平成13年(2001年) 3月27日 NO.9  

ブラジル財政の現状と課題

1.8四半期連続のIMF合意目標達成
 
2.「財政安定化計画」の進展
 
3.地方債務の再編
 
4.今後の展望
 


 ブラジル中銀の発表によれば、2000年の利払い前財政収支は過去最高額の382億レアル(GDP比3.54%)の黒字となった。また、99年以降は、連邦・地方・公営企業の政府3部門全てにおいて利払い前収支の黒字化が実現した点も注目される(第1図)。これらは、過去数年にわたる政府の財政再建に向けた努力、とりわけ99年1月のレアル変動相場制移行後の通貨信任回復に向けたIMF監視下での「財政安定化計画」の成果である。ただし、中期的な財政改善に不可欠な抜本的な構造改革の多くは未だ実現されておらず、IMFプログラムの終了する2002年以降の財政動向には不安材料も残る。そこで、ブラジル財政の現状と今後の展望についてまとめてみた。

1.8四半期連続のIMF合意目標達成
 
 98年10月、ブラジル政府は増税・歳出削減策・抜本的な財政構造改革を盛り込んだ大規模な3ヵ年計画「財政安定化計画」を発表、2001年の利払い前収支黒字3%(対GDP比)の達成を目標に据えた。これは、当時ロシア危機を契機とした通貨売り圧力の高まりにより、外貨準備枯渇の危機に瀕していたブラジルに対し、IMFが財政赤字削減を支援条件としたためである。IMFとの合意による財政収支四半期目標は、ブラジル政府の既往債務の金利支払い額が金利・為替の変動によって大きく影響を受けることを考慮し、通例の「利払い後収支」ではなく、「利払い前収支」について設定された。その後、2000年第4四半期末までの8四半期にわたり、この利払い前収支目標は順調に達成され、2000年には年間で過去最高額の382億ドル(GDP比3.54%)の黒字を計上した(第1表)。また、99年以降は連邦政府財政(中銀・社会保障基金を含む)・地方政府財政・公営企業会計の3部門全てにおいて利払い前収支の黒字化が達成されている。
 なお「利払い後収支」は、99年には市場安定化のための金利引き上げやレアル相場下落に伴うドルリンク債利払いの増加により、GDP比で▲9.5%まで赤字が拡大した。しかしその後、レアル為替が早期に安定化し、インフレ懸念も後退したため、段階的な金融緩和が可能となった(第2図)。この結果、利払い後収支の赤字幅も2000年には▲4.6%(同)と、96年以来初めて減少に転じた。

2.「財政安定化計画」の進展
 
(1)暫定増税の効果
 こうした過去2年の「利払い前収支」の改善の要因について、「財政安定化計画」の進捗状況と並行してみてゆきたい。まず連邦政府レベルでみると、裁量的支出の削減・人件費の実質ベースでの凍結などによって、歳出のGDP比規模が98年水準(約20%)で保たれた一方、歳入が同期間中にGDP比で約2%増加したことが収支改善につながった。この歳入増加は、原油採掘権収入や「財政安定化計画」の一環として実施された二つの暫定増税策(暫定小切手税(CPMF)の期間延長と税率引き上げ、社会保障拠出金(COFINS)の税率引き上げ)によるところが大きい(第2表)。

(2)財政責任法の成立
 歳出面では、2000年4月に「財政責任法」が成立したことが特筆される。「財政責任法」は、「財政安定化計画」の中核の一つであり、@各政府レベルでの人件費・債務の上限の設定、A新たな歳入源あるいは歳出カットを伴わない新規事業の予算化の禁止、B各政府レベルにおけるバランスシート(2ヵ月毎)、財政報告書(4ヵ月毎)の作成・公表の義務付け、などを定めている。公布は2000年5月だったが、10月に実施された全国市長・市議会委員選挙を前に、過去の慣例であった政治圧力による歳出拡大を防止する上で奏効し、今後も各政府レベルにおける財政規律強化・透明性向上に寄与するものとみられる。また、2000年10月には財政犯罪および刑罰を規定した「財政犯罪法」が公布され、「財政責任法」の実効性が高まると期待される。

(3)困難な年金制度改革
 しかし一方、当初計画に掲げられながら、議会審議が難航している改革も少なくない。その代表が社会保障制度改革と税制改革である。
 社会保障制度改革についてみると、公的年金制度の一方の柱である「民間部門向け制度(INSS)」においては、年金受給資格の厳格化や給付上限額の設定など一定の進展がみられた。しかしもう一方の柱である「公務員年金制度」(政治家・軍人を含む)については、退職公務員からの掛金追加徴収に関する改正案が99年1月に一旦可決されたものの、同年9月に連邦最高裁による違憲判決が下されて以来、結論は出ていない。第3図の通り、公的年金会計は、2000年1〜9月期で215億レアル(GDP比2.7%)の赤字を計上しているが、この大半は「低い保険料・厚い年金支給」によって優遇されている公務員年金制度の赤字である。既得権益擁護の動きに阻まれ、現政権任期中の改正が危ぶまれているが、年金会計赤字は看過できない水準に膨らんでおり、早急な制度改正が望まれる。

(4)遅延する税制改革
 税制改革については、99年11月には下院特別委員会での評決が終了したものの、その後の両院本会議での審議に進展がみられない。税制改革の要点は、連邦・州・市政府がそれぞれ独立して徴収している間接税、および複数存在する社会関連拠出金の統合、である。間接税の統合により、徴税効率の向上、地方政府による投資誘致のための税優遇措置濫用の阻止、が期待できる。また、対売上、対純利益、と幾重にも課税される社会関連拠出金を一本化することにより、企業の納税マインドを向上させるとともに、(納税義務を果たしている)企業負担を軽減したい考えである。この高い企業負担、いわゆる「ブラジルコスト」の軽減については、対外競争力向上の効果も期待されており、今後の議会審議の行方が見守られる。
 2001年末にはIMFとのスタンドバイクレジット契約が終了し、その後のブラジルの自律的な財政運営能力に関心が集まろう。ブラジル政府の目指す持続的な成長を確保するためにも、今こそ責任ある財政運営が強く求められているといえよう。

3.地方債務の再編
 
 次に、地方政府財政の収支改善に注目すると、96年以来の地方債務再編策の効果が大きく寄与している。ブラジルの多くの州・地方自治体では、88年憲法に基づく歳入分与金増大に伴う財政運営の放漫化や、94年以降のドルペッグ政策下での高金利による債務残高の拡大によって財政が破綻し、さらにその債務の大半を州立銀行が抱え込む構造となっていた(注1)。このため、96年、地方財政再建のためのプログラム(注2)が導入され、地方債務再編と州立銀行の整理・機能縮小が同時平行的に進められてきた。この結果、2000年7月までに、地方政府債務総残高2471億レアル(GDP比22.5%)のうち1288億レアルがプログラムの適用を受け、期間30年・実質年利6〜7.5%の対連邦政府債務に切り替えられ、地方政府の債務負担は大きく軽減された。一方、当初35存在した州立銀行は、資本注入等を受けて再建された5行を除き、全てが清算・民営化あるいは預金を扱わない開発公社(Development Agency)化された。
 地方債務の再編過程においては、連邦政府が強いる財政緊縮政策に反発し、99年1月にミナス・ジェライス州知事が州政府債務のモラトリアム宣言を行い、これがレアルの変動相場制移行のきっかけとなったという経緯がある。こうした財政運営方針を巡る連邦−地方政府間の軋轢は現在も解消されていないとみられ、今後の地方財政再建については引き続き注視する必要はある。しかし、その後の債務再編の一層の進展によって、地方政府債務総額の85.1%(2000年7月時点)が対連邦政府債務となり、さらに「財政責任法」の成立ともあいまって、連邦による地方財政に対する統制力は格段に強化されたといえる(第4図)。地方政府の債務負担の軽減分は、事実上国庫負担の増加によって肩代わりされる形となったが、こうした連邦政府の統制力強化・地方財政の透明性向上という観点から、地方債務再編策は高く評価されよう。

(注1)民政移行後に制定された88年憲法では、地方分権化が推進され、地方政府の財政自治権が拡大した。

(注2)暫定法1514号に基づく「州立銀行機能縮小のためのプログラム(PROES)」および法令9496号に基づく地方政府債務のリスケジューリング

4.今後の展望
 
 このように、過去2年間でブラジル財政は大きく好転し、財政構造改革にも一定の進展がみられた。しかし、未だ公的部門純債務/GDP比率を低下させるには十分ではなく、また、暫定増税策や裁量的歳出の大幅削減など、恒久的性格を持ちえない政策に依存している部分が少なからずあったことも否めない(第5図)。これらの政策が、短期間での収支改善・国際信任の回復を通した金利コストの軽減を実現したことは高く評価されるが、今後の本格的な財政再建は「社会保障制度改革」「税制改革」といった残る構造改革の実現如何にかかっている。
 こうした中、2001〜2002年の財政政策は、若干の緩和に転じる模様である。IMFとの合意に基づく2001年の利払い前収支黒字目標も、当初設定された3.35%(GDP比)から3.0%(同)に下方修正され、2002年については2.7%(自主目標、同)と発表された。目標下方修正の根拠は、金利コストの低下が見込めるようになったことで、利払い後収支改善の前提として要請される利払い前収支黒字額も低下したためである(注)。しかし一方、2002年10月に実施される大統領・州知事・上下院議員選挙を前に、これまでほど「財政再建」を強調しづらくなった、という政治要因も指摘されている。このため、残る構造改革法案についても現政権中の成立は難しいとの見方が多くなってきている。
 2001年末にはIMFとのスタンドバイクレジット契約が終了し、その後のブラジルの自律的な財政運営能力に関心が集まろう。ブラジル政府の目指す持続的な成長を確保するためにも、今こそ責任ある財政運営が強く求められているといえよう。

(注)本稿脱稿後の3月21日、米国株価下落やアルゼンチン情勢の悪化に伴なうレアル為替相場下落に対応し、ブラジルは50bpの政策金利上げを実施した。金利支払いコストの低下が、当初見込み通りには進まない可能性も出てきている。

(3月14日 杉崎 佳子)