平成13年(2001年) 3月 8日 NO.8

急増する対日直接投資をどうみるか

1.急拡大する対日直接投資
 
2.リスクマネーの供給主体として台頭する外国企業
 
3.功罪両面予想される対日直接投資
 
4.おわりにかえて〜対日直接投資の経済効果を高める処方箋
 


1.急拡大する対日直接投資
 
 このところ新聞を広げると、外資系企業の活発な対日直接投資活動を報じる記事が目に飛び込んでくることが多くなったのではなかろうか。実際、海外からわが国への直接投資額は、97年度の6,782億円から98年度には1兆3,404億円と初めて1兆円の大台を突破、続く99年度には2兆3,993億円へ大きく水準を切り上げた(第1図・上)。その後、2000年度に入っても投資額の拡大テンポは衰えず、上期だけで1兆8,901億円とすでに99年度の8割弱の規模に達している。
 最近の対日直接投資の特徴をみると、まず、投資案件の大型化が進んでいる。実際、97年度から99年度にかけて投資件数は年間合計1,301件から同1,705件へ約1.3倍に増加したが、その一方で1件当りの投資額も5.2億円から14.1億円へ約2.7倍に拡大、2000年度上期には22.2億円と大型化に拍車が掛かっている(第1図・下)。次に、特定の業種における投資金額の増加が目立つ。投資額を業種別にみると、99年度は「機械製造業」(8,652億円/1件当たり69億円)、「金融・保険業」(5,115億円/同25億円)および「通信業」(3,300億円/同63億円)の3業種で投資総額の71%、2000年度上期は「金融・保険業」(7,658億円/同64億円)および「通信業」(7,258億円/同207億円)の2業種だけで同79%を占めている。加えて、日本企業に対する救済案件の増加が目立つ。具体的な投資案件をみると、情報化ニーズの急速な拡大を背景に「英BTおよび米AT&Tによる日本テレコムへの資本参加(99年9月:約2,200億円)」など世界的にクロスボーダーの資本提携・参加が活発化している「通信業」を除けば、「機械製造業」では「ルノーによる日産自動車への資本参加(99年6月:約6,000億円)」、「金融・保険業」では「米リップルウッド・ホールディングスによる日本長期信用銀行の買収・出資(2000年3月:約1,200億円)」など、経営不振や破綻に陥った日本企業に対して外資系企業が出資するという救済色の濃い案件が少なくない。

2.リスクマネーの供給主体として台頭する外国企業
 
 ここにきて対内直接投資が活発化しているのはなぜか。まず、指摘できるのは、IT技術の発展や経済活動のグローバル化に伴い、競争力の確保や強化を目的としたクロスボーダーの企業合併や資本提携が世界的に増加していることである。加えて、日本サイドの要因としては、@地価の下落が続くなど、対日進出に係わるビジネスコストが低下している、A日本市場への参入障壁とされてきた各種規制の緩和・撤廃が進んでいる、などが挙げられよう。
 実際、商業地価は9年連続で下落しており、すでにピーク時(91年)の半分以下にまで落ち込んでいるほか、99年の税制改正において、法人課税の実効税率もほぼ国際標準並みにまで引き下げられた(改正前46.36%→改正後40.87%)。また、対内直接投資が活発化している通信分野においては、内外企業の競争を促進するため、「第一種電気通信事業者(電気通信回線設備を所有してサービスを提供している業者)の外資規制の撤廃(98年2月)」や「電気通信料金の個別認可制から原則届出制への移行(98年11月)」といった規制緩和も進められた。日本貿易振興会による「対日直接投資に関する外資系企業の意識調査(2000年10月時点)」をみても(次頁第2図)、「地価・オフィス賃料」や「通信料金・電気料金等インフラ関連コスト」について「十分に改善した」もしくは「(不十分だが)改善している」と回答した外資系企業が半数以上に達しているほか、「税制」についても3割程度の企業が同様に回答している。
 さらに、見逃せないのが、日本国内において大規模なリスクマネーを供給できる主体が限られていることである。すなわち、連結決算や時価会計の導入といった会計基準の変更が続くなか、多くの日本企業にとって有利子負債の削減や資産効率の改善に向けた抜本的なリストラクチャリングが喫緊の課題となっており、破綻や経営難に陥った系列企業や取引企業の救済はもちろん、新たな事業分野に対して積極的にリスクテイクする余力が乏しいのが実情である。このため、リスク・マネーの新たな供給主体として外資系企業のプレゼンスが高まっており、破綻や経営難に陥った日本企業に対する"救済型"の直接投資の増加に繋がっている。

3.功罪両面予想される対日直接投資
 
 それでは、こうした対日直接投資の増加は、わが国経済にどのような影響をもたらすのであろうか。まず、マクロ的な観点からみたプラス効果としては、新たな市場参加者の登場により競争が強まることで、価格の下落や新規市場の開拓が進み、産業および経済全体の活性化に繋がる点が期待できる。例えば、通信業界では、規制緩和と外国資本の参入が相俟って各種サービスの拡充や通信料金の大幅な低下が実現しているほか、金融業界でも、外資系金融機関の参入が相次いでいる資産運用分野を中心に、保険や投資信託といった運用商品の多様化や各種手数料の低下が進んでいる。
 加えて、ミクロの企業ベースでみても、自己資本比率や売上高経常利益率といった財務関連指標に示される通り、外資系企業の財務体質は日本企業に比べて相対的に強固なことから(次頁第3〜4図)、とりわけ経営不振に陥った日本企業が外資系企業との資本提携や合併を進めることで、当該企業の信用の回復に繋げることができる。また、同時に、外資系企業の経営・技術ノウハウの移転により、企業の再建に向けて思い切ったリストラクチャリングを円滑に進めることができる面もあろう。
 ただ、こうしたプラス効果が期待される一方で、懸念すべきマイナス材料が存在するのも事実である。国内市場における競争が強まるなか、日本企業のリストラクチャリングや淘汰が予想以上のテンポで進むことになれば、これに伴う副作用もまた予想以上に大きくなる虞があるためである。とりわけ、競争力の弱い中小企業や零細企業の淘汰が進むとみられることや、企業部門における雇用コストの削減が、雇用・所得環境の改善の遅れを通じて、家計部門に相応の痛みをもたらす可能性は否定できない。

4.おわりにかえて〜対日直接投資の経済効果を高める処方箋
 
 先行きを展望すると、IT技術の飛躍的な発展もあって、国・地域間の時間的・距離的制約が急速に薄れるなか、クロスボーダーの企業合併や資本提携は今後も増加を続けると予想される。こうしたなか、わが国に対する直接投資を一段と活発化させるとともに、それを経済全体の活性化に繋げていくため、政府が取り組むべき課題は少なくない。
 まず、ビジネスコストが低下しているとはいっても、わが国と諸外国の内外価格差は依然として大きい。実際、経済産業省(旧通産省)「産業の中間投入に係る内外価格調査(2000年7月)」によれば(次頁表)、日本の産業向けサービス価格は米国・ドイツ韓国など主要7カ国の平均に対して5.11倍と相当割高であり、工業製品についても、対アジア諸国を中心に2倍近い格差が生じている。こうした内外価格差の解消に個々の企業のコスト削減が不可欠なことはいうまでもないが、政策サイドとしても、さらなる規制改革・撤廃により競争を後押しすることで、産業・経済全体でみた生産性の向上ならびに高コスト体質の是正を一段と進めていくことが必要であろう。加えて、求められるのが、わが国企業経営のグローバル化を促すための施策である。具体的には連結納税制度や商法改正による会社分割制度の早期導入といった措置であり、前出「対日直接投資に関する外資系企業の意識調査(2000年10月調査)」をみても、今後期待する対日投資環境の改善施策として全体の45.8%の企業が「連結納税制度の導入」を指摘している。さらに、対日投資に関する総合的な情報提供体制の構築について、工場用地などのハード面、地域毎のマーケット特性や雇用慣行といったソフト面の両サイドから進めていくことも必要であろう。
 同時に、こうした施策にも増して重要なのは、競争の結果として生じた"痛み"を和らげるようなセーフティ・ネットの確立である。具体的には、円滑な労働移動が可能となる流動的な労働市場の構築に向けて、転職者やパートタイム労働者に相対的に不利な現行の退職金税制や年金・保険制度といった制度面の見直しを進めていくことが喫緊の課題といえよう
 いずれにしても、わが国経済の長期にわたる低迷が続くなか、公共投資の積み増しや金融緩和といった伝統的な財政・金融政策の自由度が残り少ないだけに、中期的な視野に立った経済の活性化策の一つとして対日直接投資の経済効果を最大限引き出していく必要があるのではなかろうか。
(2.27 山本 忠司)