平成13年(2001年) 10月5日 NO.17  

中国の不良債権処理と国有企業改革

1.スムーズな進展は難しい不良債権処理
 
2.依然改革を要する国有企業
 
3.中国成長モデルの課題
 


 ITバブルの崩壊に伴い、世界的に景気後退が深刻化するなか、中国では堅調な景気拡大が続いている。周辺諸国に比べ、輸出の落ち込みは限定的であるのに加え、内需が順調に拡大した結果、2001年前半も実質GDP成長率は7.9%という高率の伸びを維持した。これに対して、国際分業のなかで「中国一人勝ち」と喧伝する向きも増えている。しかし、中国経済は必ずしも磐石ではない。なかでも銀行の不良債権問題とその背後にある国有企業の非効率性は、WTO加盟に伴う市場開放により競争激化が予想されるなかで、早急に対応を要 する課題として残されている。そこで、以下では、不良債権処理の現状について概観していきたい。

1.スムーズな進展は難しい不良債権処理

 97年以降の金融・経済危機において、アジア諸国では通貨暴落により外貨建債務の返済負担が大きく膨らむとともに急激に景気悪化が進んだことから不良債権が拡大し、それが国際信認の低下に伴う資本流出を加速させ、危機増幅に結び付いた。これに対し、中国は厳しい資本規制と短期債務が少ないという対外債務構造により急激な資本流出に直面することはなかった。しかし、アジア危機の教訓として、当局が不良債権問題は決して看過できない問題であり、早期処理が必要であることを強く認識した点では他のアジア諸国と共通していた。

 (1)中国の不良債権発生の経緯
 中国の不良債権は三段階で積み上がったといわれる。
 まず第一段階として、79年以降、統制経済から市場経済への移行が進められたにもかかわらず、金融システムの中核を担う四大国有銀行が国家の指導に従い国有企業に採算を度外視した融資、いわゆる政策融資を余儀なくされてきた結果として蓄積されていったものがある。
 第二段階として、92〜94年の景気過熱期の過剰融資によるものが加わった。この時期、中国全土で空前の開発・外資誘致ブームが発生し、正規ルート以外からも大量の資金を調達しての過剰投資が行われた。アジア危機に先立ってこうした金融面の混乱が顕在化したことから、政府は、金融改革に本腰を入れ、94年に政策融資専門銀行を設立、95年に商業銀行法を公布、四大国有銀行は収益性と安全性に則った商業融資に特化させることとした。しかし、こうした制度変更で一朝一夕に四大国有銀行の慣行や収益が改善するはずもなかった。
 第三段階として、95年以降、引き締め政策の浸透により、景気が急激に後退するなかで、不良債権はさらに拡大していった。アジア危機後、アジア各国の不良債権問題に焦点があたるなかで、人民銀行(中央銀行)総裁が公表した不良債権比率は97年末で25%という高水準に達していた。

 (2)簿価買取りによる不良債権処理
 政府は、米国の整理信託公社(RTC)などを参考にして、99年に四大国有銀行の銀行毎に資産管理公司(AMC)と呼ばれる処理機構を設立し、これを通じた不良債権処理に乗り出した。AMCは、人民銀行からの借入れと金融債の発行により調達した資金で、四大銀行の不良債権を簿価で買取り、回収にあたることとなっている。なお、買取対象となる債権は95年以前の政策融資に基づき発生したものに限られる。これは、95年7月公布の商業銀行法により、それ以降、商業銀行は政策融資を担うことはなく、自らの判断に基づいて融資を行った以上、不良化した責任は各銀行でとるべきであるという認識に基づいている。
 中国における不良債権処理スキームの問題点は少なからず指摘されているが、その一つがこの簿価による買取である。債権が不良化した以上、その実質的価値は劣化しているはずであるにもかかわらず、簿価で買取ったことにより額面に対する回収率はかなり低いものとならざるを得ず、その差額をどこが負担するのかという問題が生じる。
 政府が簿価による債権移転を決定した以上、最終的な負担は財政が負うことを意味しているものと一般に解釈されているようである。このため、今後も債務移管による負担軽減を期待するモラルハザードの広がりを危惧する向きは少なくない。
 ここでこれまでの回収実績を確認しておく。AMC は2000年末までに四大銀行全体で不良債権1.4兆元を買い取った。そのうち2000年末までに抵当物の売却、競売、裁判による執行、金利減免による返済など伝統的な手法で全体の6%にあたる895億元が処理された(第1表)。額面に対する回収額の比率は信達資産管理公司(中国建設銀行系)で33%、華融資産管理公司(中国工商銀行系)で42%と、米国のRTCの場合でも40%に満たなかったのに比べ、さほど低くない。しかし、処理しやすい案件から始まっていることを考慮すれば今後回収率が一層低下していくことは避けられない。

 (3)債務株式化にも難題
 政府は主要な不良債権処理方法として「債務株式化」の活用を図っているが、このスキームも少なからず問題を孕んでいる。この手順は、まず、経済貿易委員会が、@製品が優秀で販路がある、A設備が国際水準に適合し環境も害さない、B経営管理がうまく行われ財務会計も透明、C経営者が有能、D現代企業制度の要求を満たしリストラも実行されている――という条件に適合した企業をAMCに推薦する(第1図)。それを受けて、AMCも独自の審査を行い、債務株式転換プランを定め、企業と協議案を締結する。これを、経済貿易委員会が財政部、人民銀行と合同で審査し、国務院の承認後、実施される。AMCが株主として企業改革を促し、業績が改善すれば、株式の売却により、AMCは資金を回収できるという仕組みである。
 しかし、そもそも経済貿易委員会の条件に合致するような優良な企業ならば返済不能に陥るとは考えにくいだけに、株式転換企業の業績が容易に改善し、株式売却が可能になるとは予想し難い。事実、このスキームに沿った回収の難しさはすでに明らかになりつつある。
 経済貿易委員会はすでに601社について株式転換を推薦しており、その債務額は4,597億元とAMC移管額全体の3分の1にのぼる。2000年末までに、そのうち587社、3,409億元について企業とAMCの間の協議案の調印が終わったと報じられている。この段階で、企業の利払いは停止される。ただし、AMCが株式を取得するに至っているのは10社程度と遅れているといわれている。
 その原因は、第一に旧経営陣の抵抗がある。債務の株式転換を単なる国家政策による形式的なものと認識し、AMCの株主としての影響力行使を極力回避しようとしているといわれる。早期に経営再建を果たし、資金回収を図りたいAMCと既得権益を保持しようとする旧経営陣の利害は大きく異なり、社長任命、給与体系、リストラなど多様な面で対立は避け難い。AMCが、株式転換した債務を投資家向けに販売できなかった際の損失を回避するため、対象企業に株式買い戻しを保証するよう要求しているのに対し、企業が難色を示していることも一因といわれている。
 第二に、株式会社化の前提として、正確な資産評価に基づくバランスシート作成が不可欠であるが、赤字額の過小評価や偶発債務の未計上など、企業情報に信頼度の低いものが多く、AMCが企業の実態を把握するのが容易でないことがある。
 さらに、地方政府の介入を指摘する向きもある。地方政府は、企業に対する影響力を保持する意図で、AMCの持ち株比率を下げるため企業の総資産を高く評価させるべく圧力をかけているというのである。この背景には、AMC主導での雇用削減など抜本的なリストラが急激に進展するのに伴い、地域経済へ悪影響が及ぶことを懸念していることが考えられる。
 むろん、株式会社化が実現し、AMCが主要株主になったとしても、既存経営陣、地方政府の抵抗が激しいうえ、AMCに整理・統合を通じて不良資産の市場価値を高める投資銀行的なノウハウを発揮することは期待できないことから、スムーズな経営改善に結び付くか疑問視する向きも多い。

 (4)海外投資家の参入への期待
 AMCでは処理にあたって、海外のノウハウを利用する方向を模索しており、なかでも、その切り札として注目されるのが、内外投資家向けの公開入札である。華融資産管理公司は、国内外の投資家を対象に331企業、債権額149億元の公開入札に乗り出した。業種は不動産、電子、化学、紡績、運輸、商業など多岐にわたり、地域的にも北京、上海など4直轄市、四川、広東など12省に及ぶ。同公司は、6月にすでにニューヨーク、ロンドンで国際入札への投資説明会を行い、8月中に申し込み、入札は10月を予定している。また、長城資産管理公司(中国農業銀行系)も、エネルギー、通信、石油化学など19業種、30省・自治区に及ぶ投資物件の売却に向けて内外の投資家への公開を行ったと報道されている。信達資産管理公司も公開入札を検討中とのことである。
 海外投資家が経営に参加してくれば、資本増強のみならず、経営ノウハウの吸収、コーポレート・ガバナンスの確立など、中国企業にとって得るものは大きいと期待される。しかし、海外投資家からは額面の10%程度の価格が妥当と考えられており、30%を期待するAMC側と乖離が大きい。また、海外投資家には、経営権の行使や配当送金の面での規制を危惧する向きもある。98年の広東国際信託投資公司(GITIC)破綻を始めとしたノンバンクの経営不振で海外投資家が大きな被害を被った経験から、投資に必要な経営情報開示や海外投資家の権益保護の面での不信も根強く残っている。国有企業不振という現在の難局を踏まえて、政府がどこまで対外開放と体制整備を進め、海外投資家の不安を払拭するのかが鍵を握ろう。

2.依然改革を要する国有企業
 

 (1)移管後も高い不良債権比率
 1.4兆元という巨額の不良資産をAMCに移管したことで不良債権問題は一応の一次的処理がなされた。AMCによる回収にはさほど多くを期待できず、かなりの部分を財政で処理せざるを得ないにしても、財政赤字が相対的に小さい中国経済の安定成長が続くのであれば、その負担の重みは次第に軽減されていく。
 むろん、それは不良債権が再度拡大しないことが大前提である。ところが、いわば財政肩代わりの不良債権処理スキームの結果、モラルハザードによる再度の不良債権拡大のリスクは否定できない。人民銀行の調査では、四大国有商業銀行に交通銀行を加えた5行に口座を持つ再建中の企業62,656社のうち、2000年末時点で32,140社が金融面での操作により債務返済を免れ、その額は1,851億元にものぼった。このうち、企業数、金額とも7割は国有企業が占めている。こうした債務不履行のなかには、違法な破産や裁判所への干渉などの例も目立つという。こうした現状を踏まえ、人民銀行は、今後、銀行債務返済の不履行に対し取り締まりを強化すると発表しているが、実効性は不透明である。
 こうした債務不履行もあり、銀行の不良債権比率は未だ高い。2001年初頭の人民銀行総裁の発言によれば、四大国有商業銀行の不良債権移管により約10%ポイント低下したものの、依然として25%であった。
 しかし、この不良債権比率さえ過小評価の可能性が高く、国際基準に基づけば、40〜50%とみる向きも多い。すでに、中国では、98年に債権の分類法を国際基準に沿ったものに変更済で、当局はこれに基づく不良債権を公表するよう銀行に指導している(第2表)。しかし、これに従っているのは、四大国有商業銀行のなかでは最も健全であると考えられている中国銀行だけとみられており、同行が年報において公表した2000年の不良債権比率は28.78%であった。
 人民銀行も実態を把握しているようで、四大国有銀行に対し、新分類に基づく不良債権比率を2002年末までに30%に引き下げるよう指示している。四大国有銀行は、2001年6月末には前年末に比べ1.71〜2.87%ポイント低下したと発表しているが、中国銀行を除けば、水準は未公表である。

 (2)改革の余地が大きい国有企業
 依然高い不良債権比率の背景には、国有商業銀行は商業金融に特化するよう銀行改革が進められているにもかかわらず、審査能力の問題もあり、有望な融資先を開拓できず、国有企業のうち効率化が進んでいない先へも融資が続いていることがあろう。同時に、主な借り手である国有企業の業績が大きく改善していないことも示唆していよう。
 経済貿易委員会の盛華仁主任は、2001年1月の記者会見で、「97年には赤字の国有大中型企業は6,599社にのぼったが、2000年11月までにその67%にあたる4,391社は赤字を解消した。国有企業の利益総額は97年の806億元から2000年には2,300億元に達する見込みである」と国有企業改革の成功を宣言したが、そこには政策的支援や特殊要因の寄与が大きかった。98年以降、政府は、大規模な国債増発により積極財政政策で景気拡大を促し、企業の経営環境を大きく改善させるとともに、不良債権処理にあたって、債務の株式転換を主軸に据え、国有企業の利払い負担を2000年には200億元も軽減した。これに、石油価格高騰により石油関連企業が大幅増益し、922億元もの利益を計上したという予想外の好影響も加わった。
 こうした現実を踏まえ、6月に新華社は、関係部門の分析として「国有企業の利益増加の48%はマクロ経済環境の改善により、23%は政府の国有企業黒字化政策の効果であり、企業自体の経営努力、管理強化の貢献度は29%にすぎない」と依然、改革の余地が大きいことを報じている。

3.中国成長モデルの課題
 
 世界経済と、その国際分業における中国のプレゼンスが拡大していることは事実であるが、中国側からみれば、「中国一人勝ち」を謳歌しているという状況では必ずしもない。
 世界的な景気後退の影響下でも輸出は2001年1〜7月で前年比8.4%と底堅く伸びているが、輸出の牽引役である外資系企業は15.5%と高い伸びを維持する一方で、国有企業は▲2.6%と不冴えである。
 また、ごく一部の地場メーカーは、家電、バイクなどで、中国市場のみならず、アジア、欧米、中南米などでもシェアを拡大している。しかし、WTO加盟に伴う市場開放によって成長していく産業や企業群と立ち遅れた産業、企業群との格差や、国内の地域格差がさらに拡大していくことは一定程度、避け難い。
 こうした現実を踏まえれば、今日の「中国一人勝ち」論は、80年代に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」として日本モデルを賞賛したのと変らない危うさがある。中国の急成長の背景には、低コストの労働力とともに大胆な投資による生産拡大路線があるが、それを可能とした一因として、損失は最終的に政府にカバーしてもらうことができるというリスク意識の希薄さがあった面は否定できない。その損失の累積が今日、不良債権として顕在化しているのである。確かに、政府の思惑通り、不良債権の経済への負担はキャッチアップに向かう高度成長の過程で軽減させることが可能である。ただし、それはあくまでも不良債権を現水準で抑えることができればのことである。しかし、今回の不良債権処理スキームでは必ずしも十分には非効率が是正されず、また過剰投資にも歯止めがかからない惧れや、国際競争激化のなかでこれまで成長を牽引してきた産業・企業の成長力が低下する可能性もある。
 中国の強さが脚光を浴びる一方で、その課題を端的に示す不良債権と国有企業問題を中国政府の今後の努力とともに引続き冷静かつ正確に把握しておく必要があろう。

(9月25日 萩原陽子)