平成12年(2000年)4月5日 NO.5

増加する対中南米直接投資

1.急増する対中南米直接投資
 
2. 投資動機の違いが各国経済に与える影響
 
3.今後の展望
 


 近年、中南米地域への海外からの直接投資が急増している。国連貿易開発会議(UNCTAD)発表の推計値によると、99年の中南米地域の直接投資受入額は前年比32%増の970億ドルとなり、1985年以来はじめて東南アジア地域の受入額(840億ドル)を上回った。そこで、中南米への直接投資資本について、投資形態・投資動機を概観するとともに、その地域経済への影響と問題点についてまとめた。


1.急増する対中南米直接投資
 中南米地域への直接投資資本流入は、地域経済の安定化、民営化や規制緩和の進展を背景に90年代後半より急速に増加し、99年には970億ドルに達した模様である。アジア危機による対アジア直接投資の低迷があったとはいえ、メキシコ危機当時には対アジア投資額の半分に満たなかったものが、99年には同水準まで増加したことは注目に値しよう
(第1図)
 98〜99年平均でみると、中南米への直接投資額のうち、約6割が新規投資、約4割が民営化を含む既存資本の買収であった。既存資本買収についてみると、世界的なクロスボーダーM&A増加の波が中南米にも押し寄せており、民営化案件に替わってクロスボーダーM&Aがその中心となりつつある。また、受け入れ国別でみると、これら直接投資資本の大半は地域内3大国(ブラジル、メキシコ、アルゼンチン)に集中しており、過去5年間の平均では全直接投資資本流入額の約64%がこの3ヶ国向けであった(第2図)。一方、中南米への直接投資を投資母国別にみると、近年スペインをはじめとするユーロ圏からの投資が急増しており、99年フローの額では米国からの投資額を上回ったものとみられる。反対に、日本からの投資は、95〜98年平均で年間50億ドル程度で推移しており、投資母国としての重要性は急速に低下している(第3図)(注1)。
 こうした近年の直接投資資本流入額の増加傾向は、一般に低い中南米地域の国内貯蓄・投資率ともあいまって、地域各国の総固定資本形成に対する直接投資流入額の比率を上昇させている。同比率は、87〜92年には地域平均で5.4%であったものが97年には16.1%となったが、これは97年の全途上国平均10.3%、東南アジア平均9.1%と比較しても、非常に高い水準である。このことは即ち、地域経済に対する外資系企業の影響力が急速に高まっていることを示している。実際、国連ラテンアメリカカリブ経済委員会(CEPAL)のまとめによると、中南米地域内の500大企業のうち、外資企業の数は90〜92年平均の142社から98年には202社に、総売上に占める割合は27%から39%に増加しており、民間部門中では約5割を占めるに至った(第4図)
(注1) NAFTA統合に対応し、日系企業のメキシコ拠点強化の動きが目立っている。しかし、これら日系企業の対メキシコ輸出加工区投資の大半は在米拠点を経由して行われている。このため統計上は米国からの投資に計上される点には注意が必要である。


2. 投資動機の違いが各国経済に与える影響
 こうした中、外資系企業の投資動機・企業戦略の受け入れ国経済に対する影響はますます大きくなっている。そこで対中南米投資における投資動機について概観してみると、天然資源開発投資を除けば、@メキシコ及びカリブ諸国の製造業部門への生産効率確保型投資と、Aブラジルを中心とする南米諸国への現地市場確保型投資に大別される
(第1表)。この背景には、NAFTA等の枠組みによりメキシコ及びカリブ諸国の対米輸出拠点としての位置づけが揺るぎ無いものとなってきた一方、ブラジルを中心とするメルコスール経済圏については消費市場としての潜在性への期待が大きいことがある。
 投資動機の違いによって、メキシコとブラジルの業種別投資受け入れシェアや製造業部門多国籍企業の輸出性向は全く対称的なものとなっている。まず業種別投資受け入れシェアをみると、メキシコでは対米輸出を念頭においた製造業への新規投資が過半を占めているのに対し、ブラジルではサービス部門への投資が中心となっており、特に近年では通信分野の民営化・市場拡大や小売業界再編の動きに合せ、同部門への投資が8割以上となっている(第2表)。また、製造業部門多国籍企業の輸出性向については、両国の自動車輸出台数/生産台数の比率から類推すると、メキシコでは94年のNAFTA加盟以降に急激に高まっているのに対し、ブラジルでは一貫して低水準にある(第5図)
 これらのことから、最近ではブラジルの直接投資受け入れについて、将来的な輸出拡大による国際収支改善効果は小さいのではないか、むしろ悪化する懸念もあるのではないか、という悲観論も出ている。つまり、インフラ整備を通した生産効率アップによる一定の輸出競争力増強効果は望めるとしても、海外への配当・利益支払い額増加が財輸出額増加分を相殺してしまう可能性が高いということである。
  もっとも、メキシコについても問題がないわけではない。メキシコでは、外資誘致および製造業振興策が米国企業の企業内国際分業体制確立の動きに過度に依存した形で進められたために、経済の米国依存度が急激に高まった上、地場産業・技術基盤の未発達による投入財の輸入依存度上昇といった弊害がでてきているからだ。


3.今後の展望
 94年のメキシコ通貨危機発生時には、メキシコをはじめとする中南米諸国への流入資本の主体がいわゆるホットマネーであり、これが外貨流動性枯渇による危機発生の原因となったことから、より安定的な資本としての直接投資資本による経常収支赤字のカバー率を引き上げる必要性が強調された。しかしその後、直接投資資本受け入れ額の急増により、このカバー率は99年には100%を超えた
(第6図)。また、アジア危機とロシア危機を経て、中南米主要国通貨がアルゼンチンペソを除くとほぼ全面的に変動相場制に移行し、通貨防衛義務が無くなったこともあり、外貨流動性の問題はメキシコ危機当時との比較では格段に小さくなったと考えられる。
 こうしたことから、ようやく中南米諸国も、単なる直接投資受入額の拡大ではなく、自国の開発戦略や政策目標に沿った投資誘致の形を本格的に模索する段階に入ったといえよう。この意味では、上記のメキシコ、ブラジルの例からも明らかなとおり、各国が取り組むべき課題は多い。また、特にメルコスール諸国においては、域内各国の政策協調努力の必要性もますます高まっているといえよう。


                             以上

(3月31日 杉崎佳子)