平成13年(2001年) 3月30日 NO.10  

米国における個人消費の動向
〜株価下落のリスクを考える〜

1. 個人消費に影響を与える要因とその影響度
 
2.金融資産要因の個人消費押し上げ効果
 
3.株価下落による逆資産効果のインパクト
 


 長期にわたる成長を続けてきた米国経済が減速しつつある。しかも、予想を上回るペースでの減速となっており、米国経済の先行きについては不透明感がいっそう増している。
 その米国経済が、今後、リセッション入りを回避し、また年後半に持ち直すことができるのか、それを見極める最大のポイントが個人消費の動向であろう。それは、個人消費がGDPの7割を占める最大の需要項目であることに加えて、90年代後半以降の高い成長の多くの部分を支えてきたのが個人消費であったからである。今後の米国経済を展望するとき、このような個人消費の下支えが外れてしまうことはリセッション入りの可能性を高めることになるし、少なくともリスクシナリオとしては考慮しておくべきものであろう。
 そこで、本稿では、今後の米国経済の動向を見極めるために、これまで個人消費を支えてきた要因を明らかにし、なかでも株価上昇による資産効果について検討することで、個人消費の動向を展望してみた。

1.個人消費に影響を与える要因とその影響度

 まず、実質個人消費に影響を与える要因として、所得、価格、金利、消費者信頼感、不動産資産、金融資産の6つの要因を想定し、回帰分析によって個人消費成長の要因分解を行った(第1図)。

 個人消費推計式(対数形)
  実質個人消費=0.75+0.80*(所得要因)−0.84*(価格要因)−0.11*(金利要因)
                (14.52)         (−12.26)       (−6.73)
  +0.02*(消費者信頼感要因)+0.04*(不動産資産要因)+0.08*(金融資産要因)
     (4.66)               (2.49)            (9.14)
  R*R=0.999、標本数108、( )内はt値。
  推計期間:74/Q1〜2000/Q4。
  変数は以下の通り。
    ・所得要因:名目可処分所得
    ・価格要因:個人消費デフレーター
    ・金利要因:消費者ローン金利(自動車を除く財・サービス消費向けの
     商業銀行24ヵ月貸出金利)
    ・消費者信頼感要因:消費者信頼感指数
    ・不動産資産、および金融資産要因:資産価格変動のみを
     反映した資産残高(注)
(注)消費性向へ影響を与える消費者心理の変化原因が、資産状況となっているものを「資産要因」としているが、資産の種類によりその影響の大きさは異なると考えるのが妥当であろう。本稿では、この点を考慮し、不動産価格の変動によるもの(「不動産資産要因」)と、金融資産価格の変動によるもの(「金融資産要因」)とに、資産要因を分割した。また、資産残高は、資産価格の上昇だけでなく、資産の買い増しによっても増加するが、資産の買い増しは消費されずに残った部分を資産で運用しているに過ぎず、これが消費押し上げ効果を持つわけではなかろう。したがって、本稿では、1959年末の資産残高をベンチマークとして、それ以降は各四半期ごとにその期の資産価格変動による資産の増加分(以下、資産の増価額)を加えた系列を作成し、資産要因の代理変数とした。

 以上の推計結果をもとにすると、個人消費は、所得と価格要因でその多くを説明できることになる。消費は何よりもまず、配分できるパイの大きさによって決まるということであり、受け入れやすい結果であろう。一方、不動産要因と金融資産要因をあわせた資産要因も、かなりの影響力を持っている。
 74年以降の年平均で見ると、所得要因が6.1%、不動産と金融資産を合わせた資産要因が1.1%ほど消費を押し上げた他、物価の上昇が3.9%消費を押し下げ、その他の要因(金利要因▲0.1%、消費者信頼感要因+0.1%)を加えて、結果として実質個人消費の伸びは+3.2%となっている(第1表)。
 一方、95年以降2000年第3四半期までの間の状況を90年代前半と比較してみると、個人消費全体の伸びは、期間中の四半期平均で、前期比年率+2.5%から同+4.2%へと大きく高まっている。これは価格要因の押し下げ幅が縮小した(このことは95年以降の物価が安定していたことを示している)ことともあるが、それ以上に、金融資産要因の寄与度が0.5から1.1%へ0.6%高まり、不動産要因も同様に0.3%高まった資産要因の影響が大きい。なお、99年以降の大幅な利上げ局面が重なったことなどから、金利要因は同期間にマイナスの寄与に転じた。

2.金融資産要因の個人消費押し上げ効果
 
 金融資産要因は、95年以降の四半期平均で1.1%(年率換算)、実質個人消費を押し上げてきたことは前述したが、金融資産価格の変動は他の要因と比べて大きいため、四半期ごとにみると、個人消費成長への寄与度の振れは大きくなっている(第2図)。例えば99年第4四半期には前年比+2.6%もの押し上げ要因となったが、ロシア危機の発生した98年第3四半期には同0.3%の押し上げにとどまっている。
 ただ、金融資産要因の個人消費成長への寄与は振れを伴いながらも、95年以降は一貫して個人消費を押し上げてきた。このことは、所得の伸びを上回る個人消費の急拡大を実現した要因の一つが、金融資産の増価による消費性向の上昇であったことを示しているといえよう。一方、2000年第4四半期には金融資産要因は95年以降初めてマイナスの寄与に転じている。このため、逆資産効果による個人消費の押し下げがどれほどのインパクトを持ってくるのかという点が、今後の個人消費動向を見極める大きなポイントとなってこよう。
 なお、金融資産のなかには、株式直接保有分、ミューチュアルファンド、年金といった株式関連資産の他、保険や債券も含めているが、金融資産増価額を資産ごとに分解すると、そのほとんどを株式関連資産が占めている(第3図)。一般に、株価が低下する局面では債券価格は上昇し、株式関連資産の目減り分のいくらかは債券値上がり益で相殺されると考えられているが、実際にはこのようになっていない。これは、家計の債券保有額が株式関連資産の保有額に比べて少なく、また株式関連資産価格の変動と比べて債券価格の変動が小さいためであると考えられる。そのため、金融資産価格上昇による個人消費の押し上げ効果は、そのほとんどが株価上昇による株式関連資産の増価によってもたらされたと考えてよかろう。

3.株価下落による逆資産効果のインパクト
 
 2001年通年の実質個人消費については、実質可処分所得は減速しながらも前年比2%程度の伸びを維持、消費者ローン金利は政策金利の下げ幅を完全に反映する水準まで低下し、足許で低下している消費者信頼感指数や株価(S&P500ベース)も、減税への期待などもあり年後半には持ち直してくるという前提条件を想定し、前年比2%強の成長が見込まれる。
 ただ、2001年の株価(S&P500ベース)が、2000年平均値である1427ポイントから35%以上下落し、920ポイントを下回る水準で平均的に推移するような場合には、逆資産効果による個人消費の押し下げ幅が3%程度となり、実質個人消費がマイナス成長に陥るという試算結果となる(注)。仮にPER(株価収益率)が一定に保たれるように株価が調整されるとするならば、35%の株価下落は、一株当り収益の35%の減少を反映することになる。2月以降もハイテク企業を中心に業績予想の下方修正が相次いでおり、企業収益の落ち込み懸念は増しているが、過去の例でいえば年間平均で35%もの大幅な落ち込みはないとみてよかろう(第4図)。また、PERについても、1、2月は25倍程度で推移しており、95年以降の上昇を考慮すればこの水準で推移するという仮定は無理のあるものではない。このため、逆資産効果による個人消費の押し下げは、年ベースで均してみればマイナスにまで落ち込むとの可能性はかなり低いとみてよかろう。
(注)金融資産残高とS&P500ベースでみた株価の変動が完全に一致していると仮定すると、消費関数の推計結果から、S&P500ベースでみた株価が1%変動するごとに、実質個人消費は0.08%変動することとなる。

 一方、四半期ベースでの逆資産効果のインパクトはかなり大きなものとなる可能性がある。S&Pベースの株価は、3月に入り1200ポイントを割り込み、1100ポイント近辺の水準まで低下しており、足許までの実績(3月16日時点)から第1四半期の株価平均は1265〜1280ポイント程度となりそうであり(残り10日間の平均が1100〜1200ポイントの間で推移することを想定)、2000年第4四半期比7%程度の下落となる。これは、推計結果からは年率2%程度の個人消費の押し下げ要因となる。他方、1月の実質個人消費は前月比+0.2%となっているため、2、3月の個人消費が前月比横這いで推移しても、第1四半期の実質個人消費は前期比年率1.4%の成長が達成可能である。このように、第1四半期の個人消費がマイナス成長となる事態は避けられる模様だが、2000年第4四半期の同+2.8%からは大きく低下してしまうことになろう。そうなれば、第2四半期は低い水準からの出発となるため、株価の下落が止らないようであれば、四半期ベースでは実質個人消費がマイナス成長となるリスクが高まろう。
 また、逆資産効果については、その効果の表われ方に注意する必要があろう。2000年第4四半期に、株価は前期の1475.5ポイントから1365.4(いずれも四半期平均のS&P500ベースでみた株価)へと7.5%下落し、この間金融資産要因は前期比6.6%の減少となったため、推計結果からは実質個人消費に年率2.1%の押し下げ圧力が働いていたことになるが、現実には第4四半期の貯蓄率は依然マイナスのままで推移し、個人消費の実績値は推計値を大きく上回っていることから、それほどの逆資産効果は働いていない様にみえる。これは、消費の歯止め効果(注)などにより、逆資産効果が完全なかたちで表れていないことが考えられる。短期的には、このような解釈も妥当であろうが、この歯止め効果については持続性の点で多くは期待できないであろう。それは、株価をはじめとする金融資産価格の上昇がないなかで、正味資産の減少を招くマイナスの貯蓄をいつまでも持続できるとは想定し難いからである。したがって、現在までのところ、株価下落に伴う逆資産効果と同時に消費の歯止め効果が効いているために、逆資産効果による個人消費の押し下げは限定的なものにとどまっているという可能性が高く、歯止め効果が徐々に薄れてくるとみられる今後は、逆資産効果がいっそうはっきりとしたかたちで顕在化してくる危険性がある。
(注)消費の歯止め効果とは、一般に、一度経験した支出をすぐに切りつめることは難しいため、所得が減少した場合にも比例的に消費支出を減少させることはなく、結果として消費の減少に歯止めが  かけられることを言う。同様に、株価下落により家計の金融資産残高が減少した場合にも、すぐに比例的に消費を減少させることにはならないと考えられる。

 以上のことから、株価下落に伴う逆資産効果は2001年を通じて避けられず、特に年前半はリスク要因となるであろうが、2001年通年で実質個人消費をマイナス成長とするほどではないとみられる。ただ、「株価下落→個人消費の鈍化→企業売上・収益の悪化→株価下落」という悪循環に陥るようであれば、株式投資へのコンフィデンスも冷え、企業収益の落ち込み度合いを上回る株価の下落がもたらされる(すなわちPERが低下する)リスクがある。その場合には、長期の個人消費の低迷、景気低迷といった状況も現実味を帯びてくることになろう。

(3月19日 石丸 康宏)