平成12年(2000年)1月4日 NO.2

新年世界経済の展望

新興国の危機の広がりを回避した世界経済
 
世界経済を主導する米国の歴史的景気拡大
 
回復力弱い中南米景気
 
試されるユーロ導入下での欧州の経済運営
 
再生への取り組みが続くアジア経済
 
新年世界経済の課題
 
世界経済見通し(表)


新興国の危機の広がりを回避した世界経済
 
 昨年の今ごろは、新興国の危機の影響が先進国へも広がり、金融不安による世界的なデフレ・スパイラルに陥るのではないかと懸念されていた。しかし、現実には逆に世界同時好況が展望できるような状況に入ってきた。米国景気は好調さを維持し、欧州の成長率も上向いてきており、日本も大底を脱してきたようだ。新興国の景気もアジアを中心に回復に向かっている。
 こうした状況を可能にしたのは、@米国経済が世界景気の下支え役を果たしたこと、A欧州が大きな混乱なくユーロ導入に成功したこと、B危機に陥った国へは、関係国、国際機関から十分な資金協力が行われたこと、Cアジアなど新興国は、状況の許す範囲内で景気刺激型の金融・財政政策を採ると同時に、金融・企業部門の再構築を進めることで信認回復に努めてきたこと、――などである。
 以下では、同時好況に入りつつある2000年の世界経済を地域毎に概観したうえで、世界経済が抱える新たな課題について考えてみたい。

世界経済を主導する米国の歴史的景気拡大
 
 米国経済は、この2月で統計データの比較可能な19世紀半ば以降、最長の景気拡大を記録しようとしている。この背景には、IT(Information Technology)革命という技術革新の新潮流の下で、情報化投資の積極化とそれに伴う生産性の向上が物価安定と企業収益の向上をもたらし、それが新たな需要を産み出すことで企業収益の一層の拡大につながるという好循環がある。その結果、潜在成長率も従来みられていた2%台半ばから3%程度へ高まったとの見方が支配的になりつつある。
 このような好循環を維持するため、FRBは99年には早めの利上げで経済の過熱を防いできた。このため、2000年に入っても堅調な成長が維持されよう。ただし、97年以降の潜在成長率を超えた4%前後の成長ペースを維持することは難しいとみられる。
 まず、景気牽引役の一つとなってきた個人消費は、堅調ながらも拡大ペースは徐々に低下していこう。背景には、@家計の実質所得の伸びが、雇用の増勢鈍化やエネルギー価格を主因とした物価上昇などから、頭打ちになってきていること、A戦後最低水準に低下している貯蓄率の低下余地は限られること、Bこれまでの金利上昇の影響が住宅投資や住宅関連消費に出てくるとみられること、――などがあげられる。
 また、設備投資は、情報化関連分野では技術革新に支えられ堅調な拡大を持続するとみられるものの、その他分野では稼働率が落ち着いた推移をしていることなどから、伸びは鈍化しよう。
 このためGDP成長率も堅調ながら99年よりは低下しよう。ただし、年前半は潜在成長率を上回るとみられるため、労働需給の逼迫は続き、賃金上昇によるインフレ懸念は払拭されないこととなろう。また97〜98年の物価安定に寄与してきた原油価格の安定、ドル高、海外景気の停滞などの要因は変化してきている。こうしたなかで、FRBは早めに追加利上げを実施するとみられる。この結果、年後半には成長ペースは3%程度まで低下すると予想され、物価上昇率も2.6%と前年よりは高まるものの引き続き安定推移が見込まれる。

回復力弱い中南米景気
 
 中南米経済はようやく底を打ちつつある。99年1月のブラジルの変動相場制移行による混乱は、幸いにして限定的なものにとどまった。ブラジルでは、政府の対応とIMFを中心とした国際支援が功を奏し、レアル相場は3月には下げ止まり、景気は99年後半には底を打った。アルゼンチンは、ブラジルの混乱の影響を強く受けたことに加え、カレンシーボード制を採っていることから、厳しい景気後退に陥った。しかし、ブラジルの混乱終息に伴い、下振れリスクを内包しつつも、景気は底を打ちつつある。メキシコは、米国経済の堅調さと価格上昇による原油収入の拡大を背景に堅調な成長を持続した。
 2000年については、ブラジルではこれまでのレアル相場下落を物価に転嫁する動きが出始めていることから、金融緩和の余地は限られてきていることに加え、財政赤字削減努力によるデフレ圧力も強く、景気回復は緩やかなものにとどまろう。アルゼンチンではブラジルの景気回復の鈍さ、米国金利の上昇、財政支出削減などの影響から、ブラジルよりも先行きは厳しい。他方メキシコでは、米国経済の底固さを背景に安定的な成長を維持しよう。
 なお、ブラジルとアルゼンチンにとって重要課題である財政改革の進捗状況次第では、国際的信認が崩れ、海外からの資金流入が細り、景気回復が遅れる可能性には注意が必要であろう。
 

試されるユーロ導入下での欧州の経済運営
 
 欧州では、99年初のユーロ導入が目覚しい変化をもたらしている。国際債券市場では、ユーロ建て債券の発行が米ドル建てに迫る勢いで伸びている。また、ユーロ圏で国境を跨ったM&Aが活発化している。しかし、ユーロの対ドル相場は誕生時からほぼ一本調子で下落し、99年12月初旬には1ユーロ=1ドルの大台を割り込むに至った。これは、ユーロ誕生への過大な期待の剥落と、ユーロ圏の経済運営の難しさへの懸念を反映したものであろう。
 確かに、欧州経済は、99年央以降、アジア等の景気回復やユーロ安による輸出の持ち直し、99年春にかけての大幅な金利低下の効果浸透などから着実に景気回復へと向かっており、2000年も更に成長ペースを高めることが予想される。
 しかし、残された課題は少なくない。ECB(欧州中央銀行)は景気減速に伴うデフレ懸念を払拭するため4月に利下げを行った後、11月には世界及び域内の景気回復を受けて予防的な利上げを実施し、市場からも一応の評価を得た。しかし、域内各国の景気・物価動向に格差が残るなかでECBによる一元的な金利政策が有効なのか、域内物価安定を最優先するECBのスタンスや複数幹部による一貫性に欠ける発言が為替相場の変動を大きくしているのではないか、といった問題を指摘する声もある。
 一方、構造改革も難航している。法人税制改革などにより企業寄り「新中道」路線を標榜していたドイツ・シュレーダー政権が国内政局不安を背景に左派色を強め、ユーロ売りを誘ったことは、改革の難しさを改めて実感させた。景気調節手段としての独自の為替・金融政策を放棄したうえ、財政規律の維持も義務づけられるユーロ参加国にとって、硬直的労働市場と高失業率、重い社会保障負担、政府による市場への過度の規制や関与、といった構造問題への取り組みは避けて通れない課題であり、一層の改革努力が求められている。

再生への取り組みが続くアジア経済
 
 アジアでも多くの国で成長率が回復している。景気刺激型の金融・財政政策に支えられながら、消費、輸出が牽引役を果たしており、在庫圧縮の揺り戻しも景気を押し上げている。ただし、設備投資は企業の重い債務負担や再構築の動き、不動産バブルの後遺症などを反映して低迷が続いている。一方、中国は、輸出回復から人民元切下げ懸念は後退してきたものの、国有企業改革や金融改革が遅れるなかで、先行きの不透明感が強く、内需振興策の効果も限られ、依然、減速局面から脱せない状況にある。
 2000年も99年の回復の構図を引き継ぐとみられるが、成長率が一本調子で高まっていくわけではない。回復基調は続くが、在庫圧縮の反動増の剥落や金融・財政政策の効果一巡などから、成長率が低下する国もでてくる。また、金融・企業部門の構造改革の進捗状況によって回復力に差がでてこよう。さらに、成長率自体は回復しても、危機の影響の大きかった国々の多くは、GDPの水準が危機前の水準に戻るのは、さらに先のこととなろう。
 こうした回復の動きを損なうリスクは依然として残っている。金融・企業部門の構造改革に伴うデフレ効果や海外からの過度の資本の流出入が経済を不安定化させる可能性である。また、インドネシアの新政権の経済運営、マレーシアの資本規制の本格解除の手順、中国の構造改革の帰趨など各国個別のリスクもある。しかし、一方で構造改革によるコーポレート・ガバナンスの改善や金融システムの強化、中国のWTO加盟やアジアの地域協力の動きが、成長ポテンシャルを高める可能性もある。アジア経済は上振れ、下振れの何れの可能性にも目配りしていく必要があろう。

新年世界経済の課題
 
 各地域の展望を踏まえると、世界経済が直面するいくつかの課題が浮かび上がってくる。
 第一は国際資金フローの調整である。世界経済のなかで米国のみが際立って良好なパフォーマンスを示していた間は、世界の貯蓄は米国へと流れていき、それが米国の景気・株価・ドル相場を支えてきた。しかし、米国以外の地域の経済パフォーマンスが改善していくと、世界の貯蓄は米国以外へも流れよう。一方、米国の株価は歴史的水準からみて割高であるとの見方が一般的であり、経常収支赤字は対GDP比で3%を超えるのも事実である。したがって、株価の調整が米国からの資本流出を加速させ、ドル安、インフレ加速、米国金利上昇を招き、さらに一層の株価下落に結びつくという悪循環の可能性は小さいながら有り得ぬことではない。そうなれば、米国景気の失速を招き、世界同時好況の前提が揺らいでしまう。株価やドル相場の急落を招くことなく、経常収支赤字を適正な規模にまで縮小させるため、米国景気の舵取りは一段と重要になる。
 第2は新興国の経済改革への取り組みである。新興国は総じて景気回復に向かい、一部の国ではV字型の回復を示している。しかし、これは危機で明らかとなった構造問題の改善が進んだためというよりは、危機による大幅な景気の落ち込みの反動といった性格が強く、外国資本の流出入が国内経済を再び撹乱するリスクは残っている。景気の流れに左右されない強い経済構造の構築に向けた改革が求められている。
 第3は国際金融システム改革やWTO次期交渉への取り組みである。国際金融システム改革は、99年のケルン・サミットで説明責任の強化や透明性の向上など既に方向性が示されている。WTO次期交渉については、シアトルでの閣僚会議が決裂し、開始が大幅に遅れる見通しとなったが、粘り強く取り組むことが求められる。同時に、2国間、複数国間での自由化も進め、WTOを補完すべきであろう。
 第4はIT革命の環境整備である。これまでは、IT革命のメリットは専ら米国が享受してきたように見える。その他の地域でも、そのメリットが享受できるように規制改革や民間の参入を促す必要があろう。
 こうした課題への取り組みを通じて、息の長い世界同時好況を期待したい。


 


(平成11年12月21日 調査部 経済調査グループ 海外班)