平成13年(2001年) 3月 8日 NO.7

家計の金融資産を有効活用するために

1.高まるリスク性資産への関心
 
2.世代毎に異なる運用志向
 
3.家計金融資産の有効活用に向けて
 


1.高まるリスク性資産への関心
 
 昨年末に発表された日本銀行の「資金循環統計」によれば、2000年9月末時点における家計の金融資産残高は約1,400兆円に達している。その中身をみると、預貯金が全体の約6割近くを占めているのに対し、株式や投資信託など元本割れリスクを伴う金融商品(以下、リスク性資産)の割合は1割以下にとどまっている。こうしたリスク性資産の保有状況を欧米主要国と比較すると(第1図)、米国(48.2%)やフランス(48.4%)で全体の5割近くに達しているほか、ドイツ(27.3%)や英国(22.8%)でも2割以上を占めており、度々指摘されている通り、わが国家計の"安全志向"は強いといえよう。
 ただし、より仔細にみると、新たな変化も窺えるようだ。第2図は「資金循環統計」における年度毎のリスク性資産の増減状況を商品別にみたものである。これによると、99年度はこれまで為替変動リスクの存在から敬遠されがちだった外債投資が約4兆円、外貨預金も約1兆円増加しているし、2000年度上半期も増加を続けている。一方、株式による運用額こそ2000年度上半期は減少したものの、投資信託は約5兆円近く増加しており、この結果、2000年度上半期の金融資産増加額に占めるリスク性資産の割合は、全体の4割弱にまで高まっている。こうした変化は各種アンケート調査からも見てとれる。第3図は、貯蓄広報中央委員会「貯蓄と消費に関する世論調査」を使って、家計の金融商品選択基準の推移を示したものである。これによれば、金融資産の選択に際して元本保証など「安全性」を最も重視する世帯の割合は直近2000年6月時点で54.8%と高水準にあるものの、6年ぶりに低下する一方、利回りやキャピタルゲインといった「収益性」を重視する世帯の割合が16.6%と小幅ながら2年連続で増加している。また、大手新聞社が昨年末に実施した金融資産運用に関するアンケート調査をみても、個人が今後保有したいと考えている金融商品のトップは株式であり、外貨預金や株式投信なども上位に名を連ねている。

2.世代毎に異なる運用志向
 
 もちろん、こうしたリスク性資産に対する関心の高まり度合いは、世代によってかなりのバラツキがみられているのが実情である。前出「資金循環勘定」は世代毎に分けてみることができないため、総務省「貯蓄動向調査」を用いて世代毎に1世帯あたりの金融資産残高の動きをみると(第4図)、99年中にリスク性資産の増加が目立つのはとりわけ20〜30歳代の若年世代においてである。若年世代の保有する99年末時点のリスク性資産残高は98年末時点の約1.6倍と、40〜50歳の中堅世代(1.2倍)や60歳以上の高齢世代(1.4倍)を上回っており、一方で預貯金などの安全性資産はハッキリと減少している。また、前出「貯蓄と消費に関する世論調査」をみても、「元本保証が約束されていなければ、その金融商品では運用しようと思わない」と回答した世帯の割合は全体で99年6月時点(65.2%)から2000年6月時点(62.8%)にかけて幾分減少しているが、これを世代毎に比較すると(第5図)、中堅世代(99年6月時点:66.4%→2000年6月時点:64.6%)、高齢世代(同:63.6%→同:62.2%)に比べて若年世代(同:63.8%→同:58.0%)の回答割合が大きく減少しているのが目立つ。こうした背景としては、@年功序列型の雇用制度や賃金体系の崩壊に伴い、若年世代では将来の雇用・所得に対する不安感が強いこと、A財政赤字の拡大を背景に、将来の年金や社会保障制度に対する不透明感が強まっていること、B歴史的な超低金利が続くなかで、預貯金の運用利回りに対する魅力が乏しくなっていること、などから、将来の資産形成に対する危機意識が強まっていることがある。こうした状況下、後にみる中堅世代と異なり子供の教育費や住宅ローン返済といった支出面での制約が小さいこともあり、従来よりも積極的にリスクを取る向きが増えているということであろう。
 一方、それ以外の世代についてみると(前出第4〜5図)、とりわけ40〜50歳の中堅世代において安全志向が根強い。これは、若年世代と同様、将来の雇用・所得に対する不確実性の高まりや低金利による運用難に直面している状況下、こうした世代では支出サイドの硬直化が進むことで、若年世代とは反対に貯蓄行動がより保守的になっているためと思われる。第6図は総務省「家計調査報告」を用いて、家計支出のうち、住宅ローン返済や教育費、税・社会保険料など、いわば家計にとって固定費ともいえる支出を抽出し、その実収入に対する比率を世代別に比較したものである。これによれば、中堅世代の固定的支出のウェイトは直近99年時点で31.1%に達しており、若年世代(27.1%)や高齢世代(20.0%)に比べて格段に高い。その分、家計のやり繰りが年々厳しさを増していることを示しており、"安全志向"が根強いのも無理なからぬところであろう。
 また、65歳以上の高齢世代で"安全志向"が強い背景としては、そもそもこうした世代は70〜80年代という日本経済の安定成長期に預貯金を中心とした資産蓄積を行ってきたことで、リスク性資産に馴染みが薄いことが指摘できるように思われる。加えて、大半が勤め先をリタイアしているため将来の雇用・所得に対する不安が相対的に小さいことや、すでに資産蓄積がある程度進んでいることなどから、今後の自らの資産形成に対する切迫したニーズが乏しいこともあろう。実際、総務省「貯蓄動向調査」を用いて世代別の金融資産の蓄積状況をみると(第7図)、高齢世代のネット貯蓄額(貯蓄−負債)は直近の99年時点で2,086万円と、若年世代(111万円)や中堅世代(822万円)を大きく上回っている。こうした状況下、元本割れの危険を冒してまでリスク性資産に手を出す向きが少ないということである。

3.家計金融資産の有効活用に向けて
 
 国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、わが国総人口の伸び率は2010年頃には減少に転じ、2050年には65歳以上の高齢者人口が全体の3割強を占める計算になるという。こうした高齢化社会において、わが国経済が活力を発揮していくためには、1,400兆円にのぼる家計の金融資産を有効活用することで、家計部門から企業部門へリスクマネーをスムーズにファイナンスする仕組みを作っていくことが不可欠である。
 そのためには、われわれ資産運用サイドでサービスを提供する金融機関としては、先にみたような世代毎の実情を踏まえ、より高い運用利回りを求める世代にはハイリスク・ハイリターン、リスク性商品に対する馴染みの薄い世代にはミドルリスクやローリスクの運用商品という様に、多様化する運用ニーズに見合った魅力的な商品をより一層充実させていくことが何よりも重要である。同時に、インターネットの活用による販売ルートの拡充やディスクロージャーの徹底により、個人投資家にとって利便性の高い金融・資本市場の整備を進めていくことも大事であろう。
 一方で、政策サイドに対して求められるのは、規制改革に伴う雇用機会の拡大や流動的な労働市場の整備を通じて、家計の雇用・所得に対する不安感を解消していくとともに、税・社会保険料などの固定費負担が特定の世代に集中する"歪み"を是正していくことである。そのためには、税制・社会保障制度の抜本的な見直しを含む財政構造改革のグランドデザインを早期に提示することで、 今後の公的負担のあり方について、国民的な議論を進めていくことが重要である。
 加えて、金融・資本市場に関する税制の見直しも急務であろう。リスク性商品への投資を望む個人投資家にとって、資本市場への積極的な参加が可能となるよう、例えば、株式譲渡損失の繰延といった株式投資促進税制の導入や配当に関わる二重課税の撤廃などを早期に実現していくことが大事である。
 いずれにしても、家計の金融資産の有効活用に向けて、官民ともに世代毎の実情に応じたきめ細かい対応を講じていくことが、わが国経済および金融・資本市場のさらなる発展に不可欠であるように思う。
(2.7 小俣直彦)