平成13年(2001年) 1月 4日 NO.2 

新年世界経済の展望

 2000年前半の世界経済は各国での情報技術(IT)分野の設備投資の活発化、関連製品の貿易拡大などをてこに力強い成長を遂げた。しかし、2000年後半には、欧米諸国を中心にこれまでの利上げの効果や原油高の影響に加え、米国株価の調整が諸外国へも波及したことなどもあって、一転して世界全体に減速感が漂うようになった。 以下ではこうした世界経済の2001年の見通しについて地域別に概観してみたい。


減速しつつもソフトランディングに向かう米国経済
 
アルゼンチンリスクをかかえつつも緩やかな回復続く中南米
 
相対的に底固い成長を続ける欧州経済
 
急に減速感が強まるアジア経済
 
新年世界経済の課題
 


減速しつつもソフトランディングに向かう米国経済
 
 史上最長の景気拡大を続けてきた米国経済も、2000年後半以降は、住宅投資、耐久財消費、設備投資(情報化投資を除く)などといった金利感応度の高い部門を中心に減速傾向を強めている。特に秋口以降にはNASDAQ市場を中心とした株価の調整に加え、金融機関の貸出態度の厳格化、債券市場での信用スプレッド拡大など金融面からの成長への制約も強まっており、米国経済の先行きを巡り急速に悲観的な見方が強まっている。こうしたなか、1999年6月以降ほぼ1年にわたり計6回1.75%の利上げを行ってきた連邦準備制度理事会(FRB)は、12月の連邦公開市場委員会 (FOMC)で、政策金利は据え置いたものの、先行きのリスク判断をこれまでの「インフレ警戒」から一転して景気後退リスクを警戒する「景気重視」スタンスに変更し、先行きの金融緩和を示唆した。
 今後景気が減速し、多少のふれはあっても、潜在成長率とみられる3%前後の安定成長軌道にのっていくソフトランディングの途をたどるのか、減速の過程で大きく落ち込み景気後退に陥るハードランディングとなるのかの見極めが難しい。その判断の分かれ目となるのは、90年代以降の米国経済の好調をもたらしてきた、活発な情報化投資を背景とした労働生産性の向上、それに伴う企業収益の好調、資産効果に支えられた消費の拡大などの要因が今後も持続が期待できるのか否かということであろう。
 これまで消費を押し上げて来た資産効果は2001年前半にかけて剥落するとみられるが、IT分野の技術革新を背景に情報化投資は底固さを維持し設備投資を下支えしよう。こうした情報化投資の底固さに支えられ、労働生産性の伸びも堅調なものとなり、インフレの抑制に寄与するとみられる。このようにこれまで米国経済を支えてきた要因のいくつかはペースが落ちることはあっても持続が期待できると考えられる。この結果米国経済は深刻な落ち込みを回避できよう。
 また、政策面では、景気の減速に歩調を合わせ、FRBは1月にも利下げに踏み切り、その後も段階的に利下げを行うものとみられる。他方で新政権の財政政策 (実施は2001年10月から) は減税を中心とした景気刺激的なものとなる見込みである。こうした政策対応を前提とすれば、2001年後半には金利低下の効果と減税への期待などから消費を中心に持ち直しに転じるものとみられる。 結果として2001年全体としてみれば3%程度の巡航速度に落ち着くことになろう。

アルゼンチンリスクをかかえつつも緩やかな回復続く中南米
 
 中南米では2000年は地域全体としてみれば緩やかな景気回復が続いたが、主要国のなかで、メキシコ、ブラジルの好調と、アルゼンチンの低迷が対照的となった。メキシコ、ブラジルを中心とした地域経済回復の原動力となったのは、直接投資資本の順調な流入と、米国向けを中心とした製品輸出の好調であった。また、メキシコ、ベネズエラなどの原油輸出国にとっては原油高も追い風となった。他方、米ドル・ペッグ制を採用しているアルゼンチンでは米国の金利高、ドル高によるデフレ圧力のなか、緊縮財政や主要輸出産品である農産物価格の低迷も加わり、景気は低迷を続けた。10月にはアルゼンチン国内の政治不安の高まりもあって、国際信認が揺らぎ、一時政府ドル建て外債の対米国債スプレッドが1000bpを超える事態に至った。この混乱はブラジル、メキシコへも波及し、通貨売り圧力となった。11月初旬にIMFの追加支援策が発表されたことで、混乱は収まり、市場は小康状態を保っている。
 2001年については、米国経済への依存度の高いメキシコは米国景気の減速の影響を受け、成長鈍化を余儀なくされよう。米国への依存度がさほど強くないブラジルは内需主導で緩やかな景気拡大を続けよう。アルゼンチンはIMFによる支援策を担保に短期的には若干の財政赤字の拡大を許容しつつ景気回復を図る一方で、中期的には年金改革など財政再建策を進めつつある。困難な途ではあるが、こうした一連の政策が内外の信認回復につながれば、景気は底入れし、回復に向かおう。

相対的に底固い成長を続ける欧州経済
 
 ユーロ圏諸国では2000年前半は内需の堅調持続に加え、外需も好調だったことから高めの成長率を記録した。景気拡大のなかで、構造問題についても前向きの対応がなされ、7月にはドイツで懸案であった抜本的な税制改革が成立した。しかし、2000年後半には、原油高および石油製品価格の高騰に対する示威行動の影響などからドイツ、フランス、ベルギーなどで消費者マインドが落ち込み、利上げの影響もあって景気拡大ペースは若干減速を示している。
 2001年については、輸出が域外景気の減速に伴い鈍化し、またこれまでの利上げの影響がさらに浸透してくるとみられる一方で、雇用情勢の改善を背景に内需は引き続き底固いことに加え、主要各国で年初から減税が予定されていることもあって、景気は堅調を維持しよう。
 こうしたなかで、これまでのユーロ安と原油高の影響でインフレ懸念が払拭されない状況となっており、欧州中央銀行(ECB)は引き締め気味の政策運営を続けるとみられる。
 他方、英国は、2000年後半にはこれまでの利上げの累積的効果などから減速傾向にあり、2001年についても減速基調を続けるとみられる。イングランド銀行は年後半には緩和に転じよう。
 なお、6月のEU首脳会議で2001年1月からのギリシャのEMU参加が決定した一方で、9月にはデンマークでEMU参加をめぐる国民投票が僅差ながら否決され、英国、スウェーデンなど他の非参加国の情勢にも影響を与えることとなった。
 他方、12月に行われたニースEU首脳会議では主要国間でさまざまな対立があったものの、EUの機構改革について合意が成立した。この結果、東欧諸国のEU加盟交渉についてとりあえずスタート台ができたという意味は大きい。今後のEUの東方拡大にあたっては未解決の問題が山積みであるが、21世紀に欧州が持続的成長を遂げていくための第一歩を踏み出したと言ってよいだろう。

急に減速感が強まるアジア経済
 
 アジア経済は、2000年第4四半期から急に減速感が強まっている。半導体市況の悪化、高止まりする原油、一部の国の政局混乱、構造改革から派生する社会的混乱など、政治・経済の両面で悪いニュースが続き、もともと危機後の急反発から巡航速度に向けた調整過程にあったアジア経済の減速感を増幅させている。
 実体経済へのこうした悪材料の影響をみると、まず、株価低迷の逆資産効果により個人消費が減速している。また株価・為替相場の不安定化や、一部の国では通貨防衛のため金融引締策がとられていることから、企業の投資マインドも急速に悪化している。輸出も、特にIT関連製品を中心に拡大ペースが鈍化しつつある。輸出企業の業績回復が、これまで企業部門の景況感回復の柱となっていたが、海外での売上の鈍化と原油価格の高止まりによるコスト上昇で、こうした企業の収益環境が悪化している。加えて、構造業種のリストラ本格化による一時的な社会不安があり、経済全体のセンチメントを悪化させ株価低迷をもたらしている。
 海外からの資本流入にも影響が出ている。台湾、韓国、フィリピンなど、これまで比較的順調に海外からの資本流入が回復していた国で、証券投資を中心に大幅な収支の悪化が見られる。
 こうした内外の様々なマイナス要因が2001年前半は続くとみられることから、アジア経済の成長率は昨年比低下することは避けられないであろう。しかし、失速には至らずに多くの国で年後半には再び成長ペースを高めていくものとみられる。その理由として、@半導体などのIT関連製品の需要減が限定的であること、A雇用の悪化が小幅であり、インフレ率も大部分の国では依然として低い水準に止まっているため、家計の実質所得を取り巻く環境は基本的に良好であること、B原油価格が今年は下げ基調に転じること、C不良債権問題や景気に配慮した緩和的な金融・財政政策が継続されることや、緩やかではあるが構造改革が進展しデフレ圧力が弱まっていくこと、D域内の自由貿易協定や中国のWTO加盟のなどの進展による中長期的なクロスボーダーの投資促進への期待があることなどである。

新年世界経済の課題
 
 以上のように、2001年の世界経済は、2000年からは概ね減速を余儀なくされそうである。その減速を過熱気味のペースから巡航速度への減速にとどめ、世界経済全体の安定成長への道を確保するためには以下のような課題の克服が必要であり、そのためには、各国政府の適切な政策運営および相互間の協力が望まれる。

 第1に米国経済のソフトランディングが不可欠である。米国経済は過去4年にわたり4%を上回る高成長を達成、世界経済の牽引力となってきた。過熱気味の成長からの減速の過程で急失速があっては、世界経済への悪影響は計り知れない。特に対米輸出を軸に急速な景気回復を遂げてきたアジア諸国、メキシコなどにとっては、大きな影響があろう。
 第2に米国経済の減速を補う日本・欧州などの先進国経済の持続的成長である。欧州経済は2001年も減速はするが、底固い成長が見込まれる。しかし、ユーロ圏諸国間にはインフレ格差・景況感格差が依然残り、ECBの単一金融政策の舵取りは難しい。
 第3に国際的な資本フローの安定である。2001年には米国の内需減速に伴い輸入は増勢を弱め、経常収支赤字の拡大にも歯止めがかかるとみられる。しかし、その赤字を大きく縮小させることは困難である。これまでは米国経済が諸外国を上回るパフォーマンスを示し、米ドル資産の収益率が相対的に高かったために米国は世界中の資金を集め、経常収支の赤字を補い、均衡を保ってきた。米国景気が減速し、米ドル資産の収益率についても不透明感が広がるなかで、米国向けの資本流入が細れば、その均衡が崩れ、ドル相場は急落、米国株、債券も価格が急落するおそれがある。そうなれば、世界経済の混乱は免れないであろう。また、そこまでは至らなくとも貿易摩擦が政治問題化することのないよう注意が必要であろう。
 第4はアジアにおける構造改革の行方だろう。経済の成長率が低下してくると、雇用の一時的な調整を伴う改革は滞りがちとなり、国際信認の低下や外資流出につながる。逆に、構造改革を果敢に進め過ぎると、連鎖的な倒産や失業増などの過度の社会不安をもたらす。改革の枠組みこそアジア危機後数年のうちに構築されたが、その実行はまだ途上にあり、特に景気減速局面にある今年については、その帰趨を下振れ要因として注意していかなければならない。

(12月21日 調査室 経済調査グループ 欧米班、アジア班)