平成12年(2000年)7月 5日 NO.7

高値圏で推移する原油価格と今後の展望

再び上昇に転じた原油価格
 
価格高騰の背景−低水準が続く在庫と投機資金の再流入
 
総会での増産合意
 
増産合意の背景
 
今後の見通し


 
 原油価格が再び上昇した後、高値で推移している。世界的な景況感の改善から原油需要が増加するなか、原油相場に対する石油輸出国機構(OPEC)の影響が強まってきている。こうした状況下、6月21日に開かれたOPEC総会で今年2度目となる生産枠上限の引上げが合意された。本稿では、原油価格の再上昇の背景を分析するとともに、今後の原油価格を展望してみたい。

再び上昇に転じた原油価格
 
 原油価格は、昨年3月のOPECの協調減産合意をきっかけに上昇に転じた後、世界的な景況感改善を背景にほぼ一本調子で値を上げ、今年3月7日には90年の湾岸戦争以来の最高値34.13ドル/バレル(WTI先物期近物ベース、以下同じ)をつけた。その後、3月下旬のOPEC総会で増産が決議されるとの観測が強まったため、価格は一旦下落した。しかし、原油在庫回復の遅れに加え、一部製油所のストライキや増産に消極的なOPEC首脳の発言などにより5月頃より上昇に転じ、6月中旬には32ドル/バレルを突破した(第1図)

価格高騰の背景−低水準が続く在庫と投機資金の再流入
 
 原油価格が再び上昇した理由の第一は、需給逼迫による在庫の低水準が継続していることである。世界的な景気拡大により原油需要が増加している一方、OPECの減産体制が1年以上も続いていることから、99年半ば以降減少した在庫の回復は遅れている(第2図)
 この在庫の低水準は、原油先物市場における大幅な期近高・期先安(バックワーデーション)の状態が続いていることによってさらに後押しされている。足元では、期近物の急騰に比べ期先物の上昇が比較的小幅にとどまっているため、石油精製企業の在庫保有に対する誘因が弱まっている(第3図)
 第二は、世界の原油需要の約4分の1を占める米国におけるガソリンの規格等級の変更がある。米国環境庁の規制によって、リフォーミュレイテド・ガソリン(RFG)プログラムが今年の5月からフェーズIIへ移行したが、ここで問題となるのは、基準が厳しいRFG規格に合致したガソリンを精製できる内外の製油所が限られ、その安定した供給体制が不安視されていることである。実際、米国の製油所は高い稼働率を維持しているにもかかわらず、米国のガソリン小売価格は上昇を続けており、これがWTI先物相場に心理的な影響を与えているといわれる。
 第三は、投機家の動きによる価格の上昇である。低在庫水準のもとでは、原油市場はOPEC首脳の発言や製油所の事故などの事象に左右されて価格は上昇方向に反応しやすい状態になっている。このため、上述した実需に伴う要因に加え、投機家の動向も取引規模がさほど大きくない原油先物市場の価格形成に大きな影響を与えてきたとみられる。実際、昨年のOPECの追加減産以降、WTIの先物価格と投機資金による原油の先物買いを同じ時系列でみると、ほぼ正の相関関係にあることがみてとれる(第4図)。  このように、米国株式市場の原油の先高を予想し買い進めてきた投機筋の動きについては、まだ一時期の勢いはみられないものの、今年の需給逼迫などをみこした投機資金が足元流入しており、これが価格の再上昇の一因となったといえよう。
(注) 業界紙「石油/天然ガス レビュー 2000年2月号」では、全トレーダーの証拠金額によって取引規 模を比べた場合、S&P500株価指数が約140億ドル(99年8月10日現在)である一方、ニューヨークマーカンタイル商品取引所のおけるWTI原油先物は約28億ドル(同)としている。

総会での増産合意
 
 こうしたなか、OPECは臨時総会を開催し、湾岸戦争以来資格を事実上凍結されているイラクを除く10カ国により、2000年4月の総会に続く原油生産枠の再引上げを決定した。実施は2000年7月以降である。この結果、10カ国の生産量は、70.8万バレル/日量(以下BD)引き上げられ、2,469万BDから2,540万BDとなった(第1表)。今回の総会では、前回の総会で段階的増産を主張し合意文書に署名しなかったイランも合意に参加し、OPECは結束を保つ結果となった。
 また、OPECの次期定例総会は9月10日であり、増産後の原油価格の動向を踏まえ、適正な生産量について検討されることになっている。

増産合意の背景
 
 OPECが前回に比べ小幅ながら増産に合意した背景には、短期的要因として、原油価格の高止まりによって拡大傾向にある消費国経済が悪影響を被り、その影響がOPEC諸国に及んでくることを懸念したことがある。すなわち、原油価格の高騰が引き金となって世界的なインフレが生じれば、生産財、消費財の大部分を輸入に頼っているOPEC諸国の輸入物価も上昇することに加え、世界景気の減速から拡大を続けてきた原油需要も伸び悩むことになる。
 また、長期的観点からみても、原油価格の高止まりの恒常化によって、非OPEC諸国の高コスト油田の再稼動などによる供給能力の拡大や代替エネルギーへのシフトが進みかねないことから、シェアを重視するOPECにとって高すぎる原油価格は望ましくなかったといえよう。
 一方、原油価格の高騰によるインフレへの警戒感を強めていた原油消費国は、今回の総会でOPECの増産に対する期待を高めていた。また、米国は、3月の時ほど外交攻勢は強めていないものの、ガソリン価格の急騰や、政府が戦略備蓄原油の放出を迫られる状況に至ったことから、原油供給量増加への期待を表明しており、少なからずOPECに対する圧力となっていたものとみられる。

今後の見通し
 
 今後の見通しについては、世界的な景況感改善による需要増加や比較的結束の固いOPECの減産姿勢から需給逼迫が続き、2000年いっぱいは高値圏で推移する公算が高いとみられる。
 これは、今回の70.8万BDの増産合意が需給バランスを改善するにはやや力不足とみられるためである。OPECは5月にはすでに正規の生産枠を約50万BD上回る生産を行なっており、実績ベースでは20万BD程度の増産にとどまるとみられる(第5図)。もっとも、メキシコなど非OPEC諸国も増産に同調するため、世界全体での増産量はこれを上回るものとみられる。したがって、相場が軟化する公算は小さいものの、足元以上の価格上昇の余地は小さくなったものとみられる。
 加盟各国の原油収入が回復すれば、シェア重視指向が再び高まり、減産実行率が低下することはこれまで経験則であったが、OPECの結束力はこれまでないほど強い。したがって、今年9月に行なわれる予定のOPEC総会でも、米国を初めとする原油消費国からの増産圧力はあると予想されるものの、原油価格の急低下をおそれるOPECが大幅な増産をする見込みは小さく、需給に大きな変化が生じる事態は考えにくい。
 なお、油価安定のためにベネズエラが提唱したプライス・バンド制については、3月の総会において内々に合意がなされていたようであり、価格維持に腐心するOPECの強い姿勢が窺われる。ただし、増産余力のある国(サウジアラビア、クウェート、UAE)が限られていることや、増産する場合、政治的な問題から配分が難しくなることなどから、実現性は乏しいとみられる(第2表)。実際、6月にはOPECバスケット価格の20日間平均が28ドル/バレルを越えたため、プライス・バンド制度の発動が注目されたが、OPEC総会が目前に迫っていることなどから発動されなかった(第6図)。また、今回の総会後にOPECのルクマン事務局長が同制度に否定的な見解を示すなど、プライス・バンド制発動の可能性は当面は小さいと考えてよかろう。
(注)プライス・バンド制
  • 産油量の調整により、OPECバスケット価格の20日間平均で$22〜28のレベルを維持することを目的とするシステム。(毎日のOPECバスケット価格は、2000年に入り図表の通りWTI先物期近物比平均約1.9ドル低い水準で推移している。)
  • 原油価格が上記価格帯を逸脱した場合、OPECは産油量を50万b/d程度自動的に増減させる。
  • この場合、OPEC議長がOPEC諸国に対して増産あるいは減産を要求。
 このようにOPECの次回総会までは、原油需給に大きな変化は起きないとみられるものの、原油の在庫水準が近年ないほどの低水準で推移しているなか、原油価格が大きく振れやすいことに変わりない。取引規模がさほど大きくない原油市場は、要人発言や供給サイドにおける労働ストや製油所の事故、国連の経済制裁を受けているイラクの原油輸出の振れなど突発的要因の影響を受けやすく、当面価格は高止まりしながらも不安定な動きを続けよう。
(6月30日 関口啓之)