細胞だけから立体の組織・臓器をつくる。世界初の「細胞版3Dプリンタ」

??まずは事業内容についてお聞かせください。

秋枝:一般的な3Dプリンタは、3Dデータをもとにして、樹脂や金属などを削って加工したり、1層1層材料を積み重ねて立体物をつくるというものだと思いますが、私たちが開発した細胞版の3Dプリンタ「Regenova®(レジェノバ)」は、細胞を積み重ねて立体的な組織を作製する3Dプリンタです。人間の体は細胞からできていますので、その細胞で団子状の細胞の塊(スフェロイドと言います)をつくり、それを華道の剣山のようなものに積んで固定することで、細胞同士が融合するのを待ちながら細胞だけで組織をつくり上げていく、世界初の取り組みとなります。

三條:細胞団子を一時的に固定するときに使用するのが「剣山」です。大変微細な針が密集して並べられた「剣山」に、0.5mmくらいの細胞団子を規則正しく配列していきます。細胞同士がくっついて融合するまで待ち、「剣山」から引き抜くと立体の組織ができるというわけです。

「Regenova®(レジェノバ)」によって生み出された血管

三條:ご覧いただくとわかるのですが、組織の壁には厚みがありますよね。これって実はすごいことなんです。サイフューズの基盤技術は、人工材料を用いず、細胞自身の力を最大限に引き出すことによって立体的な組織を作製するものです。この技術が発展すれば、将来的には人体に移植可能な組織を作製することが可能となります。そのため、現在細胞の立体構造体は、安全であることはもちろんのこと、厚みや弾力性など組織として本来備える機能を有するものを開発しています。

??創業に至ったきっかけはどのようなものでしたか。

代表取締役の秋枝静香さん

秋枝:創業者の中山功一先生(現佐賀大学医学部臓器再生医工学教授)がこの研究を始めたのが2000年頃です。私も会社ができる以前から研究に携わっており、福岡県や文科省の助成金を頂きながら基礎研究を積み重ね、2010年に事業化に至りました。「研究の成果や製品を1人でも多くの患者さまに届けたい!」という思いが事業化につながりました。再生医療はこれからの市場ですから、製品を開発することと同時に再生医療という新しい市場を創ることにも少しでも貢献できればという想いで研究開発に取り組んでいます。

血管や神経などあらゆるものを生み出すバイオ3Dプリンタ

??人工血管など、従来の再生医療で使われているものとはどのような点が異なるのでしょうか。

秋枝:従来の再生医療で使用されている組織は、テフロンやシリコンなどの人工材料を用いた製品や、牛のコラーゲンなど動物由来の原料に細胞を混ぜ合わせて作っているものが一般的です。しかし人工物や動物由来の材料から成る製品を人間の体内に移植すると、当然ながら異物反応が出る可能性もあります。患者さまだけでなく、もしも自分や家族に移植することを考えた場合には、やはりなるべく人工物が入っていない体に優しい、移植されて嬉しいものを作りたいと常々想っています。そこで私たちは、「細胞だけ」で組織や臓器をつくることにこだわりをもって開発に取り組んでおり、作った組織を患者さまにお届けし、一人でも多くの患者さまのためにお役に立てればと考えています。またこの日本発、世界初の技術をグローバルに展開し、世界中の医療に貢献することを目指しています。

開発品の具体的な例として、血管の場合には、現在人工血管を使用され、週に数回透析を行っておられる患者さまに対して、人工血管を患者さまご自身の細胞からなる細胞製の血管に置き換える真の再生医療を目指して開発に取り組んでいます。糖尿病などの患者さまが週に2?3回透析されますと、何回も何回も針を刺すうちに段々と血管がもろくなり、人工血管に置き換え、場合によっては、人工血管から菌に感染して、腕が膨れ上がってしまうケースもあり、現場の医師の先生方からも相談されることがあります。

三條:透析をするために病院に通われて血管にものすごい負担をかけていると、本来の治療対象ではない血管にまで負担がかかってしまう。場合によっては数十回人工血管の入れ替えをしていくのですが、これをご自身の細胞からつくった血管に置き替えることができれば血液透析にかかる患者さまの負担を大きく軽減することができる可能性があるのです。

??どんな組織でもつくることができますか。

秋枝:現在サイフューズが実用化に向けて開発を続けている技術によれば、ある程度の組織は作製可能であると考えています。

秋枝:たとえば、軟骨の場合には、厚みがあるものができるので、軟骨の表層、表面と、軟骨の下の骨まで同時に再生させる可能性が高いことが分かってきました。また、末梢神経の場合には、従来療法では、シリコンチューブなどの人工材料を移植することが多いのですが、それでは十分な神経が再生しなかったり、関節を曲げられなかったりと十分な機能回復まで得ることは難しいとされています。我々の開発している細胞だけでつくった細胞製の末梢神経であれば真の意味での神経再生が得られる可能性があります。

三條:この技術が持つデザインの任意性は極めて高いので造形としてさまざまな組織・臓器を形作ることは可能ですが、造形として美しい造形物をつくるというのが目的ではありません。医療や研究開発の現場に役立てるためのものですから、きちんと組織として成り立ち、安全で体が本来持っている性質を備えたものをつくる、というところがサイフューズの目指すところです。

取締役CFOの三條真弘さん(写真右)

??現在の普及状況はいかがでしょうか。

秋枝:臨床段階に入ったパイプラインもあり、再生医療等製品としての早期の実用化を目指し開発を進めています。

将来的には、1つの診療科にまずひとつずつの臓器をお届けしたいなと思っています。消化器でいえば食道や腸、泌尿器科でいえば膀胱や尿管、といった具合に再生医療の製品を増やし、ゆくゆくは世界にそれをお届けすることができればと考えています。

患者さんに希望を与え、事業の基盤を築くためのビジネスコンテスト

??Rise Up Festaに応募された理由というのはどのようなものでしょうか。

三條:主に3つあります。まず1つ目は、ビジネスコンテストという大きな場に出ることで、サイフューズの取り組みをご存じない方々に情報としてお届けできる可能性を拡大することです。仮にですが、現在の医療では、まだ治療法がないという患者さまや薬に頼るしか選択肢がない患者さまにとっても「こういう技術や製品開発が行われているんだ、あるいは、そのような社会的にチャレンジをしているベンチャー企業があるんだ」と思うことで少しでも勇気づけられたり、光明になれば本当に素晴らしいことであると考えています。

2つ目は、パートナーを得られる可能性を拡大することです。当然のことながら、再生医療が目指すゴールはとても大きく、その意味ではベンチャー企業1社だけでできることには限度があります。ものを「つくる」ことに加え、「売る」「届ける」ところまで実現するためには、やはりいろいろな企業とチームを組んでそこから事業をつくっていく必要があります。サイフューズはライフ・サイエンス分野で出場させていただきましたが、Rise Up Festaの場合、異分野のベンチャー企業とも交流が持てるという点で、大変貴重な経験となりました。

3点目は、MUFGとの関係を拡大することです。といっても単純に取引をすることだけが目的ではありません。今回、こうして最優秀賞という光栄な賞を頂戴しましたが、今後は、サイフューズが関わっている会社にこのRise Up Festaを紹介するなどして、このような素晴らしい機会をつなげていきたいですね。

鳥井:私は自社ラボで研究者ですが、見学にいらっしゃる方が増えたように感じます。バイオ3Dプリンタを使用したデモを行ったり、サイフューズの技術や研究開発についての説明を行ったりする機会が増えましたが、この技術をたくさんの方に知っていただけること、「すごいね」と励ましをいただくことが日々の研究の大きなやりがいにつながっています。

研究開発部の鳥井蓉子さん(写真右)

再生医療を「完全に再生する医療」にするために、愚直に取り組んでいく。

??今後の展望についてお聞かせください。

三條:これまでの再生医療の業界では、実際の組織・臓器に近い厚みと弾力性に富む組織を細胞のみで作製することは技術的に困難であり、細胞と人工材料を混合した構造体やゲルなどの人工的な足場材料、いわゆるスキャフォールドを用いて立体の造形物を作製するなどして再生医療に用いてきました。たとえば膝の軟骨がすり減ってしまった患者さまの場合、クッション材のようなものを入れてその痛みを軽減する製品などがありますが、そこからさらに、軟骨自体の再生を目指すことができれば、その患者さまにとってより大きな価値を提供できると思っています。それ以外にも、末梢神経でいえば指先に信号が通い、さらに指が元どおりに動いたり、その先には脊髄を損傷した方が立ち上がったり、歩けるようになったりすることが可能となるような未来があるかもしれません。再生医療が目指すべきゴールは、もっと大きい。サイフューズはそこに、実直に真正面から取り組んでいきたいと考えています。

三條:サイフューズの経営理念は、医療の進歩に大きく貢献することです。サイフューズの取り組みや経営理念が実現すれば、未来のマーケットをつくり出すという産業創出に繋がっていく可能性もあります。実現しなければならないゴールはとても大きいと思いますが、日本発の素晴らしい技術を有するベンチャーがさまざまな方からご支援をいただきながら、大きな目標にチャレンジしていくというところにも社会的意義があると感じています。サイフューズの役職員全員とサイフューズに関わってくださる全ての方々とで一丸となってこの大きな目標にチャレンジしていきたいと思います。

秋枝:サイフューズの社名は、「細胞」を意味する“cyto”と「融合」を意味する“fusion”を由来としています。です。バイオロジーとエンジニアリングのフュージョン、さまざまな企業とのフュージョンを続けながら、患者さまのみならず、働いているスタッフ、サポートしてくださっているさまざまな方々が幸せな世界を歩んでいけるよう、新しい社会の創出、医療、教育に貢献していたいと考えています。