平成13年(2001年) 5月22日 NO.12  

中国株式市場の活況とそのリスク

1. 中国の株式市場の発展の経緯と現状
 
2.株式制発展の背景
 
3.株式市場が孕むリスク
 
4.今後の改革の方向性
 


 昨年9月以降、米国株価の下落トレンドの影響で、アジア各国でも大幅に株価が下落するなか、中国の株価は史上最高値圏での推移を続けた(第1図)。以下では、中国の株式市場が活況を続けている背景とそれが孕むリスクについてまとめた。

1.中国の株式市場の発展の経緯と現状

 中国では、90年12月に上海、91年7月に深センで、証券取引所が開設された。以来、市場規模拡大が続き、株式時価総額は2001年3月末には上海市場3,541億ドル、深セン市場2,609億ドルに達している。両市場合わせると、香港市場を上回り、日本に次ぐアジア第二の市場規模となる(第1表)。さらに、1日当り取引高をみると、2001年1〜4月平均では上海市場が1.4億ドル、深セン市場が1.1億ドルと、各々単独で、香港市場並に達している。なお、国内投資家向けのA株と外国投資家向けのB株に分かれるが、時価総額でも取引高でも圧倒的にA株の方が大きい。
 国内投資家向けであるA株の株価は、93年から95年にかけては引き締め政策の下で低迷したが、96年以降の金利低下局面には回復に転じ、特に、昨年来、高騰している(第2図)。これは、99年秋以降、保険会社の株式投資解禁、投資ファンド認可拡大、証券会社に対する株担保融資解禁、などの株式市場活性化策に加え、景気対策としての消費振興と両睨みで導入された預金利子に対する20%課税の導入が好影響を与えたものとみられる。預金利子課税導入に伴い、第3図のとおり、定期預金残高は伸び悩む一方、株式に対する投資額の残高は増加したものと推定される。投資家の保有資産における株へのシフトを直接示す統計はないが、調達サイドからみると、A株発行による資金調達額は増資も含め、2000年には1,498億元(181億ドル)と前年比71.2%の大幅増加となっている。
 一方、外国投資家向けであるB株はごく最近まで低迷を続けた。外国投資家は主として香港市場において中国関連株の投資が可能であることから、あえて未整備な中国市場に参入する必然性に乏しかったためである。90年代に入って、香港株式市場に、中国関連企業が、子会社上場ないしは香港上場企業の買収という形で参加するケースが増えた(レッドチップと呼ばれる)。そのうえ、93年7月以降、中国企業自体の香港上場(H株と呼ばれる)も開始された。さらに、ニューヨーク、シンガポール、ロンドンなど世界の主要市場にも中国株が上場されているのである。
 こうした背景から、B株価は低迷を続けてきたが、A株とB株が統合されるとの観測が浮上するたびに上昇してきた。株式に付帯する権利・義務は同じでありながら、ほとんどの銘柄でA株価の方がB株価よりも大幅に高値となっていたことから、本来禁止されているにもかかわらず、国内投資家の投資資金がB株市場に流入したためとみられている。この結果、B株投資家の9割は中国人であるといわれてきた。
 そこで、政府は、2001年2月19日、外国投資家向けのB株を国内投資家も外貨保有者に限り、購入可能と発表した。これは、B株市場活性化策であるとともに、750億ドルに達した個人外貨預金の国外流出を回避し、国内で活用するための策でもあるとみられている。混乱を回避するとして、27日まで取引停止となったが、再開直後にB株価は急騰、足許では2月19日時点に比べ、2倍以上の水準に達している。こうしたB株市場改革は、市民の株式市場に対する関心を一層高める役割を果たし、統計上、2001年2月時点の中国株式市場全体の投資家数は6,000万人を超え、そのうち9割は個人投資家といわれている。

2.株式制発展の背景
 
 社会主義を掲げる中国で株式市場が発展してきた背景には、96年以降の金利低下局面に加え、97年以降、政府が国有企業改革の柱として、株式制を奨励し、株式市場活性化策に尽力したことが大きい。
 第9次5カ年計画(96〜2000年)から、国有企業改革にあたっては、「財産権をはっきりさせ、権限と責任を明確にし、行政と企業を分離し、科学的に管理する」と定義する近代的企業制度の確立が政策目標として明示されていた。次いで、97年の第15回共産党大会(5年に1回開催の最重要会議)では、「株式制は近代的企業の資本組織形態」と位置付けられ、「所有権と経営権の分離、企業と資本の運用効率の引き上げに有利で、資本主義でも社会主義でも使ってよい」という形で、株式制導入に対する認知度は高まった。さらに一歩進んで、第10次5ヵ年計画(2001〜2005年)では、国有大中企業に関して、「上場、外資系企業との合弁、相互資本参加などによる株式制を奨励」するまでに至っている。
 こうした経緯には、80年代半ばから最重要課題として掲げられた国有企業改革が充分な成果をあげ得なかった反省から、コーポレート・ガバナンスを確立するためのツールとして株式制活用を考慮せざるをなかったという事情が窺える。
 加えて、近づくWTO加盟に対応すべく競争力強化が急務であり、そのためには設備更新・技術開発のための資金が必要である。にもかかわらず、財政資金は景気対策や不良債権問題の解決に優先的に充当せざるを得ず、支援する資金余力は乏しいことから、資金源を株式市場に求めざるを得ないという現状認識も前提となっていよう。

3.株式市場が孕むリスク
 
 しかし、政府の活性化策が奏効して活況を呈している株式市場は、設立して十余年と短いだけに、企業も、投資家も株式市場に対する理解度は低く、依然として大きな課題を抱えた、リスクの高い市場となっている。

(1)市場の信頼性・透明性の欠如

 まず、市場の信頼性・透明性に疑義が生じている。企業業績の虚偽申告、株価操作、インサイダー取引などの違法行為もあり、中国人エコノミストから「中国の株式市場は、とばく場よりひどい」という発言まで出て、大論争が巻き起こっている。
 こうした状況に対し、証券監督管理委員会は、警察と共同で上場企業を捜査する機関を新設したり、来年から決算開示を現行の年2回から四半期毎に改めるなどの対策を導入している。さらに、2001年4月、4年連続で赤字を計上していた上海の家電メーカーを初の上場廃止にした。この他に3年以上連続して赤字を計上している企業が20社程度あるが、上場廃止には、地方政府の抵抗が強く、順調に進むかは予断を許さない。
 また、中国人の権利意識の高まりを背景に、業績の虚偽申告によって損失を被ったとして株主訴訟を起こすケースも出始めた。これを受けて、当局は早ければ来年にも、株主代表訴訟制度を明文化する意向を示している。そうなれば、同制度が定着し、これまで以上に訴訟が増加するのは必至といわれる。国有企業が新たな資金調達源として株式市場を活用するなかで、国有企業が効率的な経営で株主に報いない限り、訴訟に発展することが、経営陣のモラール向上につながれば好都合であるが、訴訟が増え、その対応で企業が弱体化する恐れもある。

(2)投資スタンスの未成熟さ

 また、投資家の成熟の遅れから、株価形成は合理性を欠き、ボラティリティの高い不安定な市場となっている。機関投資家の育成が遅れ、個人投資家は企業のファンダメンタルズよりも、風評に反応して、株を売買しているといわれている。
 これに対し、政府は、機関投資家育成のため、投資ファンドの認可を増やしたり、保険会社による株式投資の限度額を増加させたりという策を講じている。しかし、投資ファンド10社が大規模な株価操作を行い、株式市場の混乱の元凶となっているという疑惑が報道されるなど、政府の期待通りの効果をあげているとは考えにくく、むしろ新たな利権の温床になっている可能性も否定できない。健全な機関投資家育成への道のりは遠いようにみえる。
 また、個人投資家の投資スタンスが成熟を欠く背景には、そもそも、これまで長期投資に値する、長期に渡って利益をあげる企業がなかったという指摘もある。これには、政府の責任も大きい。上場企業の選定は、企業のファンダメンタルズではなく、地方政府との関係の強さによって決定された。また、国家にとって最重要な企業は、政府の決定権の低下を懸念して、最近まで上場されなかった。

(3)株式制奨励で需給バランスが崩れるリスク拡大

 このように、市場の透明性の欠如、投資家の市場への理解不足という問題を抱えたまま、第10次5カ年計画でも、株式制奨励が全面に押し出されるなか、資本増強のため、上場を志向する企業は一層増えていくことで、市場の需給バランスが崩れる可能性は高まる。
 また、昨年、海外上場を通じて、大型資金調達を果たした大手国有企業が本年は国内での資金調達にシフトする可能性もある。2000年にはこうした大型上場を中心に、中国企業全体が海外から調達した資金は215億ドルにのぼった。しかし、最近では海外の株式市況は総じて不冴えで、本年も大量の中国株が投資家に受け入れられるとは考えにくい。2000〜2001年初頭に海外上場を果たした石油関連3社、通信関連2社の2000年の業績は好調で、前年比2〜4倍と収益を伸ばした(第2表)。にもかかわらず、海外株式市場の市況低迷下で、これら企業の株価は足許では公募価格を下回っているものもある(第4図)。こうした状況下、宝山鋼鉄が上場延期に追い込まれたうえ、チャイナ・テレコム、中国銀行も本年の終わり頃まで海外での上場の実現は難しそうな状況である。
 一方、中国内では株価が高水準で推移するなか、宝山鋼鉄は、2000年12月の上海A株市場上場により、77億元(約9.3億ドル)と中国では過去最大の額を調達した。株価も公募価格を大幅に上回る水準を維持している。こうした国内外の株式市況の相違を反映して、昨年、海外で資金調達を行ったSINOPEC、チャイナ・モバイル、チャイナ・ユニコムなどは、業容拡大のための旺盛な資金需要を満たすべく国内の上場を計画している。こうした企業は、国家の基幹企業として、様々な面での政府支援が期待できることもあり、当面は、投資意欲を喚起しようが、上場ラッシュが続けば、相場下落につながる可能性もあり、注視しなければなるまい。

4.今後の改革の方向性
 
 政府は、今後の改革の方向性として、既存の上海・深セン両市場を統合して、上海に一本化し、深センには中国版ナスダックともいえる、ハイテク産業育成を主眼とした中小企業、新興企業向けの第二市場「創業市場」を創設するという改革構想をもっている。
 ただし、当初、昨年秋に予定されていた「創業市場」開設は大幅に遅れている。米国を中心に世界的にハイテク企業株の株価低迷が目立っているだけに、政府としては、需給バランスを崩す恐れのある新市場の創設を警戒していることも、その一因とみられている。すでに、数百社のハイテク企業が上場準備を進めているといわれ、そうした企業からは不満が表明されている。
 一方、深セン証券取引所側は、第二市場の効率的運営には現行の市場が不可欠だとして、市場統合に難色を示し、「統合準備のため、新規上場を停止すべきである」との上海からの要請も拒否している。
 市場効率化のために、世界的に市場統合が進んでいる時代であることを考慮すれば、両市場の統合は重要な改革ポイントであろう。ただ、統合以前に、市場としての基本的要件である信頼性、透明性が確保されることが重要と考えられ、市場の管理・監督を強化し、市場に対する疑惑を徹底的に排除する必要がある。仮に、現市場を統一するのであれば、その段階で非効率な上場企業を排し、投資適格企業に絞る、という抜本的な改革も望まれよう。
 すでに、中国株のPERは60倍という高水準に達し(日経PERは約33倍)、バブル崩壊を危惧する声もある。これほど未整備な市場で株価が高水準にあるのは、中国の個人投資家は海外に投資できないという理由もあるが、それ以上に個別企業業績よりも政府の株価てこ入れ策を期待しているためと考えられる。それだけに、株価が暴落すれば、投資家の不満は政府に向かい、社会不安に結びつく可能性もある。
 市場が未成熟なまま、ある意味でバブルを助長するような株価てこ入れ策の効果で株価が高値を続けることは、リスクの増幅に他ならないという危機感をもって市場整備を進め、外国投資家も安心して投資できる市場に改革することが急務であろう。

(5.8 萩原 陽子)