平成9年(1997年)5月27日 NO.10

膨らむ地方経済への期待

健闘する地方経済
 
構造変化が後押し
 
キーワードは“自立化”


健闘する地方経済
 
 地方経済が健闘している。第1表は、前回景気の山(91年1〜3月)以降の鉱工業生産の推移を、地域別に示したものである。 これをみると、関東、東海、近畿の3大都市圏の生産は、先の不況期からその後の景気回復局面を通じて、全国平均を下回るレベルで推移してきたが、 それとは対照的に、地方圏の生産は、総じて不況期の落ち込みが小さく、その後の立ち上がりも都市圏に比べてスムーズに増加している。 なかでも、九州や四国、北海道の生産は順調な回復をみており、足元のレベルは、すでに前回景気の山を上回る位置にある。

 地方圏の健闘ぶりは、雇用面からもみてとれる。たとえば、失業率の推移を都市圏・地方圏別に分けてみると(第1図)、 従来、地方圏の失業率は都市圏を上回っているのが常であったが、90年代に入ってからは、そうした関係が逆転している。 足元についても、都市圏の失業率は3.7%と、円高不況直後の既往ピーク(87年、2.7%)を大きく上回る水準に達しているのに対して、地方圏のそれは3.1%にとどまっている。

構造変化が後押し
 
 もちろん、90年代に入ってからの地方経済健闘の背景には、この間、わが国経済が財政頼みの展開を余儀なくされてきたことがある。 わが国では、設備投資や個人消費といった国内民需が長期にわたって力強さを欠くなかで、大型の景気対策が相次いで実施された。 地方圏の総生産に占める公共投資のウエイトは1割強と、都市圏(同6〜7%程度)に比べて財政支出への依存度が格段に高いだけに、そうした大型景気対策の恩恵を受けやすい。

 また、地方圏では、いわゆる“バブル崩壊”の影響が小さかったという事情もあろう。 周知の通り、都市圏の地価は、80年代後半に大きく上昇したあと、90年代に入ってから急落をみ、企業部門を中心に厳しいバランス・シート調整を強いられることとなった。 これに対して、地方圏では、“バブル期”を挟んだ地価の起伏は小さく、バランス・シートの毀損度合いも相対的に軽微であったとみられる。

 ただ、ここで見逃せないのは、こうした地方圏の健闘が、わが国産業構造の変化に基づいてもたらされている側面があるということである。 まず、80年代後半以降、地方圏にハイテク工場の集積が進んだことがある。第2図は、通産省「工場立地動向調査」を使って、工場立地件数の推移を都市圏・地方圏別に示したものである。 これにみる通り、地方圏の工場立地件数は、80年代央より増加に向かい、立地件数全体に占めるウエイトも、80年代前半の60%内外から、ピークの90年には70%近くにまで上昇した。  これは、急激な円高や“バブル”に直面したわが国企業が、比較的付加価値の低い製品については、アジアを中心とした海外への生産シフトを進める一方、 半導体関連などのハイテク分野については、地方圏への工場移転・新設を積極的に行ったからにほかならない。アジア地域に比べて良質な労働力や資材を確保できると同時に、 用地取得費や人件費といったコスト面でも、都市圏に比べて優位であったことなどが、地方圏でのハイテク工場の集積を促したということであろう。

 新鋭工場が相次いで設立されたことで、地方圏は、90年代に入ってからの円高の影響を、都市圏に比べて受けにくかったようである。 実際、輸出金額の推移を都市圏・地方圏別に分けてみると(第3図)、ここ数年、都市圏がAV機器や自動車本体の輸出を中心に低迷を余儀なくされているのに対して、 地方圏については、半導体などの部品輸出を中心に、この間、堅調な推移を辿っている様子がみてとれる。90年代入り後のわが国の輸出は、 従来、花形商品だった自動車や家電製品といった耐久消費財が大きく減少する一方で、輸出好調品目のほとんどは、半導体や自動車部品などの資本財、中間財で占められるようになったが、 都市圏と地方圏での輸出動向の違いは、そうした輸出構造の変化を如実に反映しているように思われる。

 加えて、規制緩和や情報化の進展が、地方経済の健闘に一役買っている面もあるようだ。 たとえば、小売業では、90年以降、3度にわたって大規模小売店舗法が改正され、出店規制などが緩和されたが、 これをきっかけとして、地方圏の大規模ショッピング・センター等の店舗数は都市圏のそれを大きく上回る勢いで増加した。 また、パソコンの普及やダウン・サイジングの進展により、従来、地方圏の大きなデメリットであった距離的な障害が、取り除かれていることも大きい。 いずれにしても、こうした経済を取り巻く環境の変化が、90年代の地方経済を後押ししていることは間違いない。

キーワードは“自立化”
 
 問題は、地方圏が、今後もこうしたパフォーマンスを維持できるかどうかであるが、先行きについて手放しの楽観はできない。 アジア地域の生産能力や技術力が向上し、国際競争が年々激しさを増すなかにあって、生産拠点としての地方圏の優位性が徐々に低下していく虞れは否定できない。 また、厳しい財政事情の下、政府は財政再建路線を打ち出しており、これまで地方経済に大きく貢献してきた公共投資に、従来のような期待を寄せることは難しくなっている。 地方圏の景況感が、都市圏に先駆けて回復に向かった割に、一段の弾みがつかないのは、これらの事情が少なからず影響しているように思われる。

 しかしながら、その一方で、地方経済の着実な発展を予見する動きも随所にあらわれている。 第2表は、新規店頭登録企業のうち、地方圏に本社を構える企業のウエイトを示したものである。 これにみる通り、地方企業のウエイトは、80年代後半の約3割から90年代には約4割と、大幅にシェアアップしている。 新規店頭登録企業は、先行きの成長分野を敏感に捉えた個性豊かな企業が多いだけに、こうした企業の地方圏での躍進ぶりは、 今後の地方経済を占ううえで心強い材料である。

 なかでも、地方経済のリード役として期待されるのは、規制緩和や情報化の進展を梃子としたサービス業や商業などの伸長であろう。 たとえば、通産省「特定サービス業実態調査報告書」を使って、情報サービス業や物品賃貸業、広告業といった対事業所サービス業について、 90年代入り後の売上高や事業所数の変化を地域別にみると、いずれも都市圏での伸び悩みが目立つ一方で、地方圏では、その成長が著しい。 雇用吸収力という点でも、地方圏におけるサービス業や商業の貢献度は、着実に高まっている。 事実、地方圏では、景気が底入れした93年から直近の96年にかけて、サービス業(44万人増)や商業(12万人増)の就業者数が大きく増加しており、 製造業部門(37万人減)での就業者の減少を十分カバーしている。この先も、規制緩和や情報化の流れが途切れることなく続くとすれば、 地方圏におけるこれら産業の活躍の場は、一段と広がっていく可能性が高い。

 そうしたなかで、人口移動に大きな変化が生じていることも、地方経済にとって追い風である。 第4図は、都市圏・地方圏間の人口移動の推移を示したものであるが、これにみる通り、これまで一貫して続いていた地方圏から都市圏への人口流出は、94年を境に逆転している。 サービス業や商業が地方圏で順調に育つなかで、地方圏への人口流入が進んでいることを踏まえると、地方経済が今後もベースとして底上げされていく素地は、着実に整い始めているとみてよいように思われる。

 このようにみてくると、この先、地方経済への期待はますます高まっていくことになりそうだ。 政策サイドに対しても、地方経済の活性化に資する施策が従来以上に求められることとなろうが、 その際、とりわけ重要な視点は、地方経済の“自立化”をいかに促すか、ということにあるように思われる。 従来、地方経済の振興策は、得てして国からの補助金に頼った、全国一律の画一的な施策が多かったことは否めない。 もちろん、こうした政策は、インフラや行政サービスの著しい地域間格差を是正し、そのレベルを全国的に底上げしていくという意味では有効である。 しかしながら、ユーザーニーズが地域毎に多様化しているいま、むしろ地域特性に応じたきめ細かな支援体制を確立することによって、 地方企業や地域住民の選択の幅を広げることが不可欠となってきているように思われる。 地域活性化策の企画・立案に係わる権限や、その執行のための財源を地方自治体に委譲していくことは、 それを実現するうえで、避けては通れない課題であるといえよう。

 折しも、この6月には、地方分権推進委員会により地方分権に係わる勧告が出される予定であるほか、 これを受ける形で政府は、年度末にかけて地方分権推進計画を策定する運びとなっている。 地方経済の“自立化”は、わが国経済活性化のひとつの大きな鍵を握っているだけに、 実効性の伴った指針を打ち出せるかどうか、大いに注目される。

 
(5月15日 久保田)