

女性が抱える健康課題と
コミュニケーションの重要性

- 上場
- 本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。MUFG では 3 月 8 日の「国際女性デー(IWD)」に向け、「MUFG IWD Week~女性の健康について考える一週間~」と銘打ってさまざまな企画を予定しています。その 1 つとして、三菱 UFJ銀行がスポンサー(ダイヤモンドパートナー)を務める野球の侍ジャパン女子の中島梨紗監督をお招きし、女子サッカーWE リーグ初代チェアで MUFG・三菱 UFJ銀行のカルチャー&ダイバーシティ改革外部アドバイザーの岡島喜久子さんとともに、女性アスリートのマネジメント、妊娠や出産、生理といった女性の健康課題への取り組みなどについて、お話をお伺いできたらと思います。よろしくお願いいたします。
- 中島
- よろしくお願いいたします。
- 上場
- まずは、チームマネジメントのことからお伺いしたいと思います。こちらは我々にも共通する課題で、どの組織でもチームとしての成果が求められます。代表にはいろいろなチームから、投手と野手、若手とベテランといった多様な属性を持つ選手が収集されます。限られた時間の中で代表チーム作りを行う必要があり、チームとしての意思統一をする難しさがあるように思います。そうした課題を踏まえ、中島監督はどのようなチームビルディングをなさっているのか、お聞かせください。
結束支える
「チーム・ファースト」の精神
- 中島
- わたしの場合は、選手全員が集まったその日にわたしがめざすチーム像を伝え、選手たちと共有しています。その上で、具体 的なルールやめざすチームにしていくために取るべき行動などを細かく説明します。大切なのは、わたしだけがチームを作るので はなく、みんなが一緒に作るのだという意識づけをすることです。ですから、事前に資料を作成して全員に配布し、必要に応 じて書き足していくようにしています。後になって見返せるものがあった方がわたし自身も振り返りがしやすいので……。
- 上場
- 代表チームとして一番大切にしていること、チームの軸になるような行動原理がありましたら、お教えください。

- 中島
- 「チーム・ファースト」ですね。すべての判断や選択はチームのために行うというところはブレずに徹底しています。所属チームの中心選手でも、代表ではスタメンで出場できなかったり、ワンポイントで起用されたりということが当たり前のようにあります。それでも、みんなが自分を抑えてフォア・ザ・チームの精神で動けるようなチーム作りをずっと心がけてきました。
- 上場
- 確かに、そこは大切な部分ですね。続いて、本日のメインとなる健康課題についてもお聞かせください。アスリートの場合、心身のバランスを維持することが重要な課題の 1 つになっているかと思います。特に女性だと、生理など女性特有の課題もかけ算される形になりますが、そのあたりで留意されていることはありますか?
- 中島
- 代表レベルの選手ですと、体の管理はほとんど選手本人に任せています。毎日体温を測るなどフィジカルデータを集めて管理するといったことはしていません。ただ、体調不良やケガについては速やかにトレーナーやスタッフに伝えるよう徹底しています。また、選手によっては生理の前後で気分が落ち込むこともあるので、そうした時は気軽に相談してねと話しています。選手の方から言い出しやすい雰囲気にはなっているのではないかと思います。
澤穂希さんが変えた
女性特有の健康課題への意識
- 岡島
- 女子サッカー界ではレジェンドの澤穂希さんが「選手時代は低用量ピルを使ったコンディショニングが有効だった」と明らかにしたことで、選手たちが低用量ピルを使いやすくなったと感じています。野球界はどうですか?
- 中島
- 野球界でも澤さん効果が大きく、低用量ピルについて勉強して服用を始めた選手もいます。私自身現役時代に使っていたこともあり、ある程度は選手からの相談に乗ることもできているのではないかと思います。とはいえ、生理中の症状は人それぞれですし、中には生理の時の方がパフォーマンスの上がる選手もいます。女性の体は複雑で難しいですね。
- 上場
- メンタルの面ではいかがでしょう?
- 中島
- 女子選手の場合、私生活がうまくいっているとプレーも良くなるなど、メンタルはパフォーマンスを大きく左右するファクターだととらえています。ですから、変化の兆候が見えたらわたしの方から声がけをしています。「調子いいね。何かあった?」と尋ねると、「わかります?実は……」と話してくれる選手が多いですね。そこはやはり選手との信頼関係ですから、いい時でも悪い時でも選手が話しやすい環境を作るよう心がけています。私生活までは管理できないので、コミュニケーションが重要になりますね。
- 上場
- 野球は近年、データスポーツ化が進んでいる印象を受けます。選手の健康管理においてもデータによる定量的な分析が行われていたりするのですか?
- 中島
- 体重や筋肉量、脂肪量などは定期的に計測していますが、それを分析して健康管理につなげているチームはあまり多くないように思います。
- 岡島
- 栄養管理に関してはいかがですか?女子サッカーの日本代表は 2023 年のワールドカップで初めてシェフが帯同しました。試合の後は疲れ切ってあまり食事が取れないという選手が多く、自分たちの舌に合うおいしい料理を出してもらえると大好評でした。
- 岡島
- SNS で拝見しました。女子野球ではシェフの帯同はありませんが、合宿で栄養指導をお願いしています。食事はビュッフェ形式が多いので、実際のビュッフェで取った料理を栄養士の方に見せて、「ビタミンが足りないからフルーツを増やして」といったアドバイスをいただいたりしました。栄養学を学んで日々の食事メニューに生かしている選手もいます。
出産、子育て後の
現役続行に課題

- 上場
- 男性アスリートと大きく違うのは、女性の場合は妊娠や出産というライフイベントがあることです。こうしたライフイベントを経た後も野球に関わり続けている方は増えてきているのでしょうか?
- 中島
- 出産や育児をしながら指導者を続けている方は結構いらっしゃいますが、第一線で活躍する選手となると、ほとんど見当たりませんね。
- 岡島
- サッカーは WE リーグで元代表選手が 2 人出産後にプレーしていました。日テレ・東京ヴェルディベレーザの岩清水梓選手はまだ現役で、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースの大滝麻未選手は2023年までプレーしました。岩清水選手は自分の子どもを連れて入場行進するという夢を実現し、大滝選手は出産 4 カ月後の 2022 年 2 月に行われた皇后杯の決勝戦のピッチに立ちました。
- 中島
- 野球の場合、そうした事例は海外の方が圧倒的に多いですね。オーストラリアのチームには出産後に現役復帰している選手が大勢います。プレーに参加しない指導者ならともかく、子育てしながらトレーニングして……というところで二の足を踏んでしまう選手が多いのではないでしょうか。
- 上場
- ロールモデルがいない、環境整備が整っていない、マインドセットができていないということですね。そうした課題は、野球に限らずビジネスの世界も一緒だと思います。さて、MUFG では政府の方針に基づき、2030 年までに「女性マネジメント比率30%」をめざす取り組みを行っています。DEI や女性活躍の視点から、スポーツ界にもそうした目標値がありましたら教えてください。
- 中島
- スポーツ庁が策定した「ガバナンスコード」では「スポーツ団体における女性理事割合 40%」の実現を求めていますが、現状は多くが 2~3 割といったところです。
- 岡島
- 栄養管理に関してはいかがですか?女子サッカーの日本代表は 2023 年のワールドカップで初めてシェフが帯同しました。試合の後は疲れ切ってあまり食事が取れないという選手が多く、自分たちの舌に合うおいしい料理を出してもらえると大好評でした。
- 中島
- 「女性の力を求めています!」ともっとアピールすれば、手を挙げる女性が増えてくるのではないでしょうか。
- 上場
- そういう姿勢も大切ですね。おふたりとも、本日は大変興味深いお話をありがとうございました。今後の更なるご活躍を期待しています!
-
- 中島梨紗さん
- 元女子プロ野球選手。
2020年に女子野球日本代表の監督に就任。
2021年からはイチロー率いる草野球チーム「KOBE CHIBEN」と
高校野球女子選抜の試合で女子選抜の監督を務めている。
-
- 岡島喜久子さん
- 女子サッカー元日本代表選手。
日本およびアメリカの金融機関にて計38年勤務。公益社団法人日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)の初代チェア(代表理事)を務めた。アメリカ メリーランド州在住。
-
- 上場庸江さん
- 人事部 部長 兼 ダイバーシティ推進室長
1994年 現三菱UFJ銀行入行。
成城支店長、デジタルサービス推進部 部長などを経て2023年より現職。