみられる。
 海外資金の流入がドル高を招き、更なる資金流入を呼ぶという好循環は、当面崩れる懸念はないとみられるが、こうした好循環は、米国景気の堅調が前提となっているため、今後は一層慎重な金融・財政政策が要求される。

はじめに
 
変容する資金流入の形態
 
地域別の動向
 
今後の展望


はじめに
 
 96年も、米国金融・資本市場は活況を呈した。インフレなき安定成長下、NYダウは6,000ドルを突破し、7,000ドルの大台をもうかがう展開であり、債券市場も総じて堅調に推移している。 94年末から始まったこの米国金融・資本市場の好調は、国際的な資金フローの動きとも密接に関連している。 米国の資本収支をみると、96年1〜9月に1,459億ドルの資金流入超を記録しており、年間ベースでは過去最高の流入額を更新する勢いになっている。 この間、経常赤字も1,223億ドルと高水準に推移しているが、80年代のような国際収支構造全体のサステナビリティへの懸念は生じておらず、むしろ米国の景気好調と相対的金利高が世界中から資金を集め、 それがドル高と株高を招き、更なる好景気持続を可能にするという好循環への楽観論が支配的ですらある。

 米国への資金流入の形態は、総額でみると安定的に増加しているようにみえるが、近年の証券投資による資金流入の急激な増加にみられるように、変化が著しい。 そこで、本稿では、内外の金融・資本・為替市場との関連を念頭においた上で、米国を巡る国際的資金フローの変遷を整理し、今後の米国経済をみる一助としたい。(第1表:米国の国際収支

変容する資金流入の形態
 
 91年から新たな景気拡大局面に入った米国は、内需の強さを背景とした輸入の伸びを主因に経常収支赤字を拡大させる一方で、魅力的な投資機会の提供を通じて世界中から投資資金を引き付けてきた。 しかし、この資本収支黒字の内訳についてみると、90年代に入ってから変化の速度を早めているようにみえる(第1図)。 そもそも、80年代において資本流入の源となったのは、日独を中心とする先進諸国の対米証券投資や不動産などへの直接投資であった。 しかし、90年代に入ると、米国の対外証券投資の活発化によって証券投資収支の流入超幅が縮小し、直接投資も米国の不動産市況が下落したことなどを背景に流出超になる一方、公的資本の流入、 銀行部門を通じた資本の流入が資本収支の黒字に寄与するようになっていた。 しかし、94年〜95年ころより、内外金利格差などを背景に証券投資が著しい流入超に転じたほか、為替介入の増加などから公的部門も流入超幅を拡大させる一方、銀行部門は逆に流出超に転じるなど、大きな変化が生じている。 ここでは、こうした状況の背景にある国内外の事情にも留意しつつ、以下資本収支を主要項目別にみていこう。

(1) 公的部門
 公的部門の動向は、ほとんど海外公的資本の動きが決定しているといってよい。 95年の海外公的資本の流入超額は1,098億ドルと94年比で2倍以上増加し、過去最大を記録した結果、公的部門全体の黒字幅は、997億ドルとなった。 96年に入っても、高水準の流入が続いており、96年第3四半期までのペースでは、95年をも上回る勢いである。 これら海外公的資本流入は、大部分、海外通貨当局の米国債購入による外貨準備積み上げの形をとっており、かつ多くの場合は、FRBに預託されているものと推定される(第2図)。

 94〜95年頃から活発化したこうした動きの背景には、中国をはじめとするアジア各国や日本などの通貨当局による外貨準備積み増しが大きな役割を果たしているものと考えられる。 特に、日本の場合、95年、96年は、歴史的円高とそこからの反転局面と捉えうるが、この過程で通貨当局による大規模な為替介入が行われ、外国公的資本の米国への流入を押し上げている(第3図)。

(2) 民間部門
@ 直接投資
 対米直接投資は、80年代後半に大きな盛り上がりをみせたが、これには、日本からの不動産投資などが大きな役割を果たした。 しかし、90年前後に日米で不動産価格が大きく下落したことなどから日本からの新規投資が落ち込み、90年代初頭は対米直接投資流入が細る結果となった。

 その後、93年からは米国景気の本格的回復を背景に、主として欧州からの直接投資が活発化しており、対米直接投資は95年は602億ドルを記録、96年についてもさらにこれを上回ったものと推定される。

 一方、対外直接投資は、95年に955億ドルと史上最高を記録した。96年は、第3四半期までをみると若干ペースを落としているものの、依然として高水準で推移している。地域別では、西欧、とくにEU向けが目立つ。

A 証券投資
 証券投資は、近年公的部門と並んで、米国の資本収支黒字の主要項目である。以下では、米国資本の対外証券投資と海外資本の対米証券投資に分けてみていくこととしよう。 (a)対外証券投資は、95年には990億ドルと、93年に記録した1,463億ドルには及ばないものの、高水準で推移している。96年もこのペースを維持しており、年間を通じてみれば1,000億ドル程度に達するものと思われる。

 こうした背景には、諸外国の金融・資本市場の拡大、特に急速な経済発展を遂げつつあるアジア・中南米諸国などの新興市場の成長と、そこからのリターンを狙った米国の機関投資家の国際分散投資の進展といった事情が挙げられる。

 米国では、90年代に入ってから、低金利やベビーブーム世代の老後に備えた貯蓄指向を背景に、ミューチュアルファンドによる資産運用が拡大しており、これに伴いミューチュアルファンドの対外証券投資も活発化している。 特に、海外株ファンドへの資金流入は活発化し、対外証券投資のうち、株式の占める割合は相当高くなっている。また、年金基金も、近年積極的に対外証券投資を行っているようである。

 実際、米国投資信託の外国証券保有割合(総資産に占めるインターナショナルあるいはグローバルな株式及び債券の割合、ただし、除く流動資産部分)をみると、92年頃までは5%程度で横ばい推移していたのが、93年頃より急上昇し、 足元では10%を超えるに至っている。

(b)一方、対米証券投資は、先進国間の景気局面の差やそれに基づく金利格差の拡大を背景に、94〜95年頃より飛躍的な伸びを見せはじめ、95年には1,946億ドルと93年に記録した最高額の約2倍に達し、 さらに96年にはそれをも上回るペースで推移している。こうした資金のほとんどは債券、特に米国債に向かっており、結果的に、公的部門と合算すれば近年の米国債新規発行分の大部分は海外勢に購入されていることになる (第4図)。

 一方、海外からの株式投資については、債券に比べると規模は小さく、95年全体でも112億ドル程度に留まっている。米国株は、好調な企業収益やミューチュアルファンド経由の家計資金の流入などを背景に95年初頃より高騰が続いている。 しかし、海外投資家にとって、米国株式投資は、安全性や流動性の観点から債券に劣るため、比較的小規模に留まっているのが現状である。

B銀行部門
 94年には、米国景気の好調を背景とした根強い資金需要を反映して、銀行部門はネットで1,037億ドルと、過去最大の資金流入超幅を記録した。 これは、主としてカリブ海やロンドンの金融センターを通じたものであり、これらの金融センターに存在する米銀拠点のドル預金の米国内還流が進んだ。

 しかし、95年には様相は一変し、すでに94年に小幅流出超に転じていた米国資本が大幅流出超(取得超)に拡大する一方、外国資本の流入幅が急減するに至った。 この動きは、96年に入っても継続しており、第3四半期までの段階で、米国資本、外国資本ともに大きな流出超の動きを続けている。すなわち、銀行部門については、95年から資本の流れが逆転し、米国から海外に向けて流れるようになったのである。

 これら銀行部門の資金流出超への転化は、主として、ほぼ同時期に急増した対米証券投資の取引の収支尻によるものだと考えられる。 すなわち、@外国人の米国債券・株式の購入に伴う米銀の対外負債の減少、A米国債券・株式の購入資金としての金融機関の海外向けドル資金貸出し、などが挙げられる。

 このほかにも、95年からの米国景気減速に伴い、国内資金需要が減少し、米銀が海外から調達した資金を返済したことも、海外資本の流出超という形で計上されているものと考えられる。

地域別の動向
 
 第5図は、米国の各地域毎の資本収支を95年からみたものである。以下では地域別の動向について詳しく見ていくことにしよう。(第2表:地域別証券投資の動向(長期債)

(1)日本
 日本に対しては、経常赤字が大きな金額で推移する一方、資本収支もそれに合わせて大きな黒字を記録している。 対日経常赤字額がピークを迎えた95年には、円高是正のための為替介入のほか、日本国内の低金利を嫌気した民間投資資金の外債投資(多くは米国債投資)などがあり、日本の対米証券投資は増大、96年についても、引き続きこの傾向が続いている。 日本の大蔵省の統計においても、96年4〜9月期には対米投資が2兆5,021億円(ネット取得、決済ベース)を記録している。公的部門の為替介入のほかにも、 こうした民間部門の資金の動きが95年来の対円でのドル堅調を支えている一因になっているのは間違いあるまい。

 なお、米国から日本に対しても、世界的にみて出遅れ感の強い日本株に対する選好が高まったことから、相当規模の投資が行われた。 大蔵省によると、96年上半期には、米国から日本への証券投資は2兆2,869億円に達しているが、その多くは株式への投資と推定される。 96年末から97年初にかけて、日本株は大きな下落をみたが、ここでも米国のファンドを中心とする外人投資家の動きが影響したといわれている。

(2)欧州(EU)
 欧州(ここではEU加盟15ヶ国)との最近の国際収支の状況をみると、米国の対欧州経常赤字は毎年100〜200億ドルの間で推移しており、一方で資本収支も大きな黒字を記録している。

 これを、まず米国資本の側からみると、94年は米国の金利上昇時期に当たっていることから、自国債券の利回り上昇を背景に、投資家が国内債投資に向かったため、欧州向けの資本流出額は大きく減少したが、その後は再び活発な投資が行われており、 96年に入ってからも1〜9月の対欧州証券投資は総額322億ドルを計上している。

 欧州資本についてみると、対米証券投資が95年以降急増している。これらは、主として債券購入(社債を含む)であるが、95年からの米国市場金利の低下を背景に米国企業が社債発行をかなりの規模で再開したこと、金利低下に伴い、 債券価格が上昇したことなどが挙げられよう。

 欧州との証券関連の取引について注意しなくてはならないことは、これらの資金はその大半が英国との取引であるという点である。 したがって、ロンドン市場に拠点を置く証券会社などを通じた資金取引も含まれており、それらは必ずしも欧州の投資家の取引とは限らない。 むしろ、ヘッジファンドなど資金の場合、実質的には米国資本だというケースも相当あると推定される。

(3)アジア・アフリカ諸国(除く日本)
 アジア・アフリカ地域は、現在米国にとって最大の経常赤字先である。 これは、東南アジア地域が米国への製品供給基地として存在していることや、最近日本を上回るペースで対米貿易黒字を記録している中国などとの収支が悪化しているためである。

 他方、アジア経済の成長を背景に、資本収支は、アジア・アフリカ資本の流入額、米国資本の流出額、いずれも両建てで急激に増加している。アジア・アフリカ資本の側をみると、短期長期ともに証券投資が中心となっている。 これらのうち、通貨当局の米債投資もかなりの部分を占めているものと思われる。実際、アジア主要9ヶ国・地域(インド、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、中国、台湾)の外貨準備高は、90年末の1,248億SDRに対し、 96年7月時点で2,680億SDRと2倍以上に膨らんでいる(IMF調べ、除く金ベース)。この間、先進主要7ヶ国が、為替介入の分増加の大きい日本を除くと総じて横ばいに留まっているのに比べると、著しい伸びであるといえる。 こうした外貨準備のかなりの部分は米国債によって運用されているとみられる。

 一方、米国資本の側をみると、米国機関投資家の国際分散投資の進展やアジア諸国の金融資本市場の整備を背景に株式を中心とした証券投資が増加しているのに加え、アジア経済の発展に伴う直接投資も高水準で推移している。

(4)中南米
 中南米地域についてみると、この時期メキシコ危機が大きな影を落としているのは間違いない。94年初にFRBが金融引き締め姿勢に転じると、その影響は即座に海外にも波及し、海外債券、株式の多くは下落した。 メキシコもその例外ではなく、94年末に勃発した通貨危機の遠因の一つとなった。95年には、メキシコ支援分として、米国の中南米向け外貨準備が急増する一方で、中南米向け証券投資はリスクを嫌って急減(95年央には流入超=処分超すら記録した) している。この時期は、エマージングマーケット全般が嫌気され、アジア諸国でも、一時米国資本の対アジア証券投資が流入超を記録している。

 しかし、96年に入ってからは、再び順調な証券投資が再開されており、年前半には60億ドルを超える証券投資資金が中南米に流入している。

今後の展望
 
 このように、米国をめぐる資金フローをみると、米国内外の事情が複雑に絡み合いながらも、公的、民間とを問わず、基本的には証券投資が非常に大きな役割を果たしている。 問題は、こうした資金の流入構造がどの程度維持可能なのかということである。

 80年代前半の景気拡大局面においては、大規模な所得税減税や投資減税等の財政政策と規制緩和を中心としたレーガノミクスの発動が、 インフレ抑制のための高金利と世界的な資本自由化とあいまって、各国の民間資本を「強いアメリカ」へと吸入させることとなった。 しかし、力強い景気拡大と引き換えに、「双子の赤字」の拡大と輸出競争力を損なう異常なドル高を招き、「プラザ合意」というドラスティックな政策転換を余儀なくされた。今回はそのような可能性はないのだろうか。

 まず経常赤字の水準を考えてみると、絶対額でみた場合、80年代のピーク時に迫っているのは確かである。しかし、GDP比でみると、87年のピーク時の3.7%に対し、足許では2%台に留まっている。 また、財政赤字も、いまやGDP比で先進国中最低レベルまでに低下している。

 米国企業の国際競争力にしても、日本やドイツに追い抜かれる危機感のあった80年代と、情報化の時代を先取りした自信に溢れる現在とでは、明らかに状況は変わっている。さらに、何よりも80年代と異なるのは米国経済に対する世界の信頼感であろう。 まず、インフレ面をみると、失業率が6%を切ってからすでに2年以上経過しているのにもかかわらず、物価は安定基調で推移し、インフレなき持続的な経済成長が実現されている。 また、「ドル高は米国の国益にかなう」(ルービン財務長官)とする米国政府の姿勢も市場から相当の好感を持って受け止められているのは間違いない。

 こうして考えると、経常赤字額を超える対米証券投資を可能にするほどのドル資産需要が、世界的に高まっているのも不思議はない。 したがって、米国景気がなお当面拡大基調を持続し、為替政策についても大きな変更がなく、かつ、日欧の景気展開に大きな変化がないとすれば、米国経済の好調がドル選好型の資金フローを呼び、 それが更なる景気拡大につながるという好循環が崩れることは、少なくとも現時点では予想しにくい。

 ただし、中期的にみると、公的部門のドル買い介入の必要性が低下すること、海外投資家の為替リスク許容量にも自ずと天井があること、ドル高は確実に米国輸出企業の国際競争力を削いでいくこと等を勘案すれば、 世界中からのドル資産選好に基づく好循環が永久に続く保証はない。 また、特に公的部門についていえば、欧州通貨統合実現に伴い、欧州各国の通貨当局が外貨準備の構成比率の調整のためドル資産の余剰分を為替市場で売却する可能性などの特殊な不安定要因も指摘できる。

 さらに、肝心の米国経済も将来ともバラ色の展開が続くとは断言できない。すでに景気拡大もほぼ6年が過ぎ、今後の成長余力についてどの程度あるのか、という点に不安が残るからである。 実際、すでに、家計部門の債務負担の問題など、景気の成熟化に伴い一段の拡大余力は徐々に限られてきたことを示す問題もでてきている。

 現在の米国を巡る資金流入も、米国景気が堅調であることを前提としているだけに、仮に予想に反して景気が大幅に減速したり、あるいは外生ショックなどでインフレが高進するといった事態となった場合には、 国際資金フロー面でも好循環が崩れる格好で、混乱が増幅される可能性がある点には常に注意しておかなければなるまい。特にその場合、「息をのむような速度で」(グリーンスパンFRB議長)上昇した株式市場への影響は懸念される。 そうした意味では、2期目のクリントン政権にとって、景気の拡大余力が限られてくるなか、財政赤字削減には引き続き取組みながらも、米国経済のインフレなき成長路線を維持するという責務は、国際金融の面からも重大であるといえよう。

 
(2月6日経済調査部 佐藤)